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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
第二幕『ルイ・ダンボア』
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第410話 彼女は王太后と初めて会う

第410話 彼女は王太后と初めて会う


 歩人がネデルに旅立った数日後、王妃様から久しぶりに会いたいとの連絡があった。彼女は帝国からの帰国の挨拶と、帝国で入手した……ものはあまりないので、『魔導船』の話をして希望があれば老土夫に頼み製作を依頼しようと考えていた。


『魔導船な。レンヌから風待ちしなくても旧都まで遡行できるようになるから、嫁入り道具にあってもいいかもしれねぇな』


 旧都からレンヌ迄流れるロアレ川は、西風を捕まえると川を帆を立てて下流から上流へと向かうことができる。ただし、この場所は旧都までで、旧都から上流……そこにはワスティンの森を通る王都に向けての運河も含まれる……において遡る場合、川岸を馬で牽いて遡るような必要がある。


『魔導船』の場合、船を降りずに王都まで運河開通後は移動できるようになるかもしれない。


「でも、護衛兵を考えると、かなりの大きさになってしまうと色々問題が発生しそうね」


 大公妃殿下を王都まで護衛する人数は侍女や使用人含めると……数十人は必要だろう。そんなに大人数を乗せる『魔導船』を運河で移動させられるのか大変疑問である。


「お揃いにしておきましょう」

『……無難だな……』


 結論的には、十人程度乗るものになりそうである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「私が……王宮に……ですか……」


 今回は騎士服ではなく、ドレスで来るようにという指示であったので、侍女を伴わねばならない。リリアルメンバーで騎士爵である成人に近い女性は赤目蒼髪だけなのだが、侍女としての能力は……見習程度であり、王妃様の前に出るのは躊躇するレベルである。ルーンでは姉の侍女役を務めたが……彼女の姉の侍女であるから許される面もある。この主にしてこの侍女有と。


 今回侍女として指名を受けたのは『灰目藍髪』である。誰か一人を……と考えると、他に選択肢はない。碧目金髪でも問題ないのだが、直接王妃様から下問があった場合、少々気になる言葉遣いや雰囲気もある。


「この機会に、一度王宮の雰囲気を知るのも良いと思うの。騎士を目指すならね」

「そうですね……良い機会を頂けたと思います」


 使用人ではなく「侍女」であるので、地味目とはいえドレスを着用しなければならない。幸い、姉のドレスとサイズ的には似ているので古いものを借りる手配をする。彼女の場合、サイズ的に小さいようである。どこかとは言わないが。


「憧れの王宮」

「あ、あたしも成人したらついていけるようにがんばろう!」

「そ、そだね……」


 赤目銀髪・赤毛娘・黒目黒髪の三人は『騎士爵』であるが、明らかに子供の外見なので、帯同することはできないのだ。他にもいろいろ不足していることはあるのだが。今後の課題。




 ドレスの着用やメイクに関しても、同期の使用人頭(使用人コース一期生)と碧目金髪(薬師コース一期生)が散々いじくってくれたため、侍女らしく整えられている。


「映えるわね」

「代わってもらえないかしら……」

「それは無理だよ。妹ちゃん」

「どこから湧いたのかしら……姉さん」

「え、私も今回同行だから。三人で行くんだよ!!」


 彼女の姉も王宮に呼ばれているらしい……父である子爵は「王弟との顔合わせの席になるのでは?」と考え、自分の代わりに姉を寄越したという事だと思われる。とても痛し痒しだ。


「フランツ殿下とは顔合わせしたんだよね」

「……王都に戻った報告の時にいらしたので、ご挨拶だけね」

「ふーん。でも、お茶会だから、王太后さまかもね」


 今日は、母親参観かもしれないのだという。それはそれで、別の意味で気が重い。王太后様は、確か神国の王家の娘であったからだ。ネデルの話をするには、問題があるだろうと彼女は考えた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 王宮に向かうと、いつもはカトリナが出迎えてくれていたのだが、今回は別の女近衛騎士となっていた。既に、近衛を退いたからだ。


