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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『オリヴィ』

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第274話 彼女は帝国の魔剣士の腕前に驚く

第274話 彼女は帝国の魔剣士の腕前に驚く


 ヴィーとビル、そしてジジマッチョ三人組はそこからエールを片手に談笑し始めた。彼女と赤毛娘は食事を供にしたら部屋で夕方まで眠るつもりで席を共にしていた。


「相変わらず、ヴォージェ使いなのか二人は?」

「ええ、魔物相手では使い勝手が良いので」


 ヴォージェとは、山国で使用されていた長柄武器で、ハルバードとグレイブの中間のような形式である。バルディッシュより柄が長く穂先は小さめのバランスである。


「儂も、最近リリアル男爵から魔銀製のバルディッシュを譲ってもらっての。愛用しておるのよ」

「……バルディッシュ……ルーシの装備ですね」

「まあ、ロマン系の海賊というか冒険商人が愛用しておりましたね。今は亡き、古の東帝国の皇帝親衛隊が装備していたと記憶しています」


 ロマン系の海賊・冒険商人は東方も川や湖沿いに侵略を行い、時に君主国を建国し、時に支配者の親衛隊となり、やがてその土地の王の婿となり支配者となる事もあった。


 流石に、帝国皇帝の血縁者になる事は出来ず、その武略をもって側近、親衛隊となった族長がいたという。


「長柄の武器で生中な金属なら両断しうる魔銀製の剣戟ですか……しかし、武具が全てではありませんよ老将軍」


 はははと珍しくビルが挑発するように言葉を繋ぐ。意外と脳筋なのかもしれない。もしくは、人化の副作用であろうか。


「いや、最良の武具を揃えてこその最強の騎士ではないのかビルよ。確かに、そなたの武勇は目を見張るものではあるが、やはり数打ちの装備では限界があるだろう」

「それはその通りですわ辺境伯様」

「いや、まあご隠居様くらいにしてもらえるか」


 前伯はヴィーの呼び名をやんわり訂正する。然るに……


「その素晴らしき武具を拝見したいのですが」

「そうじゃの。ではここに出すので、手に取ってみるが良い」


 ジジマッチョは自分の魔法袋から仕舞っておいた魔銀製バルディッシュを取り出し、ビルに渡す。


「……これは……素晴らしい出来ですわね」

「そうじゃろ? リリアルの鍛冶師である土夫の老師の作品じゃ。因みに、男爵とお揃いでもある」


 ジジイとお揃いとかマァジあり得ない……等とは思わないが、旧知の仲の冒険者と再会し、ジジマッチョの口は軽快である。


「売り物ではないので、値段はつけられませんが」

「だが、手に入れたいものだ」

「魔銀製のヴォージェなら……報酬の一部をそれに変えてもらう事もお願いできないかしら?」


 ヴィーもその出来の良さに惚れ込んだようで、彼女にグイグイと迫ってくる。自分の相棒の装備を良くしたいという気持ちは彼女にも理解できる。が、老土夫がどう考えるかにもよるので今の段階ではこれが精一杯の回答だと断り、こう告げた。


「今あるヴォージェの一つを魔装鍍金処理を施しましょう。魔銀製ほどではありませんが、十分な魔力を載せることが出来ます。強度は元の金属の性能に左右されますが、魔物、特にアンデッド討伐には向いていると思います」


 鍍金であればコストも手間もそれほどかからない。故に、このレベルを一段噛ませることにした。


「鍍金ね……」

「こんな感じですよ、魔銀鍍金」


 ちょっと疲れてボーっとしていた赤毛娘だが、武具の話になり活性化したようである。赤毛娘の『マイ・メイス』を手に取って渡す。全魔銀製は今回聖魔装では無いので持ち込んでいない。


「これはこれでいいわー」

「今の手持ちで最も出来の良い物を鍍金してもらおうか」

「これなら、リリアルの工房でさほど時間を掛けずに仕上げられると思います!!」


 何故か、赤毛娘が胸を張り応える。別に構わないのだが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 一度睡眠をとり、西日が差してきた事に気が付き目が覚める。既に、昨晩同行した赤目銀髪、赤目蒼髪、青目蒼髪は装備を整え今夜も警戒する為に早目の食事をとりに行くようである。


「先生、お目覚めですか」

「……ええ。昼間に王都からの来援のお相手をしたので少し遅く出ることにします」


 三人は了解し、赤毛娘も昼間の来援と討伐に参加したことを伝え少し遅めに起こすように伝えておいた。起きている間は気にならないのだが、一度寝ると、どっと疲れが出て来るものだと彼女は感じた。


『顔でも洗って準備を進めようか。後何日か、耐えるだけだろ』


 そうであればいいと思うし、そう願いたいものだと彼女も考えている。果たしてグールの来襲だけで済むかどうか。グールは恐らく死霊術師の管轄ではなく、帝国の吸血鬼の差し金であろうと思われる。


