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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ブルグント』

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第57話 彼女は歩人と共闘しない

第57話 彼女は歩人と共闘しない


 室内には見張りと思わしき兵士が二人ほどいたが、その他に人影は見当たらない。月明かりのないことが幸いし、城館の中は薄暗いランプの炎だけで、隠蔽はより効果を発揮している。


 入口正面に折り返しの階段が見えている。その階段を音を立てずにゆっくりと上がっていく。流石に、大騒ぎの中二階にとどまっている者はおらず、彼女らは易々と上階にたどり着く。


「一番奥からね」

「中の気配を確認してから……この鍵で開けて回りましょうか」


 潜んでいる者がいないとも限らない。まずは……


『主、私が中を確認してまいります』


 お願いねとばかりに彼女は答えるのだが、やはり「にゃーにゃー」言っているようで、伯姪は笑いをこらえている。笑いたければ笑えばいいさ!


 扉は左に三つ右に一つである。一番左奥の部屋に見当を付け、二つの扉の中の気配を伺いながら三つ目の扉を目指す。どうやら、手前二つは兵士の部屋のようで中の気配は全くなかった。三段ベッドであろうか、かなりの空気の悪さである。


「臭いわね。オッサンの呼気のせいかしら」


 獣臭いのとは少々異なるが、近いものを感じる空気の悪さだ。一番奥の扉は金属で補強された外扉に似たデザインであり、他とは少々様子が異なる。鍵はかかっておらず、猫を先に入れ中を確認させる。


『隊長室のようです。問題ありません』


 二人は先に中に入り、鍵をかける。そして、室内を確認する。


「あなたは机を探して、私は、その辺りの棚のものを全部収納してしまいましょう」


 魔法袋に片っ端から書類や紙束・本を納めていく。引き出しの中身を確認し、伯姪は他に、身分を示すような道具がないかどうかを確認していく。


「……印璽があるわね……これって……」


 ヌーベ公のものではないが、その配下の貴族の印璽が見つかった。それ、いただきます。


 外をのぞくと、幕壁の向こうの作業小屋の方向が明るくなっており、兵士が壁の上を右往左往している様子が見える。火事を消しにいくのは、敵兵が周囲に潜んでいる可能性があり、躊躇しているようなのだ。城門の上ではジジマッチョどもが兵士相手に暴れているようであり、中庭の城門周辺では、なにやら怪しげな兵士の一団……薄赤の二人だろう。


――― 前伯はどこへ行ったんだ?





 必要なものを回収すると、彼女は油球を作り室内に火をつける。どの道、この城塞はできる限り破壊するつもりなのだ。攫われた人がいるのは離れた主塔なので問題はないだろう。


「さ、長居は無用ね」


 部屋の外の廊下に出て隠蔽を駆使して先を急ぐ。階段手前まで来たところで、右奥の扉が開いた。


『主、仕留めましょう』


 無体なことをしない兵士であったが、どの道撫で斬りなのだ。猫が走り寄り足を刈り、小頭が足を抱えてうずくまる。彼女は身体強化を行い加速する。


「は、お前、まさか……」

「……」


 彼女は首を『魔剣』で刎ねる。そのまま、小頭が出てきた部屋を確認すると、そこには少女が捕まっていた。


『……こいつも同じ穴の狢ですね』

「来て、女の子がいるわ!」


 伯姪を呼び寄せ、魔法袋の中にある予備のマントを取り出すと、少女に体に巻くように声をかける。


「逃げたいなら、助けるわ。黙ってついてくるならね」

「建物に火をつけているから、逃げ出さないと死ぬわよ」


 少女は視線を泳がすと、部屋の前に倒れている小頭を見て我に返る。


「あの男は殺したわ。だから、もう二度と、あなたに酷いことをすることはないでしょう。家に帰りたい?」


 少女は黙って頷く。なら、話は早い。部屋の中で、同じように紙束を魔法袋に収納し、念のため小頭の剣を少女に持たせる。焦げ茶の髪の色の浅黒い少女であった。顔は可愛らしい感じだが美人ではない。農家の娘と思われる自分より少し年上な感じがするなと彼女は思った。


