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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『アジト入手』

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第335話 彼女は魔銀鉱山を訪れる

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第335話 彼女は魔銀鉱山を訪れる


 エッセを出たのは既に暗くなりつつある時間であり、オリヴィは「急ぎましょう」とばかりに、エッセの街の前を流れる川を渡り、森の中へと分け入っていった。


 オリヴィとビルは夜間視ができるようで、彼女はそこまで見えるわけではない。二人の後ろを魔力走査を用いながら追いかけて行く。


『無理すんな』

『主、私が追いかけます』

「ありがとう」


 見え方が異なる分、神経も使うし歩く速度も中々上げることができず、彼女は少々疲れてきていた。


 山の中をしばらく進むと、ボタ山のある草原が見えてきた。どうやら、鉱山の入口が近いらしい。


「こっちよ!!」


 オリヴィが手を振る。どうやら、正面からは見えない位置に入口を設けているようだ。


 オリヴィに近づくと、そこには数十の犬頭鬼(コボルド)がオリヴィを歓迎しているように並んで騒いでいる。どこかで見た光景でもある。


『あー そういえば、水晶の村のコボルドって何やってるんだ?』

「村に定期的に集めた水晶を収めて、代わりに食料を貰っているのよ」


 彼女の姉が間に入り、水晶の買い上げ、食料の搬入を行っているのだ。つまり、ニース商会南都支店のお仕事になっているのだという。最終的に、あの地域は姉の伯爵陞爵後に拝領する領地の一部なので、彼女の中では特に問題を感じていない。分け前寄越せとか思ってもみない。いや少しは思う。


「オリヴィだけですか」

「ああ、ビルは、猪か鹿を狩りにいっているから。もう少しすると、戻ってくると思うわ」


 この薄暗い中、ビルは鹿狩りに出かけたという。彼女は魔法袋の中から、ワインの樽を二つ出す事にした。鯨飲できるほどではないが、この鉱山で採掘させてもらうとするならば、ちょっとした挨拶代わりの手土産にしようと考えた。


「オリヴィ、皆さんにワインを振舞いたいのだけれど」

『ワイン……』

『ワワワワイン!!』


 何やら犬の鳴き声のようなワワワワインが聞こえてくる。


「回し飲みになるけれど、問題ないかしら」

「平気でしょ? ワインなんて高級なもの、この辺じゃ貴族か金持ち商人しか飲めないもの」


 帝国でもワインは作られていないわけではないが、内海に近い王国や法国とは異なり、数は少ない。麦から作られるエールが水代わりだが、アルコールは低めであるし、味も独特で苦みもある。塩漬けにはちょうど良いが、料理に合わないものが少なくない。


 庶民の料理には合うが、元々法国の料理人が作るような素材を生かした貴族の料理にはワインでないと落ち着かない。人は多いがワインは希少なので王国以上に高価なものとなる。


 連合王国やネデルはギュイエ領のボルデュ産ワインを海路で運び、消費しているので、この辺りの貴族も同様なのだと思われる。


 鹿肉のステーキの前に、ワワワワインで大盛り上がりが始まる。


『マイ・ロード。差し入れに感謝いたします』

「ヴォルフ、私ではないの。私の友達のアリサがね、この鉱山で少し魔銀と魔鉛を譲って欲しいんだって。出来れば鉄もね」


 ヴォルフと呼ばれたひと際大きな体のコボルド。オリヴィ曰く以前はチャンプと呼ばれる個体であったようだが、今ではロードと言える躯体となっている。人狼と見紛うばかりの偉丈夫である。


「よろしくお願いしますヴォルフさん」

『滅相もありません。マイ・ロードのご友人は我主も同然。どうぞ、ヴォルフとお呼びくださいマイ・レイディ』

「では、ヴォルフ。よろしく頼みます」


 レイディと呼ばれたので、令嬢然と会釈する。背後では、給仕係としてみなされた歩人が、せっせとワインを回している。


「あああ!! ちょっと待ってろよ」

『オソイ!!』

『コボスナ!』


 ここでも歩人は悲しい存在である。因みに、歩人用の夜具は特に用意して居ないので、コボルドと仲良く雑魚寝して欲しい。


 ワイワイと楽しくやっていると、ひと際大きな歓声が上がる。どうやら、ビルが大物を狩ってきたようだ。


「運よく、親子で狩れました」

「そりゃ運の悪い鹿の親子だな。まあ、飲んでくれお疲れ」

「はは、では、一緒に解体しましょうか。私が親を〆るので、セバス殿は子供の方を頼みます」

「うう、つぶらな瞳が……俺を見ているぜぇぇぇ」


 死んだ子鹿の瞳が気になるおじさん歩人セバス。木の枝に逆さに吊るし、内臓を下ろす。何匹かのコボルドが内臓を持って川へ向かって走りる去る。中身を洗い流して、内臓も食べる為なのだろう。


