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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ブルグント』

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第58話 彼女は歩人を従僕とする契約を結ぶ

第58話 彼女は歩人を従僕とする契約を結ぶ


「……歩人が捕らえられていたのか……」

「あの者たちは、自分たちの里から出ることは少ないじゃろ」

「そもそも『隠蔽』がかかっておるし、その辺りを歩いていても気が付かんからの」


 ジジ三人に聞いてみたのだが、長い人生経験の中でも歩人と遭遇した事は無いらしい。一人は高位貴族の当主、二人は修道士でそれほど広範囲に移動する生活を送っているわけではないから当然なのかもしれない。


 薄赤パーティーのメンバーにも当然いないのである。


「半妖精だから、冒険者にもいないしな」

「血が混じっているといわれる『人間』が冒険者登録することはあるが、あくまでも触れ込みだから。実際のそれはいるという話は聞いたことがないな」


 それはそうだろう。王国の住民でなければ、王国の冒険者ギルドに加入するわけも出来るわけもないのである。ギルドは国や領邦を越えた組織なので、法国出身者であっても王国でギルド登録したり、法国のギルド登録者が王国のギルドで活動することもできる。


 妖精・半妖精は王国民ではないので、例えば、今回の救出の対象でもなかったりする。要は、犬や馬と同じ扱いなのである。本人に話をしたらどういう反応をするのか楽しみであると、彼女は考えてみたりする。


「どうする? まあ、助けてそのまま放り出せばいいのかもしれないけどな」

「……ヌーベ公の元に駆け込まれるのも困りますね。しばらく拘束して、依頼が終了するまで自由にしないようにしましょうか」

「それでいいんじゃない? 勝手にいなくなられても困るから、とりあえず、領都までは同行させて、騎士団に取り調べまでしてもらえばいいんだよ」


 伯姪、バッサリである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「おい、俺をどうする気だ」

「このままここに置いていくという方向で話が傾いているわね」

「……まじでか……」

「そうそう。それに、何人か傭兵の生き残りが逃げ出しているから、私たちがいなくなったあと戻ってくるんじゃないかしら」


 『猫』曰く、周辺の生き残りの兵士は皆処分したということなので、一番可能性が高いのは、攫った人を売却する奴隷商人がここにやって来るか、補給部隊の来訪ではないかと彼女は考えている。


「その、助けてもらえないか?」

「なぜ、そう思えるのかしら。あなたを自由にして、私たちになんの得があるの。この場で殺すか、どこかに売り飛ばす方が良いわよ」

「ひっでえな、慈悲の気持ちとかないのかよ」

「ないわね。私は王国の騎士なので、王国民以外どうでもいいのよ。ここにいるのもそのためだし、歩人の国王様にでも保護してもらえばいいのではないしら」


 そもそも、隠蔽している里から勝手に飛び出してきたのか知らないが、保護を求めるのは王国ではなく歩人の里に対してだろう。外国人学校が私学助成してもらおうとするくらい図々しい。


「いや、そんなこと言わずにさ……」

「なら、対価を払いなさい。そうね、金貨で100枚というところかしらね」

「金とるのかよ」

「なぜ、無料で赤の他歩人を王国の騎士が助けてあげなければならないの?勝手に捕まったのだから、勝手に死になさい」


 まあ、そういう事だ。武装勢力がウロチョロしている外国にノコノコ出かけていって誘拐されて殺されても国に保護する責任って……ないよね。たぶん。まして、外歩人じゃないか……


 あくまで助けないという論陣を張り続ける彼女に、伯姪が話しかける。


「とりあえず、王都に連れて行きましょうよ」

「……いやよ、ここで放置か殺処分よ。餌代だって馬鹿にならないのよ」


 完全に野良犬扱いである。言葉をしゃべる野良犬だと思えばよろしい。


『主、この歩人、私が処分しましょう。主に対して不遜不敬ですから当然です。主は成人したのち、女男爵に叙せられるのですから。不敬は許されません』

「……猫、お前の主、男爵なのか」

「あんたも猫語わかるの? 流石、犬猫同然ね」

「同然じゃねえ……ああ、この猫も半妖精なのか……だからか」


 伯姪の突っ込みに歩人が答える。ともかく、ただ飯食いはお断りである。


『俺の提案、聞く気があるか?』

「そうね。聞くだけなら……」


 『魔剣』曰く、半妖精なので「契約」が有効なのだそうだ。そう、騎士の誓いをこの半妖精と結ぶのである。なに、簡単なお仕事だ。


「契約内容は、向こう十年の労働。衣食住は保証するわ」

「……本気なの?」

「ええ、十五歳になると、私、男爵になるじゃない?」


 男爵家の当主が一人歩きというわけにもいかなくなる。今から十年後、恐らく二十三、四歳になるころには婚姻もして家庭を持つだろう。それまで、この歩人を執事として仕えさせるのである。


