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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『アジト入手』

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第331話 彼女はオリヴィと吸血鬼について考える

誤字訂正・ブクマ・評価・感想をありがとうございます!

第331話 彼女はオリヴィと吸血鬼について考える


「あの空き家を借りる事にしたのね」

「ええ。ご存知の方でしたのでしょうか」


 オリヴィは曖昧に微笑み「ビータのね」と付け加える。同じ街の中で長く暮らしているブリジッタには多くの友人知人がこの街にいる。

その一人の元屋敷だという。


「いい立地と建物だよね」

「中は凄かったけどね」

「あはは、片付けマジでしてねぇもんな」


 中身は貸付金相当額と相殺でこちらで買い取る事にしたという話もする。


「いいわね、錬金工房」

「……よろしければ、私たちが不在の時に使われますか?」

「ふふ、ありがとうね。あなた達が帝国を離れる時には、私が借り受けることにするわ」


 確かに、同じ家に住むことは難しいかもしれない。彼女たちが不在の時、帝国での仕事を終えたのちあの家をオリヴィが使うという事はあり得るだろう。





 彼女たちは、オリヴィとビルに人狼・グール・ギルマスの事を相談してみる事にした。


「人狼ねぇ。随分と近くで大胆に活動していたのね」


 オリヴィとビルは存在自体を認知しているものの、遭遇する事は稀であり、討伐できたことが無かったという。


「我々も名が売れていますからね」

「確かに。警戒されて逃げられているのかもね」


 今回、オリヴィ達がエッセへと向かい油断していたのかもしれない。グールの牧場に関しては「昔、オークが潜んでいたことがあるわ」とオリヴィに返される。


「あの場所にわざわざ残してある砦跡って、ワザとよね」

「かもしれません。私たちは、ロタールのファルツ辺境伯かその側近の仕業ではないかと考えています」


 話を聞いた二人は深く頷く。そして、メインツの冒険者ギルドのギルマスがその影響下にある協力者ではないかという推測も凡そ肯定する。


「では、討伐を……」

「そこが難しいのよ」

「何が?」


 赤目銀髪の率直な問い、リリアルメンバーは全員同調している。オリヴィは「長い話になるわ」と断り、吸血鬼と帝国の関係について説明し始めた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 帝国国内には既に使われなくなったものを含め数千の城が存在する。その多くは規模も小さく『砦』と言ってよい規模の物だ。メイン川をコロニルに向かう途中にも、様々な小城が川沿いにあり、その目的は通行税を徴収する事にある。


 王国同様、それ以上に河川を用いた交通が主を占める帝国。古帝国の版図の外にあり、街道の整備も無かったため、その陸路の整備はあまり進んでいるとは言えない。


 小さな領地が散在し、また、帝国において『都市』とされる存在は三千にも及ぶ。その半数は城壁も持たない『街』程度の存在であるが、残りは簡易な城壁を有するものと、『街壁』と呼ぶにふさわしい数mにも及ぶ堅固な城壁を有する者が約千ほどになる。


 古の帝国時代の都市を基にした地もメイン川周辺には存在するが、その多くは、聖征の時代以降に急速に富を蓄えた貴族・商人により建設された物が多い。


 商人同盟ギルドに加盟し、領邦君主からの自治権を獲得した都市の数も百を超える。


 さて、ここ数百年の歴史で何が起こったのか、オリヴィはその歴史パズルのピースを組合せながら説明し始める。


「聖征の時代、カナンの地で圧倒的に劣勢になった聖征国家と呼ばれる聖王国の諸都市を守るため、彼の地で長い間祀られ、若しくは封印されてきた『地霊』と呼ばれる強力な守護精霊を手に入れる為に、王国や帝国出身の聖騎士と修道騎士団は活動したのよ」


 都市や城を少数の聖騎士で守るため、守護精霊としてその地に封じられた『地霊』を自らに取り込む研究を進めたという事が一つ。


「ビルはその関係で、こちらにやって来たのよ」

「私は、三千年の時を経た炎の精霊なのですよ」


 真面目な顔で答えるビルを見ながら、確かに、これほど強力な存在が自らを守護しているのであれば、その試みは適切であったと彼女は理解する。


「勿論、良くない物を目覚めさせることもあったのよね」

「吸血鬼というのは、『土』の精霊の系統に属する植物の精霊と『悪霊』が組み合わさってしまった存在が原初です」


 マンドレイクであるとか、ドライアドなどと称される森の木が長い間生育した結果生まれる精霊。その性格は、旅人である男性を美しい女性の姿で篭絡し、自らの養分とする為に、その対象を取り込んでしまう存在であるという。


「根を相手に張り巡らせ、やがてその血液を水のように吸い上げ枯死させる存在。もしくは、その根を付けた状態で半死もしくは死んだ被害者を操ることもできる。自らの種子を体に植え付け、操り人形にすることも出来る」