 後足から皮をべりべりと剥がしていく。これが二人の今晩の寝床になる可能性大である。


 やがて、前足を切り離し、早速、石の櫓に鉄板を乗せた調理台へと何匹かのコボルドが持っていく。


『塩ヨコセ!!』

『イノシシノ脂ヒイトケ!!』


 などと、既にいつもの宴の準備然と仕事が進んでいく。知らぬ間に、キノコが集められ、肉と一緒に焼き上げられていく。


『意外とヘルシーだな犬頭鬼』

「リリアルの子達にも学ばせたい姿勢ね」


 肉の少ない生活をしてきた孤児たちは、肉ばかり選り分けて食べる。最近は減ってきたが、二期生は相変わらずだ。


 やがて、どこからともなく鉄の串が肉片に刺され、ナイフで斬り落とされ、ケバブ風に仕上がっていく。


『オレハ、キノコオオメ!!』

『シオ!! マワシテクレ!!』


 と、石の炉を囲んだ夕食会は賑やかに進んでいくのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 コボルドとの宴も一段落し、彼女とオリヴィは、彼女の狼の皮テントで休むことにした。中を興味深く見ながら上機嫌のオリヴィ。


「どうだったかしら」

「楽しかったです。でも、随分と人間味のあるコボルド達ですね」

「まあ、そりゃ、私の身内みたいなものだからね。灰色乙女団って名付けて、この場所で鉱山を守ってもらっているからね」


 冒険者になりたての頃からの長い付き合い。最初は争い、彼女に敗れそして仲間になる事にした。コボルドは歩人や土夫程人間社会には馴染めないが、群れを作り、人と生活圏を分ければ共生できる存在だという。


「彼奴らの使う道具を揃えたり、こうやって食事したり。たまにはオークやゴブリン達と戦う事もあるの」


 それは、彼女の過ごしてきたリリアルの生活と似ている気もする。まあ、コボルドといい勝負の悪戯好きもリリアルには多いという共通点もある。


「それでね、明日なんだけれど」


 オリヴィ曰く、採掘と精錬、そして鉄製の道具の補修をして欲しいという希望を彼女に伝える。


「魔銀や魔鉛の鉱石はある程度揃っているはずだから、精錬してもらえばいいと思うの。それと、駄目になっている鉄製品を聖別された鉄塊にしてもらって、それで、ピッケルやスコップを直してもらえると有難いのよね」


 コボルドは鉄製の剣を主に使っているが、一本の鉄の延板を剣に整えた物を使う為、聖別された鉄を補強で使うとコボルド自身が危険な可能性もあるので、木の柄の付いているハンマーやピッケル、スコップを主にして欲しいというのである。


「剣も、刃の部分だけ補修するのはどうでしょう」

「……できれば試してみて貰える?」

「ええ、勿論です」


 彼女は、オリヴィが身内同然に思うコボルド達が自身を守る道具をよりよくする事に頓着するつもりはない。それに……


「コロニアが騒乱に巻き込まれれば、吸血鬼の加わった軍がこの辺りを移動するかもしれません。その時に、聖別された鉄製の武器を装備している方が良いですよね」

「そうね。本当は隠れてやり過ごして欲しいけれど、最悪は抵抗する手段を残しておいてあげたいから」


 オリヴィは彼女に小さな声で「お願い」と伝え、背を向けて眠りについた。





 翌朝、コボルド達と雑魚寝した歩人は死んだような顔をしていた。


「おはようセバス」

「おう、マジ死ぬかと思ったぞ……でございますお嬢様」


 昨日は最後までコボルドたちに囲まれ、話しかけられ、飲まされ、死ぬほど食べさせられ弄り倒されたのだそうだ。全身が獣臭い。


「足だけ見れば兄弟みたいでしょう?」

「足、俺のは一応人間だから。肉球とかねぇから!! でございます」


 毛深いだけで、別にいぬ足なわけではないと強く否定。一先ず、全身川で洗うように指示し、彼女は別れた。


 朝食らしい朝食は特になく、オリヴィはコボルド達に鉱石を揃えるよう指示をし、また、道具類を並べるように指示をする。


「ああ、結構あるじゃない!! この辺、回収した武具でしょう?」


 折れた剣や槍の穂先、変形した兜など、様々な鉄製品の拾い物が並べられる。人間が捨てた武器、戦場で拾い集めた物、そして、攻撃してきた魔物たちから回収した物。入手先は色々なのだという。


