第484話 彼女は『ガルム』を紹介する
第484話 彼女は『ガルム』を紹介する
『やっと王都なのね~♪ 根が疲れちゃったわぁ♪』
『アルラウネ』の『ライア=イリス』がリリアルの薬草畑の片隅……というか、ほぼ中心地に植え替えられている。作業するのは癖毛と歩人の土魔術ペア。
『ここが、アリエンヌちゃんのお家なのねぇ~♪』
「あくまでも王妃様からお借りしているだけよ。みんなで生活しているのよ」
『楽しそうだわぁ♪』
周りにはリリアルの子供たちがたくさん集まってワイワイ話している。当然、『アルラウネ』は注目の的である。
「草だ!」
「草だよ!!」
「草が踊ってる!!」
「草、変な話し方」
最後の子、大変正直でよろしい!!
『え~ 只の草じゃないわよぉ。アルラウネのライアですぅ。変じゃないわよぉ~♪』
「変だよ」
「変だし」
「変だな」
『わぁ~ みんながイジメるぅ~♪』
と子供たちに囲まれ上機嫌の『アルラウネ』である。
「あ、ネデルの森にもアルラウネがいましたけれど、王国にもいるんですね。おばちゃんがアルラウネの葉を沢山もっていて、それでポーションを作っていたんですけど、もうあんまり在庫が無くって心配だったんです。でもよかった、これで、ストレンジ系のポーションも作り続けられます!」
アンネ=マリアから思わぬ告白。どうやら、あのなんでも状態異常を改善するポーションは……アルラウネの葉を素材として用いっているらしい。
『あなた、知らない子ね。なんで、わたしの葉を持ってるのかしら?』
「えーと、おばあちゃんが貰っていたんだと思います。名前は……」
名前を聞くと『アルラウネ』も納得する。
『あの、人助け好きの魔女ちゃんの孫なのね』
「「「「「え」」」」」
『あら、ネデルの森には昔から魔女が沢山住んでいるわよ。最近見かけないけど、魔女はアルラウネたちと仲良しなのよぉ♪』
ネデルにおいて『魔女』と呼ばれる薬師たちは、その昔はデンヌの森の女神に仕える巫女であったのだという。
『ほら、男だとドルイドとかいう魔術師だったと思うけど、あいつらはアルラウネと仲良くなかったからね』
ドルイドは『樫の賢者』と呼ばれ、森の女神を祀り聖職者と政治的指導者を兼ね合わせた存在であったという。
『最近見かけないけど、どこに行ったのかしらねぇ♪』
恐らく、御神子教の修道士たちが布教を進めていく過程で、消えていったのだろう。巫女である魔女は、薬師としての仕事をしつつ、森の恵みから得たクスリを民に施し昔ながらの役割りを守っていたのだろう。それも、近年の宗派対立の狭間でとばっちりを受けつつある。いわゆる『魔女狩り』だ。
「連合王国の北にある国や西にある辺境にいるという話を聞いたことがあるわ。それと、レンヌ領にもまだいるという話もあるわね」
連合王国の御神子修道士たちが布教と征服の為の遠征を行い、逃れた一部の先住民たちが、海を挟んだレンヌに逃げ込んだという話も聞く。森と湖の多い環境が似ているとか。
『会えないのは残念だけど、まあ、わたしは魔女たちがいればいいのよぉ』
「魔女というのは人聞きが悪いから、魔術師にしておいて欲しいわね」
『いいわよぉ。女魔術師でしょ♪ 女魔ねぇ~♪』
リリアルには、魔物が多い。『魔猪』に始まり半人狼の『狼人』、吸血鬼も何体か不完全だがいる。これに、ノインテーター二体『アルラウネ』が加わる。
「魔物であることが公になると、焼かれるので注意して頂戴」
『……焼かれるぅ……』
「草だから、燃やされちゃうね。焚き付けとかに便利」
「チャッカ草」
「燃えろいいアルラウネ!!」
『……やめてぇ、余所の人が来たら大きな草の振りすればいいのでしょぉ~』
一期生が調子に乗って『アルラウネ』をからかうと、真に受けてワタワタする半精霊。あまり虐めないでもらいたい。
とはいえ、恐らくアルラウネという半精霊が『草』の魔物から派生したものであるとすれば、恐らく葉の部分が駄目になったとしても、根の部分が残っていれば再生できるのではないかと予想できる。
薬草の採取も葉の部分に効用があるものであるなら、葉の部分のみ採取し根を残す事で何度も採取できるのだから、恐らく同じようなものだろう。彼女がその点を指摘すると。
『うふふ、内緒よ~♪』
と返されてしまった。恐らくその通りなのだろう。
