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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ブルグント』

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第52話 彼女は侍女頭に学院の留守を任せる

第52話 彼女は侍女頭に学院の留守を任せる


「あら、そういう事なら、協力は惜しまないわー」


 王妃様、話が早くて大変助かる人なのである。王女殿下が攫われかけたこと、レンヌ大公との書簡でのやり取りの中で、大規模な人身売買組織が王国内に存在することの証拠が、公都の捕縛した商人たちから大量に見つかっているのだそうだ。


 この世界で、王国と法国の北部、連合王国の南部はかなりの人口を抱えているものの、人手不足は帝国以東の世界で甚だしい。一時はサラセン人の国に攻め入るほどの勢力のあった御神子教国家は、その後、枯黒病の流行で人口激減となったのである。


 帝国東部においては人口が半減したと言われている。その為、奴隷として御神子教徒以外の者を購入する地域が存在し、秘密裏にその中に王国の民も含まれているのではないかというのが、今回の問題の核心部分だと言える。


「それで、学院の方なのよねー」


 カリキュラム的には、自分で学べる課題を与えてあるので、薬草の育成や魔力の操作の鍛錬に薬師の練習など、危険度も低いし、それほど大変でもないと思われる。


 また、使用人も九人体制で引継ぎ育成中であり、最初の三人は帳簿や契約書の作成の練習フォーマットを与えてあり、令息と姉が週一日程度、習得状況を確認しているので問題ない。


「重石の役割と、何か突発的な問題が発生した場合の騎士団や王都への連絡ができる人材が必要です」

「……侍女頭なら……適任かしら」


 王女殿下とレンヌに同行したときの侍女頭。王妃様の無茶ぶりにもクールに対応する才女。そして、お茶目で優しいところもある。安心できる采配である。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 王宮での引継ぎを終え、侍女頭が学院を訪問したのは……王妃様と王女様も御一緒でした!!


「みなさん、しばらく二人が別のお仕事で学院にいられないので、代理の侍女頭に学院の運営を手伝ってもらうことになりましたー」


 王妃様は、軽い調子で話を進めるが、周りはとても驚いているのである。何しろ、王女様付きの侍女頭という時点で高位貴族の娘確定なのだから、孤児ばかりの学院では王妃様以上に扱いに困る存在と思われたのだ。


「レンヌに一緒に旅した時にも、指導していただいた方なので、薬師や魔術師としての質問は受けられないけれども、王宮の所作については私の姉より数段高いレベルなので、良き先生となっていただけると思います」

「使用人としてランクアップ目指すなら、最高の先生だと思うので、この期間に、気になるところは指導していただくといいよ」


 二人は依頼の間、侍女頭にお願いできる指導内容について……できる限り実行してもらうことにしたのである。恐らく、姉の足が遠のくことは間違いない。なぜなら、侍女頭は姉の天敵と社交界では有名だからである。


「子爵令嬢も関わっているのでしたね」

「姉の婚約者が学院の経理面での支援をしてくれているのでその関係で多少出入りしていますが、恐らく、私が不在の間は来ないと思われます」

「妹大好きなのね彼女」


 ふふふと思わせぶりに笑う侍女頭である。違うって知ってる笑いだ。





 さて、魔術師・薬師としてのカリキュラムは、テキスト通り自己学習で進展度を確認する期間に設定することにした。薬師も魔術師も人に教わる時期は短く、自分自身で創意工夫することが延々と続くのである。それをこの期間で確かめたいと思うのだ。


 幸い、黒目黒髪娘が知識面で、赤毛娘がサポートや助言者として中心的な存在になってきているので、二人を中心に相談しつつ進めるとよいだろう。癖毛は……この期間伸び悩むかもしれないが、それは先々同じことが発生するので仕方がないだろう。


「なるようにしかならないわね」

『主が心配するまでもありません。あやつはあやつなりに考えております』


 猫曰く、隠れん坊で思い知らされたのか、はたまた、魔力の一切関係ない薬師の仕事で魔力の少ない子たちに差を付けられたのが悔しいのか、最近は、それなりにコツコツと勉強をしているようなのである。


『まあ、いざとなったらお前に首を刎ねられるかもしれないと思えば、真剣になるだろうさ』

『主は、首を刎ねるのがお上手ですから。痛みを感じぬ間に刈り取るでしょう』


 実際、感想を聞いた事は無いが、ゴブリンも狼も人攫いもそれなりにスパッとイケたと思うのである。むしろ、生かす方が難しい。


 今回、侍女頭にお願いしたいのは学院生の問題というよりも、使用人の仕事の内容の精査、手順や仕事も漏れなどの確認を重点にお願いするつもりなのである。


 メイドとして働ける中では最も優秀な者を孤児院から引き受けたのではあるが、本格的にお屋敷仕事をしたことがあるわけではないので、恐らく、王宮の侍女の目から見れば問題が多々あるだろう。


