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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第一幕『ワスティンの修練場』
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第506話 彼女は『騎士学校』に入校する二人を見送る

第506話 彼女は『騎士学校』に入校する二人を見送る


 薬師娘二人組。騎士学校に進む事は既に内示済みである。おそらく、ルイダン、エンリ主従と同じタイミングでの入校となるだろうか。エンリは、王弟殿下一行に加わり、連合王国へ向かう事になるだろう。直接、オラン公が出向くわけにはいかないので、身軽なエンリを差し向ける事になる。


「二人は納得していたの?」

「納得……していたわね」


 年齢的に成人に達していない一期生は、既に王国の騎士であるものの、入校資格に達していない。二期生三期生の指導を通じて、指揮官としての素養を学んだ後、五年以内を目安に二人ずつ程度、送り込む予定である。あまり沢山入れてしまうとリリアルの活動に支障が出ると考えるからである。


 二人は「騎士」となる要件は満たしているのであるし、身分がある方が自身を守りやすくなる。とはいえ、薬師娘二人は『リリアルの騎士』第一号(同率)となるだろうか。国王陛下に叙任されるほどの勲功は残念ながら認められていない。


「騎士でなければ、連合王国に向かったときに身分を盾に無理強いされかねないでしょう」

「あいつら、自分たちは王国より何故か上の立場だと考えている節があるみたいだからね。謎の思考としか思えないわ」


 元をたどれば、北の海からやってきた蛮族『入江の民』の中で、戦争に強かった一族を傭兵代わりに爵位と領地を与えロマンデの地方を守らせたことがその端緒なのだ。ルーンは王都の外港として機能していたため、ロマンデ公がそこを拠点としたという背景もある。


 その後、海の向こうの『大島』が別の入江の民の部族の襲撃を受け、先住民の王国が荒廃。火事場泥棒的にロマンデに住む部族がその背後を突き王国を乗っ取ったことが、今の連合王国の成り立ちへとつながる。


「なので、王国の王女やランドル伯の娘と結婚したりしたのも、要は蛮族を懐柔するための方策に過ぎないわけね」

「なのに、『王家の血を引いているから、俺にも国王になる権利がある』なんて寝言を言いつつ、その王国の元自分たちの領地を『騎行』で荒らし、民を殺め、財貨を奪い蹂躙したの。頭がおかしいとしか思えないわね」


 ロマンデ地方は父祖の地であり、数代前に遡れば一族が領地としていた場所でもある。王国と連合王国で別れたとはいえ、元は領民なのだが、その地を略奪し殺し犯したのだから、とんでもない未来の『国王陛下』であったわけである。


「発想が蛮族の頃と変わっていないのよ。さすが化外の民ね」


『化外の民』とは、古帝国時代に統治の及ばなかった蛮族の住む地というほどの意味である。『大島』の半分ほどは数百年帝国の統治下にあったが、その後、北からやってきた『入江の民』の部族に何度となく侵略され、王家は入江の民の部族が何度も入れ替わり、その王位についた。


 故に、古帝国時代の文物とは相いれない関係となっている。王国経由で侵略し未だ居座っているのが最後の『入江の民』の部族であったと言えるだろう。


「だから、本来の目的と異なる精霊との関わり、魔術の利用を考え付くわけね」


 元から住んでいた先住民の祀る神である『精霊』の力を借りる『賢者』『魔女』の技法に、修道騎士団がカナンの地からもたらした『魔神』を使役する技術と錬金術を加えた、悪意持つ精霊を兵器として利用する方法を研究し、対王国用の戦力として活用しようとしている。


 その研究機関が『賢者学院』であろう。証拠はないが、印象では確実である。


「万全を期すためにも、二人には騎士になってもらわなくてはね」

「資格も能力も十分にあるのだし、一人は悲願でもあるしね」

「もう一人は『巻き込まれました!!』って言いそうね」


 碧目金髪……騎士になってしまうと結婚したいリリアル生No.1から陥落するだろうが、「養ってもらいたいリリアル生」ならNo.1になるかもしれない。だから、問題ない!!