 対応する必要があるのか、それとも単なる挨拶代わりの襲撃なのか今の段階では判断できそうにもない。


「おはよう。よく眠れた?」


 部屋の戸口には帝国の女魔術師が立っていた。相棒はいないようだ。


「ビルなら、夜番の子達と食堂に出て行ったわ」

「そうですか。睡眠はとれたと思います」

「いつでもどこでも寝られるのが冒険者だもんね。若いんだから、大丈夫」


 年齢不詳の美魔女に言われると、本気か冗談か分からなくなる。


「それと、今晩はグールは来ないと思うわ」

「……根拠を伺っても?」

「あれは、私への挨拶みたいな物。お前がそこにいるのは知ってるぞってそんな感じかな」


 吸血鬼(Vampir)殺し(Moerder)として吸血鬼側にも知られている彼女は、常に居場所を彼らに把握されているというのである。


「だから、たまにはそういうの抜きでオフに浸りたいわけなのよ」

「それで、王国・王都に行きたいと思うわけですね」

「正解☆ だって、あなたたちがこの辺りで吸血鬼の従僕どもをかなーり一方的に殲滅したって聞いて、是非会いたいと思っていたの」


 どうやら、この帝国の魔術師は会うべくして彼女たちに会いに来たという事なのだという。その共通項目は吸血鬼の討伐。


「今まで、二人で沢山の吸血鬼の従僕を滅ぼしてきたわ」


 帝国にはそれなりに多くの吸血鬼が潜んでおり、一定の勢力を持っているのだという。


「分を弁えて貴族らしく生活してくれていればいいんだけどね。ほら、ハーレムって存在するじゃない?」

「サラセンの君主の持っている女性を集めた後宮の事でしょうか」

「そうそう。あれって、一人の女性から吸血すると大変だし、処女の血が尊ばれるから男性との接触を絶たせるって目的もあるんだよね」


 サラセンの君主の中には少なからず吸血鬼となり、人知を超えた能力を振るうものが存在するのだという。中には「魔人」もしくは「魔神」を使役し、その力を利用して大きな国を作る者も存在するという。


「周りの目もあるから、ある程度の年齢になったら死んだふりするか替玉の人間を君主にして老衰なり病気で死なせて、自分は眠りについたりする。暫くして世代が変わると復帰して、別の君主として生まれたことにする……という感じのが何人かいるんだよ」


 その者たちは、異性のハーレムを形成し、生かさず殺さず血を吸いつつ人間の下僕として奉仕させるのだという。


「中にはその長生き吸血鬼の休眠中に暴走する下僕の吸血鬼がいたりするんだよね。そいつらが悪さをする」

「……なるほど、何となく出来事が理解できました」


 彼女の想像では、サラセンとの戦争、王国と帝国の戦争が一段落し、その間に活躍した高位の吸血鬼が休眠期に入ったのだろうと。その「鬼の居ぬ間に」と、自分たちで好き勝手し始めているものが存在するということだ。


「長生きの吸血鬼は、暇つぶしと安定した生活を暫く楽しんで寝るだけのことで起きている間は平和なんだ。けど、最近吸血鬼化した下僕どもは自分の力を振るいたくて仕方がない。元々の貴族だ富豪だ傭兵隊長だって奴らが吸血鬼化するから、今まで不可能であった野望を実現しようとおかしなことを始めるんだ。だから……そういう奴は私が殺して回ってる感じだね」


 ヴィーは大本の吸血鬼をなぜ殺さないのだろうかと彼女は疑問に思う。


「ん、なんで親玉ごと殺さないのかって思ってるんでしょ?」

「……はい……」

「半分神様みたいになってるからね。だから、起きている間の平和を維持する期間、とても世の中が安定するの。だから、大本が寝ている間の不始末を処理するだけにしているというわけ」


 王の監視が無くなる間の不始末を処置することで、監視のある期間は干渉する必要が無くなるという事なのだろう。


「殺せないんだよ、普通にね」

「……想像できませんが、その事は理解できます」


 殺せない存在がいる。アンデッドの中のアンデッド。魂が複数の場所に保管されている、現身が複数存在するなどの理由だろうか。神様が多数の場所で多くの人間を見ているとすれば、神に近い吸血鬼の王らも同時に複数の場所に存在し得るのかもしれない。


 故に、殺すことが出来ない。殺す必要もない……という事なのだろうか。


「人間には限界があるからね。だから、深く入り込みすぎるのも良くない。ほどほどに、そして、危険がある時に処置する……くらいにしておきたいよね」

「でも、帝国内だとあなたの身が危険なのでは?」


 吸血鬼が常に付きまとい行為をするから安心できないと彼女は言っていたと思うのだが。


「正確には、グールを作り出したり無関係な人間を巻込むから嫌なのよあいつら。私の肉体を傷つける事は出来なくても、精神を消耗させ傷つける……とでも言えばいいかな」


 一言でいえば……バカンスがしたいのだろう。リフレッシュするのに、吸血鬼の監視が広がる帝国内では寛げないということだ。


「暫く王国に滞在してください。そして、帝国に私たちが訪れる時は……案内をお願いします」

「いいわ、そういう協力関係でいきましょう」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 帝国の魔術師をどの程度信用できるかは分からないが、今までのところ、おかしなところは感じられない。吸血鬼の存在、動向を知るヴィーの存在は彼女にとってとても価値があるように思える。


