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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『帝国行』

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第314話 彼女は冒険者ギルドのお約束を見る

第314話 彼女は冒険者ギルドのお約束を見る


 彼女が王都の冒険者ギルドに初めて登録に向かった時、彼女自身が『薬師』として登録し仕事をしていること、王都を代々管理する子爵家の娘であることもあり、ギルド職員も冒険者も暖かく見守ってくれていた。


 やがて、錬金術師となりポーションを納めるようになると、彼女の存在はギルドにとっても所属する冒険者たちにとってもありがたい存在となり、やがて『妖精騎士』となるに至って、絡まれることなど皆無であった。


 それは、彼女が連れてきたリリアルの子供たちが登録する際にも同様であり、孤児出身の魔術師という存在は珍しかったものの、リリアル自体が騎士団が対応できず依頼としても難易度が高い面倒な物を優先的に処理してくれたことで、むしろとても好意的であったと言えるだろう。





 ところが、この冒険者ギルドは圧倒的にアウェイである。見た目は子供、中身は高位冒険者の集団であるが、それは実戦でなければわからない。故に、こんなことも起こりうる。


「ビルさん、子守も大変ですね」


 ビルを見知っている髭面の中年冒険者が声をかけてきた。どうやら、ビルが何らかの理由で世話をしていると思っているらしい。間違ってはいないが、あくまでも旅の道連れに過ぎず、面倒を見て貰っているわけではない。


「いや、この子達は優秀だよ。昨日もトリエルの手前で山賊に襲われて討伐したからね」

「ほお、まあ一応冒険者してるんだな。ビルさんとオリヴィさんがいればどうとでもなるか」

「……私たちは手伝っていないよ。彼ら四人で討伐したんだ」


 意外そうな顔でビルを見る髭面。


「で、何人だ。二人か、三人か」

「十三」

「は?な、なにいっ……」

「討伐したのは十三人。トリエルの衛兵に引き渡してきた」


 答えたのは赤目銀髪。


「まあ、山賊は楽で良いよな。殺せば死ぬし」

「そうね。クラーケンみたいに海の上にいるわけじゃないから楽よね」

「去年は大変でしたからね。まあ、私はその半分くらいしか関わりませんでしたけれど」


 竜にクラーケン、ワイトにスケルトン軍団、吸血鬼に食屍鬼と去年のリリアルは散々であった。彼女はそれを更に上回る大変さだったが。


 言葉の出ない髭面に、更に赤目銀髪が言葉を重ねる。


「私たちは全員魔術師。見た目通りの能力じゃない」


 その通りである。見た目は細い少女だが、その能力は四人で騎士一個中隊に匹敵する……くらいだと思われる。


「面白れぇ、実力とやらおじさんにも見せて貰えねぇか」


 赤目銀髪は一瞬彼女に目を向ける。彼女は静かに頷く。


『おいおい、面倒なことになるんじゃねぇのか』

「馬鹿ね。こういう場面では、受けて立つのが冒険者らしいというものよ。力こそ正義だわ」

『……なんか生き生きしてるなお前』


 王国での生活と異なり、彼女は少しでも冒険者らしい生活ができるのではないかと期待しているのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 勝負は腕相撲でつける事になった。勿論、剣の腕前でも構わないのだが、怪我でもさせると後々面倒という事で決まったのである。


「その細い腕、ボキッといっちまうかもな」

「安心して。手加減してあげる」

「上等じゃねぇかぁ!!!」


 ナチュラルに冷静に煽る赤目銀髪。髭面はビルよりやや背が低いものの、体は一回り太い筋肉質だ。赤目銀髪は、彼女たちの中で最も小柄であり、身長でいえばビルの胸程しかない。


「さあ、賭けな賭けな!!」


 銀貨一枚で一口。赤い札が赤目銀髪、白い札が髭面。そして、当然の如く髭面に賭けが集中する。八対一。勝負である。


「おじさん、私にも小金貨一枚分お願い」

「お嬢さん、勝負師だね!」


 商人の娘風の彼女は、今日は軽いドレススタイルである。これで、儲けたお金で夕食は豪華にしようかと画策している。


『何倍くらいになるんだろうな』

「五倍くらいになると良いわね」


 そして、賭けが締め切られ、二人が酒場の中央のテーブルに歩み寄る。


 胴元らしき男が審判を務めるようだ。テーブルの状況を確かめ、更に、二人の身体検査。魔導具などを用いて不正がないかどうかの確認だろうか。


 テーブルに二人が肘をつき、そして位置を確かめ腕を組ませる。


「合図で開始だ」


 二人の手を重ねると、大人と子供という表現がぴったりである。重ねた手を

布で縛る。


「無理すると折れるから無理なら力を抜いて倒されろ。カウント、3・2・1・Go!!」


 身体強化の魔力が双方から溢れる。筋肉を膨らませ、一気に引き倒そうとする髭面の表情が固まる。小枝のように思えた細い腕が、地面から生えた鉄の柱のように微動だにしないのである。