 灰目藍髪はキョロキョロしないように必死に慎重に歩いているのだが、同行している姉が話しかけて台無しに。


「姉さん」

「何かな妹ちゃん」

「王宮なのだから、もう少し静かにして頂戴」

「はいはーい!」


 全然静かではない。近衛騎士も苦笑いである。益々緊張している空気を醸し出している灰目藍髪である。


 いつもと同じ、庭園が見える一室に案内される。


「リリアル男爵、ニース商会頭夫人アイネ殿をお連れしました」

「待ってたわ!」


 王妃様は相変わらずである。そして、今までは横に並んで座っていた王女殿下の代わりに、王女殿下に面差しの似た年配の女性がいた。


「ふふ、初めましてかしらね~」


 祖母の仕えた先の王太后様には物心がつくかつかないかの頃、祖母に連れられご挨拶した記憶がある。しかし、国王陛下の母親である王太后様には会うのは初めてであった。


「これは随分と可愛らしい男爵閣下ね。今日はよろしくお願いしますね」


 優しげな雰囲気の中、どこか値踏みをされるような視線を感じるのは、それが目的だからだろうと彼女も感じる。


「始めまして、王太后陛下。リリアル男爵です」

「そちらの女性は……」

「ニース商会頭夫人アイネと申します。夫はニース辺境伯の子息です」

「おお、もしかして、聖エゼル海軍提督の……」


 神国関係者にとって、聖エゼル海軍は同盟国の中でも先年の『マレスの戦い』で聖母騎士団を助けた勇者たちとして知られている。つまり、姉は勇者の妻であると認識された。


「これは……リリアル男爵とフランツが結ばれれば、彼の聖騎士とは義兄弟という関係になるのですね」


 ああ、やっぱりな……と彼女は内心忸怩たる思いとなる。蛙君は嫌だと言える局面ではなさそうだ。いや、いざとなったらメインツの錬金工房で生きていくという手段もある。まだ大丈夫だと自分を強く持つ。


「まあまあ、王太后様。フランツ殿下は連合王国の女王陛下に求婚中ではありませんか。あくまでも、男爵はエスコート兼護衛として陛下は依頼されたと聞き及んでおりますわよ」

「それは半ば事実ですが、フランツももう数年すればお役御免となり、どこぞで公爵となるわけではありませんか。三国一の花嫁をと私はかねがね伝えてきました。目の前に、いるではありませんか」


 三国とはこの場合……王国、帝国、神国が該当するのだろう。王太后陛下の実家と親戚、そして嫁ぎ先である。


「まあまあ、大変光栄なお話ですが、王国副元帥として王太子殿下を支える仕事もございましょう」

「……それです」


 王太子殿下は国外の外交的にメリットのある王女を娶る予定である。神国には王女はいるが年齢的には釣り合わない。オラン公家のマリア嬢あたりが相応しいかもしれないが、王家は原神子信徒を妻にする事は考えられない。問題が起こる可能性を考えればだ。


 二代続いて王国の貴族子女から妻を迎える可能性もゼロではない。何故なら、王女を互いに、若しくは三か国でやり取りする場合も少なくないのだが、王家の娘は、レンヌとサボアに嫁入りが決まっている。貰うだけで嫁がせる事ができなければ、余程のメリットがなければ嫁には貰えない。


 神国も帝国も不安定な状態であり、そこから妻を娶るのは王国にとってリスクが高いという事もあるのだ。とは言え、王国内にも王太子の妻となるに相応しい高位貴族の娘で釣り合う者が見当たらない。


 ハイスペックすぎる者は、相手を探すのも大変である。帝国の高位貴族のや法国・北王国など他にもいないわけではないが、大国の次期王妃には少々粒が小さいのである。結婚できない男……それが王国王太子腹黒イケメンの実態とも言える。


