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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ラマンの悪竜』 

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第291話 彼女は王妃様からの手紙を確認する

第291話 彼女は王妃様からの手紙を確認する


「まあ、あの時の人攫いたちの頭目が……」

「残念ながら、まともに手が出せない者でした。しかしながら、このカトリナが悪い騎士を一刀両断いたしましたので、王女殿下が嫁がれるまでには良い公国となるように、大公様も公太子殿下も努められるでしょう」


 泣きそうな表情ながらも、ほっと安心したような笑顔を作る王女殿下。海賊同様の私掠船に襲われた時は僅か十歳、そして、今なお幼いまでの若さの少女である。


 貴族の中に、自ら守るべき民を奴隷として売りとばす者がいて、それが、大公家の親族であった事は大きな衝撃であったと思われる。


「助けられるだけ、助けて差し上げて欲しいですわ」

「勿論でございます。既に、ソレハ伯の城に捕えられていた女性は保護をし、回復次第実家か……修道院に送り届けることになるかと存じます」

「……修道院……」


 攫われた女性の中で、実家に戻れない者もいる。彼らは支度金を渡し、修道院で預かってもらい身の立つようにする義務がレンヌ大公家にはある。身内の不始末をそのままにすることはできないからだ。


「可哀そうですわ……」

「殿下、善き巡り合わせもあるでしょう。修道院暮らしも悪くないですよ。リリアルはほとんど修道院ですからね」

「それは……否定できないわね。規則正しい生活が出来ない分、修道院以上に大変だわ」


 修道院は日課が決まっており、食事の用意や遠方へ旅程を組まれる事もない。役割がはっきりしており、祈りと作業に専念できる。子爵家の次女であった彼女が薬師を目指している頃はそんな生活であった。


「そうかもしれません。人の幸せは千差万別ですもの。そう……考えて欲しいですわ」


 王女殿下の沈みがちな気分を変える手紙が届いたのはその日の夕方である。





 レンヌ公太子の王都滞在と、その側近のリリアルでの研修の許可が王妃様の名前で届いた。王都まで、公太子殿下の護衛の騎士も同行し、王女殿下とお二人で魔装馬車に乗り王都を目指す事になる。


 王都では王女殿下の婚約者のお披露目会も複数企画されており、夜会に関しては……カトリナがエスコートする事になる。見た目は大人だが、カトリナは公太子殿下より年下である。


「カトリナ姉様に……」

「いや、私はやせっぽちの男が好きなのだ。守ってあげたいような男が好みだな」

「……男前すぎるわねあなた」

「ふふ、褒めても何も出ないぞ!」


 カトリナぇ……と彼女たちは内心思う。背格好からすると、大柄なカトリナと公太子は釣り合うような気もする。が、脳筋な二人は、恋愛感情は生まれないと思われる。


「騎士団長から連絡はまだなのよね」

「ええ。調査は開始しているものの、今は姿をくらませたかのように見えないそうよ」

「……隠れたか。迂回して旧都経由で戻るが吉やもしれぬ」


 王女殿下のみならず公太子殿下も同道するならば、安全な経路を辿るべきだろう。あえて、ラマン近郊を経由する必要はないと考えられる。


「川沿いを遡り、旧都ではなくトールからシャルに向かう街道を使えば、ラマン経由と大差のない時間で王都に到達できるでしょう。トールで一泊し、翌日早く街を出れば……」

「護衛が追い付けないぞ恐らく」


 行きの魔導馬車は単独で移動したが、騎士を乗せた騎馬が長時間は速駆けするのは無理である。日数は倍は見なければならないだろう。


「アジェン・トール・シャル・王都の順で、四日はかかるな」

「……そうね。その行程で親衛騎士団と打ち合わせをしましょう。これ以上滞在を長引かせるのも問題になりそうですもの」


 王女殿下の滞在は一月近くとなっており、そろそろ王妃様はともかく、国王陛下が駄々をこね始めかねない。


「あまり構いすぎると、年頃の娘に嫌われるという事を知らないのかしらね」

「子爵家はあの姉だったから、父はそう思わなかったみたいね」

「うむ、我が父は恥ずかしながら娘に構いすぎるきらいがあるな。兄や母から激しく窘められ、また、家宰や執事にも嫁に行く身なのだから、あまり執着するなと言われている」


 嫁に行くから執着しているのだろうと彼女は思う。姉は跡取りであるから、家を出る事はないはずだったのだが……爵位を継げばまた同居になるのだろうか。


 伯姪も、ニースに久しぶりに帰った際は、父親に粘着され相当うっとおしかったらしく、カトリナに同意していた。父親にとって、娘は特別可愛い……というのは男兄弟がいる場合ではないかと