「一応男なのよね」

「これ、精霊契約対象になるみたい。騎士の誓いを結ばせるわ」

「ああ、なら……」


 主として命に代えて守る義務が生じる。勿論、主が忠節を尽くすに足りる存在であればだ。「君、君たらざれば、臣、臣たらず」と、古の大政治家も主君を諫めたという。


 彼女は歩人にどうしたいかを確認する。


「この世界で、女男爵に執事として仕えるなんて得難い経験でしょう。有難く受けるといいわ」

「ば、ばっかいえ! 俺だって次期庄名主なんだぞ!」


 歩人曰く、ヌーベの周辺にある歩人の里の若名主なのだそうなのだ。何も物見遊山でここに捕まっているわけではないというのだ。


「ヌーベにはオーガとか人狼を公爵が飼いならしているという噂が流れているんだ」

「……初めて聞いたわ」

「流石ヌーベね。帝国人の傭兵に人攫いさせるなんて、まだまだ可愛いものだったみたい」


 父親含めた庄の大人どもの指名で、彼とその取り巻きはヌーベ領内に事実確認に向かったのだそうだ。それで……なんで独りだけ捕まってるんだろうか。


「その、同行していた者たちは殺されたのかしら?」

「……俺を捨てて逃げた……」

「はぁ?」


 元々、頭の回転も良く大人顔負けの跡取り息子という事で、周りからかなり浮いていたのだという。


「……普通にしていたらそうはならないわ。何やらかしたのか、キリキリ吐きなさい!」


 剣の腹で小突く伯姪。歩人曰く、里の女の子に片っ端から告白しまくったようなのである。馬鹿がいます。


『こいつ、根本的に駄目な気がするんだが』

『主、このまま始末するか放置しましょう』

「いいえ、丁度いい教材だわ」

「どういう意味?」


 あの祖母に講師をお願いするわけだが、この歩人を祖母の従者としてしばらく預けることにするのだ。癖毛のような男も何人か増えてきたときに、どう矯正するか歩人で実験するのもいいと思うのである。


「なんで、ババアの従者やる契約になるんだよ! 俺はこれでも『名主の息子ということで回りが気を使って加減してやっているのに、空気読まずに勘違いして挙句の果てに里に置いておけないやらかしをして、適当な名目で追い出されたんでしょ。逃げた連れも、最初から言い含められていたのよ』……そんな。俺は、優秀で、顔だっていい方だ……」

「あんたの能力なんて、その残念極まりない性格で、むしろ全力でマイナスに振り切れているじゃない。馬鹿なの?」

『まあ、思春期の男子ってのはそういうもんだ』

『いいえ、この男、既に成人しております。年齢は薄赤野伏殿より年上ですぞ』


 魔剣の同情に、猫からの残酷な真実を告げる言葉に、彼女の顔は引きつる。


「あなた、三十過ぎてるのかしら」

「……まあな……」

「成人するかしないか程度なら残念な奴で済むけど、その年齢なら救いようがないレベルね。これは本格的に里を追い出されたと見えるわね」


 歩人は、半泣きから全泣きに変わった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 彼の名前は今日から「セバス」である。ビト・セバスと名乗らせることにした。歩人の名前は不要だ。なぜなら、この先、彼は『彼女』の従者であるから。


「跪きなさい」


 伯姪が告げる。見届け人は、この中で唯一の正規の騎士である前伯だ。彼女は未成年であるし、当事者でもある。


「恐れず、敵に立ち向かいなさい。勇気を持って戦う者を神は愛します。たとえ死に至るとも恐れず真実を語りなさい。弱きを助け、正義に生きなさい。あなたは私に誓うのです」