『とはいえ、侍女は召使の仕事を監督するのが仕事だから、実務の部分は、使用人を実際呼んで教育するしかないはずだぞ』


 そう考えると、子爵家から気の利いたものを呼び……彼女の祖母を教育担当として呼ぶのも必要かもしれないが、諸刃の剣でもある。些事に巻き込まれ、本質的に学院の教育に支障が出る可能性もある。


 むしろ、マナーの講師として二期生入校時に依頼するのもありかもしれない。週に一泊程度のスケジュールで、貴族と接しても恥ずかしくない程度のマナーを身に着ける授業をお願いするのである。


「おばあ様も一人で暮らすだけでは気鬱になるでしょうし、お元気で子供と接する時間もあってよいのではないかしら」

『いい考えだろう。講師としての賃金も出せるし、ここで商会に頼んでアパルトマンまで配達させれば、買い物要らずだぜ』


 姉も来るタイミングを合わせれば、令息とも会話できるであろうし、ここが街として発展していく姿も見てもらえるかもしれない。なにより……


『子供たちにとっては母や祖母の代わりとなる存在がいてくれることは、嬉しいと思いますよ』

「少々口やかましい祖母ではあるけれど、それも大切よね」

『意外と、余所の子供には優しいもんだぞ、ああいう年寄りは』


 それは薄々彼女も感じるのである。実の孫ほど、細かいことが気にならないからだろうと思うのだ。大事な孫だから、いろいろ言いたくなるという事だ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 さて、学院を空ける準備は進み、彼女は子供たちと薬草から薬師としての仕事をこなしている。実際、薬師ギルドに依頼が来ているからである。


 それなりに仕上がってきている薬師としての所作であるが、細かく見ると、それぞれ癖がつき始めている。薬草の選び方や処理の仕方も上手下手が見え隠れするのである。


 一人ひとり、問題点を指摘しつつ、薬効が妨げられないように処置をして基準以上の効果が確保できるようにアドバイスをする。


「なんだか、薬師って大変ね」

「性格によるわね。とはいえ、魔術師としてある程度生活しようと思えば、薬師の仕事をベースとした回復薬・ポーションづくりが基本になるから、薬師としてのレベルが低ければ、欠陥品のポーションしか作れない魔術師になるから、意味ないのよね」

「……ですよね……」


 伯姪は身体強化と隠蔽だけできれば特に問題のない立ち位置なのであるが、残りの11人は、最低でも薬師、その上で魔術師を目指す立場なので、『意味がない』ような作業では困るのである。





 そんな、薬作りをしながら、ヌーベに関して想いを馳せる彼女なのである。ロマン人のせいで国を追われた一族がレンヌに住む彼らの祖先だと聞き思う事がある


――― 王国内に住むロマン人の生き残りは何を考えているのだろうか。


 レンヌ大公の一族は、連合王国の西側にある『エール』と呼ばれる地方にいた。その国に、ロマン人の王国が攻め寄せてきた。戦い残った部族もいれば、ロマン人に土地を奪われ、海を渡り新天地を目指した者たちもいた。


 幸い、この地は山深く、湖も多い、守るに易く攻めるに難い故郷によく似た地形であったことも幸いした。魔剣曰く、


『ロマン人はもともと北の海国からやってきた。毛皮や材木、それに鉄素材を売りに来た』


 ロマン人の住む地方は人が増えたら出て行かねば皆を生活させるほど豊かではない。という事で、船に乗り、売れそうなものを持ってやってきたわけだ。ところが、売るものが無くなったからと言って死ぬわけにもいかない。


『腕っぷしが強く、船で移動できるから、傭兵になり王家に取り入れられ、王になるものもあらわれたし、商売をするために大陸のあちこちに移動した者もいた』


 以前、伯姪に聞いて驚いたのだが、法国の教皇の護衛はロマン人の一族なのだそうである。完全に世襲で傭兵をしているのだという。また、法国の南の島はロマン人の王をいただいた海賊の王国らしい。ひどく迷惑である。


『皆生き残るため必死だった。俺たちもであるし、王家もそれは同じだろ?すべて相手から奪おうとする者は許せねぇが、共に生きるものはそう務めるべきじゃねえか。御神子様の教えにもそうある、汝が隣人を愛せってな』


 とはいえ、多くのロマン人は王国の民と同化し、あるいは領主として王国に臣従して良き隣人となっているのであるが、良き隣人とならず、または良き隣人のふりをして、相も変わらず盗賊行為をする者たちが王国内に存在する。それも、領主であったり、富裕な商人として紛れ込んでいるのは、許せない事だと彼女は思うのである。


