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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ディルブルク』

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第360話 彼女はオークを片付ける

 オーク死体の始末は比較的簡単であった。既に壕が掘られていたことでそこに首以外を投げ込んで埋め戻すだけのことで済んだからだ。とは言え、全部の構築物を崩すのは魔力的に大変であるので、逆茂木の部分の土を埋め戻すのに用いただけにした。


「ふう、大変だったわね」

「千切れたオークが大変」


 五十近くのオークの胴体を集めては壕に落すのは大変であり、魔力量の少ない銃手女子二名には頼めない為……彼女と茶目栗毛に赤毛銀髪、更に久しぶりに大型化した『猫』が活躍する事になった。


 と言うよりも、半分は『猫』が咥えて穴に放り落としたという感じだろうか。


「猫ちゃんデカいと怖い……」

「同じ大きさなら、犬より猫の方が圧倒的に強いというわね」


 山猫と呼ばれる大型の猫でも、人間にとってはかなり危険な存在だと言われる。豹クラスでも、大人の男を咥えて木の上に飛び乗るくらいの事は可能だ。実際、襲われた者もいる。


『猫』の助けを借り、ようやく片付けが終わり森の出口に辿り着くころには既に日がかなり傾いていた。幸い、エンリ主従は待っており、安心したように声をかけてきた。


「その、お疲れさまでした……」

「大変お待たせしました。では、リリアルに戻りましょう」


 このままギルドに行くよりも、一度騎士団や王宮にしたためる手紙を書いた後、明日の朝から動くべきかと彼女は考えていた。また、正直かなり疲労困憊な状態であり、直近での危険性は回避できたと考えていることからも急ぐ必要はないと考えている。


 直接参加したわけではないのだが、エンリ主従も疲労困憊に見える。魔物狩りも最初は興味深げであったが、最初からオークにトロル、そして、オークの軍団と遭遇するというのは得難い経験ではあるものの、寿命を擦り減らす恐怖を感じたであろう。


 ゴブリンや狼退治辺りが初心者の経験の標準であり、それも出ても三匹くらいのものである。オーク十体……中堅冒険者パーティーでも死を覚悟する数だ。騎士団でも小隊規模での討伐になるだろう。同数なら被害を相当覚悟する必要がある。トロルがいれば、中隊規模だ。


「リリアル閣下の名声にいつわりない事を、このエンリ、しかと拝見いたしました」

「ええ、これで依頼の件も安心していただけたのであれば幸いです」


 馬車の中でどこか虚ろな目をしている従者の横で、エンリは王国での自分の目標を得たような表情をしていた。どのような状況でも生き残れるように自らを鍛える……といったところだろうか。





 リリアルに戻り、伯姪たちに今日の出来事を報告したところ、彼女は当然のように怒られるのである。


「……無理を重ねるのは感心しないわよ」

「ええ。それはそうなのだけれど……」


 帝国遠征が間近になった今、王都近郊の問題を自分の手で片付けられる機会を逃そうと思えなかったというところが本音だ。


「今回は、一期生の前衛メンバーも残るし、銃手も一期生の子達を育てて活かせるようになるから、騎士団と連携して何とかするわよ」


 騎士団は当てにならない。少なくとも、リリアルの銃手を守るためには動いてくれないだろう。彼女が不在の時に、彼女がいるのと同じ事を要求され、伯姪を始め居残り組に負担が掛かり、危険な目に合わされるのは許容できることではない。


 それもあり、今日の決着を考えたのである。


「それはそうと、五人でよくオークを六十とトロル二体、狩れたわね」

「ええ、ちょっとした工夫を試みたのよ」


 一期生の騎士メンバー主体なら、運動戦で十分勝負になる。前衛がツーマンセルで斬り込んで離脱を複数で繰り返し、漸減していくいつものパターンだ。しかし、これからは、恐らく今まで冒険者として活動していなかった魔力小組を銃兵として参加させる必要が出てくる。その場合、安全な場所から射撃をするグループと、その援護を受け斬り込むグループで編成する必要が出てくるだろう。


「そこで、セバスの土魔術は炸裂するわけね」

「ええ。その為にお留守番にするのだから、毎日、リリアルの外周の土塁工事をさせてもらえるかしら」

「練習にも実利にもなるから丁度いいわね」

「……おいおい、俺を殺す気かよ……でございます、お嬢様方」


 今日の小要塞戦術を歩人を連れて行く事で成立させる。安全で見晴らしの良い場所に数人の銃兵と歩人を配置し、そこから射撃を行い、前衛の一期生が側面や背後からツーマンセルで寄せる感じだろうか。