「準備は良い?」


 伯姪の言葉に少女は頷き、彼女を先頭に、真ん中に少女、最後に伯姪の順番で階段を下りる。既に、二階は半分ほど火の海となっており、外の喧騒はさらに大きくなっている。既に、城館の隣の礼拝堂は火の手が見え始めており、中庭は炎で明るくなり始めている。城館も燃え広がるのは時間の問題。逃げる場所は……


「一旦、外に出ましょう。それまでに合流できるなら、他のメンバーに合流で」


 1階に降り、正面の扉から中庭に出ると、既に戦いは佳境のようであった。


「アリー、メイ、無事!」


 女僧が剣士と二人で走り寄ってくる。既に通用門は解放したようだ。


「アム、主塔に数人の攫われた人がいるみたい。彼女はここの2階に隔離されていたの。預けてもいいかしら」

「うん、任せて」


 少女を二人に任せると、彼女と伯姪は主塔に向かった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 主塔の前の見張りは倒されており、頭上では剣戟の音がする。薄赤戦士と野伏が幕壁で砦の兵士と斬り合いをしているようである。


「ちょっと行ってくるわね」


 彼女は伯姪に声をかけると、三角蹴りの要領で主塔の壁を蹴り、身体強化した勢いで幕壁の上に飛び上がる。突然現れた女に、敵か味方か一瞬戸惑うのだが、兵士に斬りかかりあっという間に斬り倒す。


「お待たせしたわね、書類は回収したわ」

「兵士も半分くらい倒したか。少し外に逃げたが、主塔に少しと、あとはこの城壁周りだけだ」


 見ると、城門の真上で修道士の二人が数人を相手に、また、城門の前では首領・頭と思しき赤兜とジジマッチョが斬り合っている。既に、兵士数人を斬り倒しており、一対一のようである。


「俺たちはこの場所周辺で敵を片付ける」

「城館には火を放ったので、近づかないで」

「おお、派手に燃えてるもんな。わかった。主塔の中には三人ほど兵士が入ったのを確認している。最初からいたものを含めると、それなりにいるかもしれないが……どうする?」


 いつもの作戦で行くと、彼女は答えた。





 ジジマッチョはどうやら楽しんでいるようで、決着をつけるつもりがないようである。とはいえ、中の兵士も首領がいるうちは降伏をしないというのは明らかだろう。


『さて、また油ばら撒く気なのか?』

「ほかに手がないじゃない。攫われた人には申し訳ないのだけれど、殺されるよりはましではないかしら」


 辛い油球を散布する毎度おなじみの攻撃である。でないと、追い詰められた兵士が攫った人を人質にするか殺すかなので、無力化するしかないのである。


 階下に降り、伯姪に「いつもの」を行う話をする。そして、魔力を纏い、身体強化と魔剣の威力を強化して扉を……斬り落とした。


 鉄の補強枠ごと斬り落とし、外れた扉の空いた空間に油球を投入し、中で拡散させる。聞こえてくる絶叫・悲鳴……兵士はめくら滅法に剣を振るっているようで、女性の悲鳴が聞こえる。


 伯姪と彼女は中に飛び込み、涙を流し叫びながら剣を振り回す五人の兵士を次々につき殺していく。特に、彼女の場合、鎧も貫通する突きなので、あまり考えなしにつき崩すのである。





 五人の兵士が息絶えたのちも、油の刺激と痛みで泣きわめく攫われた人たちに、ポーションを飲ませていく。若い女性が二人、少年と少女が一人ずつ、そして、歩人である。


「なにしやがる! ひでぇ目に遭ったぜ」


 口々にお礼を言う少年少女に対して、文句たらたらの歩人。煩い!


