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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ラマンの悪竜』 

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第293話 彼女は『悪竜』退治する

第293話 彼女は『悪竜』退治する


 絶え間ない攻撃と、火炎による火傷、裂傷、さらには足をへし折られた『ラブル』はもう自力で体を立て直す事ができる状態ではなかった。


 彼女は『魔装笛』を構え、その比較的柔らかな亀の腹の部分を目掛け、魔装弾を発射した。


 左足の付け根付近に命中した弾丸は足を吹き飛ばし、甲羅まで貫通し側面が爆発するように粉砕される。大量の肉と竜の体液が迸り、痛みからか激しくのた打ち回る。


「もう一度繰り返す必要は……」

『ねえな。時間の問題だ』


 彼女は後退し、伯姪と目を合わせる。黙って頷く二人。


「おお、竜相手に凄い威力だな!!」

「この装備があれば、攻城戦が一変するでしょうね」


 カトリナはその威力に感嘆し驚いたようだが、カミラは純粋に軍事的見地の所見を述べたようだ。


「そうね。仮に、リリアルが装備すれば、あっという間に夜陰に紛れて城塞を落すことが出来るでしょうね。でも、あまり意味が無いと思うわ」

「そうだな。城を落してはいお仕舞と言うほど戦争は簡単ではない。王国に加わりたいという意思を見せた君主を加えていくというのが

理想だろうな。そして、あくまでも戦争はその為の一つの手段だ」

「竜相手に使うくらいしか……使い道はないくらい強力な武器って怖いわよね」


 仮に、戦争大好きな王家なら、リリアルを戦争に駆り出し、常に先陣を申し付けるだろう。


「勘弁してほしいわ。陣取り合戦に、大切な生徒や友人を参加させ命の危険にさらさせるとか。あり得ないわ」


 竜が断末魔を上げ、今まさに死に絶えようとしている時、彼女たちは次の事を考えていた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 竜の断末魔の声を聴き、トールに滞在していた騎士団の伝令の一人が様子を見に来たようである。


「閣下!! 悪竜は……討伐されたのですか!!」


 その声は信じ難いものを目にして、尚且つ確認するかのように発せられた。


「はい。私たち四人で、何とか倒すことが出来ました」

「四人で……で、では、トールに戻り次第、各所に伝令を走らせます。『ラマンの悪竜』は再びリリアル男爵により討伐されたと!!」


 カトリナが「おいおい、ギュイエ公爵令嬢もだぞ!!」と半分怒った声で付け加える。


「これで、私も竜殺しとしての名声を得たわけだな」

「……嫁の貰い手が無くなるわよ」

「いや、王太子殿下なら竜殺しのリリアル男爵を貰う気満々だからな。私も対等となったのではないのか!」


 あれ? カトリナは王太子殿下の婚約者になりたかったのかと今更ながらに思い出すのである。一時期、そのような噂が王都で流れた気がする。


「王太子妃はカトリナが相応しいでしょう?」

「あー 王太子妃狙いねー カトリナが一番向いているかもねー」


 適当な二人の返しに、頭を振り否定するカトリナである。


「私の意思ではない。釣り合いの取れる嫁ぎ先と言うのは限られているのだ。王や公爵家などは特にだ。どこぞの皇帝一家のように、従妹だ姪だとかと婚姻し続けて、おかしな子供しか生まれなくなる

家系だって存在する。まあ、最終的にはなるようにしかならんのだがな」

「……カトリナ様は王太子殿下とは再又従兄妹ですから、かなり遠い関係です。問題は無いと……」

「父は言うがな。あの一家に私が加わって、平和に過ごせると思うか?」


 彼女の姉を上回る癖のある王妃殿下に、王太子は母親似の何を考えているか分からない男。そして、国王陛下はチャランポランの平和主義者……唯一の癒しの王女殿下は嫁に出てしまうわけで……


