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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ラマンの悪竜』 

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第294話 彼女はカトリナの態度に辟易する

第294話 彼女はカトリナの態度に辟易する


 すっかり、伝説の『竜返し』となったカトリナを騎馬で先導役として王都に到着した彼女たちであるが、王太子が南都でタラスクスを討伐した時ほど盛り上がる事はなかった。


 何故なら、レンヌ公太子の王都訪問が今回の最大の話題であり、竜討伐はその実物が未だラマンでさらされている為、その大大的な告知は竜の死骸が到着する時期まで先延ばしされているからである。


「む、やはり王太子と公爵令嬢では差があるという事か!!」

「あんた馬鹿じゃないの! 騎士の任務は王女殿下とそのお相手の公太子殿下の安全確保でしょ。竜討伐はおまけ。タラスクスの時とは状況が違うじゃない」


 伯姪に罵倒される……既にそういう残念な存在となっているカトリナである。あまり言いすぎるとカミラが怖いのだが、雰囲気は「いいぞ!もっと言え!」なので結論的にOKである。


「そ、その通りだ。騎士として私が間違っていた」

「分かればいいのよ。それに、今は公太子殿下の王都来訪で盛り上がっているから、時間差つけて来週くらいに大々的に準備をして竜討伐の報告は盛り上げる事になるわね」

「なるほど。その方が準備期間があっておいしいな。早速、新しい衣装を用意させるとしよう。カミラ、頼んだぞ!!」

「……承知いたしました……」


 近衛騎士への任官、それも間違いなく王妃様か王女様付きの警護役となるだろう。隊長職への抜擢も有り得る。優秀な副官と副隊長がいれば、隊長はお飾りで十分でもある。誰がオスカルだ。


 既に、カトリナの頭の中は新しい騎士礼装で一杯のようであるが、彼女たちは王妃様に報告をして、一度騎士学校に戻らねばならない。


「まだ任務は完了したわけではないでしょう。騎士学校に戻るまでが任務よ」

「わかっている。だが、この晴れがましい余韻に浸っていたいのだ。アリーのように、常に名声に溢れている者にはこの気持ち、分からんのだろうな。こう、天にも昇る気持ちなのだ」


 それはそうだ。彼女は姉の黒子であり、家の為の道具だとずっと思い込んでいた。活躍したり、舞台に取り上げられたり、持て囃されても、ちっとも嬉しくなかった。それは自分とは関係ない虚像だと感じていたからだ。


 今となっては自意識過剰の痛い姿であったと思う。それなりに、敬意を持たれるのは悪いことではないし、その結果得た名声も、敬愛の念も、地位も権力も役に立っているのだから。


 今回も『王国副元帥』の地位が無ければ、トールやソレハで自分の父や祖父ほどの貴族を相手に命令する事は困難であっただろう。見合った地位と権力とは思えないが、使える物はなんでも使ってやりたい。


「与えられる役割のハードルが上がっていくのよ。それがわかるようになれば、憂鬱になるから。覚悟なさい」

「ふっ、公爵令嬢に生まれた私からすれば、それでやっと地位に見合う職責を与えられることになるのだから、望むところだ!!」


 王家に次ぐ高位の存在であるギュイエ公の令嬢として、その身に有り余る敬意を受けてきたカトリナからすれば、彼女が重荷に感じる事もそうではないのだろうか。


「……男爵が思っている事とは少々異なります。カトリナ様の職責は周りの者皆が背負いますので……ご本人はさほどではないのです。それが、高位貴族というものかと」

「ばっ、それでは、私が他人に頼っているようではないか!!」

「事実です」


 斬って落とすようなカミラの反論に、カトリナは反撃できず沈黙を守るのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 王女殿下の帰着の挨拶に同行し、彼女たちも王妃様にお目通りさせて頂くことになった。まだまだ任務中である。


