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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第二幕『ルイ・ダンボア』
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第412話 彼女は新作外輪船の制作を依頼する

第412話 彼女は新作外輪船の制作を依頼する


「いやー 惜しかったね妹ちゃんの従者君」

「申し訳ありませんでした先生」


 微妙な空気が流れる中、ルイ・ダンボは彼女の返書を押し付けられるように渡されると、乗って来た王弟殿下の馬車に押し込まれ王都へと帰っていった。生ける屍、走る馬車である。


「勝てたのに何で負けたの?」

「近衛との関係や王弟殿下との今後を考えて花を持たせつつ痛めつけた」

「そんなことろです。王弟殿下に非はありませんので、本人にけじめをとらせました」


 リリアル生を含めその場にいた全員が「茶目栗毛は怒らさないように」と深く心に誓う。特に、彼女の姉。


「王弟殿下とおでかけするんだよねぇー」


 姉がニヤニヤとしている。何なら代わってやりたい。


「姉さんがお伴すればいいじゃない。王族の愛人に商人の夫人が爵位もらって就くなんて、割とある話でしょう」

「それは無理でしょう。なんたって、ダーリンは王太后様のなかでは『勇者様』枠なわけで、わ・た・し 勇者様の妻ですもの。おほほほほ!!」


 確かに、神国の元王女であるかの方は、聖騎士団の海軍提督である義兄をリスペクトしているので愛人はありえないだろう。かといって、自分の倍ほどもある曰く付き物件の婚約者は嫌なのだ。


「エスコートされるだけの簡単なお仕事なのでしょう?」

「護衛兼任ね。とはいえ、あの方を暗殺したり危害を加えることがありえるのかしらね」

「さあね。女王様の王配候補の中ではもっとも本人が気に入ってるという話だし? 王国との関係を深めたくない原神子派の貴族どもが邪魔しているんじゃないの。よく知らないけれど」


 確かにそれはそうかもしれない。ついでに王国内で事故でも起こして怪我か死亡してくれないかなくらいはあり得る。


「王都内でウロチョロさせているのはその辺の護衛の絡みもあるよね。あと、少し本人を動かしてみないと、相手の出方も読めないしさ」


 王国と連合王国の間に婚姻はないが、連合王国の北にある『北王国』の現女王陛下の母親は王国の伯爵令嬢である。彼女の子供の頃には、先の王弟殿下の息子、現国王陛下の従弟と婚姻していたのだ。残念ながら王配殿下は若くして亡くなり、成人した王子妃であった女性は母国に戻り女王の座に就いた。


 連合王国に攻められ、降伏し捕らえられたという情報もあるが確認中という話もチラリと聞いている。


「まあ、相手するのにふさわしい人が現れるまで、妹ちゃんが相手してあげるしかないんじゃない?」

「人妻は気楽でいいわね」

「そうそう、女は結婚してから自由になれるのだよ」


 姉は子爵令嬢時代から随分と自由であったので、その言は信用に値しないのだが、貴族の女性は婚姻して一人前……というよりも、婚姻し嫡子を産んで役割を果たしたことになるので、姉も本来の意味ではまだ道半ばなのだが、彼女の場合、先は長そうである。


「王弟殿下の子供というと、王太子殿下と従弟になるね」

「全然嬉しくないのだけれど。ロイヤルファミリーにこんな返り血だらけの女は相応しくないでしょう?」

「何をおっしゃいますか。王や皇帝に変わって戦う王妃や皇妃は乱世の時代なら普通でしょう? 歴史に名の残る人物だよね」


 王妃でも公妃でもなく、王弟妃にすぎないので関係ありません。普通の貴族の子弟で爵位を継がせる……訳にはいかないので養子を貰ってリリアル男爵家を継がせるべきかもしれない。姉の子なら問題ないだろう。


「姉さん、一人予約してもいいかしら」

「いいよ。お姉ちゃん、バンバン産んじゃう。でもさ、甥姪も欲しいんだよね。まだ諦める時間じゃないよ、妹ちゃん!!」


 ネデルの件が一段落した後は、二期生の育成と伯姪の抜けた後の学院の体制づくりを進めなければならないだろう。それと、王弟殿下の護衛任務も増えそうである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 先日話をした王妃様に献上する魔導船の話を老土夫に話す事にした。言われる前に手配を済ませておきたいのもあるが、リリアル以外にも需要の大きそうな装備である。


「遠征の時の問題点だがな」


 外輪の大きさは船足に影響するのだが、人のあるく程度の速度の流速を遡るのには外輪が大きく速度も出過ぎる傾向にあった。もう少し小さな外輪にかえ、その分、船の外形に与える張り出しを小さくすることを提案したのだ。


