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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ディルブルク』

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第346話 彼女は会議に参加する

誤字訂正・ブクマ・評価・感想をありがとうございます!

第346話 彼女は会議に参加する


 既に手紙にてオラン公との交渉内容に関しては説明している。表立って王国は支援しないが敵対もしない。可能な限りオラン公がネデル領内で抵抗する事を支援する。


 リリアル男爵を観戦武官として受け入れる対価として、末弟エンリを王都で保護する。また、その際、騎士学校へ入学を認め、ネデルの亡命貴族の子弟も今後受け入れる試金石とする。


 リリアルは冒険者としてオラン公から『魔物討伐』の指名依頼を受け、対価を得てオラン公の軍に同行し、魔物討伐を行うものとする。


 ルリリア商会を通じ、王国からの商品の購入を行う。その内容は主に医薬品であるが、今後は都度検討する。これは、将来的に武器・糧秣の購入に充てる可能性も残している。


「ふむ、概ね受け入れられる範囲だろうか」

「……将来的にオラン公がどうなるか分かりませんから、今の段階ではこれしかないでしょう」

「しかし、倒れられても困る。ネデルが落ち着けば、次はそこから王国への侵攻もあり得る。無かったとしても、ランドルまで完全に神国の支配下に収まれば、経済的にも軍事的にも東西に大敵を抱える事になる」

「またサラセンに支援するかぁ」


 国王の祖父に当たる先々代国王は、王国が東西から帝国皇帝に攻撃された際、サラセンと密約を結び、サラセンはウィンを包囲するまで攻め寄せたり、内海でも王国に寄港し補給を受ける事で内海西部までその海軍を進めた。あまり褒められた手段ではないし、対価も相応に支払う事になる。


「それと、亡命した原神子信徒が王国内で騒ぎを起こさないかどうかの問題ですが……」

「それは問題ない。近衛連隊と増強された騎士団が『聖都』から『ミアン』周辺に展開している。それと、ルーンの新市街と駐屯地も良い効果を発揮している。おかしな活動をしている他国人に対して、市民が厳しい監視の目を向けているからな」


 聖都・ミアン・ルーンと魔物騒動があり、リリアルと最近関わりのある都市でである。他国の工作活動のお陰で、原神子信徒を含めおかしな活動を行う人間が、近隣住民に通報され騎士団が捜査する活動が増えている。


 結果、魔物だけではなく、不審な外国人に対する抑止効果となっているのだと騎士団長は説明する。


「各市参議会には通達を出すか。原神子の亡命者を受け入れるのは許容するが、本国同様に偶像破壊などの活動をするものは、逮捕・拘留し、その引受人共々相応の財貨を補填させたうえで、ネデルに追放する……というのはどうだ」


 戻れば異端審問の上財産没収で処刑。王国内で保護されたいのなら、身の程を知れという示威行為である。


「それが宜しいでしょう。本人だけでなく、家族・身元を引き受けた王国人にまで禍が及ぶとなれば、周りが抑止するでしょう。それができないのなら、ネデルで異端審問を受けさせる。神国の心証も良くなり、我々は財産を国庫に納めることができる。良い考えです」


 宮中伯は国王の思い付きにすかさず政策・法律として落とし込んでしまう。直ぐに、部下を呼び、今の内容を草案として書き上げる事を命ずる。恐らく、明日の朝には、各市の参事会宛に国王からの命令書が届くことになるだろう。


『この国王と側近、怖ぇな』


 王国内では、御神子も原神子も互いの信条を公に否定しないという和約が成り立っており、それをネデルやランドルの逃亡者が我が物顔で持論を振りかざすのを許容すれば、王国内の和約が反故にされる。


 あるいは、外国人なら宗派争いを王国内でしても良いという解釈が可能であれば、他国人を装った敵対する宗派への攻撃なども行われるかもしれない。


「王国の中で、余所者にデカい顔をさせないのは当然だ」


 騎士団長は「徹底する」と言葉にした。


「ヴィルムの奴は元気か」

「はい。陛下の助言に深く感謝されているようでした」

「あれは、知らずにいれば大変なことになっていただろうからな。いや、知っていても大変なことになっているが」


 皇帝と国王のネデルに始まる異端審問の奨め。やがて、それは全世界に広がっていく。


「阿呆みたいに金を使って戦争して破産してるからなあいつ」

「……」

「ああ、私は面識ないのだが、王は神国の王と面識があるのだ」

「彼奴が王太子で皇太子の時代の話だがな。フィルは生真面目で優秀な奴だが、思い込みも激しくてな」


 どうやら、物凄い数の書類を作成し、自分の国の隅々まで、自分の意思を徹底させようとするのだという。


「少し前のリリアル男爵は似たように感じたが、周りが育ってきて少しは他人に任せることができるようになって安心している」

「アルマン様程抱えてはおりませんわ」

「はは、リリアル男爵は王国を離れて帝国まで自ら出向いているではないか。宮中伯は王都から一歩も離れんからな。それはどうだろうな」

「私が王都を離れようとすると、書類が追いかけてくるので離れる事が出来ないだけです」

「いや、それは陛下の仕事だろ? お前、仕事させられすぎ。少しは陛下を見習って、投げる仕事は部下に投げるべきだろうな。あ、リリアル男爵は貴公の部下ではないので、他の者にな」


