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第555話 彼女は『ラ・クロス』のチーム編成を考える

第555話 彼女は『ラ・クロス』のチーム編成を考える


 二期生三期生の訓練用のメニューとして、『ラ・クロス』と帆船用の帆を用いた訓練を行おうと彼女は考えている。帆の練習はジジマッチョと義兄次第なのだが、『ラ・クロス』は道具も揃っているのですぐに始められる。


 まずは、球の送球・捕球と、落ちた球を杖で掬い取る練習から始まる。球はチームに一個とまだまだ少ないが、あまり多くても楽しんで練習するレベルを越えてしまうので、今はこの程度で良いかと考えている。


「チーム編成よね」


 渡海するメンバーを除いて、冒険者組、薬師組+癖毛、二期生、そして、三期生で三チームの編成となる。


「三期生は、十歳の子をリーダーにしてって感じかしらね」

「そうね。年長の魔力有の子で二チーム無しの子二人で一チームという感じね」


 魔力持ちが固まらないようにする必要もありそうだ。魔力無リーダーの所に、魔力持ちの子を配して……大丈夫だろうか。


「まだ、身体強化も魔力操作も不十分な子たちだもんね」

「ええ。今の段階なら、魔力の有無よりも技術を学ぶ姿勢の問題の方が重要になると思うわ」


 例えば、冒険者として魔力が無くても活躍する場はいくらでもあるだろう。痕跡をたどり、情報を収集し分析し推理するというのは、魔力の有無において関係が無い。また、魔力の無い者は、火薬や油、道具で補う事が出来ないわけではない。最近は少なくなったが、リリアルの初期において、油玉を用いた討伐など行ったこともある。また、弓銃も魔力の無いリリアルの薬師や使用人コースの短期院生には訓練時間も短く、そこそこ威力のある装備として研究していた時期もある。フレイルのような装備もそのつもりで研究したこともある。


「魔力がある事に越したことはないし、そもそもリリアル学院は……」

「そのために中等院も作ったわけだし、魔力が無いからって今さらあの子たちをバラバラにするのもね。まあ、大丈夫よ、あの子たちあの施設で生き残った子たちなんだから!!」


 そこに、アンネ=マリアと公女マリアも加えなければならない……はず。仲間外れ良くない。


 三チームに別れるとして、魔力有無の十歳組二人の二組に、Wマリアをリーダーにして、年少組を三分割すれば良いのではないかと思い至る。


「大丈夫かしらね」

「大丈夫でしょ? アンネは気の利く子だし、公女殿下もギュイエのアレと比べれば、口調はともかく中身はかなり庶民的だもの」


 アレは、一般庶民の感覚から隔絶している存在なので、伯姪は比較にならないというのは当然だろう。公女マリアは王族ではないからである。遡れば、一人帝国皇帝になった係累がいる家系ではあるが。ナッツ伯家はそこそこ名門なのだ。





「今日から、訓練に『ラ・クロス』を取り入れることになります。この先、院長以下、一期生の一部が渡航することになる予定ではありますが、その間も継続して鍛錬を続けられるように導入するものです。 また、一期生は二期生三期生を指導できるよう、より高い競技力を身につける事を望みます」

「「「「はい!!」」」」


 杖は少年用に関しては門衛用以外はすべて同じサイズの1m仕様。なので、取り合いはおこらない。


「門衛はチームの中で順番に年長者が務めます」


 二期生三期生においては、一期生以上に年齢差がわかりやすい。赤毛娘を舐める一期生はいないが。伯姪が彼女の説明を引き継ぐ。


「力の強い年長者や魔力持ちが一人で試合を進めるようなことになれば、鍛錬にならないでしょう? 勝ち負けじゃなくって、勝つために五人でどう工夫し練習するかの訓練なの」

「一番後ろから試合場全体を見ることができる門衛は、いわば、指揮官役。声をかけ、指示をし、注意をする役割よ。それに、危ない時には真っ先に自分が動ける立場でもあるでしょう?」


 門衛が攻撃に参加してはいけないという決まりはない。また、小試合においては、陣営に入ることのできる人数に制限はないので、五人全員で攻撃することも反則にならない。


「自分で球を持って攻め込むのもありだけれど、動くより球を放る方が普通は速く動けるのよね」

「その球の出所を押さえ、受け手を阻止するために相手をどう読むのかという事も大切になって来るわ。球を持っている選手は、周りが敵に囲まれるのが大前提で、如何に、その状況を打開するかの判断も大切になるでしょう」

