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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第七幕 『冒険者パーティ』
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第566話 彼女は二人の装備を確認する

第566話 彼女は二人の装備を確認する


『女僧』は、盾を何度か握りしめ確認すると、前に突き出した。


「よろしくね」

「手加減はしませんよ。でも、魔力纏いはしません。身体強化だけです」


 魔力纏い迄すれば『必殺』のレベルに達してしまうだろう。殺す気か!


 逝きます! と声をかけ、赤毛娘が『女僧』の頭めがけてメイスを振り下ろす。左腕にラウンドシールドを通した状態で腕で頭を庇うように打撃を受ける。


GAIINNN!!


 ラウンドシールドだけでなく、全身に身体強化をかけた『女僧』は危なげなくメイスのフルスイングを受け止める。


「さっすがぁ!!」

「ふえぇぇ……見ているだけでお腹がしくしく痛くなります……」


 後衛中の後衛である黒目黒髪は、まず、こういった光景を目にしなくなって久しい。怖がりさんである。


「すごく……いい盾だわ」

「おお、これがあればもっと楽できただろうな」

「ふふ、そうは言っても、装備に頼っていたら技術は身につかないわよ」

「ちげぇねぇ。貧乏でもいい事ってあるもんだな」


 リリアルを訪問した時の四人は、彼女が駈出し冒険者であった頃とさほど装備は変わっていなかった。身につける防具は上質のものになっていたし、手入れも良くされているようだったが、考えればそうそう良い武器が手に入るのは「貴族」であるか「魔力持ち」であるかのどちらかもしくは両方であったからだ。普通の冒険者には、そうそう良い装備が手に入るわけがない。


 初撃は恐る恐る受けたが、盾の性能が理解できたのか、二度目からは冷静にメイスの軌道を読んで受け流すように盾を操作し始める。受け止めるのではなく、受け流す使い方。メイスのような鈍器より剣を相手にする方が受け流しは簡単だが、『女僧』はメイスをも受け流していく。


「このこの!!」

「あ、ちょっと、連撃……本気だしすぎ!!」


 身体強化からの連続攻撃を受け流し続けるのがしんどくなってきた『女僧』が赤毛娘に抗議の声を上げる。綺麗に受け流されて、熱くなり過ぎた赤毛娘を伯姪が止めに入る。


「ちょっと休憩。選手交代ね」

「もうちょっと!! もうちょっとだったのにいぃ!!」


 もうちょっとで殺されるところだと『女僧』は内心思いつつも、表面上は何事もなかったような顔を見せている。


「お疲れ」

「……本当に疲れました。しばらく休ませてください」

「ああ。今度は俺の番だ」


『戦士』の盾は左ひじから腕を差し込んで盾の先端にあるハンドルを握る形で装備する。鎖帷子が騎士の鎧であった時代、盾で左半身を完全に守る聖征時代のスタイルに近い装備の形だ。今では、板金鎧の普及で盾を持つ意味が薄れてしまい、盾は廃れたが、歩いての護衛や探索が当然の冒険者からすれば、稼働時間が一時間程度で、着脱に従者が必要な板金鎧を装備する事は考えられない。精々、胸当を金属製のものにしたり、ブリガンダインと呼ばれる革胴衣の裏側に金属板をリベット止めした装備をする程度だ。


 一日歩き続ける冒険者なら、板金鎧ではなく革鎧に盾の組合せにならざるを得ない。お金が無いからというわけではないのだ。


「ホントに、魔力が通るんだろうな」

「実験済みだ。まあ、運悪く故障するやもしれんが」

「おい」


不安になったので、先にメイスを使ったテストを行う。相手は黒目黒髪。


「よ、よろしくおねがいしましゅ」

「こちらこそよろしく」


 黒目黒髪、魔力壁の複数展開、今では八枚まで展開可能となっている。課題は攻撃にどう活用するか。


「いくぞ」

「さあこい!」


 返事をしたのは赤毛娘。何故だ。

 

『戦士』が振りかぶり、魔力壁にメイスのフィンヘッドを叩きつける。一度、で三枚の魔力壁が破壊される。プレートを着こんだ騎士相手でも魔力持ちで無ければ即死であろうし、魔力持ちでもかなりのダメージを与えられただろう。勿論、高位のアンデッドでも同程度のダメージは可能だろう。


「どうかしら」

「どうなんだ、そっちからしたら」


 彼女の質問に『戦士』は質問で返した。魔力持ちの視点が判らないからということもあるし、アンデッド、特に、魔力の結界ないし防護を持っている可能性の高い貴種の吸血鬼やレイスのような強い魔力を持つアンデッドに効果があるかどうかということなのだろう。


