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第490話 彼女は練習魔装を考える

第490話 彼女は練習魔装を考える


「魔装の盾なのだな」

「はい。魔銀鍍金製のボスと、木製の板を嵌めて枠を魔装縄で補強します」


 魔装糸を撚って作られるのが『魔装縄』。通常は、中心部のボス、その周りを木製の板で囲い、更に外側を金属の枠で補強する。金属の枠を魔装縄で代替するということになる。


「魔力を通せば金属と同じように効果がある、か」

「なら、板の表面に革を張って補強するのを、魔装布にすればいいんじゃないか。バックラーサイズでいいんだろ?」

「小さな三期生にはそれで十分大きいもの」

「では、タージェとして作ろう。子供にバックラーを握らせるのは難しい。タージェなら、ラウンドシールドのようになるだろうからな」


 癖毛の提案、そして老土夫の指摘もあり、使い勝手の良いタージェにすることになった。


 なぜ『魔装盾』などと言い始めたかというと、三期生の中にある魔力有無闘争を治める為でもあり、二期生の冒険者組の鍛錬にも応用できるのでは無いかと考えていたからである。





 これまでの魔装は、魔銀の剣もしくは魔銀鍍金製の剣などの魔力を攻撃に生かす装備、魔装布のビスチェや胴衣、マントなどの鎧の代わりとなる装備として利用されてきた。


 もちろん、魔装縄や魔装網は魔物や盗賊などを拘束する為にも利用されたり、魔装馬車の補強用にも使われてきた。


 魔銀製のシールドボスは存在していたが、これは防御用ではなく攻撃用の装備である。


 そもそも、魔装を使いこなすには、相応の魔力量、魔力操練度、複数の魔装に魔力を流せるだけの能力が必要である。つまり、先ずは身体強化や魔力纏いなどの各種の魔力を用いた技術を磨いた先にその効果が認められる。


 練習段階で魔装を用いたことはなかったと言える。


 三期生と二期生の同時育成、それも、人数は倍以上。一期生薬師組も魔装銃以外の使用も訓練していきたい。しかしながら、魔装を用いた武器・防具を訓練で用いるのは難易度が高い。


 そこで、『盾』だけを魔装とし、操練を行う事で魔力を扱う実践訓練を取り入れようと考えたのだ。


「まあ実際、魔力を使って魔力壁を張れるリリアル生なんて片手の範囲だもんね。私も精々一枚だし、短い時間だもの」

「魔力壁だけならもう少し出せるでしょう?」

「まあね。でも、前線で戦闘しながらならそんなものよ。他の子達も一瞬、盾代わりに展開できるだけ。実際は、盾なんていらないくらい魔装で全身を覆っているから、関係ないんだけどね」


 二期生以降に問題となるのは、全員に全身を覆うほどの魔装を支給できないことと、それだけの魔力量を内包する事が望めない事である。胴体や腕だけなど限定すれば支給もできるだろうし、魔力を保たせることもできるだろう。


「だから、盾だけで魔力を扱えるようにまずしたいのよ」

「それと、魔力の有無が戦力の決定的な違いになるかどうかを、魔力無の子達に自覚させる為でもあるのでしょう?」


 木剣と盾。そして、革の頭巾に手袋に胴鎧。盾に魔力を通して防御したとしても、他に攻撃することができる場所はいくつもある。


 魔力を持つ子は、盾に魔力を効果的に込めながら、他の身体操作もしなければならない。魔力の無い子が考えなくてよい魔力による身体強化や盾への魔力纏いも並行して実施しなければならない。魔力を効率よく使い、一瞬の身体強化や魔力纏いができなければ、魔力が早々に切れてしまい、魔力の無い者同士の戦いとなる。


「魔力があるという事は、恩恵でもあるし、重石でもあるということに気が付ければいいのだけれど」

「思い知るわよ。それに、魔力操作は一朝一夕に身に付くような技術でもないし、魔力を増やす為にも日々操作させないといけないしね。女の子なら薬師の手伝いをさせて魔力を使わせたり、畑仕事で魔力を込めた水を撒くとか色々あるけれど……」

「自分に自信がある男の子達を言って聞かせるのはめんど……難しいのだから、道具を与えて誘導する方が効率がいいわよね」


 今まで女子比率が圧倒的であり、余り男女差を考慮する必要は無かったのだが、三期生は男女半々、魔力有無も半々、二期生もサボア組は一期半生みたいなものなので、それを三期生に加えると同じ程度になる。