「なんだなんだ!!」

「さ、流石魔術師の嬢ちゃんだ!」

「だ、だけどよ。魔力切れになれば嬢ちゃんに勝ち目はないだろ!!」


 額の血管が浮き出るほどの力と魔力を込める髭面に対し、涼しい顔というよりも、いつもと変わらぬ表情の赤目銀髪。その思考は、魔力の操作に集中している。


『あいつ、頭いいな』

「意外と頭脳派なのよね」


 赤目銀髪は腕の身体強化のほか、自分の手の甲の側に『魔力壁』を展開している。つまり、魔力壁を髭面は必死に押しているのである。魔力壁は空間に対して固定されているので、腕力で動かすことはほぼ不可能である。直接自分の魔力で触れれば、魔力壁の魔力を上回る自らの魔力を流し込んで破壊することも可能かもしれないが、それは困難だろう。


「むぅぐぐぐぐ!!!!」

「もっと本気で力を込めて」

「ぐぃわぁぁぁぁぁ!!!!」


 額から汗が水滴のように迸り、腕も折れよとばかりに力が込められる。赤目銀髪は相変わらずの涼しい顔。


 本来、身体強化の魔術というのは精々数分の使用で終わる。魔力を持たない相手に対しては一瞬の勝負であるし、魔力持ち同士であっても長い時間を戦う事はまずない。


 故に、ゴブリンの村塞に向かった斥候の騎士のように、魔力切れにいたる時間はさほど長くはない。十分から十五分といったところである。


 だが、リリアルの場合は条件が異なる。常に寡を持って衆を討つことが前提であり、魔力切れは即座に自分の死のみならず味方の戦列の崩壊をもたらす。それ故、魔力量を増やすだけでなく、魔力の使用量を効率的に行い、繊細な操作を訓練する事で、優に一二時間の継続を行うことができるようになる。


 でなければ、ミアン攻囲戦で戦局を維持できることは不可能であっただろう。


 赤目銀髪の狙いは、相手の魔力切れである。


 既に五分、いや十分ほど経過しただろうか。最初は大きな歓声が上がって一瞬で勝負が付くと思っていた観客たちが次第に静まり返っている。それは、最初から変わらない少女の無表情……冷静な顔と対照的に、赤黒くなった髭面の姿を見ていたからだ。


「もう十分?」

「……ぐぅぅぅ……」

「そろそろ本気で行く」


 一瞬で魔力を練り込めると、一気に手首を返しその腕をテーブルの天板に思い切り叩きつけた。


 BANNNN!!!!


「ぎゃあぁぁぁぁ!!! う、腕があぁぁぁ!!!」


 ちょっと肘の靱帯が伸びているかもしれないが、『我が人生に一片の悔い無し』とそこは言ってもらいたい。


「しょ、勝負あり!! 勝者 赤 マルグリット嬢!!!」


 少し遅れて、赤目銀髪の勝利宣言が為される。


 そして、空を舞う白い札たち……夕食が豪華になってとても嬉しいと彼女は実感する。


「これこそ、冒険者ギルドよね。まるで物語みたい」

『良かったな。他のギルドでも起こるかも知れねぇな』

「ふふ、それはそれで楽しみね」

『今回はすっかり他人事だなお前』


 冒険者でないものが冒険者に絡まれれば普通に事案である。故に、彼女は令嬢風の姿であり、彼らの雇い主風に振舞っているのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「お疲れ様。のどが渇いたでしょう。新しい飲み物を注文しましょう」

「俺が奢るぞ。儲けさせてもらったからな」

「それは私もですよ。ですが、腕相撲で済んで良かったです」

「ビルがいるから揉めないと思った」


 赤目銀髪も帝国の冒険者として有名なビルの連れが理不尽な真似をされるとは思っていなかったようだ。そして、腕相撲の勝ち負けで遺恨になることも無いだろうという読みもある。