 騎士の誓いだが、それは少々違う。これは、彼女と歩人の精霊契約となる。生涯を縛る契約なのである。嘘やごまかしはできない。


「……ち、誓わなきゃ『バラすわよ』……誓います……」


 そして、魔剣を構え、首筋に刃をあてる。軽く……切れたようである。


「そして、誓いを裏切れば、あなたの人生は終わります」

『魔力は覚えた。俺とこいつと猫からは逃げられねえぞ』

『主を守るのは、我が役目。とはいえ、人に似た姿のお前の方が向いている雑用もある。その辺り、お前が仕えるのだ。命にかけてな』


 魔力を刃を通して入れたため、彼女を通して歩人と魔剣と猫はリンクをすることになる。つまり、逃げても姿を隠す事すらできない。そこに様子を見に来た者たちが加わる。


「騎士よ、立ちなさい」

「まあ、嬢ちゃんが成人するまでは仮だな。正式な男爵でないと、君主とは認められんのでな」

「そうなんですね……」


 主人の家族として仕えることがあっても、主はあくまでも当主である爵位持ちなのだという。


「なんだか、随分と偉くなられた気がするね」

「……いや、相当偉いんだと思うぞ……」

「ははっ、黙っていれば深窓の令嬢なのにな。もったいない気もするな」


 黙っていればとは一言余計である。所作に関しては、祖母のお墨付きをいただいているのだ。姉は仮目録程度である。彼女は本目録から免許皆伝に近づきつつあるのだ。


「では、この剣をあなたに授けます」


 彼女は魔剣の予備でありレプリカのミスリル合金の短剣を与える。


「あなた、魔力を持っているなら、身体強化と武器の斬撃強化くらい……使えるわよね」

「……いや、隠蔽以外得意じゃねえんだよ『……言葉遣いに気を付けなさい』得意ではございません」

「ちょうどいいわ、あなたの練習相手になるわね」

「いいアイデアね。学院の子供相手だとどうしても手加減しなければいけないから。思い切りやれるわ!」


 伯姪の剣技の練習相手に丁度いいとされるのであるが、薄黄剣士はかなり嫌そうな顔をしている。なぜなら……


「覚悟しておけ。その娘は、魔力を使うとこの二人より強くなるぞ」


 いかにもベテラン冒険者の薄赤は二人をさし、そう歩人に告げるのである。レンヌから帰ってきたあたりで、薄黄剣士は相手が務まらなくなっていたのだ。足の悪い戦士や、本職が弓の野伏ではレベル差が少なくても相手はしにくいのだ。


「ははは、何なら、王都にいる間はわしが直々にしごいてやろう。今日からでも構わんぞ」

「おじい様、よろしくお願いいたします」

「わし等も協力するぞ。どの道、領都までは護衛するからの」

「はい、ぜひお願いいたしますわ」


 前伯にのっかるジジマッチョ二人組である。





 さて、解放された五人を自分たちの馬車に乗せ、厩舎の馬は全て回収することにもする。帰りは馬に乗れるので楽である。


 そういえば、首領は五人から真剣に石などでぶん殴られて、顔の形が全体的に変わり歯も砕けたようである。虫歯良くない。


「さて、武器の回収も終われば、そろそろ出発しようかの。途中のオランは遠回りになるから、領都にそのまま戻るぞ。捜査もあるしの」

「承知いたしました」


 兵士の装備を鎧兜、剣に槍、それから、希望する使用人の女性たちは同じ馬車に乗せ、領都まで護送することにしたのである。とはいえ、使用人の女性たちはやむを得ないとはいえ山賊と行動を共にしていたので、数年の強制労働が課せられるだろうということだ。生活的には、領都の公用所で同じような使用人をすることになるらしい。


「主、馬の用意が整いました」

「セバス、あなたは馬に乗れるのかしら」

「いえ、歩人は地面がぬかるんでいなければ、馬の轡をとらえて同じくらいの速度で走れるのです」

「そうですか。では、轡を取ることを許します」


 先頭をジジマッチョと修道士の二人、御者台に戦士、馬車の後ろに剣士、馬車の外に縄でつないで首領を引き連れている。野伏と二人は馬で後備を守る。


 後方では、頑張ってジジマッチョ達が破壊したおかげで城門は崩れており、周囲の作業小屋は燃え上がっているのだが……


『鍛冶や修理の道具、上手く回収したな』

『流石は主でございます』

「ほとんど、火事場泥棒……でございますな」


 学院の作業用に道具を回収したまでである。日々の清掃道具や煮炊きの道具は備え付けのものがあったのだが、今後、武具の補修や手入れなど考えると、一揃い欲しくもあった。


『鍛冶屋ってのは無理じゃねえの』

「そうとは言えないわね。鍛冶屋が門前になければ、簡単な治具程度は扱えなければならないでしょう。その辺り、学院直でなくとも孤児を弟子入りさせてくれる親方を……探さなければでしょうね」

『鍛冶屋は徒弟制度がしっかりしているから、簡単じゃねえぞ。野鍛冶のたぐいなら問題ないだろうが、武具を整えられるレベルは難しいだろうな』


 とはいえ、道具はそろったのであるから、その先のことはもう少し後で考えてもいいだろう。さて、領都でどのような話が進んでいくのか、今から楽しみがないわけではない。





これにて第七幕終了となります。お付き合いいただいた方、ありがとうございました☆

第八幕『従僕セバス』は数日後に投稿開始いたします。



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― 新着の感想 ―
[一言] まだ途中までしか読んでないですが、現代人的感覚だと歩人に対する扱いが酷いですね。犯罪者でもないのに契約を使った強制奴隷。いくら気にくわない態度だといえ何か強烈な差別意識があるのかと思える程。…
[一言] >あの祖母に講師をお願いするわけだが、この歩人を従者してしばらく預けることにするのだ。 字抜けと思われますが (私の)従者にして (祖母の)従者として のどちらか判断出来ませんでしたので誤…
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