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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第九幕『ネデルからの帰還』
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第486話 彼女は『ガルム』の敗北を確信する

ここ、投稿跳んでました☆ 再読の方、初見になりますよ!!

第486話 彼女は『ガルム』の敗北を確信する


 この模擬試合、武具への魔力纏いは禁止しているが、それ以外の自身に用いる魔力行使は全て認めている。


 先ほどから、四人は身体強化しか用いていなかった。それ以外の魔力の使用を赤目銀髪は見せるつもりのようだ。


「魔力飛ばしも気配隠蔽も使っていないでしょ?」

「魔力壁で空を飛ぶ!もないね。魅せ方が甘いよ」


 別に大道芸をしているわけではない。


 彼女自身が、あまり一対一の戦闘に重きを置いていないというのもある。一対一の戦いというのは、自然界での同種の動物同士の縄張り争いであるとか、待伏せ系の捕食者が、獲物を襲う際に見せる行動であろうか。


「先に発見し、こちらは気がつかれないように行動し一方的に攻撃するほうが効率いいじゃない」

「それじゃ、模擬戦にならないよ妹ちゃん」

「なら、この先はそうなるわね」


 赤目銀髪に彼女が期待し、本人もヤル気であるのはそういうことである。




 模擬戦開始の合図とともに、四度目の勝負が始まる。負けたら、トイレ掃除一週間と言われている赤目銀髪。遠征に彼女と唯一、完全に同行したという事で風当たりが強いようだ。


「あの子のスタイルが、リリアルのある意味理想だから仕方ないのよね」


 遠距離攻撃、ある程度の魔力量を持ち、気配を隠して接近戦もこなし、情報収集・潜入行動を得意とする。冒険者ならば、遊撃役となるだろし、前衛の剣士の代役ぐらいは熟す事ができる。魔力量が多いので、魔力壁や身体強化を継続して展開し『盾役』をポイントで熟す事も出来る。


 あらゆる状況に対応できる能力をバランスよく持つという事は、その思考・判断能力も有することに繋がる。視野が広く、より多くの選択肢・代案を提示することも可能となる。出来ない事は、想像がつかないからだ。


 近い存在は茶目栗毛や伯姪であるが、前者は魔力量が、後者は隠密行動や遠距離攻撃が不足している。役割にもよるが、冒険者・リリアルの活動に常に参加できる騎士は赤目銀髪なのだ。


 但し、貴族・騎士としての振舞いを身に着ける事は今後の課題となるだろうが、

侍女の真似事をさせるつもりはあまりない。魔力量が少ない者の方が、侍女の教育に時間を割く事ができるので、適材適所だ。




『いままでのようにはいかんぞ』

「御託はいいから、掛かって来い」


 流石に四連敗が掛かっているガルムは、いつもであれば激昂するような挑発にも耐えている。耐えているのでは駄目だと思うのだが。


 ジリジリと前のめりに摺り足で近づくガルム。剣を掲げるように構え、一気に振り下ろすかのようだ。遠征時に支給した片手曲剣を構える赤目銀髪なのだが、リーチは圧倒的にガルム有利。剣の長さで15㎝、腕の長さの差でそれ以上の差がある。


 ガルムの剣は届いても、赤目銀髪の剣は届かない……と普通は思う。


 やがて、ガルムの間合いとなり踏み込んだ剣先が赤目銀髪に振る下ろされる。勝利を確信したかのようなガルムであったが、その表情は一転する。


 GINN !!


 何もないはずの空間で、ガルムの剣先が静止し、跳ね飛ばされる。見えない盾にでも剣を逸らされているように見えるのだ。


 三期生はポカンと見ており、当たるかと思い小さな悲鳴を上げていた子達も驚きに目を見開いている。


「魔力で壁を作って、剣を逸らせているのよ」

「魔力でそんなことができるの?」

「練習すればね」


 魔力があり、尚且つ、尋常ではない訓練をすれば……である。常時展開すれば魔力を大量に放出し続けることになり、効率が良いとは言えない。効率よく展開しようとすれば、その発動速度と正確な展開を行う『操作』が必要となる。


 向き不向きはあるものの、簡単にできるものではない。子供であれば、遊び感覚で終日練習に務める事もできるが、ある程度の年齢になってしまえば魔力の増え方も鈍り、習得も操作精度も上げにくくなる。


 瞬間的な展開は、彼女と赤目銀髪の他、黒目黒髪と蒼髪ペアくらいしかできない。伯姪はかなり怪しい。茶目栗毛は魔力量がそもそも不十分で、緊急避難用と言った程度である。赤毛娘は……もっと練習しましょう。


