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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『王都の帝国人』 

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第302話 彼女は学院に二期生を迎える

第302話 彼女は学院に二期生を迎える


 王都から六人、そしてノーブル・サボアから三人の二期生がやってきた。彼女からすると二度目の新入生となるわけだが、九人にとっては初めての学院、不安もあるだろう。


 とは言え、彼女はいつでもどこでも彼女の流儀を変えるつもりはないので、事務的に話を勧める。


「ようこそリリアル学院に。私とはみな一度はあった事があると思うのだけれど、この学院長を務めています。学院内では『先生』もしくは『院長』と呼んでください」

「「「「はい!!」」」」

「私とは初めての人が多いかな。専任講師を務めているニース騎士爵で冒険者としての通り名は『メイ』。私はメイ先生と呼んでもらえると嬉しいわ」


 彼女の構想では、学院長の仕事を祖母と伯姪と茶目栗毛に割り振る事で、長期の遠征にも問題のない体制を作ることにある。二期生とは一歩引いて関係を築いていくことになるかも知れないが、それは今後への布石でもある。


「先ずは部屋割りからね。男の子二人で一部屋、それと、ノーブル組三人で一部屋……残りの四人で二人づつに別れてもらう事になるのだけれど……」


 単純に、年齢で分ける事にした。


 十一歳の二人、ボーイッシュな碧目灰髪『ヴェル』とお嬢様っぽい赤目茶毛『ルミリ』、十歳のお茶目な雰囲気の碧目銀髪『ブレンダ』少しガサツな感じの茶目黒髪『アン』がそれぞれ組になる。


 男二人は十二歳の銀目黒髪『アルジャン』と、少し陰のある十歳灰目灰髪『グリ』が同室となる。今の段階ではこの六人は全員魔力『小』のレベルだ。


 水晶の村の村長の孫娘が『ジョヌ』、サボア公家の使用人で洗濯担当であった灰目黒髪『セイ』の二人が十四歳、炊事担当であった茶目灰髪『ターニャ』が十三歳である。九人の中で、唯一灰目黒髪のセイだけが魔力中である。


「あのー 私たち三人なんですけど……」

「ああ、孫ちゃんは先輩と組む事になるかな。留学生枠だから、純粋にバディを組んで訓練するのはちょっと違うからね」

「そうですか……でも!! 私も皆さんと同じ訓練がしたいです!!」


 村長の孫は使用人の教育も受けてもらう事になるので、その適正次第で学ぶことは変わっていくと思われる。





 部屋に案内し、少ない荷物を片付けさせると、リリアルの二期生のお揃いの制服に着替えさせる。今回は明るいオレンジ色となっている。男の子には少々気恥ずかしさを感じるようだが、女の子

たちには「こんな綺麗な色の服着るの初めて☆」と好評であった。


「これが制服? なんですか先生」

「ええ。二期生はこの色がチームカラーになります。ですが、冒険者登録後、学院外で冒険者として活動する場合は、勿論それに見合う装備を貸与します」

「うーん、冒険者とか……カッコいいかも!」


 そうです、孤児の子供にとって、一攫千金を狙う冒険者は憧れの職業でもある。しかしながら、十分な装備と経験を持たず依頼に失敗し大怪我や命を落とす者も相当に多い。


「では、学院のメンバーに紹介しますので、各自部屋に戻り、制服に着替えて出口に集合してください」

「じゃ、先に私は食堂で待ってるから、急いで着替えてきてね!!」


 伯姪が在校生の指示をする為、学院の本館……という元離宮へと移動する。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 食堂には、リリアルの冒険者登録をしているメンバー全員と、薬師見習の主だったメンバー、使用人頭と老土夫に歩人と狼人、彼女の祖母である院長代理が揃っていた。


「一部、この場にいない人もいるけれど、二期生を紹介します。では、二期生から自己紹介をお願いします」


 という事で、九人が名前と年齢、出身地を述べる。そして、まず初めに院長代理が挨拶をする。


「リリアルの院長代理だよ。ババアだけど、このリリアル男爵の祖母で、元は女子爵だ。冒険者としての経験はないけれど、王宮で王妃様の侍女を若い頃やっていたね。礼儀作法や言葉遣いには

