表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ディルブルク』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

377/1001

第339話 彼女はディルブルクに事を伝える

誤字訂正・ブクマ・評価・感想をありがとうございます!

第339話 彼女はディルブルクに事を伝える


――― ディルブルク


 メイン川の支流ディー川(メインツとコロニアの中間あたりで合流)及びディー渓谷(ディー川上流域)を擁する場所にある。


 ナッツ伯家の居城であり、川沿いの丘の上の砦を改修した近代的城塞。三十年程前から改修が進んでおり、渓谷の中心地となっているが、街を囲む壁は無い。伯爵の居城に必要な官吏・使用人が住む居住区が付随している。


 ヴィルムの父の代に大きく手が入っており、元は丘の上の城塞、キープ(keep)もしくはドンジョン(donjon)のことを、帝国ではベルクフリート(Bergfried)と言うが、それを大いに拡張し、丘の上全体を一個の要塞とした。


 大砲の攻撃に耐えうる外壁、銃の射線を確保する外構、防御拠点として西側に塔が増築されている。街壁がない代わりに住人を城内に収容可能であり、その人数は二千人とされている。


 帝国では末葉の貴族であるナッツ伯爵の居城としてはとても堅固であると言える。





 メイヤー商会には『王の百合が届いている』と伝言を委ね、蒸留酒とトワレを一揃い贈らせたのだが、まだ返事がない。恐らくは、彼女たちの存在を調べさせているのであろう。


 オリヴィ達がネデルで調査をしているので、お相子である。


「上手く会えるのかねぇ」

「どうでしょうね。相当お困りのようだから、何とかなるのではないかしら」


 彼女はそう答えると、リ・アトリエメンバーに、これまで知りえたオラン公ヴィルムに対する情報を説明し始めた。今までのように、彼女一人で考え行動するのを少しずつ変えようと考えていたからなのだが。


 彼女の知るオラン公ヴィルムの来歴は以下の通りだ。


 ヴィルム十二歳の時、従兄であるオラン公ルネからオラン公の爵位を相続することになる。オランは人口わずか三千の王国内の公国に過ぎないが、独立した君主としての地位を保っており、王国の王、帝国の皇帝と対等の対面を保つ存在であった。


 オラン公の爵位が、彼の存在を特別な物に祀り上げて行くことになる。


 また、この相続により、ネデルに相続財産が発生し、その相続条件が御神子の信仰であったことから、オラン公ヴィルムとなる為に宗旨替えを裁判所で行う必要があった。原神子信徒としての教育を受けながら、改めて、御神子の教育を受けなおす機会を得たことが、この先の人生に大きな影響を与えた。


「珍しいですね。まあ、財産の為なら仕方がないか」

「おいしい相続」


 十八歳で最初の妻と結婚する。妻はネデルに領地を持つ伯爵の娘でありこれを契機に、ネデルとの関わりを深めて行く事になる。


 その後、皇帝の宮廷で外交官として教育を受ける。帝国語・王国語・神国語・法国語・ネデル語を修め、数年間、そこで仕事をする。


 先々代皇帝の退任式において、足の悪い皇帝の支えとなり介添えをするほどの信用を得る。この時二十二歳。現在の神国国王とは、父である皇帝の宮廷において既知であり、親しくしていたとも言う。


 神国王の代、ヴィルムを懐柔する為、帝国金毛騎士団の一員に任じた。これは、国王の最も信ずる騎士を示すものであり、本来は、皇帝が相続した物なのだが、父である皇帝から騎士団の権利を神国王が直接相続した為『帝国金毛』の名称を有している。元は、ランドルを領した君主が設立した

騎士団であり、ランドルを婚姻により皇帝が得たため踏襲しているものだ。


 また、王の顧問としての役割を与えられ、ネデル北部臨海部三州の総督に任じられている。




 二十六歳の時、ネデルには王の異母姉である公妃マルガリータが総督として赴任し、原神子信徒を弾圧し始めた。その行動にヴィルムは他の貴族と共同で反対する意見を具申したが、政策が改められることは無かった。


 この意見具申が神国王の感情を害したとされている。


 また、二十八歳の時、ネデル貴族の妻が病死し、帝国・神国との関係を改善する意味もあり、二人目の妻は帝国貴族の娘を娶る事になる。


 とはいえ、神国の圧政は緩む事が無かったことから、総督諮問機関である各評議会からヴィルムは距離を置くことにし、また審議の内容に対し抗議を行い始める。


 総督は『ロックシェル』に滞在し、中央政府を運営していた。そこには、税と配分を司る財務評議会、日常の統治を行う法律家からなる枢密院評議会、ネデルの上位貴族が在籍し主要な政策を決定する国務評議会がある。


 総督の下には、十七の州を統べる『州総督』が存在し、州議会を運営し、其々の州の軍を統括する司令官を兼任していた。神国国王とその代理人である総督と、地元の利益代表である州議会の間の調整役を務める者が『州総督』であると言えよう。