彼女は考えていた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 大公と公太子、それに親衛騎士団の公太子付きの者たちに王都への帰路のスケジュールを説明、旅程の手配をお願いすることにした。特に、アミンとトールはレンヌとゆかりのある街である。


 シャルは王宮経由で宿泊場所の手配を依頼した。


「ラマンの王宮に、泊まりたかったですわ」


 王女殿下は行きに泊まっており、公太子殿下と過ごせるのではないかと楽しみにしていたのだが、悪竜騒ぎで立ち消えとなっていた。


 翌日には出発するという急遽な旅程は、悪竜騒動と関係ない訳ではなく、王都に早く帰ってきて欲しいという国王陛下の横車であったようだ。面倒なオッサンである。





 レンヌはソレハ伯事件の後始末でしばらくは忙しくなりそうなので、半年程度は王女殿下をお迎えすることは難しいかもしれない。あまり婚姻前に頻繁に会うのも、高位貴族・王族の婚姻らしくない気もするのだが、魔装馬車であれば二日で到着する距離となったので、遠慮する事も無いのかもしれない。


 レンヌにはソレハ伯爵の受け取りにまた伺う事になりそうだと思いつつ、王女殿下を乗せた魔装馬車を警固し、四人は騎馬で従う事になる……のだが、カトリナは身分的に直接の護衛を望まれ、馬車の中でイチャイチャする二人の相手をすることになり、とても嫌そうであった。


「公爵令嬢の身分もたまには役に立つわね」

「もしいなければ、あの仕事は間違いなくあなただもんね」


 騎乗で風を切るのもすっかり騎士学校の遠征で慣れてしまった。王都に戻れば、騎士学校の卒業もまもなくであり、その後はリリアルには二期生の受け入れが始まる。


 ヴィーと帝国の件での情報交換を受けた上で、彼女自身が帝国に赴いて調査したいという気持ちもある。


「何だか、忙しかったけれど、あっという間に騎士学校も終わりね」

「本当に、カトリナの相手から始まって、行く先々で魔物にであうのは、神様のお導きだとしたら随分な事よね」


 竜討伐から始まる『聖女』扱いにはすっかり慣れさせられ、半ばあきらめの境地の彼女ではあるが、リリアルが認められ、孤児出身者であっても、その身の処し方で如何様にも……なるわけではないが、認められ受け入れられると思えるようにはなりつつある。


「始まったばかりなのよねリリアルは」

「十年二十年と重ねてもまだ足らないわね」

「じゃあ、五十年。その頃はすっかりおばあちゃんだわね二人とも」

「まあ、私は孫に囲まれて幸せに老後を暮らしているはずだけれど」

「……それは無いわね。無いと思うわ」


 結婚どころか、婚約者さえ決まっていない二人であるが、もうすぐ十六歳になるので、貴族の娘としては焦る年齢ではある。


 とは言え、身分がインフレ気味の二人にとって、今の身分で果たして釣り合う相手を選べるのかと言うと問題がある。彼女が伯爵家を建てるのであれば、伯姪も男爵か子爵に陞爵され、その配下に置かれる可能性があるからだ。


 王国にはない身分だが、帝国には『上級騎士』という存在がある。帝国騎士は貴族扱いされない身分だが、上級騎士は准男爵のような扱いを受け貴族の範疇となる。


 騎士身分が増える場合、そういった爵位の授与もあるかもしれない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 アミンを出発しトールに到着した二日目の夜半。彼女たちの前に、ラマンから騎士団の伝令が到着した。王女殿下の護衛の件ではなく……『悪竜』が再び姿を見せ、現在トールに向けての脇街道を移動中であり、騎士団では足止めできないという内容であった。