 孤児の中でも、その直接間接の被害者が存在するのだろう。


『主、とはいえ、先入観は禁物です。可能性は高いでしょうが、アンゴルモアではありませんから、何もかも奪うということはないでしょう。領民あっての領主ですから』


 アンゴルモアとは、東方からやってきた遊牧民族の群れで、多くの国を滅ぼしたとされる集団である。大首領が死んだ後の後継者争いで大いに分裂したようで、過去の脅威ではあるが、東方の巨大な都市をいくつも壊滅させたり、その都市の住人全てを奴隷にしたりと散々な暴虐を尽くしたとされる。


『規模はかなり小さいが、アンゴルモアに似た感覚なのかもしれんな』


 魔剣はそう告げる。それが領主公認であった場合、枝葉の山賊・傭兵狩りだけでは済まなくなるだろう。


「人攫いの証拠を集める。その為に、山賊のアジトに潜入するためにあえて捕まる……ということで問題ないかしら」

『その線で、傭兵の幹部から情報を聞き出して、傭兵どもは皆殺しが妥当だろうな』

「海賊と同じ始末ではないなら悪くないわ」


 海賊は殺さないために、手間をかけたのだが、敵地で傭兵相手であれば幹部以外撫で斬りで構わないだろう。反抗的な奴隷は買い手もつかないし危険でもある。


 戦士と野伏は殺せるだろうが、伯姪や女僧・剣士はどうなのか、確認する必要があるだろう。殺せるかどうかの確認をだ。





 王都で街娘風の衣装を整えた彼女たち一行は、薬師ギルド経由で商業ギルドからの薬をソーリーの街へ運ぶ依頼を正式に受けた。彼女が薬師として作成した薬をギルドに持ち込み、それをギルドで買い取った上、商業ギルドがソーリーの街への輸送を薄赤パーティーの野伏=行商人に依頼したことになる。


 商業ギルドはブルグント領都の支部から受けた依頼を紹介した態であり、実際、その通りなのである。受託した冒険者が冒険者ギルドから調査依頼を別途受けていることは問題ない。


「一粒で二度おいしいかもな」


 お気楽薄黄剣士・護衛冒険者がつぶやくが、話はそう簡単ではないだろう。薬を届けるまではともかく、その後の山賊・傭兵討伐は少々気が重い。


「上手く嵌ればだな」

「……少なくとも、女性の安全が確保できるかどうか微妙だからな。余りにも多数が集まってきた場合の対応も考えないとな」

「油撒くしかありませんね。風向きには注意しますけれど、散開しておくようにしましょう」


 前回の山賊狩りと同じで、火種程度は伯姪が飛ばせるので特に問題はない。油球+火球でも発動は可能だが、広範囲に拡散してから着火するほうが効率がいいので、時間差で対応するに協力者が必要だ。


 そして、今回も御者役は薄赤戦士、行商人は薄赤野伏、彼女と女僧は街娘で同行者、伯姪が修道女の変装をすることになっている。衣装も万全であるし、潜入捜査というわけではないので、そこまで詳しく修道女になり切る必要もない。


「正直、私が修道女の方が信ぴょう性が出せますけど……」

「駄目、修道女の役は譲れない。それに、隠蔽使える私じゃないと捕まるわけにいかないでしょ?」


 修道女に扮した自分が山賊につかまる……という設定は譲れないようなのだ。


「アリーは勿論、商家のお嬢さんって感じするけど、アムもまあまあ似合ってるな。そのまま、普通に生活できそうだ」

「一応。この国と違って騎士は貴族ではなく平民扱いでしたから、平民の生活は全然問題ないですよ。むしろ、アリーが平民らしくできるのが意外です。メイは貴族の娘らしく、修道院送りにされた感じが出ていて悪くありません」


 女僧侶は、自分が教会にいる時分にも、素行の悪い貴族の娘が醜聞から逃れるために修道女にしばらくなる事があったという話をしつつ、その手の貴族の娘風であると話したのである。


「修道女らしい修道女であれば、アリーの方が俗っぽさがなくて雰囲気が合っています」

「祖母が厳しい人でしたので、そのせいかもしれません。商人の妻には少々荷が重かったかもしれませんね」

「いや、大商会の奥様は侍女頭みたいな雰囲気の人が多いよな」

「ああ。護衛していても息が抜けない感じでな。目端が利くというか、細かいことも良く見ている」


 どうやら、薄黄剣士はしょっちゅう小言を言われるらしい。それはそうだろうと彼女は思うのである。一言多いヘタレであるから仕方がない。恐らく、不足しているであろう商品を王都で買い込み、それもついでにソーリーに運ぶつもりで薄赤野伏は仕入れをした。


「冒険者引退したら、商人もいいかもな」


 と彼が軽口をたたくので、彼女は言い返した。


「いい就職先をご案内できますよ」


 もちろん、ニース商会で採用する旨を伝えるのである。


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