 近年は、徴税を強化する必要性から、州議会の代表者を集めて国王の意を伝える「全国会議」が開催されるようになる。


 次第に、皇帝・国王の側近からネデルの君主として行動を取り始めたと考えられるのだ。




 三十一歳の時、国務院においてヴィルムは一時間にわたる演説を行い、『王が人々の良心を支配し、信仰と宗教の自由を奪うことを喜ぶことができない』と自由を求めてオープンで明確な嘆願をした。


 翌年、神国王は国務院評議会でのヴィルムたちの要請を完全に拒絶。ヴィルムたちネデルの貴族は連合し、総督に対して請願書を提出、原神子信徒の弾圧を止めるよう求めた。


 しかしながら政策の変更はなく、原神子派による教会や修道院への偶像破壊の暴動が発生する事になる。ネデルにおいて数百の施設がその破壊の対象となった。


 ネデルの騒乱を鎮める為、総督マルガリータはヴィルムたちネデルの貴族と提携することをになり、ヴィルム等は騒乱の激しいロックシェル(Rocksell)に部隊を率いて入城し、暴動の鎮圧にあたるなど試みたが、既に、次の政策が神国から発せられていた。




 三十四歳の時、神国王はネデルの騒乱を修める為、バレス公フェルナンを派遣。ヴィルムはナッツに退去したものの、残ったネデル貴族は叛乱の責を問われ二人の伯爵を含む二十人が処刑されている。


 ヴィルムの十二歳の長男はこの時、ネデル領内で学生生活を送っていた為、家族のナッツへの退去に一人同行していなかった。フェルナンは長男を神国へと送り出す処理をした。


 融和政策を指示するマルガリータと強硬論を主張するフェルナンの関係は並行線となり、マルガリータは総督の座をフェルナンに譲りネデルを去る。


――― そして、弟が領主を務める実家のナッツ伯領に至る。




「自分だけ逃げた……か」

「そうじゃないでしょう? 逃げなければ処刑されるかもしれないんだから。一度国外に脱出して機を伺っているんだと思う」

「同感。だけど、どういうつもりなのか、何をしたいのかは不明」

「そりゃ、何時かの俺らみたいに、自分たちの存在をネデルの市民にアピールする必要があるから、早急に挙兵するだろうさ」


 ミアンに無理やり入城した聖リリアル学院のメンバーのお陰で、ミアンに立て籠もる市民は大いに士気を揚げた。ネデルに駐留する神国兵を即座に撤退させることはできなくとも、軍を興して留まる市民や味方を勇気づける事は必要だろう。


 軍が動けば、異端裁判の捕り手も手薄になるわけで、刑罰が進まなくなる可能性も高いだろう。軍を興し、神国兵を引きずり回すだけでも意味がある。


「それでも、兵が集まるかどうかというのもありますね」

「神国兵何人くらいいるんだよ」

「ネデル全体だと数万という規模らしいわ。全部を動かせるかどうかは分からないけれどね」

「そりゃ、国王陛下クラスじゃないと動員できない数じゃないの。知らんけど」


 最初から勝てるわけはない。時間をかけて疲弊させる必要もある。長い時間戦えば、戦費も掛かるし士気も下がる。少数の軍で何度かに分けて侵攻するだけでも効果があるだろう。


 但し、こちらも傭兵、あちらも傭兵だと話が難しいのだが。


 彼女が騎士学校で教わった限りにおいて、神国兵の用兵は大いに進化しているという。


 それまでの方形の槍兵の集団が、騎士の突進を受止め跳ね返す為の移動陣地であったのに対し、横長の方陣に変え、正面を広げるとともに、その前列と左右に銃兵を配置し、更に大砲を並べ射撃を持って歩兵の方陣にダメージを与えた後、突撃する形に進化させた。


「銃が沢山必要」

「そうね。一隊が三千人で、その内六百人が銃兵を構成しているわ」


 それまで、五千から八千の歩兵の集団を分割し、三千程度の集団として機動性を良くし運用しやすくしているとも言われている。


 銃の登場のお陰で、騎兵の突撃に薄い縦列でも対応できる様になり、むしろ、方形の長槍の集団では移動速度が低下することを少人数化することで改善しているとも言える。


「俺達には関係ないけどな」

「そうね。でも、その内騎士学校へ通う事になる時には、散々勉強させられるから、知っておいて損はないでしょう」

「……かなり先」

「あはは、私は騎士ではないですけど、でも、知るのは楽しいです」


 碧目金髪は騎士の叙爵を受けていないので騎士学校へ行く予定はない。赤目銀髪は、あと五年は行く事は無いだろう。


「その銃も練度もたっぷりの軍隊に、その辺の傭兵集めて攻め込むなんて、随分と無茶振りされるね」

「でも、行かないと立場を失う」

「没収された財産もね」

「けっ、金なさそうな公爵様だな」


 相続したネデルの領地も、場合によっては国王に没収されるかもしれない。異端審問で有罪となれば、財産没収の上漏れなく死刑である。逃げれば財産没収だけで済むのだから、逃げたという事だろう。