「確認しておきましょうか」

「そうね。唯一の卒業生から、アドバイスも必要よね」


 彼女と伯姪も騎士学校を一年ほど前に卒業している。何かしらアドバイスをできるかもしれないと、不安に思っているだろう二人の元へ向かうのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「き、緊張してきましたぁ……」

「大丈夫よ。今回は、王立騎士団が加わるので、リリアルはそこに加わることになるから」


 王立騎士団は、南都で再編している王太子直属の騎士団である。王国の北部・王都中心に編成されている『騎士団』に対し、南都から南の王領出身の貴族・騎士の子弟を中心に編成される言うなれば『第二近衛騎士団』とでも言えばいいのだろうか。


「貴族の方と一緒になるのでしょうか」

「貴族と言っても騎士家出身が多いようね。実力を持って従騎士から騎士に選抜された方達だから、近衛のような腰掛の貴族の子供とは違うと聞いているわ」


 元々、王国からも神国からも連合王国からも独立した勢力であった時期の長い内海に面した王国南部は、百年戦争期にギュイエ公領とそれ以外の王領とに別れ戦争を終える事になった。独立心旺盛な小貴族が多く、また、王に仕える気持ちはあるものの、北部の王国貴族とは異なる歴史的背景を有している者が多い。


 王太子は『ドルフィン』公と呼ばれるのだが、これは、百年戦争期に後嗣の絶えたドルフィン伯領を王家が買い取り、安全な場所であると考え王太子を『ドルフィン公』として据えたことに端を発している。


 ドルフィン伯領の領都は幾つかあるのだが、「ノーブル」もその一つであった。つまり、旧ドルフィン伯領の一部はノーブル領を含んでいることになる。独立心旺盛な南部の貴族を抑え監視するために、敢えて王太子を置く事にした面もあっただろう。


「何かあったら、私たちに言いなさい」


 伯姪が言いたいのは、「ニース辺境伯家の身内扱い」であるということを南部の貴族の子供たちに知らしめるのが、仲間扱いされる秘訣であるということなのだ。


「お爺様とニース商会会頭……言い換えると、聖エゼル海軍提督が義兄のリリアル副伯の配下に喧嘩を売るというのは、ニース辺境伯家に喧嘩を売るのと同じ事になるわね。サラセンの海賊と戦っているニース海軍を敵に回すとどうなるか、南部の小貴族達ならその意味をよく理解しているでしょうね」


 内海に浮かぶ神国の領地の中には、支配が及ばすサラセン海賊の巣窟となっている島々もあるという。定期的にその場所を襲撃し、駆除するのが聖エゼル海軍の基本的な仕事なのだという。


「手を抜いたり、守らない領地があると公言すれば、サラセン海賊は喜んでその場所を襲う事になるでしょうね」

「前伯様に喧嘩を売った時点で、騎士学校では死ぬわね。物理的にも精神的にも」


 リリアルができてから、王都に足を運ぶことも増えた前伯は、臨時講師として短期集中で実戦向きの講義をする。簡単に言えば……模擬戦である。


 衆寡敵せずの真逆を行く立ち合いに、狙われた学生グループはポッキリ心を折られる事もある。全くもって、目を付けられたくない講師の一二を争う前伯である。勿論双璧の今一人は、彼女の姉であることは言うまでもない。商業に関する講師のはずなのに、何故か模擬戦に混ざろうとするのだ。


「リリアルの騎士服は用意したものを着用して頂戴。それと、魔装手袋、魔装のビスチェを使用しても構わないのだけれど、それ以外は使用しないでもらえるかしら」

「遠征時は魔銀鍍金製の剣の使用は構わないわよ。でも、日常は冒険者用の片刃曲剣を装備してね。貴族の子弟には横取りしようとする奴もいるでしょうから。未だ騎士の身分を得ていないと、面倒だからね。でも、聖ミシェル勲章は身に着けておいてちょうだい。それが、身分の代わりになるはずだから」