 伯姪と赤毛娘、蒼髪ペアが外側から、小城塞には銃兵と黒目黒髪と歩人を配置する所後詰戦略だろうか。


「に、逃げ切れなくなりませんか?」

「魔物を倒すか、魔力壁を作る魔力が途切れるか勝負」

「頑張れ!!」

「う、うん、頑張るよ私」


 黒目黒髪の不安を赤目銀髪と赤毛娘が勢いで粉砕。


「じゃあ、明日から早速練習してみよう」

「えー マジで……でございますか副院長様」

「じゃあ、自分だけで逃げ切れる自信あるんだ」

「逃げるのは得意。村からも逃げ出した」


 心無い少女たちの言葉が、おじさんの心をえぐり取っていく。が、事実なので否定できない。


「でも、あなたも心配性ね。五十もオークを討伐して、騎士団にも調査を依頼するんでしょう。大丈夫、あなたが帝国に行っている間だって、王国も王都もリリアルも、私たちで守って見せるわよ」


 彼女が無理をしてまで今日の討伐を行い、新しい戦術を試したのは、自分がいない間に帰る場所がなくなるかもしれないという不安を感じたからであると伯姪は感じていた。自分の居場所に敏感な貴族の娘同士の共感からそう思えた。


「それは分かっているわ。でも、心配なものは心配なのよ」

「あなたのお姉さんもいるわよ」


 伯姪の言葉に彼女はこう答える。


「なお一層心配だわ。できれば、一緒に帝国に連れて行きたいくらいよ」




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「魔銀と聖鉄の鍛造か」

「はい。今のオウル・パイクでは魔力の通りが今一つなので、素材と刃の形状を変えてみて頂けないかと。勿論、私の用いる分だけです」


 彼女のイメージとしては刺突用の剣とは言え、レイピアのように菱形の細身の刃の付いた形状のものに変えて欲しいというものだ。これなら、魔力で引きちぎるような切れ方はしないだろう。


「お前さんの魔力量ならそうなるか。レイピアのように刃を加工すると、かなり折れやすくなるが……」

「その時は、魔術で補修してしまいます」

「それも可能か……では、刃の位置が分かるように、ガードも今の形では無い方が良いだろうな」


 オウル・パイクの(ガード)は円形のものが付いている。受け止めるならこれが良いのだが、刃筋を立てるには円形では分かりにくい。直線的なガードにして、垂直に刃筋と組み合わさるように工夫すると老土夫はいう。


「どのくらいで出来そうでしょうか」

「最優先で帝国遠征には間に合わせる。間に合わねば、メインツまでお前の姉にでも届けさせるとしよう」


 老土夫はニヤリと笑い、彼女は「絶対に間に合わせてください」と答えた。





 魔装槍銃に関しては、取り回しが難しいので最初の魔装銃サイズである140㎝もしくは、騎兵銃である90㎝サイズでも作成してもらうように依頼をする。


「取り回しの問題か」

「それと、狭い場所や馬上では支えきれません。銃兵は魔力量の少ない後備の女子魔術師が主に装備するので、威力より扱いやすさを重視したいと考えています」

「確かに、小さな嬢ちゃん達にはマスケットは大きすぎるか」


 マスケットは180㎝にも達する。重く重心を支えるにも一苦労であるから、変更は必要だろう。


「防衛する施設に立てこもるなら問題ありませんが、魔物討伐や野戦では私たちの想定する運用とは噛み合いませんでした」

「了解した。これは間に合わぬので、お前さんの……」

「いえ、学院で配備を進めて頂ければ問題ありません」


 姉に届けさせようとするのは止めて頂きたい。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 翌日、冒険者ギルドへ調査報告とオークとトロルの討伐部位を提出したところ、予想通りのパニックがギルド職員に発生する。調査依頼は運河の掘削を請負った職人ギルドと、工事を行う地域を王家から委ねられているいくつかの代官である貴族の合名での依頼であった。


 ところが、オーク五十体超、トロル二体という、戦力で言えば騎士団の中隊規模、討伐を行うのであれば大隊若しくは連隊規模を投入する必要のある魔物が潜んでいた事に加え、人的被害も発生していると推測されることで、大きな問題に発展していく。


 ゴブリンキングの群れもいずこかに消え、また、どこからか現れたオークの大規模な群れ。そこに辿り着くまでに、本来であれば村や町が襲われていてもおかしくなく、潜んでいるにしては纏まり過ぎているのである。


 外部から食料の供給でもなければ維持できない規模の群れが突然現れる不自然さは、ワスティンの森の王都と反対側に問題があるのではと考えさせられる。




 ギルドに報告の後、騎士団に赴き騎士団長に面会を求める。昨夜のうちに先触れは出してあったこと、それと彼女の『副元帥』という肩書的に、会わないという選択肢を選ぶことは騎士団長には出来ない。


「手紙の件確認した。今早急に、冒険者の経験のある魔力持ちの騎士を中心に、捜索中隊を編成している。俺も騎士学校に本部を設置して詰める予定だ」


 既に、話は騎士団内で進んでいるようである。今回の件は、本来の王都周辺の治安維持を委ねられる騎士団により行われるべきだろう。ワスティンの運河掘削エリア周辺の捜索だけでもリリアルには手に余る。


