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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第九幕『ネデルからの帰還』
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第488話 彼女は魔力の有無を理解させる

第488話 彼女は魔力の有無を理解させる


「相当びびってたわね」

「七歳の男の子なんてあんなものよね。まして、魔力持ちだなんて知ったら増長するのも仕方ないわ」


 癖毛の最初の頃を思い出す。魔力持ち、それもかなりの魔力を持っているのに養子の口はなく、周りからツマハジキにされ捻くれていた。半土夫であることを知っていたことで、養子の目が無かったという事はかなりあとになり本人は知る事になるのだが、それがさらに状況を加速させた。


「魔力持ちって言ったって、相当鍛錬しないと、あっという間に魔力切れになるものね。苦労したわ」

「ふふ、今ではそれは過去の話じゃない。量も増えたし、操作も上達して問題なく運用できるのですもの」

「あなたに言われると嫌味でしかないわよ。どれだけ魔力増やして、多重発動させているのよ」

「私の場合、鍛錬は趣味ですもの。過程が大事なの」


 彼女の魔力量は鍛錬で増え、それは趣味。鍛錬により操作度が改善し、少ない量の魔力で術が展開・維持できる。それが楽しいのだ。


「揉めないことはないわよね。まあ、それで早めに気持ちの整理ができたり挫折する方が良いわね」

「剣技は魔力と関係ないし、想像したり推理したり工夫する能力も別ですもの。魔力が無い子達の方が優秀という可能性も高いじゃない。魔力持ちの冒険者に偏重している今の体制も、修正できると良いと思うのよね」

「確かに。これからのあなたの仕事を考えると、別の形で協力するメンバーも必要よね。文官というか、魔術師でない子達ね」


 副院長となり、デスクワークを経験した伯姪にとっては、今まで以上にリリアルで行われている仕事の多くを彼女が一人で負担していたことを深く理解していた。これから、外に出て仕事をしていく機会が増え、陞爵することで領地や臣下を持つようになれば、それに応じて人を抱える必要がある。


「その辺りは、徐々に話していこうと思うの。例えば二期生なら……」


 赤目茶毛『ルミリ』が該当するだろうか。元商人の娘であり、孤児院にいた期間は一年程で、孤児というほどではない。親の商売柄、連合王国語を学んでおり、簡単な読み書きと会話は問題なく対応できることが分かっている。


「ルミリでしょ。あの子、連合王国に行くときに侍女として連れて行けると良いわね」

「魔術が使えて自衛ができれば申し分ないわね。冒険者ではなく、そういう情報収集や護衛として公の場で活動できる子も育てたいわね」


 リリアルは彼女の活動が冒険者の延長線上であった事もあり、魔術師とはいえ冒険者としての役割に専従する者が多い。


「魔力操作からはじまって、気配隠蔽に身体強化、魔力纏いに魔力走査まで使えれば便利だけれど、無くても何とかなるしね」

「これからは、魔力の無い子でも優秀な子を育てて、リリアルの根幹となるように育成しなければならないのでしょうね」


 それは、休みを取り結婚する為にも必須の業務だろう。休みなく働く夫人では、家政の切り盛りもできるはずがないからである。




 その日、夕食の時に三期生たちの姿を見ると―――座る組合せは微妙に変化していた。先に三期生が食事をし、一期生二期生はその後同じ食堂で食事をする事になる。朝は先輩が先に食事をし、夜は後にする。子供はお腹がすきやすいからという配慮でもある。


 院長と副院長は三期生と共に食事を取っているのは、目が無ければ騒ぎ始めるだんすぃがいるからである。


「面白いくらいに席が変わったわね」

「というより、自ら孤立している感じね、あの三人」


 当然、魔力有年少組三人が離れた席に並んで座っている。馬鹿にするようにこれ見よがしにベルンハルトについて何やら揶揄しているようなのだが、十歳組の四人はなにやら熱心に話し込んでいるので無視。


 三人組の態度に軽蔑の視線を送る年少組女子六人は、魔力の有無関係なく今まで通りの関係に見え、そのそばには魔力無年少組が座り、時に一緒になって話している。


 浮いた三人は、年少組男子にも何やら言っているようだが、女子に睨まれだまり込んだり、大声で威嚇したりしている。馬鹿だなと思うが、早々に天狗の鼻をへし折るべきだろうかと考える。


「いいアイデアはある?」

「そうね。四対四で模擬戦でもするとか」


 幸い、丁度半々に魔力の有無で人数が分かれる。魔力有男子四人と魔力無し男子四人。年長者も一人ずつとなるのだし、四対四の集団戦を模擬戦としてやらせてみようかと彼女は思った。