「とにかく、連絡を待ちましょう」


 アジトの整理整頓をしながら数日、彼女はそれなりに充実した日々をメインツで過ごす事になった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 黄金の蛙亭とアジトの往復。街の家具屋や雑貨屋を巡り、アジトでの生活用品を揃える日々が続いた。冒険者ギルドに顔を出し、街近の依頼を受けるメンバーもいたが、泊まりの仕事は入れずに待つことにしていた。

 そして数日後、彼女の部屋に宿の支配人が来客を告げに来た。


「アリサ様にお会いになりたい方が訪れております。お約束ではないようですが、貴人の遣いとの事で、お話だけでも聞いていただけませんでしょうか」

「構いません。食堂の一角をお借りできますでしょうか」

「勿論でございます。ありがとうございます」


 支配人は丁寧にお辞儀をすると、部屋を出て行く。


『オラン公の遣いだろうな』


 名前を出さないが、恐らくはそうなのであろうと彼女は考える。


「兎に角、お会いしてみましょう。セバス、行きましょう」


 残念ながら、今黄金の蛙亭にいるのは歩人と彼女だけである。心許ないが、いきなり荒事になる事もないだろうと彼女は考えていた。





 食堂の奥まった場所で、既に一人の中年の男性と、二人の若い騎士らしき同行者が座っていた。三人は立ち上がると、自己紹介を始める。


「こんにちはお嬢さん。遣いを貰ったので参上しました。王国の百合がみられると聞いてきましたが、あなたでよろしいのでしょうか」

「先日、人を介して蒸留酒を献上した商会の娘ですわ。ルリリア商会のアリサと申します」


 中年の男は笑顔を浮かべ頷いているが、目が笑っていない。勿論、従者二人は観察する鋭い目を彼女に向けている。


「私どもとしては、お困りの方がいらっしゃれば、手を差し伸べようかと考えておりますのよ」

「はは、確かに、美味い酒には困っている。済まない、立ったままでは話もできないから、座ってもらってもいいかな」

「ええ。セバス」


 歩人が椅子を引き、彼女は席に着く。歩人は背後に立ち、執事然としている。


「良い酒と、良いトワレを頂いたお礼を言いたくてね。これは、先日までトラスブルへ留学していた末の弟でね。歳は……幾つだったっけ」

「先日十七歳になりました兄上」

「……だそうだ。息子みたいな年齢の弟だが、間に十人も兄弟がいるからな。まあ、貴族ってのは子供を沢山作って縁を結ぶものだからな」

「そうですわね。それに、自分の代理として戦場に送り出すにも男兄弟は欠かせませんものね」


 二人はそれぞれの思うところを含めた言葉を紡いでいく。


「さて、わざわざ王国からこんなところまで特上の蒸留酒を売りに来られたのは、どんな思惑なのか、聞いてもいいか」

「必要な方に必要なものをお売りするのが商人ですもの。例えば、神国は常に戦争をなさっておられますから、コロニアやメインツでその酒保商人と知り合えれば、そこに商品を流す……という事も考えておりますわ」


 元々、神国軍・帝国軍の兵站に潜り込み、吸血鬼の存在を捕捉し討伐するつもりであったが、いまはどちらの線でも構わない。戦場で吸血鬼討伐を行うのも良し、人知れず神国軍の酒保に入り込んで討伐するも良しだ。


 ただ、神国がネデル関連で王国にちょっかいを出す気なのであれば、軍ごとダメージを与える方が効率が良いとも彼女は考えている。


「それで、まだお名前を伺っておりません。失礼ながら、どちら様でしょうか」


 彼女は確信していた。十七歳の弟を持つのは、オラン公本人の兄弟。オラン公と次兄のナッツ伯は二歳差だから、どちらかだろうと。


「そうだな。では、そちらが本当の身分を名乗るのであれば……」

「本当の身分ですわ閣下。母が商会頭を務めておりますし、私は子爵家の次女ですから。ですが、こういう地位も賜っております。王国副元帥リリアル男爵」


 弟君は「え、この少女が」と思わず口に出てしまっている。もう片方の従者がフォローをする。


「エンリ殿、リリアル男爵は妖精騎士と呼ばれる少女だと聞いたことは無いのか?」


 そして、当の本人は小声で、「オラン公ヴィルムだ」と自らの名を名乗った。





【作者からのお願い】


「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。


よろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 16世紀の歴史は詳しくなかったために今まで判然としなかったのですが、オラン公のおかげでようやっとわかりましたww 歴史の勉強ではマクロな視点からハイライトだけが取り上げられるので、リリアル…
[気になる点] 今回もまた不要な改行だらけになっていますので修正した方が良いでしょう
[良い点] 時のない [気になる点] 最近の政治話に興味ないので…読まずにほぼスルー。 [一言] せっかくの面白いキャラがいるのだから活かして欲しい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