「魔力壁三枚抜きでは不安かもしれないわね」

「そう? 確かに、単独でならそうかもね」


 伯姪は単独で『戦士』が高位のアンデッドとの遭遇を想定する必要はないと考えたようだ。確かに、そうかもしれない。


「いや、このフィン形状を変えてだな……」


 内部の魔水晶の魔力に左右される威力、フィン型よりも点で攻撃する星型スパイクの方が有利ではないかと戦士は提案する。


「握りこぶしくらいの大きさで球形のヘッドで星型のスパイク付きにスピアヘッドを付ける。それから、スピアヘッドとスパイクとは別々の魔水晶から魔力を供給すれば、魔力が切れたと敵を油断させて一撃を叩きこめるやもしれんな」


 老土夫が即興で『戦士』の望むメイスのイメージを言葉にする。その内容に『戦士』も納得したようだ。


「いいな、その必殺技っポイ感じ」

「かっこいいかも!!」

「そんなの必要なけりゃいいんだが、魔力無の俺には欲しい性能だ」


 赤毛娘はうらやましがるが、そもそも必要ない方が余程優れている。スパイク形状であれば打撃に用いる魔水晶の魔力が一点に集中し、より強いインパクトを相手に与えることができる。また、スピアヘッドに関しても同様の効果が得られるだろう。


「なら、スピアヘッドで魔力の集中効果を試してみてはどうかしら」

「ああ、では魔力の補充を頼む」


 彼女はスピアを受け取ると柄を握り、ヘッドに装着された魔水晶へと自分の魔力を注ぎ始める。魔力量の大小よりも魔力を操る繊細さが必要とされる。黒目黒髪には同じことが求められても、彼女の姉や赤毛娘には苦手とする使い方だ。魔力量が少なくても、操作の上手なリリアル生は薬師組が多く今では癖毛も中々のものだ。魔力量の少ない者の方が、操作は上手に行いやすいのだろう。


「さあ。これで大丈夫だと思うわ。それと……」


 威力を確認する相手を今回は彼女が務めることにすると伝える。


「なんでだ」

「万が一全貫通したら危険でしょう?」

「確かにな。まあ、そんなすごいことになるとは思えんが」


『戦士』はメイスを構え距離を取る。スピアヘッドを用いた刺突であるから、飛び込んでくるつもりなのだろう。


「足は大丈夫なの!」

「余計なお世話だ」


『女僧』の心配をよそに、『戦士』はヤル気十分である。踏み切る足を痛めていない側にすれば問題ないと告げる。


「行くぞ」

「いつでもどうぞ」


 彼女は既に十枚の魔力壁を重ねて展開している。魔力が無ければ傷一つ付けることも叶わないその壁を、氷の板を重ねるように展開している。


 一気に踏み込んだ『戦士』はその体を前傾させ、メイスを突き出すように『魔力壁』へと叩きつける。


PPPPAAANNN!!!!


 魔力壁が連続して破壊される音。その数五枚。


「あぶなかったぁー」

「そうだね!! やばかったよ多分ね!!」


 黒目黒髪の魔力壁であれば、八枚全貫通していかたもしれないという思いで赤毛娘とその有様を見て驚きの声を上げる。


「ふぅ。どうだ」

「良いと思います」

「使わないで済めば使わずに済ませたい手ですね」


 体を投げ出すように飛び込むのは捨て身の攻撃。相手に反撃する余力が残っていれば、無防備な状態で攻撃を受けるだろう。


「その時はその時だ」

「また……そんなこと言って。動けなくなったら、誰が連れ出すと思ってるんですか」


『女僧』に言われ、『戦士』は彼女と伯姪の顔をじっとみる。


「お望みならば、背負うなり抱き上げるなりして助け出します」


 彼女の言葉に伯姪が「魔力量の多い人がその役割を果たすわよね」と暗に彼女が『戦士』を抱き上げることになるだろうと仄めかす。おじさんが少女に抱き上げられて救出される絵面はあまりよろしくないのではないだろうか。


「最悪の時にはそれも仕方ねぇか」

「そうですね。その時は私が引き摺って助け出しましょう」

「それならまだましだな」

「右足は私が引き摺るから、二人なら何とかなるわよ!」


 伯姪も手伝うと声を上げるが、「かえってひでぇな」と『戦士』はボヤくのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『女僧』のメイスの攻撃、『戦士』の盾の防御も問題なく確認できたので、『戦士』のメイスの改修が終了次第、王太子宮へ向かう事を決めた。『戦士』のメイスは、護拳の上の部分にもスティレットのように握れる加工を施す事にした。両腕で突き刺し殴り倒す状況も想定してだ。