「木剣だと危ないかもね」

「私が魔力壁を展開すれば、寸止めになるのではないかしら」

「あー はいはい。本気で打ち込んでも、あなたが魔力壁で守るから、大丈夫ってことね」

「頭巾と軽装の革鎧で一期生が使ったものが残っているでしょう。あとは、厚手の服でなんとかなるかしらね」


 彼女は年少者の男子が言葉で理解するのは難しいと考え、実際にベルンハルトに年少者を指揮させ、能力の差を目に見えてわからせることを考える事にした。


 恐らく、二期生銀目黒髪『アルジャン』と同程度の能力があるのではと見て取っている。年齢は二つ下だが、訓練は二年以上受けているのが十歳の子達である。恐らく、あの四人は接近戦ならリリアルの冒険者組と互角なのではないかと想像できる。


 ベルンハルトは、チームリーダー教育も受けているだろう。性格と能力からも推測できる。


「暗殺者の技術は、魔力の有無に左右されないのでしょうね」

「人を殺すのに魔力いらないって事ね。それはそうだわ」


 彼女がいわゆる「魔術」の発動に拘らず、装備や運用に魔力を生かす方向でリリアルを育ててきた理由と同じだ。魔術は確実ではない、剣で刺す方が確実に討伐できる。発動も早く、魔力切れの影響も受けない。


 暗殺ならなおさらだ。心臓や眼を一突きするだけで人は容易に死に至る。首の血管を切裂くのは、魔術よりダガーの方が簡単だ。


「カルが嫌がりそうね」

「デザートをオマケするからって、説得するわね」


 模擬戦の審判をする気満々の伯姪は、意気揚々と四人の席へと歩いて行った。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 説得は簡単だった。勝者には食後のデザート一週間を提供するという内容であった。因みに、嫌がるカルには勝敗に関係なくデザートをつけることで説得した。


 準備期間は三日間。その間、それぞれはどんな練習をしたか教えたり、聞き出そうとすることをリリアル生全員に禁止した。それぞれ四人に別れた二チームは、お互いに見えない場所で練習する事にした。


 有組は中庭、無組は射撃訓練場……ベルンハルト以外全員嫌がっていた。当然、応援に行く女子もおらず。


「さて、どうなるか」

「結果は見えているのだけれど、答え合わせのようなものかしら」


 一二期のリリアル生は全員が魔力持ちなので、どうとも思っていなかったのだが、「魔力持ちの俺強えぇー」ムーブのクソガキ三人に嫌気がさしており、魔力無組に全員が期待している。


 三期生も当該三人以外は全員魔力無し組を応援している。そう、カルも話を聞かないキッズに嫌気がさしているようで、好きにさせるとのことである。痛い目見ておけ、俺だけ貰える隠しデザートで特に問題ないということらしい。


『結局、木剣か』

「安全に配慮しました感は大事でしょう」


 刃の付いた剣を持たせて、模擬戦関係なしに怪我でもされては困るので、今回は木剣を用いる事にした。とはいえ、実際はダガーサイズが年少組には渡されている。やや長めの50㎝ほどなのは、スクラマサクス風に仕上げた為である。ショートソードの下限、グラディウス・カットラス並だ。


「おお、カッケェ」


 などと、準備期間中調子に乗って振り回す三人を、女子が冷ややかに、男子が遠い目で見ていたのは言うまでもない。誰もがいつか通る道とでもいうのだろうか。


 十歳の二人は、聞いたところでは実際に真剣を用いた訓練も初歩の段階だが受けていたようで、人を切った事はないが、吊るした豚の肉を真剣で切った事はあるのだという。豚の枝肉は人間の体を切る感覚に似ているとか。


 今回の対戦は、魔力持ちと魔力無しの対戦という事だけでなく、新メンバーの腕前を確認する意味もあった。暗殺者養成所でどのような育成を受けてきたのか、その技術の片鱗でも見抜きたいと思ったのである。




「さっさとはじめようぜぇ」

「ま、俺達の勝ちは決まってるんだけどよぉ」


 相変わらずの自信満々の三人組。そこから少し距離を取るカルだが、表情に変化は見られない。


「準備はできたか」


 審判は伯姪、そして副審が蒼髪ペアの二人。角度的に死角ができないように複数でカバーすることになる。四対四の試合である故に、同時に対決が複数発生するからだ。恐らくは、ツーマンセル二組だろう。


 装備は懐かしの革の頭巾と胴鎧。革の小手をつけ、厚手の冒険者用の服を少々詰めて身に着けている。年長者二人はともかく、下の子達は薬師組の女子たちが着ていた服でもブカブカであったからだ。


「模擬戦ルールを適用。首から上、臍から下への打撃は無効もしくは反則。刺突は可とする」


 その昔、無名時代に騎士団の模擬戦で彼女も良くやらされた記憶がある。


 事前に伝えられていたルールではあるが、最後の確認とばかりに魔力無組四人は役割を再度打合せ。魔力有組は三人と一人で相も変わらずだ。しっかりと打ち合わせをし鍛錬した四人と、余裕だとばかりに成り行き任せの三人と一人。これがどのような展開に変わるか、楽しみでもある。