一番厳しいから覚悟おし」

「「「「……は、はい……」」」」


 怖いババアと印象付けることが出来たようである。本来なら騎士である学院一期生を紹介すべきだが……大人優先。


 使用人頭はこの学院の日常生活についての責任者、食事や清掃といった作業を割る責任者でもある。また、装備に関しては老土夫の管轄であり、警備に関しての責任は狼人の管轄である。歩人は……院長の従者であるので特に詳しい説明は無し。


「今日は一日のスケジュールと、個人のすべき仕事だけ教えるから、メモを取るべきことはメモを取りなさい」

「……メモ?」


 読み書き計算は出来るが、メモを取るほど覚えるべきことは孤児院には無かったからそういう感想が出る。


「本来は一度で覚える訓練をすべきなのだけれど、慣れないうちは小さな手帳に簡単に忘備録を作るものよ。あとで支給するわね」


 そして、一期生と薬師の自己紹介が延々と続くのだが……


「以上のメンバー全員が先日までに全員『騎士』となりました」

「「「「……え……」」」」

「ミアンの防衛戦に参加した学院生は、全員『騎士』になったの。まあ、肩書だけで今回の叙勲では給料がもらえないけど、それでも、みんな孤児から騎士になったの。分かる?」


 二期生達にとって、『騎士』というのは物語に登場する人物であり、身の回りにいる事はまずない存在だ。サボア公爵家の下働きの娘たちは直接声をかけることも出来ないほど上の身分の人達

なのである。


「今回は、偶然というか全員が役割を果たしてもらえた結果、アンデッドの軍勢から都市を守ることが出来たので、その報奨を受けた結果ではあるのだけれど、二年の間に……残念ながらまた従軍する機会はあると思うわ。

 その時は、生き残って騎士になれると良いわね。死んでは駄目よ」


 二期生達は、余りの飛躍した話にポカンとした顔をしている。


「だから、あんたみたいな怪しげな癖毛が騎士だって思えないから信用されてないんじゃない?」

「いやまて、全国の癖毛の騎士様たちに謝れ!! むしろ、チンチクリンの赤毛娘が騎士と言う方が信じられないだろ?」

「少なくとも、私たちはタラスクス討伐に加わり叙勲された正規の騎士。あなたより全然先輩」

「そう言えばそうね、『竜殺し』の騎士がリリアルには何人もいるんだもんね!!」


 先日、王都で『竜』の死骸をパレードで見ることが出来たものもいるだろう。タラスクスの死骸を王太子凱旋時に見た者もいるかもしれない。


「……竜殺し……」

「だ、だいじょうぶかな……」

「何とかするのが先輩と先生方の仕事じゃん」


 中々図太い子もいるようである。


 紹介が終わった後、男同士、女同士の席に別れ、彼ら彼女らはそれぞれ食事をとりながら、お互いの紹介を始めるのであった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 食事の後、風呂に入り、二人部屋もしくは三人部屋に戻った彼彼女ら二期生は明日から始まる学院生活に胸を膨らませている最中であった。


 食事は量も味も想像できないほどであり、風呂には毎日入れるということも大きな驚きであった。お湯を沸かすというのは、孤児にとってだけでなく富裕な商人や貴族以外にはとても贅沢なことであり、驚くべき事であった。


 また、貸与された衣装も下級貴族の使用人のお仕着せより上等であり、尚且つ、新品である。全員がまっさらな自分の為に用意された服を着た事の無い者たちばかりであった。


 いや、正確には赤目茶毛『ルミリ』は、両親が健在であった頃まっさらなドレスを貰ったことがあったと記憶している。


『どうだ、新しいガキどもは』

「ちょっと……ハードル上がりすぎているわね。一期生の」


 彼女がリリアルを始めた頃、彼女自身が中堅冒険者程度であった。精々、猪や狼、ゴブリンを退治する程度のどこにでもいる冒険者で、孤児を育てて薬師・錬金術師の端くれで冒険者をしつつ王都周辺の魔物を駆除する程度の仕事を考えていたのであるし、実際、それがほとんどであった。


 三年がたち、いつの間にやら魔術師兼騎士として十人を超える騎士を擁するようになった『聖リリアル学院』は、王国における魔物や破壊工作員に対抗する特殊部隊のような扱いになりつつある。大変不本意ながら。