 騎士団長が、彼女の側の目を軽くウインクしている。とてもありがたい配慮である。


「それと、男爵の打ち合わせてきたオラン公との取り決めはどうだ」

「概ね問題ないでしょう」

「騎士団はこの件は不干渉にすべきですか。外交案件にしなければ、神国が王国に関与する口実になり兼ねませんからな」


 あくまでも、ネデルの貴族と王国の外交的な交流とすることで神国からの追及された場合の逃げ道とするのだ。


「幸い、リリアルは神国にあまり知られておりません」

「王妃の作った慈善団体に騎士団と名乗らせている……くらいの感覚だな」


 実際、討伐関係の依頼の多くは冒険者として受けているので、リリアルの実績はあまり表面に出ていない。竜討伐も外国からすれば「お芝居」と思われている部分もある。


「リリアル男爵の実績が『妖精騎士』として芝居になっておりますが、芝居の内容の方が、大人しいですからね」

「この目で見なければ誰も信じられないだろうな。私も宮中伯もそれで最初に男爵に痛い目に会っている」

「騎士団はともかく、私の場合近衛の横車ですから。私は痛くも痒くもありませんよ騎士団長」


 そういえば、王女殿下の護衛の際には腕試しがあったなと思い出してみる彼女であった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ネデルに対する政策、およびオラン公との密約の件は宮中伯が取りまとめ、数日後、公爵弟のエンリを王宮で謁見し、その後、宮中伯が答える場を設ける事になるという。


 その際、エンリ主従は王宮に泊まり饗応を受ける事になるのだという。


『お前も、お呼ばれするとはな』


 王国に案内した者として、彼女もその晩餐に参加する事になる。帰りは子爵家に泊めてもらう事になるだろう。夜中に王都を出る事は、緊急事態でもないかぎり不可能だからだ。


「それより、王妃様にお呼ばれしている今の方が問題よ」


 昼食を一緒に食べましょう~と、国王陛下経由で伝言を賜っているので、急ぎ会議の後、王妃様の元へと案内されている。


「せ、先生まさか……」

「多分同席する事になるわね。王女殿下もいるでしょうし……」

『あの公女様もいるんじゃねぇか?』


 王妃様付きの近衛騎士であるカトリナも同席する事になるだろう。その場合、ギュイエ公爵令嬢としてだろうか。





 予想通り、彼女と碧目金髪が案内された部屋には、王妃殿下、王女殿下、公女殿下が……おらっしゃりました。


「久しぶりねぇ~ 帝国はどうだったかしら~」

「お元気そうで何よりですわぁ。お話聞かせてくださいませぇ」

「久しぶりだなアリー、いやこの席ではリリアル男爵閣下と呼べば良いのか」

「……皆様ご無沙汰しております」

「……お招きいただきまして恐縮です」


 一人王族でもなく貴族でもない碧目金髪は、めちゃめちゃ緊張している。本当に、動悸が激しい。


「彼女はカエラ。今回、帝国に同行したリリアルの従騎士になるわね。今日は会議に従卒として連れてまいりました」

「始めましてかしらぁ」

「私は面識があるぞ。リリアルで銃手を務めていた。ミアンの防衛戦では、ゲートハウスから次々とアンデッドどもを撃ち滅ぼして行ったのを私も感心して見ていたものだ」

「それは素晴らしいですわぁ。リリアルには多才な方がお集まりですのね!」


 王国の頂点に存在する貴婦人三人から話しかけられ、酸欠の魚のように口をパクパクさせる碧目金髪である。


「帝国のお話を少し」

「とても興味深いわぁ」

「食事はどうなのだ」


 いきなり食事に招かれて、帝国の食の話をするとはさすがのカトリナである。もう少し、文化の香りのする話をするべきではと彼女は思う。


「多くの領邦が独立した国のように成り立っているので、街々でかなり趣が変わりますね。修道院の門前町が城壁を構えて一つの都城になっていたり、その街の成り立ちで住人の気質もかなり変わります」