「始め!!」


 一対一の場合と同じ、10m程離れて向かい合った八人が開始の合図と共に動き始める。


「考えているわね」

「考えなしみたいじゃない」


 彼女が指摘したのは魔力無組の動き。ベルンハルトと最年少ロベルトが大外回りに走り、魔力有組の背後へと回り込む。完全にツーマンセルでの役割分担、そして挟撃の体制に入った。


 伯姪が指摘したのは魔力有組の動き。傍観し、やがてバラバラに動こうとして言い合いになる。どうやら、作戦も何もなかったようだ。さもありなん。


「僕がベルを抑えるよ」


 カルが背後の動きを抑えると三人組に宣言する。


「さっさと片付けようぜ!!」

「「おう!!」」


 魔力キッズ三人が、元の位置に留まっていたゲッツとフリッツに襲いかかる。動きは単調だがかなり素早い。


「ナチュラル身体強化?」

「使えば楽に動けるのでしょう。養成所の訓練で自然に身に着けたのかもしれないわね」


 リリアル一期でも赤毛娘がそうであった。重い水汲みをこなす為に、赤毛娘が自然と身体強化を扱えるようになり、魔力も相応に増えていたという経緯がある。


「おりゃぁ!!」


 木剣を叩きつける三人。二人は背中合わせで背後をカバーし合い、攻撃に移ることなく、剣を躱しいなし続ける。


「おい、こら、逃げんな!」

「はは、こんな物かよ魔力持ち」

「なにぃ! 悔しいんだろ!!」

「こんなヘロヘロ剣、ベル兄ちゃんの打ち込みからすれば、しょんべんみたいなもんだ」

「ああ、くっせぇしょんべん剣だ!!」

「「「なんだと!!」」」


 三人はてんでバラバラに魔力を込め身体強化を用いて二人に打ち込むが、動きも単純で、足捌き剣捌きもまるでできていない。受け止めるならまだしも、いなすだけなら、どうとでもなる。


 魔力切れを心配し始めたのか、動きが鈍くなる三人組の一人が絶叫する。


「いってぇええ!!」


 魔力壁は作ったが、その勢いまでは殺さなかった彼女である。背中から一撃を決められ、魔力壁に突飛ばされ地面を転げ回るマックス。残りの二人が驚き顔を上げる。


「な、なんでベルがいるんだよ!」

「カル兄は何やってんのぉ!!」


 カルは最年少ロベルト相手に、攻めあぐねていた。剣を振り下ろそうとすれば体を寄せて受け流し、間合いを取ろうとすればチクチクと攻撃してくる。

明らかな時間稼ぎ。


「まあ、こんな感じよね。頭を使った魔力を用いない戦士に、頭を使わない魔剣士は簡単に負けるってこと」


 魔装を使わなければ、多少の身体強化の差程度は、技術でどうにかできる程度の差でしかない。まして、雑な魔力操作と残念な魔力量の結果、既にカル以外は魔力切れとなり始めている。


「ゲッツ、フリッツ、攻めろ!!」


 ベルンハルトの合図で、二人は攻勢に出る。一人で二人を囲む。同時に二本の木剣の攻撃を受け止められるはずもなく、あっという間に二人に撃破判定が出される。


 カルはベルンハルトと対峙しており、カルが魔力を用いても、剣の腕だけでベルンハルトはカルを容易に上回る実力差がある。


「カル、痛い目に合って負けるか、痛い目に合わずに負けるか、選んでいいぞ」

「降参降参。まあ、魔力ったって、鍛錬していなければなにもならないからね。剣技だけじゃなく、魔力操作の練習もしなきゃだから、魔剣士は戦士の二倍練習しなきゃだからさ。いくら時間があっても足らないよね」


 彼女を筆頭に、リリアル生は気にしたことが無いので当然なのだが、複数の技術を身に着けるには相応の時間がかかる。それぞれの技術を習得する時間に、組み合わせて生かす工夫をする時間。同じ程度の資質であれば、一つだけ学んだ方が成長が早いのは当然なのだ。


 今の時点で、ベルンハルトがカルより優れているのは、本人が戦士として自覚をもって鍛錬してきたことに加え、これからはさらに差がつくことになるだろうと予想される。時間は有限だからである。


「魔剣士は大変なのよ。剣と魔術の両方の練習が必要で、だから単純に言えば、同じ年齢なら剣だけ学ぶ子の方が成長が早いの。魔力があっても技術が身についていなければ宝の持ち腐れよ」


 主審を務めた伯姪が大きな声で伝える。剣士として鍛錬を重ね、リリアルに加わってからはさらに魔力を高め生かす鍛錬を続けてきた伯姪ゆえに言える言葉でもあった。




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― 新着の感想 ―
[一言] だんしぃ三人組はこの先生キノコる事ができるのか!? 訓話を身を持って経験した彼らに何が待ち受けるのか!? そう、リリアル式ブートキャンプ! 伯姪マムの芸術的罵声が響く! 別に院長が採取の時…
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