 王妃様は満面の笑みで王女殿下の帰宅を迎えていた。


「おかえりなさ~い。無事で何よりだわー 心配したわよー」

「お、おかあ様、ただいま戻りました。皆さんのおかげで、無事何事もなく王宮に戻ることができました」

「ふふ、良かったわー」


 何事かあれば、カトリナはともかく彼女は処断されたであろう事は容易に想像がつく。爵位を賜るということは、そういうことだ。


「王妃殿下、ご心配をおかけし大変申し訳ございませんでした」

「いいのよ、結果こそが大事ですもの。それに、『竜』が王女を追いかけて攫おうとするのは、おとぎ話では当たり前ですもの。仕方のない事よね☆」


 何お茶目さんしてるのでしょう、このアラフォーと思わないでもない。彼女の姉の進化系が王妃様なのだから苦手なのである。




 そこから始まる、カトリナ劇場のアンコール公演。内容は省くが、王女殿下も王妃様も初めて聞く内容なので、とても楽し気に聞いているので良かったと思う。


「カトリナの話、前回の夜より面白くなっているわ」

「……戯作者というのも、こうやってお芝居の脚本を煮詰めて行くのかもしれないわね。興味深いわ」


 公太子に報告した時よりも、細部の描写が多くなり、手ぶり身振りも入って立派なパフォーマーと言えるレベルに達している。身分が異なれば、立派な戯作者となれたであろうか。


「それでー 今回はメイちゃんが活躍したのよねー」

「まあ、そうですね。攻撃を牽制し、竜の魔力を消耗させる重要な役どころでした。で・す・が !! 最後に竜の脚をへし折り! 竜に背を地面に付けさせた わ・た・く・し の役割も勝るとも劣らないと自負しております」

「そうですわー カトリナお姉さまは『竜返し』様ですのよおかあ様」


『竜返し』との聞きなれぬ言葉に小首をかしげる王妃様。アラフォーなのにも関わらず、大変可愛らしい。


「『竜』の甲羅では攻撃が通りませんので、柔らかな腹の部分を上に向けさせるようカトリナ様が『竜』を天地返しされたのです」

「それで『竜返し』ですか……さすがカトリナです。素晴らしい、一発芸です」

「カトリナお姉さまは、素晴らしい一発芸人ですわ!!」

「いや、そこまで褒められると……嬉しいですわ!!」


 いきなり公爵令嬢スイッチが入り、オホホ笑い合戦が始まったので、彼女たちはお茶のお代わりを貰う事にした。


――― 一発芸扱いで良いのかカトリナ……


『絶対、王都に竜の死骸が届いたら、再現させられるな』

「ええ、間違いないわね。気が付いているのかしら……」


 カトリナが気が付くはずもなかった。





 王妃殿下とは「竜討伐の祝勝会でまた会いましょう」という約束をする事になった。どうやら、『タラスクス』に続き『ラブル』という一層強力で、民を害する竜を討伐したことを大々的に国民に告知したいのだという。


「恐らく、あなたの近衛騎士任官の後でしょうね」

「そうね、その方が近衛の株も上がるものね」


 ギュイエ公爵令嬢にして『竜返し』の近衛騎士カトリナ……妖精騎士を越える悪役令嬢騎士の爆誕である。


「この流れで行くと、カトリナ様はリリアル男爵閣下の敵役として配されそうですね」

悪役(ヒール)の似合うものが淑女というものだろう。違うか!」


 それは、ヒール違いだろう。かかとの高い靴が淑女の証という訳ではない。ドレスにはかかとの高い靴を合わせるものではあるが。


「あなたの望んだ露出も増えるでしょう? 竜の遺骸が王都に運ばれた時の凱旋パレードは、王太子殿下の時と異なるから、あなたが先頭でしょうし」

「それはどうかな? あなたとカトリナで前、その後ろに私たちじゃない!」


 カトリナ-リリアル男爵、カミラ-伯姪の四人が四角く並び騎乗で進む。その後ろを大勢の兵士・騎士が取り囲んだ竜の死骸を台車に乗せ引き回す……ということだろうか。


 竜の首と尾は王宮で宮廷魔導士が預かり、調査と保管をするという事になったので、既に彼女たちの手から離れている。


「パーティー……憂鬱だわ」

「大丈夫よ! カトリナが主役だと張り切って前に出るから」

「任せておけ、前衛は我らが務めよう。アリーとメイは後衛で大人しくしているが良い」


 そうえいば、ミアン防衛の祝賀会もあるはずなのである……




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 四人は、王妃様の配慮で王宮の魔装馬車で騎士学校まで送られることになった。早いし、疲れの溜まった身としては大変有難い。竜討伐の後も、騎乗で護衛をしていたのだから、疲れは全く癒えていない。