「そうか。確かに、ギュイエと王都では住人の気質もかなり違うが、隣り街程度でもかなり変わるのか」

「それと、原神子派の信徒の活動が活発で、街によっては教会を築くことを禁止したりもしておりました」

「まあ、それではあの方たちも集まって気勢を挙げることができませんね。自分の信仰心を他人の信仰を否定する事で表そうとする姿勢が、正直好感が持てません」


 王妃様は原神子派ではないが、ギュイエ公爵領には随分と原神子信徒が多いと聞く。カトリナは原神子派なのだろうかと彼女は少々疑問に思い、確認してみた。


「名目上は、原神子派だ」

「……どういう意味なのかしら」

「つまりだ、御神子の信徒は原神子の信徒を激しく否定する事は無い。まあ、そういう考えもあるかもなという程度だ。反対に、原神子派の者達は、排他的な者が多い。一々議論を吹きかけてきたりしてうっとおしい。故に、『原神子派』と聞かれれば答える。そもそも、御神子の信徒は宗派を聞いて来ないしな」

「「「……なるほど(ですわ)」」」


 公爵令嬢ゆえにできる態度でもあろうし、カトリナの性格から来る方便でもある。彼女は神と聖典を信じる……とだけ答える事にしようと思う。教会に関して議論する必要はない。少なくとも、美しく描かれた絵をわざわざ破壊する愚を肯定する気にはなれない。


『教会自体が信仰心を高めるための舞台装置だからな。絵だって像だってその道具の一つだ。なんなら、ガーゴイルの樋も破壊すればいいだろうが、奴らはそんなことはしねぇよな。まあ、僻み根性だ』


『魔剣』の呟きに彼女も内心同意する。自分の信じるところをわざわざ口にし、周りも同意していないと不安になる程度の信仰心など、信仰心とは言わないと彼女は考えてもいる。


「森が深いという印象もあります」

「確かに、険しい山も多いのだったな」

「川沿いを離れると、山ばかりよ。北の方や東の方はまだ足を向けていないのだけれど。メイン川の中流、メインツとコロニアの周りを少し動いただけだから、それほど詳しいわけではないのですもの」

「あら、意外と動いていないのね」


 今回は、帝国の様子を見に行っただけなので、長期的に行くのは次回からとなるから当然でもある。


「それで、オラン公とはどうなりそうなのかしら」

「私の口からは何とも言えません。宮中伯様の所で、草案を起草されているようです。主に、ネデルから逃げてきた原神子信徒に対する対策が主になりそうですが」

「彼奴ら、人の国で好き勝手やり始めるからな。取締れるように法整備されるなら、ギュイエ公領も統治しやすくなる」


 原神子信徒の多いギュイエにおいても、問題を起すのはネデルからの招かれざる客のようである。


「王都は大丈夫ですの?」

「幸い、騎士団の増強が功を奏しているそうです。後は、不逞信徒を取締り、教会や他の信徒を襲った者は財産没収の上、ネデルの総督に引き渡すようにするそうです」

「はは、夷を以て夷を制すだな。アリーが考えたのか?」

「いいえ。お考えになられたのは陛下です」

「まあ」

「お父様も腹に据えかねておられるのでしょう。お兄様も南都に行かれてお忙しいでしょうから」


 王太子が本格的に王国南部の王太子領の統治に赴いたため、王太子のみになっていた仕事も国王の仕事となっているので大変だというのだが、そもそも、王太子の仕事になる前は本人の仕事であったはずだから、単に怠け癖が付いただけではないかと思われる。


「……」

「大丈夫?」

「……はい……」


 会話に一切参加することなく、気配を消すかのように座っている碧目金髪。そこにすかさず、カトリナの魔の手が押し寄せる。


「カエラは何歳になる」

「じゅ、じゅ、十七歳でございます」

「ほぉ、では私と同じ年だな」

「畏れ多い事に……」

「何を言う。私と同じ年であることが畏れ多ければ、私以外の者がその年生まれてこなくなるではないか」

「それは困るわね。同級生ゼロですもの」


 困るのはそこじゃないぞと碧目金髪は思いつつ、周りを見て「おほほ」と笑う事にした。周りに合わせるのが社交の基本と教わった事を思い出しつつ、懸命に場の空気を取り繕う。


「子供ばかりかと思っていたが、リリアルにも立派に淑女がいるのだな」

「ええ、少なくともここに二人はいるわね」

「むぅ、それはそうだが……お、そういえばまだ伝えていなかったな。実は、私も婚約する事になってな」


 思わずカトラリーを取り落とす彼女。


「そう言う夢を見た……という事ではなくて?」

「ああ。アリーも見知っているだろうが……」


 カトリナはどうやらサボア公爵殿下の婚約者となるようである。ジジマッチョに鍛えられ、王太子にちょっかいを掛けられ成長しているのだろうかと、彼女は少々心配になっていた。更にカトリナの相手はとても大変そうだからである。






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[気になる点] 支払う/事になる。 神子の信徒は/宗派を聞いて来ないしな /に余分な改行が入っています。
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