「あら、すっかりいいところ見逃しちゃったみたいね」

「お帰りなさいヴィー。どうでしたか?」

「まあ、ちょっと実力見たいそうよ。明日改めて午前中にギルドに来て欲しいという事になったわ」


 大司教からの手紙と山賊討伐の実績が事実なら、問題なく星三等級で三人を認めるという事なのだが、腕前を確認しなければ認められないという。


「悪い事ではないでしょう。推薦状や実績というものはお金で買える場合もありますから。責任者として、実力不足の冒険者を実際の能力より高い等級で承認し、受領した依頼を失敗させた場合の責任問題になり兼ねませんから」

「……私って信用ないのかな」

「ええ、恐らく指名依頼を蹴っている事に対する嫌がらせだと思いますよ」


 ビルがいい笑顔で返す。等級が上がり、貴族並みの扱いを受けているオリヴィだが、指名依頼を断る事も少なくない。それこそ、二回に一回は必ず断る。断らないのは、連続して断ると降格になりそうなときだけである。


「いきなり星三というのは、ギルマスも躊躇する?」

「護衛依頼を受けられる等級なら何でもいいんだけどな俺達」

「アリア様から依頼を受けるだけですからね。指名依頼にしてもらって、帝国内にいる間中、定額って感じで優先で受ける特約でもつければいいでしょう」


 帝国にいる間、依頼の優先権を持って護衛をする。護衛の仕事がない場合に限り依頼を別途受ける事ができるというような内容になるだろうか。


「それなら断っても降格にならない?」

「ならないわね。あくまでも先に契約した依頼の内容が優先だから、断るのではなく依頼の受注中だからという理由が付くわね」

「どの道、継続して帝国で活動するつもりがないから気にしないでもいいのでしょうか?」

「いや、一回取得したら次回も実績引継ぎで紐づけされるだろうから、受けないといけない事もあるんじゃないかな」


 この四人で帝国でパーティーとして活動してもらう事は大いにあり得るので、降格は避けてもらいたいと思うのである。指名依頼以外の依頼を受注してしまえば連続拒否はリセットされるので、指名依頼を断ったのち、簡単な依頼をこなしておけばいいとオリヴィが助言する。


「明日はどんな感じなんでしょか」

「おそらくは模擬戦を一人づつ熟すと思うわ」


 リリアルは個々人の戦闘力をあまり考慮していない。コンビネーションが前提の組合せなので、模擬戦に関してはあまり良い結果が考えられない。


「カエラちゃんは星一で通ると思うわ。でも、一応受けてくれると、星二になるかな」

「えー どうしましょう……」


 碧目金髪は冒険者としての経験は少ないものの、学院内で後輩の薬師を指導したり集団を生かすのが得意な存在である。二期生がパーティーを組む場合は、指揮官として配置することも考えている。同じレベルの初心者の中に、魔力量は少なめでも、視野の広い人の教育に長けた人間を加えて摩擦を減らそうと彼女は考えていた。


 戦闘に直接参加する前衛タイプの伯姪よりも、後方で指揮を執る銃手の方が適役ではないかと考えたためだ。ちなみに、赤毛娘は斥候を兼ねるため、指揮役は不適格と判断している。口下手なところもマイナスだろうか。


「銃の腕を見て貰えば良いのではないかしら」

「冒険者で銃の扱いってどうなるんでしょうね」


 碧目金髪には、彼女が以前使っていた短銃を譲っている。魔銀製の銃身の物を今回使うようになった為だ。


「短銃を使った近接戦闘ならどう?」

「うーん、気配隠蔽してから、死角から撃ち込む感じでしょうか」


 碧目金髪はそれほど格闘が得意というわけでは……ない……全然ない。


「あなた、護身はなかなかの腕前じゃない。思い切ってぶん殴ってみれば?」

「おまえじゃねーんだから辞めろください」


 ギャーギャーと騒ぎ始める蒼髪バディ。思いのほか喉が渇いていたようで、果実水をジョッキで飲み始める赤目銀髪。徐々に冒険者食堂が込み始めたのを見て、オリヴィが「宿に戻りましょう」と声を掛けた。





 結局、掛け金の配当で膨らんだ財布の行き先は、明日のランチで使うことになった。勿論、冒険者ギルドの食堂以外での食事となるだろう。


「宿の食事もかなり美味しいのよね」

「そこがヴィーも気に入っているからこその定宿ですから」


 定宿組の黄金の蛙亭自慢を聞きつつ、その店に魚の塩漬けを卸していたという話を聞きつつ、帝国の冒険者というのは思いのほか色々な仕事をしているのだと彼女は思ったのである。



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