「姿を人間の美女に似せ、また『魅了』により姿をそう認識させることも出来ます。植物故の再生能力の高さも吸血鬼の始原に相応しい能力でしょう」


『悪霊』はカナンの地に当時多く存在した。彼女も王都の地下墳墓で見た、それである。


「修道騎士団の聖騎士達の魂が『悪霊』化して、それに憑りついたということでしょうか」

「推測だけどね。でも、最初の『始祖』となったのは多くても二体だと思うわ。確実なのは、アンテオケ公ギー・ド・シャティア」


 ギーは有名な強盗騎士であり、カナンの地で多くのサラセン人を虐殺し、サラセンの君主であるユースフ王の軍に捕えられ、王自ら処刑した程の悪人であり、当時の異教徒に対する強硬派からすれば『聖者』でもあった。


「死体を何らかの形で回収し、その魂と肉体を再生させるために、聖王都に存在した都を守る為に密かに配されていた『大精霊』を用いて復活させたのではないかと推測されているのです」


 同時代人であったサラセンの将の当時供奉していたビルの所見である。


「その大精霊がドライアド若しくはマンドレイクが元となったモノで、その能力をギーの悪霊化した魂が取り込み、肉体に回収した物が始祖だと言うのですね」

「私も直接見たこともあった事もないんだけどね。調べた結果と推測からそう考えているわ」

「姿はある程度偽装できているので、わからないのです。恐らく、内海東部での戦場で活動し、その中で自分の能力を磨いたのだと思います。当時の相手は海に面した要塞に逃げ込んだ修道騎士団たちと、サラセンの諸侯軍ですから。いくらでも敵はいたのだと思います」


 名のある聖騎士が戦死すれば、その姿を偽装し、戦場で『魔力』を有するサラセンの戦士たちと戦い、その魔力と魂を吸収し続け成長したのだという。


「戦場には吸血鬼が紛れ込んでいると考えていいわね。特に、野戦ではなく攻城戦。包囲して時間をかけて戦うから、何度でも魔力持ちと戦い、その魔力を獲得することができるからね」


 吸血鬼の成長には魔力が欠かせない。魔力持ち十人分で隷属種、百人分で従属種、千人分で貴種、そして一万人分で始祖に至る。


 魔力持ち自身が少ない事もあるが、戦場で名を馳せる戦士は意図してか無意識かの差は有れども、魔力を用いて身体強化を成している事が少なくない。つまり、戦場で勇士を倒す事は、自然と魔力持ちを倒しその魔力と魂を手に入れる事につながる。


 相手はライフワークであった討伐すべき異教徒。戦の勝利は二の次であり、自らの野心と能力を高める為に、ギーとその腹心の吸血鬼たちは戦場で異教徒狩りを続けていたのであろう。


「……では、北方聖征であるとか、神国での異教徒討伐や異教徒狩りという一連の行為は……」

「合法的に魔力持ちの魂を搾取する為……だろうね」

「拷問可ですからね。こっそり魔力と魂を奪い、途中で死んだことにすれば後腐れないでしょう?」


 神国の異端審問に関わった聖職者の遺体がワイト化していたこともあった。そう考えると、その聖職者の周りには『吸血鬼』であった者が存在していると考えられる。


「連合王国の得意とした『騎行』もそうだね。もっとも、農村に魔力持ちが沢山いるわけないからそれだけが目的じゃないと思う。追いかけてくる王国軍を幾度も奇襲した部隊が存在した。それが『吸血鬼』の部隊だと思う。連合王国の軍が少数で多数の王国軍を敵地で打ち破るのも理由が分かる。戦場で突然、味方が襲い掛かってきたり、相手の中に吸血鬼が紛れ込んで陣地が全く突破できないとか……数倍の戦力でも負けると思う」

「一度に戦力を戦場に投入できるわけではありませんからね。相手はオーガ並みの能力を持つ吸血鬼に率いられた不死の部隊が紛れ込んでいるのですから。それに、わざわざ近寄れば身体強化を用いねば突破できないロングボウの遠距離攻撃を行わせて、早々に魔力の枯渇に至らせる策を弄しているわけですから。悪辣ですね」


 ロングボウ兵による遠距離攻撃と、野戦築城による防御拠点の形成。一方は野戦だと思っていた王国の騎士達は、ロングボウの射程距離に入るやいなや、身体強化を用いその移動速度を上げなければならなかった。魔力は人にとっては数分、長くとも十五分程度で枯渇する。


 接近するまでに魔力を損耗させた王国騎士の前に立ちふさがるのは、人の能力を素で越えた血を吸う鬼とその僕たち。数分の抵抗ののち、魔力を枯渇された騎士達から餌食とされたと想像できる。


 ゴブリンに喰われる魔力持ちの騎士と同じ運命であったのだろう。


「それを考えると……」

『あのゴブリンを操っていたのは、連合王国に与する吸血鬼ってことか』


 吸血鬼に国境はない。自らの欲する魔力持ちの魂を得る為に、連合王国にも王国にも帝国にも法国にも神国にも存在するのだろう。それは、連携しているわけではなく、それぞれ独自に戦場を作り出す為に活動している。