「人間相手には戦わないのかしら」

「しないしない。流石に討伐対象になるのは避けないとね。それに、この坑道には隠し通路が沢山あるから、人間が探索してもただの廃坑にしか見えないんだよね。幸い、ここの領主はこの鉱山に興味も利益も感じていないから、このまま放置してもらいたいって感じだね」

『勿論ですマイ・ロード』

『カクレルノトクイ!』

『人間キヅカナイ』


 コボルドがかわるがわる自己主張する中、彼女が並んだ武器を観察する。良く使いこまれている物が多いが、コボルドが作った物ではないようだ。


「武骨でしっかりした道具や武器が多いですね」

「ほとんど土夫製だよね。自分たちで作るのもあるけれど、それは補修するよりも作り直す対象だから、ここにはないのよ」


 ベーメンソードがズラリと並ぶ。これも、そうなのだろうか。


 先ずは屑武器を次々と『精錬』し、聖別された鉄の塊へと変えていく。


「ヴォルフ! この鉄の塊、軽く握ってみて!!」


『聖別』された武器に対して、犬頭鬼(コボルド)がダメージを受けるかどうかを確認してみる為だ。何気なくヒョイと持ち上げたコボルド・キングが『ムぅ』と声を上げる。


「どう? 痛みとかない?」

『……大丈夫そうです。これは邪気払いの鉄でしょうか』

「わかるんだね」


 古の時代、鉄の武器には邪気を払う効能があるとされていた。また、ルーン文字を彫る事でさらにその効能を高めることも出来たという。


 今では鉄の武器は珍しくもなく、その影響もかなり低下しているのだが、彼女の魔力で精錬された『聖別』はその能力を強く持ちそうなのだという。


「具体的には何ヴォルフ」

『『悪霊』払いです。コボルドなら狂化せずに済んだりでしょうか』


 『悪霊』が精霊や動物に憑りつく事で、その存在を悪い物に変えていく。コボルド・キングのヴォルフが『悪霊』に憑りつかれる事で、『人狼』化する可能性もあり得る。


 人狼が人のフリをし、人里で暮らしてる場合もあるのでどのようにして人狼が生まれるのか定かではないが、強力なコボルドがさらに魔物として強化されることが『聖別』された装備で可能であるなら、とても意義のある事ではないかと彼女は思う。


 なにより、オリヴィにとってこのコボルドの群れはただの魔物たちではなく、身内のようなものなのだからなおさらだ。





 『聖別』された鉄の塊を用いて、今度は武具・道具を修復していくことになる。


 片方の手に傷んだ武器を持ち、反対の手に鉄塊に触れ彼女は詠唱を開始する。


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する道具の姿に整えよ……『修復(solitus)』」


 鉄塊が少し小さくなり、反対の手の中の武具が輝きを取り戻し、薄っすらと光り始める。


『ナンダ!!』

『オドロキノシロサ……イヤコレハ!!』


 彼女の修復した武具を手に取り、ワイワイと騒ぎ始めるコボルド達。どうやら、喜んでもらえる仕上がりとなったようだ。


 その中で、何匹かが金属部分を触ると痛みを覚えたり、忌避するような行動を取るのが見て取れる。


『新入りは駄目みたいですね』

「まあ、最近までゴブリンみたいな生活してたのならそうなるか」

「日頃の行いを改めなければ、灰色乙女団に相応しい存在ではないということですねヴィー」

『これって……カトラリーとかに使うと、魔物を炙り出せるんじゃねぇか?』


 ナイフやフォーク・スプーンの類に銀を用いるのが一般だが、毒を見破ることはできたとしても、吸血鬼やそれに類する魔物を避ける事は出来ない。


 聖別されたスプーンやフォークの類であれば、自然と悪霊の影響を受けている存在を弾くことができるかもしれない。


「試しにリリアル用に作ってもらいましょう」

『ああ。先ずは身内からだな』


 彼女は少々悩む事になる。その為に、ひたすら鉄を聖別し続けるのは嫌だなと。





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