「あんたの頭の出来が酷いからでしょう。なんで、こんなところに歩人が捕まっているのよ。売れもしないのに!」


 あまりの煩さに、伯姪が言い返す。何か喚き始めたのだが、歩人は捕縛された状態のまま転がしておくことにし、四人を外に連れ出す。


「全員無事ですか?」

「相変わらず派手に決めるぜ。あーあ、皆殺しか」

「捕虜なんて取るわけないでしょう。撫で斬りよ」

「ポーション飲ませたから、一旦、他のメンバーと合流しましょう」


 既に、礼拝堂と城館は燃え上がっているため、とりあえず、薄赤二人と攫われた四人プラス一人の少女を連れて幕壁の上に移動する。


 既に、首領はネズミをいたぶる猫のような前伯に散々弄られて動けなくなる直前でふらついている。どうやら、生かして捕まえるつもりのようだ。幕壁の上は修道士二人と冒険者二人で制圧が完了しており、一息ついている状態だった。


「お疲れ。みんな無事かい?」


 薄赤野伏が声をかけてくれ、両脇を冒険者で固めて座り込む救助されたメンバー。水筒を取り出し、回し飲みさせている。


「これで全員か」

「人は。歩人がうるさいので、主塔に放置してきました」

「……手厳しいな」


 苦笑いの薄赤戦士と、ニヤニヤの野伏である。明るくなるまでは、兵士が潜んでいる可能性もあるので、この場から動くのは得策ではないだろう。


「何人仕留めたんだお前ら」

「礼拝堂で一人、城館で一人、主塔で五人の計七人です」


 薄赤ペアは八人、剣士と女僧は外を含めて六人。修道士二人は……


「十一人じゃな」


 相当、壁の外に叩き落したらしい。これで三十二人仕留めている。前伯が数人仕留めているだろうから、残りは十人前後であろうし、城の外に逃げているのだろう。


『主、逃げた兵士、追跡して仕留めてまいりましょう』

「ええ、お願いするわ」


 追撃を『猫』に任せる方がよいと彼女は判断した。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 「ほれ、大人しく縄をかけられるんじゃな」


 ジジマッチョトリオは彼女が渡した魔力付与されている縄をもらい受けると、右腕を斬り落とされた首領に首縄をかけている。腕と首を縄にかけているので、身動きが取れないような掛け方である。


「ほとんど拷問みたいだな」

「このくらいしないと、危険なのでしょうね。身体強化も多少使えるようだし」


 伯姪よりレベルは低いのだが、基礎体力が高いので同じ程度の能力はあるだろう。薄青レベルと考えればいいだろうか。


「一流冒険者の力があっても……人攫いの親玉か」

「いえ、彼らは傭兵ですから、むしろ、これで正しいのでしょう。雇い主が少々いただけない存在なだけですから。それに……あなたの執務室と、小頭の執務室にあった書類は全部回収しましたから、安心して下さいね」

「……燃えてるんじゃねえのか!!!」


 煩いのがここにもいると彼女は思ったのだが、冷静に反論する。


「この城塞自体に価値がないので、焼却しているだけです。また、人攫いを別の傭兵に依頼する領主がいるでしょうから、この施設自体使えないようにするつもりです」

「どうやってだ?」

「……こうやってですよ」


 彼女は、首領の足のプレートごと剣で切り裂いた。大声で喚きだす首領だが……剣を鞘に納め、顔面を殴りつける。


「黙りなさい。今殺すか、後で殺すかなんですから。証拠は回収したので、あなたを生かしておくのは依頼主へのサービスにすぎません。どっちでもいいんですよ、蝗さん」


 王国人ではないだろう容貌は、恐らく帝国もしくは法国北部の人間だろう。自分たちの母国で食えないので、蝗のように王国にやってきて人攫いをしているわけである。雇い主の意向はともかく、受けて仕事としている時点で、王国にとっては蝗のような害虫なのである。王国には蝗の被害ないけど。御神子教の経典に出てくる災害の一つである。


「あとで、依頼主が公開処刑すると思うので、それまでは生かしておいてあげるのだけれど、五体不満足でも問題ないのよ。だから、ジワジワ痛めつけるのもやぶさかでないの。お判りかしら?」


 と、残っている腕をへし折るように剣で殴打する。勿論、バキッと音がしてへし折れる。身体強化と剣の魔力強化のおかげである。ついでにうるさいので、猿轡をかませることにした。


「ああ、皆さん、殺さなければ痛めつけて構いませんから。どうぞお好きになさって下さい」


 攫われた五人に声を掛ける。この場にいない被害者の分まで、生きている間にこいつに仕返ししてあげてもらいたい。


『そういえば、歩人どうすんだよ』


 ああ、すっかり忘れていたと彼女は思うのであるが、この首領同様相手をするのも煩わしいなと思い、げんなりするのである。



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