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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『王都の帝国人』 

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第303話 彼女は久しぶりに王都の武具屋を訪れる

第303話 彼女は久しぶりに王都の武具屋を訪れる


 二期生の九人。最初の一月、二月は学院内での座学や実習で時間が過ぎていくだろう。


 リリアルの魔術師の初歩は、魔力操作を出来るようになり、ポーションを作成する為の薬草採取と気配隠蔽の習得から始まる。


 そして、身体強化と剣を用いた護身へと進んで行くことになる。


 既に、二期生用の魔装に関しては老土夫と癖毛で用意する予定であるが、初心者冒険者としての装備はギルド御用達の武具屋で揃えるつもりであった。


 また、最近すっかりリリアル専用の装備ばかりになっている彼女たちは、一般の中級冒険者の装備を自前で揃えることが難しく、この件に関しても顔なじみの武具屋を頼るつもりである。





 帝国へ冒険者として向かう予定の彼女と選抜メンバーは「王国の中級冒険者」として怪しまれない装備を整える必要があった。


 駈出しの冒険者の頃、そして老土夫を紹介してもらい自前の工房を持つまではとても足しげく通った武具屋に彼女は足を運んでいた。


「……これは……ご無沙汰ですね。お噂でご活躍とは聞いておりましたが」

「随分と不義理なことをしておりますが、今日は少々相談に乗って頂けると有難いのですが」


 いつもの……昔馴染みの店員が変わらぬ姿でそこにはいた。武具や防具、リリアルの子達が駆け出し冒険者の頃、よく相談に乗ってもらっていた。


 聞くところによると、彼女と直接の取引はないもののリリアルとは大口の取引先として今でもやり取りしており、品物も納めてもらっているという。


「ですがアリー、改まって今日はどうされたのですか?」


 彼女は、暫く王国を出て冒険者活動をするので、その際、中級の冒険者として相応しい装備を一通り揃えたい旨を店員に伝えた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 帝国行の予定メンバーは彼女に歩人、青目蒼髪、赤目蒼髪、赤目銀髪、そして薬師娘の六人に、ヴィーとビルが加わる。


 青目蒼髪・赤目蒼髪は鎧兜程度の変更で問題ないだろう。主装備はグレイブであり、帝国で普及している装備ではない。赤目銀髪も弓ではなく鏃が魔装であるので、これも装備自体は鎧をダウングレード程度で問題ないだろう。


 あとは、鎧の下に着用する冒険者用の衣類を購入するくらいだ。勿論、その下には魔装胴衣を着用する。


「何だかとても懐かしい」

「ちょっと前まではこんな感じだったわよね、私たち」

「背が伸びているから、昔のは着れないけどな」

「胸が苦しいかも『いや、変わってねぇだろ』……背後から狙撃されたいならはっきり言うべき」


 赤目銀髪は彼女以上にスレンダーである。


「このメンバーに加わって半年以上遠征ですか……正直怖い」

「セバスに何かされたら、即言いなさい。メイン川に錘を付けて沈める事にするわ」

「……確かに、俺は水の精霊とは相性が良くないから、錘を付けずとも溺れると思うぞ……でございますお嬢様」


 土の精霊の加護を持つ歩人は、水との相性が良くないので、魔力に相当の余力のあるにも拘らず『水馬』を使う事を躊躇する。これは、ヴィーにも言えることである。彼女自身は、自分専用の小舟を魔法袋に収納しているので、それに乗る事が多いという。


 歩人が冒険者の衣装を着ると、如何にも「駆け出し」という雰囲気になり、全員が爆笑……彼女は笑いが止まらない程度だが……したおかげで、歩人は不機嫌である。


「機嫌直しなさいよ。あなたの好きな武器を買ってもいいから」

「……そんなもんじゃ、誤魔化されねえぞ!……デゴザイマスお嬢様」


 言葉が堅いので、マジ切れしている。キレる中年である。


 歩人はかなり小柄……赤毛娘と大差がないので、剣も槍も弓も中途半端なのである。故に、斥候役を務めるには問題ないが、荒事には向いていない。茶目栗毛のポジションを担うには少々力不足なのだ。


