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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『従僕セバス』

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第59話 彼女は歩人の育成を始める


第八幕『従僕セバス』


 ヌーベの城塞で命を助けた歩人に、彼女は『セバス』と名をつけ自らの従僕とする。セバスは彼女の従僕として、様々な仕事を学ばなければならなくなる。学院には彼女の祖母が講師として招かれることになる。

第59話 彼女は歩人の育成を始める


「……以上の罪状を持って、斬首刑と処す!!」

「「「Woooo!!」」」


 あれから1週間ほどたち、首領への尋問も速やかに行われた結果、依頼人の名前すら本人からは確認が取れず、書類関係からヌーベ公の関係者が仲介して依頼したようであるが、取引した商人の名前程度しか判明しなかったのである。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 さて、ブルグント公爵領内で発生した事件に関しては、基本的に領主が裁判権を有しているので問題ないのだ。つまり、ブルグント公爵領内において、全ての判断は公爵次第でどうとでもなってしまう。王国内であってもだ。


 今回の事件、様々な帳簿が揃っているものの、名前は基本暗号化されており、それが誰なのかは一切……なんとなくしかわからないのである。とはいえ、契約書の類は「仮名」とはいかないため、いつ・何人・幾らで引き渡したかに関しての証拠は残っている。


 その金はどこに消えたのかに関しては不明であり、取引は首領と商人の契約でしかない。首領とヌーベ公の傭兵契約は確認できたが、その仕事は国境警備に相当する内容でしかないため、山賊のたぐいの仕事に関しては首領独断による犯行としか断定できないのである。


『公爵も馬鹿じゃねえ。言葉で承認したとしても、証言であって証拠ではない。まして、山賊の首領の証言と、公爵の証言では重みが違う』

「最低でも、貴族の証言でなければね」

『難しいでしょう。子飼いの家臣の中で貴族のものに証言をさせる……などというのは。一蓮托生でございますからな』


 公爵の家臣に伯爵以下のものがそれなりにいるが、重要な仕事を任されているというのは、完全に共犯者でしかないのである。


 商人も恐らくは、今まで取引のあったものは斬られるだろう。そもそも、奴隷契約といっても、永遠に奴隷にできる事は無く、借金を負わされて数年の有期契約。それも、様々な待遇を守らねばならないのが本来の扱いなのだ。


 それが、敵国の捕虜扱いであったり、犯罪奴隷であれば話が異なる。故に、王国の外に連れ出すことが有効になるし、奴隷商人も、容認してキックバックを受け取るものも利益が大きいのである。


『サラセン人と戦争している頃は、あいつらの奴隷もいたから、割と、異教徒の奴隷は安くてこき使えるみたいな感じだったけど、今は無理だもんな』


 魔術師として寿命を迎える頃、魔剣はそういう状況だったのだという。ロマン人の一党からすると、王国の民も異教徒扱いなのだろうから、その辺り、躊躇がないのかもしれない。


「はっきり敵とわからない分、厄介ね」

『ですな。協力者も王国内にそれなりにいるでしょうから。ブルグント以外の被害が出ていない近隣領主は協力している可能性もございますね』


 王都に戻り、商業ギルドでギルドに加盟している小規模な商人の失踪事件など、確認する必要があるかもしれない。


「……で、俺も冒険者登録しなきゃなんだよな……」

『歩人、我が主に対して無礼だぞ。改めよ!』


 油断すると、三十過ぎのガキオヤジが生意気な言い回しをし始める。騎士の誓いに背くわけではないので、放置する。どの道、後で彼女の祖母のしつけ教室で矯正されるのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 まず、歩人を従僕にするにあたり、問題が存在したのである。むろん、言葉遣いのような当たり前のことを示すのではない。


「……裸足……なのね……」

「おお、そうさ、歩人は『口を慎め下郎』……われら一族は履物を必要としません。なので『駄目に決まってんだろ。貴族の従者が裸足って、男爵舐めてんのか』……その、出来ますれば短靴でお願いいたします……」


 歩人は脛から足の周りが剛毛に覆われている。それはもう、棕櫚の樹皮かってくらい剛毛なのである。故に、まともに靴が履けない。編み上げの踝丈のブーツを与えることにする。


「因みに、あんたを振った里の女どもも全員裸足なの?」

「ああ、どんな美人でも、裸足さ」

「……それって……美人?」


 伯姪の貴族の女性的判断からすれば、顔立ちやスタイルの良さでの美しさは半分。残り半分は身に着ける衣装や所作なのである。靴を履かない淑女など存在するわけがない。


「も、もちろん美人だ……でございます、オジョウサマ」

「まあ、いいわ。それで、貴族の従者ってものがわからないあんたに、いろいろ私が教育してあげるわよ」

「……有難き幸せ……」


 伯姪は、このミッションを成功させた場合のメリットに関して並べ立てる。


「あんた、わかってないみたいだけどね、あんたのご主人様は、王国では並ぶものなき有名人で、この年齢で男爵に叙せられる手柄を立てているのよ」

「それは、あなたと共同ですもの、騎士爵様」


 ゴブリン・ジェネラルを含む100匹を越える群れを村人と二人の冒険者を指導して撃退、本人はジェネラルを討伐。ニースでは人攫いの商人とその護衛をたった一人で壊滅させ、組織を破壊。さらに、王国の王女様を攫おうとした連合王国の海賊船を、僅か二人で制圧し、船を拿捕……