 防具に関しては、必要であれば胸当や脛当など防御力の高いものに替えるなら学院が提供すると伝えるが、防具は馴染んだものの方が良いという事でいつもの装備をそのまま使う事にする。


「タイマツ持ちは私の仕事でしょうね」

「そうですね。戦闘で盾を腕に通して使える方にお願いすることになりそうです」

「魔力の炎では駄目なの?」


 伯姪の問いに、彼女は「気配隠蔽」を二人は使うので、その手は使わず存在を隠しておく方が良いだろうと伝える。敵は『戦士』『女僧』の二人だと錯誤してくれれば、こちらの仕掛けが有利に働くと彼女は考えていた。


「つまり、俺達は囮を兼ねるってわけだな」

「四人を襲うより、二人を襲う方が戦力の逐次投入を誘えると思います。最初から包囲されるような状態は避けたいので」

「それはそうですね。あなた方の魔力を感じれば、最初から総力戦を挑まれてもおかしくありませんから」

「つまり、ギリギリまで俺たち二人だと思わせた方が……」

「かえって安全なのよ。たぶんね」

「おっかねぇ探索になりそうだ」


『戦士』は肩をすくめ、おお怖いとばかりにお道化たふりをする。


「ヤバ目の相手なんだろ?」

「恐らく。修道騎士団の騎士達のアンデッドが相手になると想定しています」

「……本当にですか」

「私たち、処刑された総長と王都管区長のアンデッドと戦ってるから。恐らく、戦死した歴代総長の遺体を加工して、アンデッド化させていると思ってるの」

「そんなものが複数王都に現れたら……」

「王都は地獄になるでしょうね」


 ある意味、地獄行きか否かを審査する『煉獄』と王都が化すかもしれないと彼女は考えている。


「試されてるな」

「王都が? それともリリアルが?」


 煉獄ならば、その先は天国へと通じているはずだ。ならば、それでも構わないのではないだろうか。


「神様は常に人間を試しているのではありませんか」

「ちょっと試されすぎよね私たち」


 伯姪が冗談めかして言うが、確かに王国が神に試されていると言ってもおかしくはない。百年戦争はそういう意味でも王国の存在が神に試されたと言えるかもしれない。連合王国は神の御使ではないだろうが。


「人を誘惑するのは悪魔の仕業。なら、彼の国にそそのかされている人間は悪魔にそそのかされているということかもしれませんね」


『女僧』はそう感じているのだという。帝国からやってきて王国を見ると、そう見えるのだという。


「そもそも、アンデッドを使って王国を攻撃している時点で、そいつら絶対に『悪』じゃない?」


 死者を利用し、生者を害しようとする行為は確かに悪……悪魔の所業かもしれない。


「死んでまで利用されるのはちょっとかわいそうよね」


 リリアルにもサブローやガルム達がいるのだが、利用しているわけじゃないよ!本人たちが納得して世を去れるまで、一時的に居場所を設けているだけである。そもそも、アンデッドを作り出したのはリリアルではない。だから、利用しているわけではない。たぶん。


「アンデッドは経験があまり無いからな」

「オーク以上オーガ以下ってところよ」

「そりゃ難敵だ」


 伯姪の雑な説明に『戦士』が渋面を作る。オーガと対峙する機会などそうそうない。腕力だけならジジマッチョくらい強いと思えば理解できるだろうか。


「直接触れられると、意識が混濁したり気絶することもあり得ますね」

「……オーガに殴られた方がましってくらいか」

「殴られたら死にますよ普通」

「だよな」


 スケルトンやアンデッド・ナイト程度であればそこまでではないが、想定されるのはワイトかスペクターか。あるいは、未だ遭遇してないアンデッドかもしれない。


「最初の一撃を凌いでもらえたなら、なんとかなるでしょう」

「そりゃそうだ。とはいえ、それなりの装備も与えられたんだ、そう簡単には死なないだろうさ」

「ベテランの経験値の差というものをそろそろ見せてくださいね」

「おいおい、いつも見せてきただろ、見せてるよな俺」


『女僧』に揶揄われた『戦士』は、何度も彼女たちに経験の差を見せてきたと言い募るのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] >返事をしたのは赤毛娘。何故だ。 赤毛娘は黒目黒髪ちゃんの怖がりを克服できるように、 自身の顔を描いたお面を彼女に渡した。 「これを被れば怖くないよ!  あと、やっぱりメイス!  メイス…
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