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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ミアン』

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第258話 彼女は伯姪とスケルトン軍団に齧りつく

第258話 彼女は伯姪とスケルトン軍団に齧りつく


 デンヌの森の中にも集落は存在するだろうが、その住人がどうなったかは想像するしかない。恐らく、余りよい結末は迎えていないだろう。


「先触れを出したいくらいだけれど……」

「はっ、私たちより早く進む先触れって無理でしょう?」


 二人と別れミアンに向かう彼女と伯姪は、川沿いの道に数多残されたスケルトンの足跡を追い、騎馬で急行していた。


「馬用の魔装鎧欲しいわね……」

「ああ、身体強化機能もあると良いわね。疲れ知らずになるかもしれない」


 疲れはポーションで回復させ、無理やり体力を維持させることでその歩みを今は補っている。ミアンに到着するころには大いにへたばっているだろう。


「ん、あれが最後尾ね。どうする?」

「尻に噛り付くというのはどう?」


 伯姪は「鮫みたいにね!!」と声を上げる。二人の片手には既に聖魔装のメイスが握られている。左手に手綱、右手にメイス。姿勢を低くしながら馬の疾走に体を任せる。


「ここで良いわ!!」


 手綱を引き、鐙を踏みしめると、二人は空中へと飛び上がった。


「それ!!」

「はあぁぁ!!」


 メイスを振りかぶり、案山子のようなスケルトンの頭蓋にメイスを命中させ粉々に破壊していく。骨は案外と脆いようだ。否、メイスの威力が遥かにその耐久力を上回っているのだろう。


「何か脆い骨ね」

「あんまりいいもの食べさせてもらってなかったんじゃない!」


 右でメイスだけでなく、魔力を垂れ流す彼女は、左手の護拳にも魔力を集め、殴りつけ叩き潰していく。伯姪から「うひょー過激だわー」と声が上がる。


 僅か数分の乱舞だが、スケルトンの五十体も倒した二人は一旦後退し、包囲されないように周囲を確認した。


「やっぱりね……」

「ミアンに移動する事が優先で、その進路上に立ちふさがる障害以外は敢えて攻撃しないようね」


 前進を止める気配がなく、後備を削ったとしてもスケルトンはその歩みを止めることなく、北西に向け川沿いの道を進んで行く。


「これ、あと百回くらいやれば討伐完了よね?」

「十回でもしんどいのではないかしら」

「あはは、まあね。私の魔力だと、あと数回ってところかな」


 寝ればある程度回復するが、今の時点で、伯姪の戦闘時間は同じような闘い方であれば十五分からニ十分しか持たせることはできないのだろう。それでも……騎士団の魔騎士の数倍の戦闘継続能力だが。





 何度か接近しては数十体づつスケルトンを討伐したが、それでも全体の一割にも届かない数だろう。いや、一割でも二人でなら相当の物なのだが、既に伯姪は限界が来ていた。


「……申し訳……無いわね……」

「貴方の他に、同じことが出来る人が騎士団にいて?」

「あのポンコツ令嬢なら余裕でしょうね……」


 「ふははは」と高笑いが聞えた気がするが、確かにカトリナであれば魔力は充分持つだろうが……恐らく、スケルトンに抑え込まれて押しつぶされる可能性がある。何と言っても猪武者……猪騎士だからだ。


「出入りができないから、彼女は魔力は保てても他で無理よ」

「……かも知れないわね……」


 スケルトンの軍勢の行軍路から逸れ、森から離れた街道へと向かう。馬も疲れているのだが、無理やり体力を回復させているので、目が血走り、どう考えても危険な状態だが構ってはいられない。彼女以外、全員が疲労の極みなのだ。


『お前はいつも平常運転だよな』

「……失礼ね。ペース配分は命綱よ」


 彼女は小さなころから姉の無茶ぶりに付き合わされていたので、予備の予備の更に予備の体力を温存することを覚えている。体力の限界を察して、命懸けの悪戯を仕掛けてくるのが姉の得意技なのだ。


「あなたは眠っていてもいいわ。私が先導するから」

「そ、そう。ごめんなさいね……」


 気絶するように伯姪は馬の鞍に体を預け、彼女は伯姪の馬の手綱を片手で御しながら、二頭並べてミアンへと向かう事にした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ミアンに午後遅く到着した二人は、早速、教官と街の守備隊の責任者、大聖堂の司教・聖騎士に『王国副元帥リリアル男爵』の命で集まるように命じた。