「あんま、目立つ武器は不味いよな」

「……記憶されるのは好ましくないわね」


 ショートソードの系統は刺突が目的であり、小柄な歩人が装備しても

パワーは改善されない。


「これ、どうだ……」


 歩人が手にしたその剣は、伯姪の曲剣より少し短く、大きく反りを持った鉈のような剣である。


「それは、法国で農民が自衛の武器兼作業用に使う装備ですね。『ベイダナ』と呼ばれています」


 全長は70㎝ほどだろうか。その反りは10㎝もありとても大きい。


「駆け出し冒険者にピッタリじゃねぇか?」

「魔銀製も作ってもらえば……目立たないわね」

「ああ、それなら……騎士の鎧だってぶった切って見せるぜ……お嬢様」


 ただ馬鹿にされただけでは終わらないセバスである。彼女自身は行商人として行動するので、魔銀のサクス以外に剣ではない装備を求めていた。


「これは、槍? 杖? どちらでしょう」


 彼女が手にしていたのは突錐槍(アールシェピース)と呼ばれる全長は1.5m程、半ばまでは持手、中央に円形の鍔を持ち、その残り半分は金属の錐状の穂先となっている。


「この穂先の部分に革のカバーをかけるなりすれば、杖に見えなくもないわね」

「それに、魔銀の穂先に変えれば……」

『竜でも殺せそうだぜ。なあ』


 彼女は店員に「これ頂くわ」と告げた。


 遠慮しがちな薬師娘にもいろいろ奨めたものの、普通に「今あるフレイルで十分です」と言われてしまった。確かに、フレイルで自衛か魔装銃での後方支援が彼女の役割となるので、特に問題は無いだろう。それでも、可愛らしい色合いの旅用のマントを買う事にした。


「……私も欲しい」

「あ、私もいいですか先生」

「セバスにも買いましょうか?」

「俺は普通の草木染の地味な奴で良いだろ……でございます」


 彼女とセバスと青目蒼髪は地味な緑色のマントを購入し、如何にもな感じがする仕上がりとなった。


『魔装布が目立つからな』

「……裏地に縫い付けましょうか」

『いいんじゃねぇか。見た目が駆け出しなら問題ないだろうし、敵中で装備の所為でダメージ受けたら立ち直れないだろうからな」


 ポーションも十分あるのだが、不意打ちで大ダメージを受けたら回復する間もないかもしれない。魔装に関してはある程度制限することになるだろうが、見た目を一般の装備に見せる魔装を開発する必要があるかもしれないと彼女が考えるのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「魔装頭巾な、外からはそうと分からないように偽装した奴、一応作って見たけど、あんま良くないかもしれないけど……」


 学院に戻り、癖毛に話をすると、一応サンプルはあるという。魔装布に外側に普通の頭巾を被せたものだが……ボリューミーである。


「被り心地が悪いわ」

「……だよな。いいアイデアが無いかな……」

「魔装網にして、薄い布で挟み込んで頭巾型に成型するとか?」

「「「それだ(ね)(な)!」」」


 赤目銀髪の呟きに、癖毛と彼女と歩人が声を揃える。





 結論的に言えば、魔装網で内側にネット状のキャップを形成して被る事で、ある程度の衝撃を吸収できるように作る事にした。インナーキャップとでも言うのか。


「これ、野営の時に頭冷やさなくていいわ」

「それは良いな。頭を冷やすと、体温を維持するのが難しくなる。見た目は華奢だが、グレートヘルムくらいの強度はあるし、文句ないな」


 グレートヘルムとは所謂『バケツ』のような形をした古い兜の事である。聖征に参加した騎士の兜を想像すれば大きく間違わないだろう。


「なかなかいい。流石私のアイディア」

「まあな。インナーキャップにするってのは正直思いつかなかった」

「これ、色々使い回しできるから良いよね。上手くすれば、革の盾とかに被せても使えるかもだし」

「「「それだ(ね)(かな)!」」」


 赤目蒼髪の呟きに、癖毛と彼女と薬師娘が声を揃える。


「魔銀の盾目立ちますからね」

「でも、ボスの部分だけにして外側は革を張るとかすれば目立たないんじゃないかな。ボス以外は消耗品だし。壊れるし」

「その方が目立たないかもしれないわね。大きな盾には魔装網、基本は魔銀ボスのバックラーで対応しましょう」

「「「はい!!」」」

「……それなじゃないんだな……」


 遠征チームはどこか旅行気分で浮かれている気がするのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 二期生も一週間ほどたち、学院のスケジュールにも慣れてきたようでなによりである。


 食事の量も味も今まで経験したことの無いような……毎日がお祝いのような食事。そして、フィナンシェのような貴族でなければ口にできないようなお菓子が普通に供されるので「今日は何かのお祭りですか?」と先輩たちに聞いてしまう事もあったりする。