「あなたのお気持ちはどうなのかしら」


 直接彼女の気持ちを問う王太后。本気で反論できるはずもなく、彼女は無難な言葉を返す。


「身に余る光栄でございます王太后様。フランツ殿下は王都総監のお仕事にも熱心に取り組まれており、日々ご成長著しいと伺っております」


 王太后陛下、満面の笑みである。やはり、出来の悪い息子ほどかわいいのだ。


「しかるに、私も王国を守るため、また王都の孤児たちを王国に役立つ人材となるよう育てる仕事を賜っております」

「ええ、たしか……ルリリアだったかしら……」


 惜しい! そっちはダミーの商会名だ。


「はい、リリアル学院では孤児の中で魔力を持つ者たちを育て、薬師や錬金術師として育てております。時には、魔物を討伐することもあるのです」

「まあ、それは勇敢な子達ですね」


 魔物どころではない……小国が滅ぶレベルの集団まで討伐する。


「いまだ、幼い子達も多く手が離せないのです」


 つまり、母代わりに子供を育てているので、王弟殿下の妻の仕事は荷が重く、代わりはいませんという事なのだ。


「それは、大切なお仕事ですね。ですが、王弟を支える事も、王国の為に必要な立派なお仕事ではありませんか?」


 それは親と本人の仕事であって、自分には関係ないと彼女は声を大にして言いたいのだがじっとこらえる。


「今までの仕事を放りだすわけにはまいりません。それは、王国に仕える者、男爵の身分を預かる者としてですわ」


 王太后も「それはそうかも」と押し切れなかった。




 暫く、帝国での出来事や、冒険者としての活動などの話をする。王女殿下に良く似た……いや、王女殿下が似たのだろう人好きのする笑顔を湛えながら、王太后は彼女の話を聞いていた。


「ところで、ネデルの状況はどのようなものでしょうか」


 実家の領地のことという事もあり、王太后は踏み込んで聞いてきた。彼女はネデル総督府軍に敵対するオラン公の軍にいたので、その辺りを明言せずに話をする。


「オラン公の軍が南部と北部に侵入したようですが、総督府軍、とくに神国兵を中心とする部隊の活躍で撃退されたと聞き及んでおります」


 王太后様は「そうですか、そうですか」と嬉しそうに何度も繰り返す。正直、同じ軍として考えた場合、規模・練度・経験ともに王国の近衛連隊は敵わないと思われる。


 とはいえ、多くの戦争において攻城戦が戦の大半を占め、ランドルに繋がる地域には複数の大きな都市を抱えている王国からすれば、ネデルから侵攻した神国軍が簡単に国土を占領できるとも思えない。


 今回の戦争も、脆弱な遠征軍と練度に優れた防衛軍という組合せであるから、北部遠征軍のような奇策を用いなければ、野戦で勝利することは遠征軍には困難なことは最初から分かっていた事だ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 姉は『勇者』である彼女の義兄である辺境伯三男の人柄などについて王太后陛下にお話したり、今回の帝国遠征で活用した『魔導船』に関して、王妃様から当然のおねだりが有ったりしたことは言うまでもない。


「うふふ、楽しい時間でしたわ。また遊びにいらっしゃいな」

「今度はフランツも会える機会にお願いしようかしらね」

「……謹んで承ります……」


 彼女は内心『秋の遠征に早く出かけましょう』と心に誓うのであった。役割りとして婚約者候補を果たすのは、公務につく王弟殿下の護衛役として必要とあればそう振舞う事は吝かではない。


 とはいえ、子爵の娘が王家と姻戚になることは王国内のバランスとしてあまり良いとは言えない。地域的には南部か北部の伯爵家辺りに婿入りし、『公爵家』に叙するあたりが最もバランスが良い事になるだろう。つまり、彼女が当て馬でなければ困るのだ。


「まあ、うちはランドル辺境伯の血が一応入っているし、聖都とミアンの事件の対応で、妹ちゃん人気は王都に次ぐ高さだからね。大公妃で来てくれるとうれしいんじゃないかな!」

「……姉さん、ネデルやランドル、連合王国で商売するのに都合が良いと考えているのでしょう?」


 姉はニコッと笑い「ばれた?」と言い返すのである。


「王太后様は大変妹ちゃんを気に入ったようだね」


 横で灰目藍髪が無言で深く頷く。見た目、血統、社会的地位と国内外の影響力、そして……


「義兄のせいね」

「うんうん、聖騎士で『勇者』様だからね」

「『勇者』というのは実在するのですね」


 灰目藍髪が少々喰いつき気味に話に加わる。


「だって、そいつがいれば盛り上がるっていうだけだからさ。王都の酒場に夜中に行けば『勇者』だらけだよ!」

「……随分安っぽい勇者ね」


 『勇者』はそれこそ、周りに勇気をもたらす存在であるにすぎない。神から授かった力で超人的な活躍をするのは、勇者ではなく『英雄』である。勇者はもう少し身近な存在であり、尚且つ、自分自身より周りに与える影響力が効果として大きいのだ。


「先生。ノインテーターも、集団を『狂戦士化』しますから、勇者的であるのではないでしょうか」


 確かに。魔物となった不死者に操られるのも、『勇者』の加護を持つ者に先導され激しく戦うのも効果は似たモノだと言えるかもしれない。



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