 聖ミシェル勲章は、ミアン防衛戦に従軍したリリアル生が持つ一般的な勲章である。二人も『銃兵』として参加し、勲章を授与されている。近衛連隊と一部の騎士団の騎士・従騎士が参加した防衛戦だが、その数は多くない。ミアン内で防衛に尽力した市民兵やリリアルは全員授与されているが、増援で加わった近衛連隊などでは特筆した活躍が無ければ授与されていない。


「あなた達が、胸を張って騎士となれるわかりやすい勲章ですもの。見える場所に堂々と付けて欲しいわね」

「「はい」」


 制服を身に着け、胸に勲章を付けたリリアルの従騎士に絡む馬鹿は……たぶんそう多くはない。





 その後、四人は、夜遅くまで、遠征や演習に関しての出来事を語ったのだが、恐らく、半分くらいは起こりえないことになるだろう。連合王国の偽装兵やアンデッド討伐、ミアン防衛戦に繋がるような話は薬師娘たちの講義では発生するわけがない。


「可能性的には、ワスティンの探索が加わるかも知れないわね」

「……考えていなかったわ。でも、リリアル領になるのだから、騎士学校生は関われないんじゃない?」


 ワスティンの森はリリアル領とはいうものの、副伯としては使用権を譲渡されただけであり、それ以外の権利は未だ王領にあるとされている。故に、今の段階では騎士学校が遠征をおこなう事もリリアルに「通達」するだけで問題無い。


 土地の上の利用権はリリアルにあるが、その土地そのものは王家に権利がある。言い換えれば、使用権を何らかの形で別の褒賞に変える事も出来ないわけではない。


「へぇ、副伯になったばかりで随分と大きな領地を貰ったものだと思っていたんだけど、そんな絡繰りなのね」

「全部一度に渡されても困るじゃない? 今は段階的に手を入れて森の中に整備された街道や拠点を設置することが優先ですもの。その上で、魔物を駆除して森を開拓して領地として運営できるようにするまでには、随分と時間がかかるでしょうね」


 殖民も募らねばならないであろうし、領都となる拠点もある程度の規模で設けなければ発展するにも難しい。それ以上に、ワスティンに干渉する勢力を駆除することが必要となる。


 王都の盆地に食い込んでいるワスティンの森は、喉元に突きつけられた剣先のようなもの。その剣を叩き折るためには、やらなければならない事はとても多い。


 リリアル領としながらも、王領として介入できる要素を持っているのは、リリアル単体では対応不可能となった場合に、騎士団や近衛連隊を投入できるようにするためだろうか。


『要確認か』


 祖母が壮健な間は、祖母が窓口となって王宮との遣り取りは問題なくできるであろう。あと五十年は元気でいて欲しいものである。


「一先ず、ワスティンのことはいいわ。二人が騎士学校で不利なことがないように、今期は私も講師として講義を持つついでに視察することにしますから、心配ないわ」

「「「……しんぱいだらけです……」」」


 リリアル学院に関しては、ミアン防衛戦でその活動が広まっており、これまで彼女自身の活動しか注目されていなかったところが、学院・騎士・冒険者活動として認知されつつある。


「舐められないように、最初にガッン! といっておきなさい」

「はい」

「はいじゃありませんよぉ。後ろの方で小さくなって目立たないようにしておきますからぁ」


 伯姪の言葉に力強く答える灰目藍髪、不本意かつそんなわけあるかとばかりに反論する碧目金髪。前者はともかく、後者は剣の腕はからっきしである。


「実技の時間どうするかが問題ね」

「大丈夫よ!! 全力で身体強化して、一瞬の突きを決めれば、相手はブチ倒されるってすんぽうよ!」

「全然大丈夫じゃないですぅ。一瞬の身体強化かぁ……」


 リリアル生は、気配隠蔽と身体強化に魔力纏いは必ず冒険者となる前に習得させている。騎士学校に来る従騎士達の半数程度は、全く魔力が無いか魔術が使えない。遣えても、身体強化程度である。