「あなたしかいないわ、カトリナ」

「そうそう。公爵令嬢が王太子妃って妥当じゃない?」

「私の心の平和は失われるではないか!!」


 常に暴走著しいカトリナに心の平和は気のせいだと思うのだが。





 『ラブル』の討伐部位として首から上を魔法袋に収納、カトリナは切られた尻尾を収納したようである。胴体は……後日騎士団に王都まで運んでもらう事になるだろうか。


「疲れたな」

「このまま道端で寝られそうなくらいねー」


 魔力全開で竜をひっくり返したカトリナと、終始関心を引くために動き続けた伯姪が疲れ切ったのは当然だろうか。


「……馬車が近づいてきます。トールの方向から」


 カミラの声でトールの方向を見ると、王女殿下の愛用する魔装馬車が見えた。馭者はヴァイとアンドレの二人。


「おお、無事かお前ら」

「マジで、四人で竜討伐したのかよ……」


 どうやら王女殿下の配慮で、馬車を出していただけたのだという。背後には、甲羅だけとなった『ラブル』が存在する。その大きさだけで象ほどもあるだろうか。


「滅茶苦茶デカいじゃねぇか」

「あれ、蛇のように長い首と尻尾がついていたんだよホントは」

「……マジで?」

「ええ、大マジよ」


 甲羅を下にして上を向いた状態で左前脚を吹き飛ばされ、内臓を外に飛び出せた竜の死体は、それだけで異様な雰囲気をもたらしていた。


「毒とか……大丈夫だったのか?」

「基本的に、胴体は焼いたから問題なかったわ」

「……焼いた?」


 疲れ切ったカトリナの「話は帰ってからだ!!」の怒鳴り声で我に返った二人は、馬車を方向転換すると四人を客室に乗せ、ゆっくりと討伐現場を離れたのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 馬車の中で少し仮眠できたのが良かったのか、トールの街に付いた時にはかなりスッキリした気分であった。


「皆さん、ご無事ですか?」

「リリアル男爵、討伐して頂き感謝する」


 王女殿下、公太子殿下自ら城門で出迎えてくれた。


「領主館で詳しい報告を受けても良いかな」

「はい、ですが、着替えをする時間をいただきたいのですが……」


 竜の返り血や土埃で四人は相当に汚れており、汗もかいているからである。確かに、明るいところで見れば、王女殿下は気分を悪くされるだろうし、狭い室内では臭いも強いだろう。決して、彼女が体臭がキツイというわけではない。


「ああ、勿論だ。少し飲み物でも飲んで、休んでから話を聞かせてもらえると有難い」


 王女殿下は彼女たちの無事な姿を見て安心したのか、終始笑顔であった。そして、そろそろ寝る時間であるからかもしれない。





 鎧を外し、汚れた服を着替え、騎士服姿に改める。今回は騎士学校用の物に改めた。


 公太子殿下の部屋に案内され、席を勧められる。


「その制服はどこの物ですか」

「騎士学校用の物です。私たちはリリアル学院の、カトリナ嬢は近衛騎士の物になります」

「なるほど。色合いが近衛ですね」


 近衛は赤系統、リリアルは青系統なのである。


「改めて、無事で何より。それで、竜の討伐は完了したのでしょうか」

「首を刎ね、胴体には四股が千切れるほどのダメージと内臓がはみ出す程の傷を負わせております。しばらく放置しましたが、再生する気配もない為、死亡したと判断しました」

「……では、経過を教えてください」


 そこからは……カトリナの出番である。彼女の淡々とした事務的な説明でも良かったのだが、それは公の場ですればよいかと思いカトリナに譲ったのだ。


「最初に、遭遇点をリリアル男爵が想定した。分水嶺で川が途切れ、街道と接する狭隘地で待ち伏せると定め、我々はそこで待伏せをすることにした」


 そして、想定通り南下してきた竜を狭隘地に魔力壁で前方を抑え、進路を阻害し散々に挑発し四人で打ちかかったと説明する。


「竜はどのような反撃をしたのですか!」

「首を振るい、尾を振るい、口からは炎を吐いたな。毒の針はさほど気にならなかった。兎に角、末端をまず挑発し、カミラのハルバードに毒を塗り痺れさせたが、あまり効果は無かったな」