『降りかかる火の粉は払わにゃなるまい』

『主、皆成長しております。それに、貴方様以外の大人を頼ることも必要でしょう』

「……その通りね。一期生に委ねて育てるということも……大切でしょう」


 学院において、彼女の存在が大きすぎるという事も問題なのだ。今のメンバーから拡大していく過程で、委ねて自分自身で創意工夫して人を育てる経験も大切だ。


 今回、帝国遠征に連れて行かない予定の一期生。例えば、茶目栗毛なら、魔力が少ない中で何を優先して学べばいいのか銀目黒髪『アルジャン』と灰目灰髪『グリ』に具体的な経験を踏まえて示すことが出来るだろう。


 年齢差も二歳と四歳、離れすぎず近すぎず、悪くないだろう。


 赤毛娘と黒目黒髪は魔力量に差がありすぎて手本になりにくい。違う苦労をしているから参考にならない。二人は伯姪の補助に専念させ、ピンポイントのサポートを委ねることになるだろうか。

 

 頑張り屋繋がりの洗濯娘・灰目黒髪『セイ』の成長には赤毛娘の動機づけが良いかもしれない。


 クールな碧目灰髪『ヴェル』とお淑やか赤目茶毛『ルミリ』には遠征で自信を持ち始めた藍目水髪。お茶目碧目銀髪『ブレンダ』と雑な感じの茶目黒髪『アン』には優しく細かい心配りの碧目栗毛をつける。


 年上の孫娘『ジョヌ』、灰目黒髪『セイ』、茶目灰髪『ターニャ』には、残る薬師娘の灰目藍髪『マリス』を指導員に付ける。


 各専任指導員の一期生を、伯姪・黒目黒髪・赤毛娘がサポートする体制を一先ずは目指そうと思うのだ。


 実際、この組み合わせの問題を洗い、修正して委ねたのちに、帝国への潜入に移行することになるだろう。


「でも、私がいなくても問題なくリリアルが機能するのは、それはそれで寂しいわね」

『親離れできなくなるぞ、お互いしんどいだけだ。見守るってこともお前は学ぶべき時期なんだと俺は思うけどな』


 そういう『魔剣』は、いつもお節介を焼いているので、その言葉には全然説得力がないのは言うでもない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 彼女と冒険者一期生の帝国遠征を踏まえ、二期生と今後のリリアルの運営についての草案を伯姪たちに提示しての確認を行うことにした彼女である。


「お前の判断を尊重するさ。まあ、騎士学校の時だって色々あったけど何とかなった。だから、心配せずに行っておいで」

「使用人教育を施す子達の事はお任せください。下を育てる経験をさせる良い機会です」


 祖母と使用人頭は概ね問題ないという。そして、伯姪は……


「あなたと別行動するのはほとんど初めてだけれど、あの子達もいい経験になるでしょうし、私も『未来の女男爵』目指す為にはあなたの代わりくらい務まらないと不可能ですもの。 でも、いいの? 魔力大組皆連れて行かなくっても」

「大丈夫、私とヴィーがいるし、正面切っての大討伐もないでしょうから、魔力中組とセバスに薬師の『カエラ』を連れて行くわ。行商人と冒険者のパーティーという態ね」


 『カエラ』は、ノーブル遠征で同行した薬師娘の片割れで、碧目金髪の今年十七歳。恐らくは、一番の年長者であり、使用人や侍女として潜り込めるタイプの可愛い系美人だ。性格も強気で、はっきり物が言えるタイプなので、遠征向きだと

判断した。


「ワン太もいるし、姉さんも上手く使って。半年ないし一年位の間戻れないと思うのだけれど……」

「まあ、こればかりは仕方ないさね。日帰りできるわけじゃないからね。それでも、ギルド経由で連絡は取れるようにしておくんだよ」


 冒険者ギルドは相互協定があるので、冒険者同士の連絡は可能なのだ。王都の冒険者ギルドに「メイ」宛に書類を送ることができるだろう。


「出来る限り居場所は伝えるようにするわ。時間はかかるでしょうけれど」

「それだけでも全然違うわよ。生存証明だと思って忘れずに出すこと。いいわね!」

「ええ、しっかりと約束したわ」


 これから暫く、彼女の提案する役割分担で、リリアルと二期生の育成は進んで行くことになる。


 試行錯誤ではあるが、この一年ですっかり大きな存在となってしまった『聖リリアル学院』にとってはブレイクスルーすべき時期に至ったのだと彼女は感じていた。


『まあ、失敗してもタカが知れている。今のうちに帝国の調査と王太子からの逃避行を行わないと、後が苦しくなるからな』


『魔剣』の言葉に、彼女は深く頷くのであった。





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