 ようやく懐かしい……と思えるほど時間の経っていないはずの騎士学校へと到着する。既に午後の授業は終わり、自由時間となっているはずである。


 先触れがあったわけではないだろうが、既に竜討伐の噂は王都だけでなく騎士学校にも伝わっていた。彼女らの帰還に気が付いた同期達が、大勢馬車の周りに集まってくる。


「アリー、メイお疲れ! ヴァイとアンドレに話は聞いたぞ!!」


 フルールのメンバーは、先に馭者の任務を終え帰着していた二人から旅の出来事のあらましを聞いていたのだという。その話を聞きつけた近衛の連中もカトリナを囲んでいる。


「カトリナ様、ご無事なお姿を拝見して安心いたしました。この度の悪竜討伐の武功を立てられたと聞き及んでおります」

「む! では食堂で皆に話して聞かせようか」

「さ、左様ですな。場所をしつらえますので、一先ずお部屋にお戻り下さい」


 あまりのカトリナの喰いつきぶりに驚いた貴族の子弟たちは、食堂に席を設ける事にし、カトリナを自室に戻らせることにした。


「カトリナ劇場がまた開くわけね」

「私たちはいいわよね……疲れたわ……」


 明日は金曜日。つまり、明日の夕方にはリリアルに戻る事ができる。明日一日を乗り越え、リリアルでゆっくりしたいのだがそれは難しいのだろうと二人は諦め顔である。


「竜討伐組がいるから、そこまで大袈裟にならないわよね」

「……ヴィー達がいなければね。でも、恐らくそろそろリリアルに滞在していると思うわ」

「それもそうね。あなたのお姉さんに十日も構われたら干からびて死んじゃうかもしれないもんね!」


 帝国の美魔女は姉の上を行く雰囲気を持っているが、ホームである王都での人脈を考えると、姉が暴風雨のように帝国人を連れまわしたであろうことが容易に想像できる。


「そう考えると、リリアルの薬草畑とか森に入って素材採取とか和むと思うわ」

「薬師と錬金術も嗜んでいるのだから、そうかもしれないわね」


 姉と異なり、彼女も帝国の女魔術師も街での華やかな生活よりも、自らの術師としての腕磨きの方が楽しく感じるタイプと見ている。あの冒険者にしては派手な衣装も、腕っぷしだけではないという意思表示なのだろうと思われる。


 高位の冒険者は目立ってなんぼ、相手がそれとわかる姿をしている方が、余計な厄介ごとに関わらずに済むのだろう。国に縛られず、自由に生きる生活に若干のあこがれがないわけではないが、彼女にとってリリアル学院が故郷であり、いるべき場所でもあるのだから実現しようとは思わない。





 夕食の時間となり、食堂に二人が向かうとカトリナ劇場が終幕を迎えるところであった。


「……というわけで、私たちは王女殿下に迫る悪竜を見事撃ち果たし、騎士の本分を全うすることが出来たのだ諸君!!」

「「「「おぉー」」」」


 王妃様にお話をした時より、更に一層寄せて上げている感じが駄々洩れである。


「怖くて聞けないわね……」

「まあ、悪役令嬢騎士カトリナの戯作者は脚本書くの楽そうね。本人の談話そのままで行けそうだもの」


 彼女は今回登場するが、あくまでもバックアップ要員。主人公はカトリナとカミラ、伯姪である。なので、あまり深く考えないことにした。自分は関係ないと。


「おー お二人さんも話してくんねぇか」

「そうだそうだ! お前たちの話も聞きたいぞ!!」


 フルール分隊に背中を撃たれる二人。彼女たちにとってはソレハ伯爵の事件の方が余程重要だったのであるが、未だ王家から発表されていない事案でもあり、ここで彼女たちが話すわけにもいかない。


「今回の任務は、レンヌ大公家からお戻りになる王女殿下の護衛任務。それに関わる内容を部外者にお話するわけには行かないわね」

「そうそう。竜討伐の件は、カトリナ公爵令嬢の話で十分でしょう。余計な事を聞くと、禍が降りかかるから聞かぬが華よ」


 二人がもっともなことを言い、カトリナは「しまった」とばかりに顔を顰めるが、時すでに遅しである。


 公太子殿下も王妃様も護衛対象・依頼人であり、彼らに説明するのは護衛任務の一環として必要な事であった。しかしながら、騎士学校の同僚に話をする事は、情報漏洩になりかねない問題をはらんでいる。


 彼女の個人的な武勲に関して話すのはともかく、それ以外に話を広げたり、代わる代わるこの件について自慢話をする事は立場のある人間として問題であろう。


 彼女は騎士学校の生徒である前に『王国副元帥リリアル男爵』なのだから。




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