「そうなんですか?」

「そうよ」

「そうね。三つ使える騎士は稀ね。そもそも、騎士は気配隠蔽なんて使わないもの」

「それはそうですね」

「使えれば便利なんだけどね。戦場で孤立したり、護衛対象に気が付かれず警護することもできるし。そもそも、魔力持ちは騎士より魔術師目指すし。特に貴族ならね」


 大貴族の当主やその一族ならともかく、王家に仕えるのであれば、王の側近に連なる『王宮魔術師』になろうとする貴族子弟は多い。騎士や下級貴族の子弟は魔力も相応に低めであり、騎士になる者は相対的に多い。魔術を教わるにも、相応の礼金や寄付が必要となる。故に、数少ない魔術師の弟子は、資金力のある高位貴族の子弟が占める事になる。


「ポーション作って魔力を増やすとか普通は知らないし、やらないのよね」

「そもそも、作業する事自体貴族らしくないからかしらね」

「「確かに」」


 魔力が多く、魔術師に指示する資金力のある高位貴族の子弟は、自身ではなにもせず、使用人にやらせることが貴族らしいとされる。どこかの島国の貴族の間において最近流行る「ラフ」という首周りを飾る装飾品も、使い捨てにするような精緻な布の装身具である。


 自ら働かず、無駄なものに金を掛けるゆとりのある生活を送れるということを示すためだとか。人攫いの親玉の分際で、随分と身の丈に合わない贅沢をしているものだと、彼女はとても腹立たしく感じている。


「歴史に名を遺した聖人たちは、自らの苦境をものともせずに荒れ地を開墾したり、苦難に立ち向かった人達だったのよね。その行為を顕彰して、死後聖人に列せられたわけでしょう。借金だらけの貧乏女王が見栄を張るなんて見苦しいにもほどがあるわ」

「自分自身が卑しい存在であると知るからこそ、見栄を張り周りにも同調を求めるのよね。まあ、どんな女王様か、そのうちみることができるのだから、その辺楽しみにしておきましょうよ」


 そもそも、あんな首周りに布の張りぼてを纏わりつかせ、聞くところによると化粧と身支度に毎日四時間を費やすような女王が賢明なわけがないと彼女は思うのである。


「あなたたちも渡海するのだから、楽しみにしておきなさい」

「その前に騎士学校で遠征かぁ。あ、狼の毛皮テントは持って行った方がいいわよ。魔法袋もできれば使えるようにしておきたいわね」

「「魔力が足りません」」


 魔力極少から小にパワーアップしたものの、魔法袋は魔力をそれなりに常時消費するので、二人には少々厳しいようである。狼テントは構造が簡単なので、馬に荷物として括りつけても問題ないだろう。野営慣れしているとはいえ、リリアルの野営はそれなりに環境が整備されている。


 野営慣れしていない騎士学校の生徒に巻き込まれるのは中々シンドイことになるだろう。女性は独立したテントになるはずなので、狼の毛皮テントに二人で寝泊まりする方が良いだろう。


「見張とかあるわよね」

「それはそれで大変ね。昼は馬上で移動するから疲れるし、夜は見張でしっかり寝られないのだから、短い時間でも熟睡できる寝具が大事ね」


 今はあまり使われていないが、魔装布のマントを毛布代わりにするという方法もよいかもしれない。


 騎士学校に通う半年の間、平日は騎士学校、金曜日の夜から月曜の朝まではリリアルの二元生活がスタートする、灰目藍髪と碧目金髪なのである。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 騎士学校イベントのフラグてんこ盛り! 最近出番が無かったあの人が活躍(大暴れ)しそうですね! [一言] 上の人間が婚約を決めないと下の人間は決められないような…。 あ、だからリリアルで婚期…
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