 君主の側近、傭兵隊長、都市の指導者の中に紛れ込んで。





 オリヴィの説明を聞き終え、彼女とリリアルメンバーは少々途方に暮れる事になった。一体二体ではなく、想像以上の吸血鬼があちらこちらに潜伏しているとすれば、正直手が出せないしキリがない。


 吸血鬼だけでなく、その協力者を含め帝国の様々な都市にしっかりと根付いているとすれば、その存在自体が帝国の一部と言えない事もない。


「マジかぁ」

「ええ、マジよ。こちらにちょっかい出してくる吸血鬼を討伐するのは問題無いとしても、潜んでいる者は正直判らない」


 例えば『枯黒病』にしても考えられるのは、病気ではなく吸血鬼により殺された存在が混ざっているのではないかという疑いだ。都市の半数、若しくは三分の一に及ぶ人が短い間に次々と亡くなる。その間、都市は封鎖され、病人は打ち捨てられる。死体は焼かれるから、証拠も残らない。


「自分が欲する魔力持ちを病気に罹患したという建前で拉致し、その餌食にするなんて容易だからね」

「確かに。市の運営に関わる役職者の中に紛れ込んでいれば、自分のいいように人を動かせるかもしれません」


 吸血鬼の活動が、様々な事件の背後に存在する可能性について考える。


「吸血鬼に飼われているみたいで不愉快」


 赤目銀髪は顔を顰めつつものを言い、それに対して青目蒼髪が反応する。


「ああ、マジであのギルマスは潰してぇな」

「ちょ、待ちなさいよ。あの人は吸血鬼じゃないでしょう? それに、一度潰してるじゃない私たち」

「「「確かに」」」

 

 吸血鬼対策に関しては緊急性が高くない……というよりも、お互いに出方を確認するという段階に過ぎない。相手が反応するまで、恐らくは時間がかかるであろうし、何よりも吸血鬼は連携したり共同で何かをすることがあまりない。


「縦社会で命令系統がはっきりしているから、横の連携も取らない事がほとんどね」

「ですので、各個撃破するのは容易ですが、一網打尽にはならないのです」


 メインツ周辺に存在する吸血鬼は貴種ではないと考えているオリヴィ達は、相手が攻撃してくるまでは放置で良いのではと考えている。


「一般的な住民を直接襲う事は無いのよ。魔力無しの人間には興味がないから当然ね」

「なら、私たちは狙われてもおかしくないですよね」


 碧目金髪の指摘に、剣呑な雰囲気が広がる。特に歩人。オリヴィも同意する。


「そうそう。メインツの冒険者は減ると困るし、魔力持ちは希少だから避けるように命じられているんじゃないかな。でも、余所者なら話は別って事になると思うわ」

「美味しそうに見えるように精々動き回ろうぜ」

「一人にならないようにしましょう。先生以外」

「お、おう」


 歩人は単独になりがちなので特に注意が必要なのだが、誰も注目せず、何となく答えてしまう。もう少しおじさんに優しさを与えて欲しいものである。





 借りた家に関しては、この辺りでありふれた『木骨造』と呼ばれる建物である。王国ではコロンバージュ(Colombages)、帝国ではファッハ(Fach)ヴェルクハウス(werkhaus)と呼ばれる。


 木造の柱に斜めや横の骨組みを入れ、その間を煉瓦や漆喰で埋めていく壁が特徴的な建物で、山国、その周辺の帝国から王国の都市に多く見られる構造の建物だ。丁寧に使えば数百年もつと言われており、初期の都市建設の頃から残る建物もある。


「斜めに入っている木の柱が可愛いですよね」


 王都ではあまり見ないデザインの建物なので、リリアルメンバーは異国情緒を感じているようだ。


「木造より耐火性に優れているし、断熱もそこそこ有効でしょうね」

「つまり、街中で火事が起こっても燃え広がりにくく、冬の寒さに室内の熱が外に逃げにくいという事ですね」


 そうとも言う。石造りほどコストが掛からず、耐火性があるというのは都市の建物として有用なのだと思われる。リリアルの寮にも生かせるのではないかと彼女は考えていた。


「三階建てで屋根裏と地下階もあるから、収納含めて結構広いですよね」

「一人一部屋!!」

「死ぬぞ。二人一部屋か三人一部屋だろ?」


 部屋割りは黄金の蛙亭滞在時と同じになるようである。一階と地下階に錬金工房と台所を設置。二階に食堂とリリアル生の寝室。三階に客室と彼女の寝室兼執務室を設置する事になるだろうか。


「男は小屋裏部屋」

「「……なんでだよ……」」


 結論的には、客室を小屋裏にして三階に男用の部屋を階段フロアを挟んで彼女の寝室と反対側に設ける予定にした。二・三階の部屋には専用のバス・トイレが付くのは、とても歓迎できる事であった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 戦争がミサイルと爆弾で焼き払い、高い威力の銃ぶっ放して死亡率激高な時代になったら吸血鬼はどうするんだろうか
[一言] 吸血鬼が生まれたのは自然発生じゃなくて人間の業のせいだったんだな、一応了承したとはいえ、人の都合で他の場所から連れてこられて最終的に訳のわからない化け物の材料にされるとか大精霊も気の毒としか…
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