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ノインテーターの弓銃鍛冶師である『シャリブル』を、彼女は老土夫と癖毛に紹介することにした。
『初めまして。リジェで弓銃職人をしておりましたシャリブルと申します。訳あってアンデッドとなりましたが……』
「気にせんぞ儂は」
「俺も、まあほら、人それぞれ事情があるから。それでも、弓銃職人の親方がリリアルに来てくれた方がすげぇありがたいです。ジジイは銃器系全くダメなので、教えてもらいたいです」
「ふん、剣も鎧も中途半端な小僧が!! 儂の教えられない事もあるから、銃に関してはこのクソガキに教えてやってもらいたい」
シャリブルは二人にある程度受け入れてもらえそうだと分かり、ホッとした表情となる。アンデッドでも、感情豊かなのは元の人柄が出ているのだろう。
「どんな弓銃を仕上げておるのかな」
「リジェの銃はかなりすっきりとした銃でした。これを見てください」
シャリブリは弓銃を、彼女はリジェで購入したマスケット銃を提示した。どちらもリリアルの今使っている魔装銃よりも細身で洗練された
「おお、これはスマートな銃だな。ゴテゴテしていないのは、部品の精度が高いからか。持ちやすいし、撃ちやすいだろうこれは」
「……王国の銃鍛冶師もこれくらい作れると、リリアルの銃兵にもあうんだろうな。今の魔装銃はちょっとゴツイし小さな手に合わないもんな」
老土夫も癖毛も魔装銃が小さな少女たちには大きいと感じていたようで、リジェの銃を見て腑に落ちたようだ。職人の作りやすさが優先し、また、大人の男が持つことが前提となる装備であることも堅牢と言えば聞こえが良いが、持ち運びに苦労する重さである。
「火薬を使う銃よりも魔装銃の銃身は幾分細身でもかまわんのよな」
「魔銀鍍金もしてあるから、魔力さえ通しておけば弾丸だって抵抗なく飛び出すから、その分軽く小さくできるはずだもんな。やらせろよジジイ」
「まあ、あいつらには『リジェの職人に出来て王都の職人にはできぬのか』とでも言えば、意地でも作るじゃろ」
リジェと王国は今後、貿易が増える予定であり、その主な取引商品はマスケットとなるだろう。優れた銃がリジェから導入されるなら、王都の銃職人は大いに影響を受けるだろう。
少なくとも、リジェの銃を装備した帝国・ネデル総督府軍に王国の銃兵が撃ち負けるようなことがあってはならない。
「何か職人たちがごねるようであれば、私の名前を出してください」
彼女は『王国副元帥』で王国軍の高官である。その要求を満たせないと言うのであれば、公にする必要がある。王国軍が戦場で装備の質が劣る為不利になる事は容認できないからだ。
「試し打ちしてみるか」
「……いや、魔装銃に改修しよう。こっちの銃で威力を確認した方がいい」
「鍍金はお前の仕事だ。魔石の加工はこっちで引き受けよう」
魔装銃への加工はリリアルの工房で行う仕事である。シャリブルを加えた三人の武具職人は、それぞれが新たな役割分担を模索しつつ、リジェの銃を魔装に換装していくのである。
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『おい、ここはどこだ』
「生首のくせに生意気」
『……小娘、答えろ!』
「本気で生意気」
赤目銀髪の目の前には、首だけノインテーターの『ガルム』が置かれている。このまましばらく放置するならば、『アルラウネ』から与えられた魔力も枯渇し、魔物としても死を迎える事になりそうである。
その辺り察しているので、小城塞で捕まった時よりも幾分弱腰なのだ。
「皆に紹介しておくわ。彼はノインテーターの『ガルム』、今は頭だけなので『ガルムヘッド』とでも呼んでもらえるかしら」
「おう、ガルムヘッドよろしく」
「ガルムヘッド、素直ないい子にしていたら楽に殺してあげるからね」
「いや、これってアンデッドでしょ? なら滅する方が正しいんじゃない」
「滅してあげる」
「「「滅し」」」
ノインテーターに全く恐れおののかないリリアル生に反対に驚くガルム。リリアル生、特に冒険者組はアンデッド慣れしている。隷属種の吸血鬼以下の身体能力しかないノインテーターに関して、全く敬意も恐怖も感じていない。
正常な思考が残っている喰死鬼程度だからだ。