「本来、この手の仕事は男の仕事でしょうから、男子の教育方法も工夫して行く必要があるのよね」

「言って聞かせるだけでは難しいのかもしれないわね。体験させる形で納得する訓練方法を模索しなければならないのでしょう」


 そのあたりは、中等孤児院の兵士科などの教育内容が参考になるかもしれない。おそらく……反復練習と対人模擬戦の繰り返しになるのだろうが。


「魔力を上手に扱うには反復しかないのよ」

「それはここで随分と骨身に染みたわ」


 騎士となる鍛錬を相応に積み上げてきた伯姪でさえそう思うのだ。エンドレスのリリアルの鍛錬に、三期生が耐えられるかどうか少々心配である。


『魔術だけでも延々と反復するのが当然なんだ。剣も身に着けるとするなら、そりゃ、大変なのは当たり前だ。ガキ共も早々に諦めるんだな』


 彼女の魔術の師である『魔剣』は、二人の会話に同意するのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 それと、遠征で気になっていた魔装銃の軽量化。古いマスケットは10㎏近くあり、威力が高い反面反動も強い。架柱を用いて支えなければならないものもあり、お世辞にも取り回しが良いとはいえなかった。


 リリアルの魔装銃はそれより軽量であるとはいえやはり重く、正直、身体強化のできない女子には胸壁などに銃身を掲げて撃たねば射撃自体困難なものであった。実際、戦馬車を投入した理由も、銃を撃つための土台として銃眼が必要であったからというものもある。


「これ、かなり軽いな」

「短い銃身のものから、70㎝(ピストル)90㎝(カービン)です。マスケットと比べるとかなり銃身が短いので、威力も射程も落ちますが、戦列を組んで射撃するわけではないので、十分です」


 重さは4㎏を切る重さである。とは言え、ハルバードはその半分強の重さであるので、決して軽いわけではない。とはいえ、長い銃身の魔装銃は装弾に難がある。銃を立て弾を押し込むために立たねばならない。これは、遮蔽物が選べない場合、危険度がかなり高まる。


 また、馬上での取り回しも難しい。長時間持つことも現状の魔装銃では魔力無には困難でもある。とにかく重たいのだ。


「試し撃ちしてみるか。これが魔装銃に加工したものだ。良ければ、これをベースにもう少し簡易な加工で量産する。どのみち、あの子らじゃ、銃以外で貢献するのは相当先になるだろうからな。何か、役に立てると思わせる装備がある方がやる気になるじゃろ」


 新型の軽量小型魔装銃の最大の使用者は三期生の年少組。大人の三分の一ほどの体重、身長は七掛け程度。あと五年は冒険者になれるとは思えない。ただし、銃を撃つのは工夫で何とか出来る。大人にとっては小さな銃でも、七歳の子供にとっては十分に大きく、また、最大に貢献できる攻撃手段でもある。


 小さな子供が偵察や奇襲攻撃に参加するということは少なくない。目立たない、見つかりにくいという小さいが故のメリットはある。




 いつもの射撃場に彼女と、二期生の女子、碧目金髪が並んでいた。


「かわいい銃です。部屋に飾りたいくらい!」

「細身でエレガントですね。今までのとはかなり違います」


 碧目銀髪の『ブレンダ』と赤目茶毛『ルミリ』が強い関心を示す。


「あ、軽いですね。思っていた以上に取り扱いしやすそうです」

「先ずは、あなたが試してみてちょうだい」


 銃兵と言えば今や碧目金髪がその代表格である。剣やその他の武具はさっぱりなのだが。


「では、遠慮なく」


 50mの位置から、『的』に向けて射撃を開始する。一発、二発と発射していくのだが、弾道が安定しないようで中々必中とはいかない。


「銃身が短いからでしょうか、真直ぐ飛ぶ力が弱いかもしれません」


 というのが、碧目金髪の所見である。50mであれば、今までの魔装銃であれば必中と言える距離であったが、新型では半分くらいの確率で体一つ分ほど逸れてしまう。


「私も射撃してみるわね」


70㎝(ピストル)を構え引き金を引く。碧目金髪の用いる90㎝(カービン)よりさらに弾道は安定しない。銃身が20㎝短くなれば当然だろう。因みに、日頃の魔装銃は全長120㎝から150㎝。長いサイズのもので180㎝ほどある。重さは相応あるが、命中精度はそれに比例して高い。


 彼女は、必中となる魔術を展開する。


導線(dūcor)


 魔力走査の魔力の線を集約し、目標との間を線で結ぶ魔術。飛翔武器に有効な術式で、魔力纏いを与えた弾丸・鏃・投矢・魔力弾のスリングなどに必中の効果が発生する。


 魔装銃の弾丸にも効果がある。


 POW!!


 放たれた弾丸が吸い込まれるように的に命中する。


「つまり、魔力で補正が効けば問題ないという事よね」

「難易度上がりますけれど、魔力操作の練習としては良いと思います。今までのように、薬草からポーションを増えた人数で作るわけにもいきませんから、魔力を用いた鍛錬として、この当りにくい銃は意味があると思います」


 はっきりと欠点を指摘されたのだが、誰でも当たる銃ではないところが魔装銃兵としての矜持になれば良いかとも思うのである。


「院長先生、あれはどんな魔術なのだ」


 騎士を目指すと公言する碧目灰髪『ヴェル』だが、風の噂で騎士も銃を馬上で扱うのが今時であると聞き、銃に関心が高いようである。実際、灰目藍髪も銃は剣と同じように鍛錬している。恐らく、灰目藍髪が灰髪ヴェルの目指す身近な目標なのだろう。