「それは一安心です」

「で、今回は、何人で討伐したんだ」

「五人です」

「……五人か……」


 魔術による防御拠点の設置というアドバンテージを踏まえても、騎士一個中隊規模の戦力を五人で無傷で討伐するというのは、相変わらず驚きの戦力だと騎士団長は思う。仲良くしないとリリアルとは。


「今回はこれで終わりだろうか」

「わかりませんが、直ぐには投入できないと思います。ですが、王都に運河を作られると困る勢力の妨害でしょうから、連合王国とそれに通じている一派の活動でしょう」


 ギュイエから船で王都に荷を運ぶ場合、レンヌから川を遡り旧都まで水路で移動し、そこから馬車で運ぶか、外海をそのまま移動しルーンに持ち込む二通りの経路がある。


 ルーンへ到達するには、連合王国と王国の間にある海峡を通過する必要があり、運河の掘削はルーン経由の海路の価値を大きく損なわせることになる。


 ネデルや神国とも揉めている連合王国にとって更なる経済的損失は、耐えられないものとなるのだろう。


「騎士学校からさらに南、ワスティンの森の中に古い城塞都市があります。以前、オーガ討伐の際に見つけたのですが、そこであれば、中隊規模の戦力を収容できますし、良い監視拠点になるのではないかと思います」

「それはこちらも検討中だ。ただ、予算が厳しい」


 彼女は、『土』魔術で修復できる箇所は、リリアル所属の魔術師が手伝う事が可能だと申し出る事にした。歩人が当然対象である。騎士団長はおおいによろこび、是非にとその場で伝えられる。


「それと、オラン公の御舎弟エンリ様の騎士学校入校の件はいかがでしょうか」

「次の期に入校してもらう。扱いはリリアルと同じだ。遣えるのだろうか?」


 彼女は軽く首を振り、普通の高位貴族の子息であることを伝える。


「ですが、今回の討伐にも同行し見学を望みましたし、最初にお会いしたころよりもかなり真剣に自身の騎士としての資質を磨こうとされているようです」


 真面目に冒険者活動を始めたり、真摯に話を聞くようになっていると話す。近衛の質の低い騎士達よりは意識の面だけマシというところだろう。


「何年かすれば、エンリ殿も戦場に出るわけだろう?」

「オラン公としては、神国軍の活動を座視するわけにはいかない立場ですから、御兄弟も指揮官として戦場に出向くと思います」

「ならば、死なずに済む経験を王国で積んでもらわねばならないな」


 貴族の子弟が騎士として出身国以外の国に仕えるというのは、特に珍しい事ではないのだが、ネデルの貴族子弟たちは恐らくネデルへと戻っていく事になるのだろう。神国に収奪される状況に耐えられるとは思えないからだ。


「海に沈む国土を陸地に変えたネデルの奴らは、一筋縄ではいかないだろうが、神国もかなりのものだからな」


 王国もギュイエ領や内海側の領土で神国とは幾度となく戦ってきた歴史がある。出身国別に編成された傭兵中心の軍ではあるが、神国・ランドル・法国出身の部隊の練度はとても高く、火砲の充足率も高い。部隊によっては半数が銃兵であったり、少なくとも二割は銃兵をもつ。


 また、軽量の野砲を装備し、戦列を崩す為に打ち込んでくるもしくは、攻城戦に使用してくる。


「ネデルとランドルが神国に落とされれば、今度は王国に矛先が向くだろ。それは避けたい」


 数代前に婚姻により皇帝領となったネデル・ランドルは、自由都市が経済規模の多くを占めていたが、なし崩しに軍税を掛けられるようになり、また原神子派弾圧と合わさり、帝国・神国に反抗するようになった。


 課税により反乱を起こすのは、王国にランドル領が所属していた時代も良く起こっていた事であり、それが原因で袂を分かつ事に繋がっている。今回も、それが原因なのだが、神国の軍事力で抑え込まれれば、一気に王国の危機となり兼ねない。


「先ずは、ネデルで神国が動けなくなるようにすることだ」

「それは、オラン公に期待する事にしましょう。私たちが協力できるのは精々魔物狩りと、蒸留酒を提供するくらいですから」


 ネデル領内の状態がどうなっているのか、メインツに戻り次第、オリヴィと連絡を取りたいと彼女は考えていた。



これにて第六幕終了となります。お付き合いいただいた方、ありがとうございました☆


第七幕『二度目の帝国行』後日に投稿開始いたします。



【作者からのお願い】


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よろしくお願いいたします!


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[気になる点] どこかのお姉さんの妹ちゃんレーダーがピクピク反応してそうですw 「私の出番だね☆」
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