「ガルム、あなたは確かに生まれは侯爵家に生まれたのでしょうけれど、今は魔物、それも討滅すべきアンデッドに過ぎないわね。そして、ノインテーターを討伐する程度のことは簡単なの。ご理解いただけるかしら」
『……否! この僕を討滅するとは、とんだ思い上がりだ。首を刎ねられてもノインテーターは不滅ぅ!!!!』
不死者においても、実体のあるものは首を刎ねれば討滅できるのが普通だが、ノインテーターは正式な埋葬手続きと同じ手続きを取らねば滅することができない。
「あら、随分と勘違いしているのね。もしよければ、銅貨でも食べる?」
『……』
「遠慮はいらないわ」
『……いらん。不要だ、遠慮する。ごめんなさい』
こうして、ガルムは快くリリアルに加わる事になる。心を尽くして話し合うということは、とても大切な事だ。
『ガルム』の役割り、これは、騎士としての剣技を持って、リリアル生の稽古台として永遠に生きる事である。
「ガルム先生よろしくお願いします!」
「ガルム師匠、これからよろしくお願いします」
「ガルム様、よろしくお願いするのです」
「よろしく」
二期生を中心に、ガルムは稽古相手となる。
『貴様ら、この僕を剣の師匠として敬うならば、手解きをしてやろう』
「それじゃ、早速腕前を拝見しましょう。いいわよね」
伯姪が相手をし、ガルムの剣の腕を確認する事になる。小城塞での戦闘に参加した者以外、ガルムの剣技は未見であるからだ。
早速、『ガルムボディ』を魔法袋から取り出し首を据え付ける。さらに、『アルラウネ』から魔力を与えてもらうのだが。
「……え……」
「草食ってる」
魔力の補充方法は……ノインテーター自身で生のアルラウネの葉を食べる事にあるようだ。それも、結構な量もりもりと食べる必要がある。
『普通はこんなに一遍に食べないし~ 擦り下ろしたりポーションにするのよ~♪』
時間が無い時は生食でも効果があるらしい。ただ、長期保存には向いておらず、ノインテーター化するには生でなければならないという。
『かなり衰弱しているから、鮮度が良い魔力じゃないと回復しそうにないからしょうがないわぁ~♪』
ガルムは目に涙をにじませながら、無心に草を咀嚼し飲み下す。
『きたきたきたぁ!!! 力が漲るぞぉ!!!』
クールなのか、暑苦しい性格なのかキャラクターがブレる揺れ動くノインテーター『ガルム』。チック症ではない。
ガルムは、レイピアを得意とするようであるが、今回は『カッツバルゲル』、帝国傭兵が主に使う片手剣を使うようだ。
『これを借りよう』
「差し上げるわ。鹵獲品でよろしければ」
『十分だ。感謝する』
お礼が言える育ちの良い子『ガルム』。その剣は、カッツバルゲルとしてはやや長めであり、突いたり斬ったりするに申し分ない長さであるように思える。密集隊形で用いるグラディウスのような剣ではない。伯姪の剣より長く、リーチの差を生かして距離を取りつつ斬り結ぶつもりなのだろうか。
10m程離れ対峙する二人。周囲にはリリアル生が囲むように観戦している。特に、三期生の少年少女たちはとても興味深げだ。
「ねえ、あのお姉さん大丈夫なのかしら」
「大丈夫だろ? 使い込まれた剣と小楯を見ると、かなりの遣い手だとおもうよ」
「負けて『四天王で最弱』ってやるかもね」
伯姪は、剣技だけならリリアルのみならず騎士団でも高位の存在。魔術込みなら、決闘マニアのルイダンも軽く一蹴する。
『さあ、遠慮はいらん。存分にかかって参れ』
「剣盾がスタイルだから、問題ないわよね」
『ああ。こちらの剣は長いし、僕の背も君より随分と高い。これで五分だよ』
「随分と紳士なのね。まあ、アンデッドだけど」
盾を前に突き出し、牽制するように構える伯姪。剣を肩に担ぐように構えるガルム。
前進し、振り下ろすガルムの剣が体に届く前に踏み込んで剣の腹で受ける。が、そのまま手首を返していなし、ガルムの剣が下へと振り下ろされる間に伯姪はそのまま剣の護拳をガルムの左頬に叩き込んだ。
『ゴベェ!』
カウンター気味に炸裂。身体強化を加えていた右フックの威力で、ガルムは二度三度と地面を転げ回りうつぶせに止まる。
「「「「おおおぉぉぉ!!!」」」」
ガルムの剣技も中々であったが、伯姪のカウンターはそれを上回っていた。新メンバーたちは、その華麗な動きと息も切らせない立ち姿に憧憬の念を抱くのであった。
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