「あれ、ずりぃよな」

「努力をしない者に限って、その成果を『ズルい』と貶めるものよ。口を閉じなさいセバス」

「「「「……おじさん……」」」」

「駄目なおじさんだね!」


 周囲からの可哀そうなものを見る視線に、姉がとどめの一言を告げ、歩人は音もなく崩れ去る。




 一方的に剣を受け流すに専念していた赤目銀髪だが、ガルムの剣戟が単調になった隙を突き、「魔力飛ばし」をガルムの顔面にブチ当てる。


『がっ! ひ、卑怯な!!』

「油断する方が悪い」

『……どこへ消えた……』


 気配を消し、ガルムの視界から消え去る赤目銀髪。見えども見えず、聞けども聞こえずである。


「ねえ、どこ」

「どこだかわかんねぇよ」

「あ、でも……」


 賢い子供は気が付いた。気配を消せても、物理的な現象までは消せない。足跡は残ってしまうのだ。


 それに気が付いたガルムが勝ち誇ったかのように一撃を入れる。


『そこかあぁぁ!!』


 足跡の上に向け渾身の一撃!! だがそれは、赤目銀髪の罠であった。


 Bashuu!!


 首を刎ね飛ばされるガルム。魔力壁を足場に移動をした赤目銀髪は、中空に浮くように立ちながら、ガルムのそっ首をつかみ取る。胴体はそのまま前のめりに倒れた。悲鳴を上げる新入生達だが、話す生首に二度目の悲鳴。


『ひ、卑怯な!』

「計略を用いて安全に勝つのがリリアル流。そもそも、敵に対して卑怯も糞もない」


 魔物や卑劣な工作員に正々堂々など、何の意味があるのだろうか。そんなことより討伐の成果が優先される。


 空中に立つ赤目銀髪を見て、一段と子供たちのどよめきが大きくなる。


「あ、それ、あたしもできるよ!」


 ほら! とばかりに赤毛娘が同じように空中に魔力壁を展開し、次々と自分の魔力壁を踏み石にして飛び回る。なぜか姉も、真似をして飛び回り……いい年した貴族の夫人が飛び回る姿に驚き呆れる子供たち。


 姉が調子に乗るのも腹立たしいので……四度の模擬試合が終わりキリも良いので、このあたりで彼女がお開きと宣言する。


「今日はここまでにしましょう。新入生の皆さんも、練習すればいろいろできるようになります。魔力が無ければできない事もありますが、無くてもできることが沢山あるので安心して欲しいわ」


 今日のところは魔力を持つ者の一つの在り方であるが、リリアルでの仕事は魔力有きのものだけではない。学び、考える事で色々任される事が増えていく。そもそも、ほとんどの人は魔力を用いない人生を生きているのだ。


「じゃあ、在院生は後片付けね。それと、ガルムの首を保管場所に持って行くから、新入生はついて来てちょうだい。射撃訓練場に行きましょう!」

「吸血鬼見に行くよ!!」

「「「吸血鬼!!!」」」


 ノインテーターではなく、本物の吸血鬼である。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 リリアルの敷地の中で森に近い一角。最近拡張され、50mの位置と100mの位置から狙えるように変更されている。長銃身の魔装銃練習用に設けたものだ。


 そのはるか遠くにある的には……なにか人間の手足を失った物体が立てかけられているのが見て取れる。最初は、訓練所でも見かけた木人かとおもった訓練生だが、なにやら呻き声のようなものが聞こえるので生き物であることを知る。


「これから見せるのは、手足はないけれど、本物の吸血鬼だから注意してちょうだいね。近寄ったり、目線を合わせると危ないから、目を見ないようにね」

「「「「……はい……」」」」 


 夜一人でトイレに行くのも怖い年ごろである。本物の吸血鬼なんて本来は見た時点で自分が死ぬこと確定レベルの魔物だ。


「ちなみに、リリアルの守備隊長は半人狼の狼人なの。だから、それも覚えていてちょうだい。守備隊長は悪い事はしないから」

「そうそう、院長先生に一度叩きのめされてリリアルで働くことになったの。けど、吸血鬼は違う。聖都近郊で、村を滅ぼしたり、傭兵団を全滅させたりした悪い魔物だから。本当に危険なの。注意して」


 全員が顔を見合わせ、無言でコッコクと頷く。


「吸血鬼は吸血鬼を作ることができるのだけれど、魔力持ちであること、親となる吸血鬼が吸血鬼になれるだけの魔力を持つ魂を分霊し分け与える事が条件になるの。ここにいる吸血鬼は全てそれができない低級な吸血鬼だから、騙されないように注意してほしいわね」