「……まじか……いえ、本当でございますか」

「『妖精騎士』って聞いたことない?」

「おお、芝居とか吟遊詩人が最近よく取り上げてるよな。あー」

「あれ、マジなの」

「……えーと、ほぼあの内容で活躍したってことか……」

「今回は、要塞を落としているわね。旅人に扮して人攫いにあったふりをして。山賊は皆殺しで、攫われた女子供を助け出し、間抜けな歩人を従者にしたから、また、新しいお芝居になるわ」

「おっ、俺も有名になる『わけねえだろ、お前のセリフねぇから!』……ですよねー」


 歩人は家でのんびり暮らすのが基本で、庄を出ることは基本的にない。平和なのほほんとした半妖精なのだ。世間知らずであり、見た目も中身も子供なのだ。だから、褒めて伸ばすことも大切であったりする。


「あんたの庄に、冒険者の歩人なんていないわよね」

「ああ、一生、庄からでないのが当たり前だぜ」

「それに、王国の国王ご一家とお目見えしたことある歩人なんて……いるわけないわね」

「まあな。王国とかどうでもいいし」

「そうね。でも、あんたがこの先、歩人の庄に戻った時に、まあ、戻れるだけの存在に成れればって事なんだけど、冒険者として一流で魔術も使いこなし、貴族の従者を務めて、王族とも言葉を交わせる仲だったりしたら……どうなる?」


 セバスは頭の中がぐるぐるし始めたようである。そう、彼は悪いことばかりではないと気が付いたのだ。


「外の世界を知り、人間との、それも王国の最上流の方達と面識がある男がそれなりのものを身に着けて庄に戻ってきたとしましょう。彼は、元々、庄名主の跡取り息子でした。彼は、十年かけて外の世界を学び、新しい村の指導者となるべく修行を終え、後を継ぐべく、主人であった王国の貴族とともに庄に帰還するのです」

「とても絵になるわ。その時は……裸足でもいいわ」


 伯姪は、貴族の笑顔で歩人にそう言った。そして、従者セバスの中に、一つのサクセスストーリーが生まれたのである。


「それを、俺が歌にしてもいいよな。まあ、吟遊詩人的な感じでさ。『妖精騎士』の従者の物語ってことだ」


 彼の頭の中では『歩人の冒険』というタイトルが浮かび上がってきたのである。少なくとも、灰色のローブを身にまとったとんがり帽子の胡散臭いジジイではなく、幼くも美しい貴族の女性の供なのである。話半分でも、絵になる。悪くない、そう思い始めるのであった。


――― 歩人よ、あんた騙されてるから。





 さて、少年従者用の衣装を身にまとい、ちょっとブカブカなアンクルブーツを履いた歩人の従者が、彼女の供として身の回りの世話をし始めたのは領都についた翌日からである。


「装備は王都の武具屋で揃えましょう。特注になりそうですもの」

「は、はあ。その、鎧とか……でございますでしょうか」


 歩人は指先も器用であり、鍵開けや罠外しなども得意なのである。レンジャースキルを持っていると言ってもいいだろう。


「それと、薄赤野伏に冒険者としての弟子にしてもらいなさい。人間の冒険者では野伏が適切でしょう」

「なるほど」

「帰りの馬車の中で、いい暇つぶしになる。そうさな、今回の依頼の成功祝いという事で、サービスで見てやろうか」

「先々、パーティーに加わるでしょうから、是非ともお願いします」


 薄赤パーティーのリーダーが野伏なわけだが、彼以外にもレンジャー技能持ちがいた方が良いだろう。それに、野外は得意だが、市街での探索はあまり得意ではないのが野伏だ。


「それは……ギルドで要相談かしらね」


 盗賊ギルドは表向き存在していないし、そこに冒険者として所属する者もいないのだ。鍵開けの道具は武具屋で揃うだろうが、指導は……別に考えなければならないかもしれない。


「それと、護身レベルで短剣術・体術、それに弓が使えるといいわね」

「弓は俺が面倒見ようか。体術は『任せておきなさい』……ならメイの担当だな」

「短剣もお願いしようかしら。魔術は私ね『実質は俺だけどな』……それでね」


 王都に戻り次第冒険者登録、その後、装備を整えるという段取りだ。さらに、彼女は学園の院長代理でもあり、成人後は院長もするのだ。


「……学校の先生やんのか……つ、務めておいでなのでしょうか」

「そうね。今は孤児のお姉さん役を二人でこなしているわ」


 彼女は歩人にリリアル学院の説明をする。すなわち、学院長の従者としての対応も求められる。主に、孤児たちの世話と、王妃様王女様のお相手もだ。


「お茶も満足に淹れられないとなると、不敬罪もありえるわね」

「……まじで……」

「マジマジ。ねえ、どうするの?」

「そうね、しばらくしたら、元王妃様付きの侍女であった方のところに、住込みで修行に出てもらいます」

「ああ、あの厳しい……『え、何それ、聞いてないんですけど』……前子爵である、おばあ様のところよね」


 伯姪がニヤリと笑う。おばあ様曰く、伯姪は王宮侍女として及第点クラスなのだそうだ。とはいえ、法国のマナーが入っているので、正式には一度王国流を学んで修正する方がよいという見立てである。