「!!…………」


 無言を貫く侍女が一瞬顔を強張らせた。主の言葉にショックであったのかもしれない。


 そしてやがて尾をトカゲのように切り離し、魔力を消耗しつつある事を確認した後、油をかけて火を放ったのである。


「火……ですか。あの悪竜は炎を吐くのですから、火は効果が薄いのでは?」

「なんの!! 奴の体毛を燃やし尽くしてやったのだ。それも、二度」

「……なるほど……」


 体毛に隠された毒の針を無力化する為の措置だと、公太子は推測したのだがその通りである。


「その後は、力づくで首と頭を攻撃した。炎を吐く瞬間を狙って口内を銃で狙い撃ちしたり、その時のダメージが回復する前に……私が竜をこう……足をへし折ってから引っ繰り返したのだ!!」

「……はぁ……」

「だから、私は歴史的にも唯一の『竜返し』となったのだ!!」


――― 伝説の『竜返し(ドラゴンフリッパー)』令嬢爆誕☆


 この後、カトリナが事あるごとに自称するこの勇名は、色々な意味で彼女を象徴する綽名となる。倍返しだ!! と常に決め台詞を言ったかどうかは定かではないが。


「そして、甲羅は傷つけることが難しいと感じたのだろう、リリアル男爵は、竜の心の臓があると思われる左胸に狙いを定め、大口径のマスケットでとどめを刺した……というところか」


 その後、十分に時間を置き動かないことを確認した上で首を斬り落とし、討伐証明として回収。迎えの馬車に乗り帰還したということになる。


「首はどこに?」

「私が回収して魔法袋に保管を。切り離された尾はカトリナ嬢が同様に保管しております」

「そうか。明日の朝にでも、拝見させてもらいたい」


 竜の首と尾、それを目にする事が出来る者は、相当に限られているだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 翌朝、物凄いテンションで「カトリナ姉様は『竜返し』ですわ!!」とはしゃぐ王女殿下を朝食前に落ち着かせるために、城館の中庭にて竜の首と尾をお見せすることにしたのだが……


「……凄い凶暴な顔ですわ……夢に……出そうですわ……」

「確かに、蛇と亀の中間のような顔立ちに、鋭い牙や針のような体毛を有しているのだな。しかし、これが火を吐く中を正面から切り結ぶとは……」


 公太子殿下はその行為を想像し真剣な顔になる。


「前衛で牽制し続け、炎を避け続けたのはニース男爵令嬢だ」

「……凄まじいですわ……。流石リリアルの騎士様です……」

「リリアル男爵が背中を預ける騎士殿だけの事は有る。男爵だけがリリアルを背負うわけではないという事ですね」


 いつもは彼女の影になりがちな伯姪を、ここぞとばかりに前に押し出す。先の事を考えると、彼女だけでなく伯姪も「広告塔」となってもらわねばならない。姉に匹敵する社交性と、物おじしない性格、そしてニース辺境伯の縁者にして冒険者。そこに、『竜殺しの英雄』が加われば……嫁への道が遠のく。間違いない。


「た、大したことじゃないわよ。いつもの仕事だし。ねぇ?」

「いつものことです。私掠船も二人で制圧しましたから」

「……そうだった……二人であのガレオン船を制圧するのだから、竜であれば四人でも釣りがくるということかもしれませんね」


 正確には『猫』が甲板で大活躍したのだが、それは内緒である。





 残念ながら、騎士団長の指示で胴体は『ラマン』に回収し、展示する事になった。本来はラマン周辺に出没する『悪竜』であったわけで、その討伐の成功を持って王国の威光を知らしめる意味もあるからだ。


 因みに、ラマンの騎士団は討伐初期にほぼ全滅。指揮したあの隊長がまともな対応が出来ず、そこから『ラブル』のトールへの逃走を許してしまったようだ。


 結果、ラマンに所属した騎士は全員が王都に移動となり、移動を拒むものは騎士の職を解かれることになった。隊長は竜と遭遇したことがトラウマとなったようで、その前に辞職したという。




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