 例えば、魔力の無い子供が絶望し甘言に誑かされるかもしれない。魔力を持たず、吸血鬼が分霊する気がなければ吸血鬼になれないのだ。それはノインテーターも同様であり、魔力持ちが大前提なのは共通である。




『ユ、赦シテェ……』

『イタイノハ嫌ダァ……』

『……』


 目が死んでいる三匹の達磨吸血鬼。


「ほ、本物だぁ」

「牙がでてるよ。怖いよ」

「大丈夫大丈夫。これは的当ての的だから。ほら」


 50mの位置まで後退し、魔法袋から魔装銃を取り出す伯姪。同行するのは薬師組の四人の銃兵。


「リリアルは冒険者半分、薬師半分なの。けれど、王国の危機には全員で戦うわ。その時に、剣や槍が使えない女の子や小さい子でも銃であれば戦えるわ。その為の練習場所がここ。あれは吸血鬼ではあるけれど、『的』でもあるの」

「的……ですか」

「そう。頭や胴体に命中しなければ、人間を倒すことは出来ないのよ。幸い、吸血鬼は手足を失い、胴体や頭に銃弾を命中させたくらいでは死なないから、捕らえて情報を聞き出した後はこうして再利用しているの」

「「「……再利用……」」」


 この世でも上位の魔物とされる吸血鬼を三体も「的」として抱えているリリアル。


「あ、壊れそうになったら、鶏か豚の血を飲ませれば大丈夫よ! 薬草畑の水やりの時に、一緒にやるから大丈夫。遠慮しないでいいわよ!」


 子供たちは遠慮しているわけでは決してない。




 デモンストレーションを始める、一期生薬師組。魔装銃は古いごついタイプである。


「おっきい銃」

「あんな大きい銃もてないよね」


 七八歳の子は勿論、十歳の子も不安気である。


「今すぐ使える必要はないわ。それに、ほら、このくらいの小さい銃もあるのよ。いま、リジェで購入した軽量銃を参考に新型の開発を進めるから、みんなにも支給できると思うわ」


 まずは、基本的な素材採取と自衛のできる冒険者の訓練を行うと並行し、銃の扱いも覚えさせていくことになる。例えば、魔装銃二丁に一人の魔力持ちでも、射撃間隔は通常のマスケット銃の数倍となるだろう。魔力を込める時間は一瞬であり、手の届く範囲にいればいいのだから。二人一組で魔力持ちと魔力を持たない銃手がペアを組んでもいい。


 Pow!!


 と、火薬の爆発音からすれば数段小さな炸裂音がすると、遠くの吸血鬼の的に弾丸が吸い込まれ、悲鳴と共に小さな血しぶきと煙が命中した吸血鬼から立ち上る。吸血鬼は『不死』ではあるが、痛覚が無いわけでも傷ができないわけでもない。


 遠くの的に面白いように弾丸を命中させていく自分より少し年上の少女たちをみて、新入生は吸血鬼への恐怖よりその腕前への関心が強くなって行く様子を彼女は感じていた。




 しばらく射撃を見せたのち、彼女は新入生十八人に一度ずつ射撃を経験させることにした。魔装銃は、魔力が無くとも一発だけなら事前に込めた魔力により発射させることができる。


 新入生は大喜びする大半の者と、顔を引きつらせる……公女殿下に別れる。


「ネデルでは市民も銃を持って戦うのではありませんか」

「……そうですね。わたくしも、銃を扱えるようになるべきですね」


 魔装銃は火薬を用いるマスケットと異なり、火花は散らないため、発射の際に顔に火傷を負う危険もなく、暴発の危険もマスケットより格段に小さい。不発だとしても、魔石のトラブルか魔力不足かであり、火薬が突然発火するような危険性はない、安全安心の装備である。




 Pow Powと代わるがわる射撃をした後、希望者に拳銃の射撃も経験させることにした。これは、魔装銃よりかなり小さく、小さな子供でも十分に取り扱う事ができる装備だ。


「これなら一人で使えそう」

「かっけぇ!!」


 魔装拳銃の射程は10mほどであり、それ以上離れると命中精度が怪しくなる。飛んでも命中しないという意味だ。


 的から10m離れた位置で拳銃を構え、吸血鬼を狙う。


「さっきのは普通の弾ね。これは、聖魔弾。魔力を込めた弾丸で聖別されたものよ。アンデッドにも効果があるの」


 彼女の魔力を込めた魔鉛弾。命中すれば……一撃でダウンである。



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