「学院の講師にお招きしたときに、おさらいさせていただこうかしら」

「皆の手本になってもらえると嬉しいわ」

「手本はあなたがいるじゃない?」


 とは言うものの、生徒の中のNo.1は伯姪であって欲しいと、彼女は思うのである。貴族の子女が孤児に後れを取るとは思わないのだが。とりあえず、セバスは癖毛に負けないように尻をたたこう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「ほお、新しく従者を召し抱えたのか。貴族の当主としては必要だからな。良い心がけだ」


 領都に帰還し、公爵閣下と嫡子の間で今回の山賊騒動に関しての対応を一通り確定させたという事で、本日は公爵の城館に前伯、彼女と伯姪が夕食に招かれている。流石に、公爵家の晩餐に薄赤パーティーを呼ぶわけにもいかなかったのである。因みに、女僧はドレスの用意がないため欠席である。


「とはいえ、見習の見習いでございますので。これから骨が折れそうなのでございます」

「うむ、とはいえ歩人の従者を従えるとは、『妖精騎士』のお話に一段と彩を添えることになるだろうな」

「……恐れ入ります……」


 公爵閣下は良かれと思って言われているだろうが、彼女的にはかなり自分の心が痛いのである。それはもう、ズキズキとだ。それと、セバス! お前の分は控えの部屋に用意があるから、後でお茶の時間にでも食べてきなさいね。ほんと、ぎらついた眼で食卓を眺めるんじゃない。彼女は内心、恥ずかしい思いをしているのである。


 歩人は「戦士というよりは野菜売り」と言われるほど、騎士には向いていない。反面、庶民の中に入りこめば、まずはみつけることができなくなるだろう。少なくとも、靴を履いている限りにおいてはだが。


「書類、粗方精査させてもらった。あれだけの量をよく持ち帰ってくれた」


 魔法袋に入れるにしても、恒常的に魔力を消費されるため、魔術師としてもそうそう大量に扱うわけにはいかないのだ。彼女の場合、問題ないのだが。


「ただ、肝心な証拠とはなりませんでした。王都の騎士団やレンヌ公と連携をして、商人に関しては既に捕縛の為動いてもらっているのですが、トカゲの尻尾きりとなるでしょう」


 嫡子が言葉をつなぐ。とはいえ、首領と商人が処分されれば、しばらくの間動きは阻害できるだろう。


「内々に、ヌーベ領との商取引を禁止する方向でブルグンド領内では手続きを進めている。ニースとの取引が増えれば、むしろその方がメリットがある」

「ニース商会の運送をブルグントの商会に委託する分があるからの。まあほれ、経済封鎖も必要であるからな」


 前伯はニース領の取引が王国王都で増える事を見越して、ブルグントの商会もそこに一口噛ませることで、今回の経済封鎖を実のあるものにするつもりなのだろう。それに……


「宿の経営者・従業員でヌーベに情報を売っていたものは既にとらえてある。今後は、公都やオランの商人の中で内部協力者を洗い出す作業に移るのだそうだ。それが……王都に延びる可能性もある」


 ニース商会は辺境伯領の諜報機関を兼ねている面もある。接触するディジョンや王都の商人の中で、人攫いやヌーベとの裏取引・情報漏洩しているものも並行してさがすのだそうだ。


「ヌーベは王国に降る以前から、王国内の商人とのパイプがある。むしろ、王国の外扱いであったから、王国内で禁止されている取引のオフショアとして上手く利用されていた」

「……帝国の自由都市のような扱いですね」

「ああ。王国はその辺り、まともな商売をするなら途中で関銭を支払ったり、ギルド所属以外の商人が商売を邪魔されることがない分、帝国や法国より国内の流通が良い環境なのだ。その代わり、悪事を隠すことが難しい。それをヌーベが独立していたときは堂々と行えたんだろうな」


 つまり、王国に降る前からある仕組みを、王国の一部となってからも継続しているという事なのだろう。だから、何の問題意識も持たずに、普通に人を攫い、ものを奪えるのだ。新しく始めたことではなく、おそらく何百年も続けていること、建国以来の仕事なのだ。


『お前が必要以上に考える必要はねえぞ。王国の上の人間が考えるべきことだ。この公爵とか、国王陛下とか宰相の仕事だ』


 魔剣はそう彼女に告げるのだが、彼らの仕事は多岐にわたり、昔から継続していることなのであれば、今すぐ問題視される事は無い。優先順位は低いままなのに違いないのだ。


「人攫いを、一つ一つ潰していきましょう。王都にも潜んでいるはずですもの」

「そうね。ニース、レンヌ、ブルグントときているのだから、それは……大いにあり得るでしょう」


 彼女の独り言に、隣の伯姪が言葉を重ねた。



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