「「「「……難しそう……」」」」


 最初にきちんと説明したい彼女のやり方は、三期生の特に年少組には難しいようだ。話を切り上げ、実際に、杖を使って球を送球し、捕球する練習を始める。


「最初に、後ろに壁を作るわね」


 取りこぼした球を延々と拾うだけで鍛錬が終わりかねないと考えた彼女は、中庭に、人の背丈ほどの壁を30mほど間隔を取って二つ向き合うように創り上げることにする。


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の壁を築き給え……『(bar)(bacane)』」


「「「「おおお……」」」」


 精霊魔術を初めて見る三期生の子たちからどよめきが起こる。二期生も、遠征に不参加の女子たちは初めてかもしれない。


「先生ってすっごい!!」

「そうでもないわ……普通よ……」


 キラキラとした眼差しを子供から向けられて素気無く言い返す彼女である。だが、内心はすっごく嬉しい。褒められ慣れていない、もしくは、つねにお世辞だと認識しているからだろう。子供の賞賛は掛け値なく嬉しい。


「俺の方が全然すごいけどな」

「じゃ、言われる前にやりなよセバスおじさん」

「……だよな……あのキラキラ、俺の物だったんだぜェ」

「それはない」


 セバスの横でケラケラ笑う赤毛娘とジト目の赤目銀髪。セバスおじさんは土の精霊魔術だけには自信がある。だって歩人だからね。半土夫の癖毛より本当は巧くなければならない。が、現実は非情だ。





 革の球は重くはないがそれなりに硬い。勢いをつけて投げれば、捕り損ねると痛い思いをする。その辺りも、暗殺者養成所上りの三期生はよくある経験のようで、みるみる器用に使いこなしていく。


 反面、年齢は上とは言え魔力があるという理由でリリアルに選抜された二期生は、彼らほど訓練も受けていないし資質も低い。魔力無でも暗殺者としてある程度通用すると思われて攫われるか貰われるかして送り込まれた子供たちだから、こういった魔力に関係ない素の素養をみると尚更明白となる。


 三期生の半数は魔力持ちであるから、それだけでも数年後には大いなる戦力となるだろう。加えて、魔力の無い者であれば「密偵」として育成することも考えられる。中等孤児院に転属させ、職人や商人、あるいは官吏としての教育を受けさせたうえで潜入させることもできるだろう。


 魔力持ちの孤児を育てる『リリアル学院』出身者に魔力無の孤児がいるとは考えられにくい。近衛連隊の下士官などにでもなってくれれば、彼の組織の情報も得やすくなる。


「結構上手いわね」

「子供は適応力が高いからでしょうね」


 段々と投げ返すペースが速くなり、距離も壁ギリギリまではいかないが、かなり離れて勢いよく投げる事ができるようになっている。杖の先端にある籠から勢いが付いた球がシュルシュルと飛んでいき、鳥でも捕らえるようにさっと杖を振るって捕球する。


 二期生の特に年下の女子達は中々上手く扱えていないようで、えっちらおっちらといった印象だ。


 単純に試合をした場合、二期生は三期生の三チームに全く勝てないかもしれないと彼女は思うのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『やっぱそうなるよな』


『魔剣』曰く、冒険者組と薬師組で分けるのには少々試合をするうえで無理があると思い至る。それに、これから彼女や伯姪が不在の場合、一期生の中である程度合議で話をして対応していく必要がある。というわけで、一期生は単純に戦力を二分することにする。


 蒼髪ペアと癖毛、加えて薬師組の二人、藍目水髪と碧目赤毛。もう一つは黒目黒髪、赤毛娘、赤目銀髪、碧目栗毛、灰目赤毛の五人。加えて、渡海組の彼女と伯姪、茶目栗毛、不在であるが騎士学校に入校中の二人で便宜上一部隊を編成することになる。冒険者パーティっぽいかもしれない。


「さて、そろそろお試しに試合をしてみましょうか」


 単純な球の投げ合いでもそれなりに盛り上がったが、やはり試合をしてみたいというのはあるだろう。最初は十分で一試合で始めることにする。慣れてくれば二セット、四セット、やがては一セット二十分の成人用のルールで試合をする事になるだろう。


「最初に、門衛を決めて!!」


『門衛』が『門』を守ると同時に、指揮官も兼ねるポジションでもあるのだが、指揮できるような能力があるなら前衛で活躍できる選手でもある。幸い、各部隊が戦力的には均等? となっているので、一対一でマンマークしつつ、球の取り合いをする形で試合が進みそうだなと二人は考えている。