「簡単に言えば、魔力操作の延長で行う魔力走査の応用ね。魔力を体から網の目状に広げて周囲の魔力を探るのが『魔力走査』。それを銃身と的の間だけに太く一本にまとめて繋げるのが『導線』かしらね。弾は、魔力のトンネルを通って的まで一直線に命中するという事になるのよ」

「「「すごい!!」」」

「すごい大変じゃん」


 茶目黒髪の『アン』は今一つ乗り気でないようである。四人の中で、リリアルの騎士を目指しているのはヴェルだけであり、他の三人は薬師か侍女狙いである。とは言え、アンは「楽な方」という物差しがあるので、魔力の扱いに慣れれば銃兵が一番楽なのではないかと思われる。


「ですが、当たらない銃が必中するとなれば、とても心強いのですわ」

「剣や槍より銃の方が良いじゃん。でも、大変そう」

「そんなの、何でも最初は大変だよ。ここに来た時もアンは朝から晩まで大変大変って言ってたよね」

「……気のせいじゃん……」


 気のせいではない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




70㎝(ピストル)90㎝(カービン)に関して、六丁づつを製作してもらうことにした。練習用でもあり、使いこなせれば魔装銃として置き換えるなり、追加で増やす事になるだろうか。


 とはいえ、剣やメイス、長柄装備と比べてもかなりの重量である魔装銃はリリアルの活動の中で身に纏う装備としては難しいだろう。魔装拳銃を指揮官が持つ程度になるだろうか。


『魔術師が銃で戦うってのも図柄的にはどうかと思うけどな』


『魔剣』の言う事ももっともであり、「魔術師」といえば、魔力で攻撃するというイメージがあり、事実がある。魔力を持って銃撃するので完全に嘘ではないのだが、思うそれとは大いに異なるだろう。


 とはいえ、剣で戦う事自体も余り勧められたものではない。何故なら、魔術師は魔術の研究に専念しており、体を使うことが余りないためひ弱であるというのがある。


 これは、所謂宮廷魔術師や貴族の子弟としての魔術師であり、魔術自体を活動の目的としている『高等遊民』と言える。魔術師を君主の周りに置くというのは、君主の安全を確保すること、顧問として私的な助言を与えること、騎士が武の象徴とするのであれば、魔術師は知の象徴としてその宮廷を支える存在と見なされるからである。


 言い換えれば、飾り物なのだ。魔術師をたくさん抱えているという事は、騎士や近衛兵を抱えるのと同じ権威の象徴でもある。国王が行幸する際、また、他国の使節を受け入れる際、並べる為の存在とも言える。


「意味がないわけではないのだろうけれども」

『変わっていくだろうさ。魔術師の力で出来る事は矮小化されていく。魔術師の持つ攻撃的魔術が火薬に置き換わるように、水利や土木の技術が高まり、医療や治癒の知識が深まれば、魔術は特別な力ではなく、あれば便利だがどうしても必要な物ではないってなるだろ』


 野良の魔術師なら、魔力を用いた様々な手段を工夫し、少ない魔力を最大限に生かす工夫をする。少ないから、ないから、頭を使い工夫をする。多くの魔力量の大きな魔術師は、今ある魔術を習得する事に最大の価値を置く。その魔術が根本的に不要となるとは思いもしない。


 騎士が絶対的な戦力であった時代、長弓と防御陣地によりその威力が無効化され、やがて、長い修練を必要とする長弓がマスケットに置き換えられたように、魔術がそうならないと何故言えるのだろうか。


「魔術は大切よ。でも、全てではない」

『まあな。どんな名剣も錆びたらただの金属の塊だし、使いこなす技がなければ、鈍剣にだって後れを取る。要は、使う人間の思考だ』


 たった一つの魔術に魔力を注ぎ込むのではなく、複数の矮小な魔術を組合せて人を神霊の域にまで高めるものがリリアルの魔術の真意である。


 大きな宝玉を磨くのではなく、小さな屑石をあつめて組み合わせていくと言い換えてもいい。宝玉は希少で価値も高いというのは誰でもわかることだが、その宝玉を屑石を集めて打ち砕くと言い換えてもいい。


「でも、屑石だって磨けば輝くでしょうし、私は重たい宝石より、小振りな貴石のほうが好きだもの」

『身の丈に合った魔術を工夫して身に着けそれを生かすってのが魔術師の基本だ。魔力の大きさや習得難易度に物差しを置くのは、魔術師じゃなく魔術屋だな。それが売り物なんだからしかたねぇけどな』


 強力な魔術、膨大な魔力を持つが故に「魔術師」として重用される者は少なくない。立派な飾りが王侯貴族には必要なのだから。だがそれは、彼女が欲するものではないと『魔剣』は理解していた。




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― 新着の感想 ―
[一言] だんしぃ(含む成人男性)はこう言うアイテム大好きなんですよー。 そう、通販番組を見てお腹に付けると痩せるってヤツとか。 でも、魔装銃をお部屋に飾りたい碧目金髪ちゃん達の感性は心配です。 試…
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