 とは言え、覚える事ばかり慣れない事ばかりであり、四分の一人前程度の彼らにとっては物凄いプレッシャーを感じていたりする。


「お、覚えられない……」

「怒られる……かな……」

「……出来ないっていっていいのか……」


 村長の孫は比較的色々な仕事を祖父に頼まれ、仕事の種類の多さを認識していたが、孤児・下働きの経験しかない他の子達は、あまりの仕事の多さに……いささか涙目である。


「でも、これガイダンス……こんな仕事があるんだよって説明だから。その中で、段階とか適正に応じて仕事を与えていくことになるのね。でも、自分の仕事しか知らない奴って『俺の仕事が一番重要』って勘違いして、周りの人の事を考えなかったり、反対に『私の仕事って誰でもできる仕事』って思って言うべき事を言えなかったりするのも困るの」


 藍目水髪、最近、自分の言葉で考えを伝えることが出来るようになりつつある。苦労はさせてみるものだ。


「だから、自分の仕事の周りの仕事も理解して、手伝ったり助け合ったりするってことがリリアルでは大切なの。冒険だってそうだよ。一人で無双するのは院長先生くらいのもの」

「「「「「……一人で無双してるんだ(のか)(よね)……」」」」」


 常に背後の仲間に気を配り、周りに気を配る。手柄を立てるために無暗に突進する事は、仲間を危険にさらすことになる。二期生は魔力の少ない子ばかりなのでその心配はないが、魔力量が多ければ、魔力頼みに暴走する未熟な者もあらわれる。


 近衛の貴族の息子などにミアン防衛戦でも見られた現象で、そのことが危険を生んでいた。


「まあ、だから、全部できる必要も、一度に覚える必要もないんだよ。来週から午前中は座学で基本的な学院生としての読み書き計算にその他の知識を勉強して、午後からは班に別れて様々な作業を順番に覚えてもらうことになるからね」


 午前中は頭を、午後が体と魔力を使い全身を育成するのがリリアル流の学習方法だ。


「えーと、た、例えば?」

「魔力を流して、薬草を育てる……とかだね」

「ま、魔力って薬草に効くんですか?」

「うん、治癒の効果が上がったり、それから、病気や虫の害に強くなる感じがするね。畑を仕切って比べてみたけど、効果はあるよ」

「へ、へー」


 魔力があるという事が、何の役に立つのか今一つピント来ていない子達に、藍目水髪が簡単に説明する。


「例えば、セイはサボア公の屋敷で毎日洗濯する仕事をしていたんだよね?」

「は、はい!! わたし、洗濯婦でした!!」


 突然名前を呼ばれた灰目黒髪は大いに驚く。黒目黒髪程ではないが、彼女の外見から、魔力に恵まれた体質であることが察することが出来る。黒に近い灰色や濃紺の目や髪を持つ者は、魔力に優れている傾向があるからだ。


「彼女はこの九人の中で唯一魔力量『中』なのね。生まれつきの体質もあるけれど、この洗濯をし続けていたことも魔力量が増えた原因だと考えられているんだよ」

「……へ……そうなんですか……洗濯すると魔力が増える……とか?」


 言葉を区切り藍目水髪は説明する。


「小さい女の子にとって、水を含んだ布を洗うって凄く力が必要だと思うんだよね。公爵家には沢山の使用人や騎士、勿論御当主もいるわけで、毎日朝から晩まで洗濯していたんでしょ?」

「は、はい。明るくなってから暗くなるまで、ずっと洗濯していました!!」

「そうすると凄く疲れるじゃない」

「はい。でも、体か慣れてくると、段々疲れを感じなくなってくるんです。それに、なんだか、体がポカポカしてきて、子供の頃は病気になったりしたこともありましたが、お屋敷に奉公に出てからは、毎日すごく調子がいいんです」


 灰目黒髪が両腕を持ち上げ、力持ちのようなポーズをする。


「うん、それが魔力を使って身体強化している状態だよ」

「……知らない間に……」

「そう。疲れて自分の知らない間に、魔力で体を支えていたんだと思う。使えば使うほど今の年齢なら魔力はどんどん増えるし、使い方が上手になれば、少ない魔力でも効率よく使うことが出来るようになるの。だから、学院で一番最初にやる事はね……」


 藍目水髪は申し訳なさそうに眉尻を下げ「疲れ果てるまで仕事をする事」

とこれからの九人の行く末を教えた。


 その後ろで彼女は大きく頷いた。





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