「舵の操作なんかは問題なかったか?」

「長時間魔力を通し続けるので、出来れば操舵用の椅子というか……」


 船が揺れるので固定の椅子よりは、ハンモックのような左右の支柱から張った綱に座面を張り付けたようなものが良いのではと提案する。


「……座面から魔力を流すようにすれば」

「舵を固定するなどすれば、寝ていても前進できそうですね」

「……危険だろ……どう考えても」


 癖毛に指摘されるまでもない。例えば、魔力を通す者と舵を握る者を別にすることができるかもしれない。魔力さえ供給する者が一人いれば、舵は交代で誰がとっても構わないのだから。


「外輪は、小さくして幅を広くするのはどうでしょうか」

「そうすると、船内に大きく張り出したり、船幅がひろくなるだろ?」

「あのさ、船の後ろに付けて、押すように進むのはどうだろう?」


 左右ではなく背後に付ければ、幅は船と同じまでであれば左右の張り出しなど気にしなくても済む。


「王妃様や王女様の座乗船なら小回りより外見の方が大切か」

「それと、前方に広くフラットなスペースが確保できますから、それも良いかもしれないわね」


 左右の外輪を逆転させることで容易にバックもできる今の仕様だが、天幕や屋根を付けるなら左右の外輪よりも後部一箇所に纏め小さく幅広の外輪の方がよいかもしれない。


「試作するか」

「ええ。それで実験をお願いします。出来れば小さなサイズで」

「……もう一隻使えるようにしようってのか」


 小舟サイズの外輪ボートであれば、彼女以外の魔法袋に入るか、馬車で搬送もできそうである。そう考え、試作は敢えて小さめで動作確認用に作るのはどうかということだ。


「それじゃ、小舟を調達して、外輪自体はそれほど時間はかからないから……一週間あればできそうだな」

「よし、小僧お前に任せた!!」

「ぐっ……わかったよ爺ぃ!!」


 調子がいい時は師匠と弟子、時に爺と小僧に戻るのは御愛嬌だ。一号船のメンテナンスと操舵用の椅子の追加は老土夫組の仕事になったのでお互い様というところだろうか。





 『魔装船』の試作にかかりきりであった癖毛が彼女の元に現れたのは、その翌日のことであった。折り入って話があるという。


「『魔装馬車』の内装なんだけど……」


 新しい『戦車』用の装備について、魔装船の操舵用の椅子にヒントを得て新しくしたらどうかというのである。


「ほら、今の馬車だと、寝台が板だろ。あれ、止めて操舵用の椅子みたいに網で吊るすかたちにするのはどうかなって」


 近年、船で寝具として用いられている網状の「ハンモック」と呼ばれるものを装備してはというのである。その為には四隅に柱を立て、その柱同士を四角く連結し強度を出すという。


「一先ず、柱は固定するか金具で差し込めるように加工する。そんで、四角く囲う横棒は紐で固定して、頻繁に着脱しないなら金具で固定する形にしようかと思ってる」

「……良いのではないかしら」


 彼女は今の三段重ねの寝板は圧迫感があると感じていた。それに、六人乗車で夜中に見張を交代するとすれば就寝人数は五人。左右に二人と中央に斜めに寝具を吊るせば、交代要員は中央に寝て左右の者に出入りで迷惑をかける事もない。


「そんで、網は魔装網を使って、支柱から魔力を流せるようにすれば、寝ている間も魔装の防御強化が得られるだろ?」


 魔装馬車は馭者の手綱から魔力を供給している。手綱を離した状態で魔力を供給する方法は今のところ施されていない。


「一番下の左右どちらかと決めておけば良いのかしらね」

「まあ、一番六人の中で魔力を持っている奴が担当することになるだろうから、全部をそうする必要はないかもな」


 という形で、魔装馬車の就寝装備を更新することにする。今用いている幌馬車タイプを先に更新し、彼女たちの遠征に使う事にする。その後、秋の遠征までに順次更新するか新造の馬車に装備して行く事にする。


「良いアイデアだったわ」

「まあ、俺がこれでも……職人の端くれだからな。他の奴らより多少考えている」


 捻くれているだけの男ではないという、癖毛の成長を感じる提案だと彼女は感じていた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「良い心掛けじゃない」

「……大公殿下と公太子殿下の許可があるのであれば問題ありませんね」


『ゼン』が冒険者登録をし、リリアルと魔物討伐の経験を共有したいという申し出がなされたのだが、それは、主君であるレンヌ大公父子の許可が前提となると彼女が答えると、既に王都に向かう際にもらっているという。