「……この伝令はいつ発せられたものですか」

「本日の午後です」

「……用意をしましょう。公太子の親衛騎士も非常呼集を」


 騎士団長曰く、剣や槍、火縄銃では全く歯が立たず、騎士も数十人が負傷し身動き取れない状況であるという。


「どどどどうするのだアリー!!」


 どどどどうするもこうするもない。我々で阻止するしかない。


「大丈夫。相手は大物だし、魔力もそれなりに持っているから街道上で待ち構えていれば問題なく接敵できるわ」

「……落ちついてくださいカトリナ様」

「そうそう、折角竜殺しのチャンスが巡って来たんだから、ここはあなたも頑張るしかないわよ」

「む、チャンスか。確かにそうだな」


 タラスクス討伐の時に感じたのは、一山いくらの魔力持ちがいても大して役に立たないという事である。


 つまり、公太子の警固役たちは、トールの城壁の防護に徹してもらい、彼女たちが防ぐしかない。


「あとどのくらいで到着するのかしらね?」


 ラマンとトールの間は約50㎞。人間の走る速さ程であれば、一時間とせずに到着するだろう。だが、彼女はそうはならないと考えていた。


「亀のような甲羅に長い首と尾を持つ15mもの化け物。さらに、川沿いにしか出没しない。長い毛でおおわれている事も含めて移動速度はさほど早くないでしょう。数時間はかかるのではないかしら」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」


 彼女の想定に、カトリナが疑問とも同意とも取れない返答をする。


「とにかく、竜討伐が可能な装備で出ましょう」

「それと、晩御飯もいただかないとね」

「腹が減っては戦は出来ぬというしな」


 彼女は、夜食の手配と街道沿いを照らすトーチの用意をするよう、街の代官に指示をする。この場合、王女殿下の護衛責任者であり、王国副元帥リリアル男爵の命で発したものである。副元帥号が正直ありがたかった。





 第二第三の伝令は、『悪竜』が途中の湖沼で休みつつ、小川に沿ってこちらに移動中であるとしながらも、川の流れと竜の巨体が相容れず、速度はさほど早くないと伝える。


 第三の伝令は「ここから20㎞ほど北に現在おります」と彼女たちに伝えてる。恐らく、現在は更に近づいているのだろう。


「リリアル男爵。竜がこちらに迫っているというが、どうするつもりか」


 公太子殿下が彼女たちの部屋に現れた。呼びつける間も惜しいと考えたのかもしれない。


「魔装馬車の御者は元冒険者の従騎士です。親衛騎士の同行を無視するなら、今の三倍ほどの速度で離脱できます。ですので、城壁から竜が見えた時点で旧都に向けて殿下と王女殿下はお逃げ下さい。馬車には数人の騎士を乗せることが出来ると思いますので、同行させてください。 残りは……騎士団長の子息に指揮を委ねてこの街の防衛にご助力を」

「……あなた方はどうするのか?」


 最初から聞きたかったのは恐らくこのことなのだろう。


「四人でラマンに向かう街道を戻り、手前で竜を迎撃します」

「なっ、レンヌの騎士達も『無用ですわ殿下』……カトリナ嬢……」


 カトリナが大きく横に首を振り「Non」と意思表示をする。


「魔物相手に戦ったことのない者は、正直足手纏いだ。それに、この街を守るにしては騎士の数が足らないだろう。そちらに人を配するべきだと思うが」


 背後で伯姪も同意する。


「大丈夫です殿下。こちらには、竜殺しの英雄がおりますから」

「……確かに……そうだな……」


 彼女は公太子に見えない位置でしかめっ面をする。もう魔物退治はお腹いっぱいなのである。


「では、出ようか」

「ええ、少し走ることになりそうね」

「うーん。夜食を食べる前に走るか、食べてから走るかの二択ね」


 カトリナは真剣に悩んでいたが、パンとワインとハムを渡されたとカミラが告げると「運動の後に軽く食べるか」と、先ずは走ることになりそうである。


「では、私たちは四人の武運を祈るとしよう。竜の首をもたらしてくれることを願っている」

「ご期待に沿えるよう、努めます殿下」

「……後ろの事は気にせず、王女殿下とお逃げ下さい。判断を間違えないことを願います」


 四人は一礼すると、部屋を後にしたのである。



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― 新着の感想 ―
[一言] >ラマンとトールの間は約50㎞。人間の走る速さ程であれば、一時間とせずに到着するだろう。 フルマラソンが1時間かからない世界
[一言] やっと長年続いた因縁と言うか禍根の一つにケリがついたんだね、お疲れ様です。 醜鬼ってオークだったんですね自分が知ってるオークって豚頭のやつだと思ってたので(主に転○ラやドラ○エのせい)てっ…
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