「最初は、一期生から試合を始めます」

「「「はい!!」」」


 どんなことにも初めてはあるモノで、それは、どんな経験でも最初は緊張するものである。特に、性格的に真面目で几帳面な薬師組女子はちょっとプルプルしている。とはいえ、お互いの相手は同じ薬師女子なので、ミスマッチということはなく、ある程度やり合えるだろう。


 門衛は、癖毛と黒目黒髪。最初の試合は身体強化も使わず、魔力無で対戦する事にする。でないと、何が起こるか想像できない……わけではないが、ここは学院の中庭だから手加減してもらいたいというのが本音である。


――― 王妃様の離宮がはかいされてしまいます。




 中庭の両端に『門』が置かれている。木製のコの字型の柵に足を付け網を着けたものだ。籠で作った場合、威力の強い送球を何度か受けると網目が割れるということで、柔軟な網にすることになった。


「では、試合開始!!」


 審判は彼女と伯姪と茶目栗毛。中庭中央、杖を合わせ籠の背を合わせて革球を挟みお互い押し合う状態からのスタート。青目蒼髪と……赤毛娘が向かい合う。


「うぉりゃ!!」

「それ!!」


 魔力を使えば互角だが、頭一つ以上身長差のある二人である。当然のように青目蒼髪が競り勝って……球は赤毛娘の陣地へと放り込まれていく。


「ちょ、考えなさいよ!!」

「ラッキー」


 赤目蒼髪が捕球しようと追いかけるが、赤目銀髪に近い位置で先に捕球されてしまう。


「その球、置いて行きなさい。命は助けてあげるから」

「笑止!」


 籠に球を入れた状態で、体を巻込むように旋回、体を入替えて自陣に向かい走り出す。相手の『門』とは逆方向だ。


「え」


 慌てて追いかける赤目蒼髪。そして、赤毛娘、碧目栗毛、灰目赤毛も一瞬、対の相手が棒立ちとなる瞬間をついて三方へと散る。


「任せた」

「任されたよ!!」


 赤目銀髪は『門衛』の黒目黒髪へと送球、そして、受けた黒目黒髪が右脇に走る碧目栗毛へと送球する。


「おっ、来た!」


 軽やかにパシュッと籠で革球を受け止め、対の相手を振り切った状態で残り二人の状況を確認する。赤毛娘も灰目赤毛もフリーである。


「ちょこまか走りやがって!!」


 青目蒼髪が走り込んで来る。本来の対の相手は碧目赤毛なので、後ろから薬師組女子、側面から冒険者組男子に挟撃されている。


「あんた! なにやってるの!!」

「奪えば問題ねぇ!」


 赤毛娘より背は高いものの、それでも頭一つは差がある男と女。まして、長柄の武器は使い慣れている冒険者組前衛。杖を合わせて、巻き上げるように跳ね飛ばす……ように見えた。


「任せて」

「任せるよ!!」


 籠をひっくり返し、地面へと革球をわざと落とす碧目栗毛。その背後からさっと自身の杖を器用に操り、魚を網ですくうかの如くさッと拾い上げたのは赤毛娘。


「さあこい!」

「させるかぁ!!」


 赤目銀髪が中央を突進しつつ、赤目蒼髪が付いて送球を阻止しようと前を塞ぐように並走する。が……


 姿勢を低くしたまま赤毛娘はそのまま中庭の右側を門に向けて突き進む。背後を追いかける青目蒼髪。赤目銀髪や他の薬師組も相手がいるので簡単に球を出す事も出来ない。


「終わりだな!」

「そっちがね!!」

「任せて!!!」


 誰もマークのいない選手が一人残っている。黒目黒髪、『門衛』が中央を突進してくる。楚々として。


「そりゃ」


 赤毛娘は掬い上げるような姿勢で低い弾道の送球を出す。その球を籠でウケ損ねて一旦取りこぼす黒目黒髪。そこに、敵部隊がこぼれた球を捕ろうと群がる様子を見せる。が、籠の背でそのまま更に背後へと球を転がす。


 受け止めるのは……赤目銀髪。


「ナイスキル」


 籠で拾い上げ、一回転してそのまま門衛の足元へと文字通り『矢のような』送球を極め、癖毛の膝脇を抜けて革球は門へと吸い込まれていった。



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