『まあ、帝国の魔術師に学ぶのもいい経験だ』


『魔剣』の呟きに、彼女も同意するのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ジジマッチョたちは、その夜、守備隊長と深夜まで大いに語り合い、ジジイ同士の交流が深まったようである。


 その晩はヴィーの予想通り、吸血鬼らの襲撃は無く、死霊術師が行うミアン攻撃には吸血鬼は関わりがないと判断された。


「あいつら、基本的に個々が勝手に活動しているから、重なるのが偶然」


 ヴィーは夜型生活を送っているのか、昼前まで起きてそこから寝るようである。吸血鬼の活動時間に最適な時間帯に起きているのが癖になっているので、昼から夕方が睡眠の時間になっている。


「健康に悪そう」

「まあね。その代わり、薬草煎じて飲んでるから大丈夫!」

「大丈夫なわけないのだから、私たちは真似するべきじゃないわよ」

「勿論です! やっぱり早寝早起きが成長の秘訣ですから☆」


 赤毛娘……君の場合、よく食べてよく眠る(ながく)じゃないでしょうか。


「そう言えば、姉さんも良く寝てる人だったわね」

「ん、呼ばれたかな?」


 騎士団の駐屯所の食堂に……何故か野生の姉が現れた!!


「みんな、お疲れ様! 差し入れ、持ってきたよー」


 型崩れ系フィナンシェが山盛りに入った籠が置かれる。


「おお、フィナンシェじゃない!」

「あれ、初めまして、私は妹ちゃんの姉です。あなたはどなた?」


 帝国の魔術師の前での相変わらずの姉である。魔術師としてもそれなりの遣い手である姉が、ヴィーを見誤るわけがないのだが、いつもの前振りである。


「初めまして、男爵の姉上様。私は帝国の冒険者にして魔術師のオリヴィ・ラウスと申します。以後お見知りおきを。この男は相棒のビルです」


 ビルはフィナンシェを両手に握り口に運びながら黙って会釈する。


「ふーん。帝国の冒険者さんね。妹ちゃん、この人たちは信用できるの?」


 誰もが思いつつ、口にはしていないその質問を姉は軽々と言葉にしてみせた。相変わらずの怖いもの知らず……の演技が上手だ。


「ええ。彼女と私たちは利害関係が一致しているの。それに、帝国の精霊を用いた魔術師とお会いしたのは初めてなのだけれど、とても見事な術を行使するわ。もし仮に、この方たちが敵の偽装であるとするなら、ミアンも私たちも無事では済んでいないもの」


 妹の説明に姉は大いに気を良くしたようで頷く。


「うんうん、リリアル男爵としてしっかりお仕事しているようで何よりだよ。えーと、私はニース商会会頭夫人のアイネ。今は只のアイネさんだけど、その内、ノーブル女伯になると思うの。あと、旦那はニース辺境伯の三男坊だよ。よろしくね!」

「ええ、こちらこそ。王都に伺った際はお相手頂けると嬉しいわ」


 姉は元気よく「OK!!」と答えウインクする。


「騒がしい姉で申し訳ありませんねヴィー、そしてビル」

「いいえ、陰でコソコソ疑われるより、ハッキリ言って貰えてうれしかったわ。それに……」

「これほど美味い菓子をくれる女性が、悪い人なわけがない」


 ビルは既に六個目のフィナンシェを口に入れており、リリアルの女の子たちから「イケメンだからって何やってもいいってわけじゃない!」と、魔装布のグローブに魔力を通され、腹パンされてしゃがみこんでいた。


「なんだか、見た目と中身がギャップがある人たちだね。うん、悪くないよ!!」


 姉は手をひらひらさせながら「王都で遊びましょう!!」とその場を去っていった。







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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか当たり前のように普通にこの場所にやって来れるお姉ちゃん凄い♪ そして来れて当然とばかりに誰もその事に疑問を抱かないw
[一言] ビルさん甘いもの好きなんやな、しかしちょっとに間に6個とか食いすぎやろw食べ物の恨み、いや女子の甘味の恨みは恐ろしい魔力込めた拳で腹パンとか並みの騎士なら胃の内容物全部吐き出して数日まともに…
[良い点] アイネさんのぶれなさっぷり [気になる点] どの辺に腕前に驚く部分があったのでしょう? フィナンシェ大食いか、帝国で吸血鬼のブラックリスト入りしていることか [一言] フィナンシェが食い…
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