「こちらの書面になります」

「……拝見しますね」

「レンヌも冒険者ギルドのテコ入れが必要だから、親衛騎士の中に事情が分かる者がいるのは良い事よね」


 商人・貴族だけでなく、冒険者もレンヌ大公・王国に非協力的なものが多いという印象を受けていたのだが、王女殿下が降嫁すること、ソレハ伯一族が処罰され連合王国派(という名目の悪党ども)が淘汰され、今後は王国と一つの経済圏を形成する為にも、冒険者ギルドという治安維持に有効な組織を再構築する必要は相当にあるだろう。


「いままで、冒険者の力を正直見くびっていましたから」

「騎士にとっては下民だもんね。でも、正直、斥候・情報収集や攪乱工作なんかが冒険者の役割りだもの。昔で言えば軽装歩兵とか軽装騎兵の役割りを担うのが冒険者ね」


 戦争が多かった時代は、主戦力の槍兵・騎士・弓銃兵の他にも、警戒や斥候・攪乱を行う戦力が存在した。大規模な戦争が王国内ではなくなり、今は必要とされていないが、それは冒険者が肩代わりしている面も大きい。


「王都周辺は冒険者の活動もあって、治安の改善や魔物の討伐も進んでいるのでしょうね」

「でも、最近騎士団が増員されているから、冒険者も護衛の仕事とかが多いみたいで、討伐系は減っているみたい」

「良い事でしょう。でも、お陰であちらこちらで事件があれば、王国内で冒険者の移動があるようになったわね」


 少し前はルーンからロマンデ一帯の魔物討伐が王都在住冒険者のブームであった。ルーンの新冒険者ギルドが稼げるように王家の予算……主にルーンで連合王国に内通していた貴族・商人の財産から支給……で、相場より高めの依頼料が支払われたことがあった。


「レンヌは王都から旧都経由で船で下れば遠くはないわね」

「護衛とかこれから増えるでしょう? 次いでにレンヌの依頼相場が良ければ暫く稼ごうかって話になるんじゃない」


 冒険者が訪れ、仕事を与えられた者たちがその地でさらに金を使う。治安が改善し、金が回り始め、人が集まるようになる。おそらく、そのタイミングで王女殿下が降嫁され……ニース商会も支店を開設し稼ぎ始めるのだろう。


 姉の為に仕事をしているような気がして、少々不本意な彼女である。





 冒険者ギルドに赴き、『冒険者ゼン』として登録をする。装備は、彼女が馴染みのギルド御用達の武器屋に青目藍髪に案内させ、一通り見繕うように頼んでおいた。


 親衛騎士そのものの装備ではないとはいえ、野歩き山歩きをする装備とは言えなかったからだ。足回り、冒険者用の衣服に野営用のマントなど……駆け出し冒険者に必要な小道具類も一通り購入し、小さな魔法袋も調達するように手配をさせた。


 今の魔法袋では一見して『貴族子弟』とわかる外見をしているからだ。応急の措置として、魔法袋の外側を包む帆布製の丈夫な肩掛け鞄を購入することにした。


 自分自身で装備を整える経験が親衛騎士時代には無かったこともあり、『初めてのお買い物』は『ゼン』にとって楽しい経験であったようだ。また、冒険者として歩く王都は、騎士としてみて来たそれとは大きく違って見え、実際、領都レンヌにはない勢いと活気を感じたという。





 リリアルに戻って来た『ゼン』はそれから、さらに一層、リリアルでの活動を熱心に進め始めた。特に、一期生との鍛錬、中でも青目蒼髪とは非常に仲が良く「つるむ」ようになったように見受けられた。


 帝国での冒険者活動に熱心に耳を傾け、遠征での経験を熱心に聞きたがっていた。彼女も伯姪も『ゼン』の欲するところは凡そ理解できている。


 本来は、騎士学校にも入校したいであろうし王都で王国の騎士団との交流もしてみたいのだろうが、彼に与えられた時間では相当難しいという事は理解できていた。


 そして、『ゼン』は彼女に改めて「おねがい」に現れた。


「リリアル閣下。お願いがあります」

「どうそ、お座りください」


 彼女は何を言い出すか凡そ察していたが、本人の言葉を待つ。


「……実は、秋のオラン公軍の遠征に私を冒険者パーティーの一員として参加させていただきたいのです」


 身近にある実戦の場。彼女たちが「観戦武官」として赴く理由と同様、次代のレンヌ親衛騎士団団長となる『ゼン』にとっては、どうしても自分の目で見ておきたいと考えている事だろう。


「こちらとしては王宮の許可が獲れるかどうかです。それと……」

「問題ありません。大公殿下にも、公太子殿下にも許可を頂いております」


 既に心を決めていた未来の親衛騎士団長は、予め許可の書面を貰っており、これを彼女に手渡したのである。



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