 その間に、ブルーム分隊の従騎士達には伯姪から状況確認の伝達と、予想される進撃路に沿って斥候を出すように命じてある。


 教官と大司教・聖騎士は『リリアル男爵』の名で招集が掛かった事で、ただ事ではないと即時理解したようだが、ミアンの守備隊長ら街の防衛を担う幹部たちはよく理解していないらしく、不平たらたらでその場にいた。


「非常呼集に応じていただきありがとうございます。王国副元帥リリアル男爵です。この街に、少なくとも連隊規模のスケルトンの軍勢がデンヌの森方面から進撃中です。恐らく、今夜半にはミアンに到達します」

「「「「なっ!!」」」」


 ジロリと不満たらたらであったミアンの住人たちを睨みつけ、彼女はさらに予想される問題の発生を予想する。


「この度の、一連のスケルトンの出現はこの為の予備行動であったと推測されます。ロマンデからミアンに向かう道すがらみられたスケルトン、確認できていませんが、カ・レ方面、更にはコルトからの侵攻の可能性が想定されます」

「「「「……」」」」


 スケルトンの軍勢が一方向からだけ発生するとは彼女には思えなかった。デンヌ、ロマンデ、カ・レ、帝国領のコルトの四方面からミアンを包囲するように接近している可能性がある。


「騎士団から斥候を出してください。移動の容易な街道沿いを進むと予想されます。接近しなければ脅威は低いので、騎馬であれば問題ないでしょう」

「はっ!」


 騎士団の駐屯隊長は離席する。正直、分隊規模の騎士がいても焼け石に水だから精々、偵察として活躍してもらおう。


「そ、そ、そ、それで!! どうするお積りですか」

「応援は呼んでありますが、恐らく数日は持たせなければならないでしょう」

「……では、一週間は見なければなりませんね」

「教会は非常呼集を伝える鐘を鳴らしてください。今日の日暮れまでに全員城門の中に入り、以後、包囲が終了するまで門を開けることを禁じます」


 全員が納得しているわけではない。


「商人で、明日にでも街を発つ者たちが騒ぎ出しますぞ」

「街道沿いに魔物が四方から接近してくるとはっきり伝えなさい。それでも出立するならお好きにどうぞ。但し、今日の日没までです」

「……」


 街の代表者の何人かが集まって相談をしている。戦なら、接近してくる敵を見てから準備しても遅くはない。しかし、アンデッド相手では、昼夜を問わず攻撃を受ける可能性が高い。城門を固く閉ざし、補強をして一週間を耐え忍ばねばならない。


「救援は来るのでしょうな!」

「確実ではありません。それに、恐らく万に達するアンデッドの軍勢に取り囲まれて容易に近づけるとは思えませんから。出来る限り、こちらも対応しなければなりません」


 幸い、主力はスケルトンであるから、落ち着いて戦えば城壁で十分に対応できる。但し、休みなく攻められるので、こちらの消耗が著しく進む可能性が高い。


「人間相手なら、暗くなれば戦は終わりますし、傷つければ戦闘力は失われます。ゴブリン程度の強さだとしても、首を刎ね飛ばす若しくは、頭蓋骨を破壊するまでは片手片足でも攻撃してくるスケルトンは、市民兵には脅威だと思います」


 ゴブリンは一匹なら弱いが、数が揃えば不意を突かれることもある。故に、初心者の冒険者の死傷率は高い。スケルトンも同様、一体二体を討伐したとしても、終わりのない攻撃が続くのであれば、守る兵士の消耗は積み上がっていく。


 ベテランが戦場で命を落とすのは、疲労による注意力の低下と言うのは良く聞く話である。


「しかし、悪くない話もあります」

「なにか?」


 スケルトンは細かな作業には向いていない。つまり、工兵による城門の破壊や、梯子を掛けてよじ登るような攻撃を一箇所の城門に集中し突破するということも出来ない。


「幸い、この街は外郭と内郭、城門を護るゲートも存在します。時間を稼ぎ、一週間生き残る事は難しくはないでしょう」

「……だと良いのですが」


 防御の指揮は守備隊長に一任、彼女はスケルトン軍団の把握と遊撃に出ると宣言する。


「だ、男爵閣下が指揮を取られるのではないのでしょうか!」

「市民兵が私の言う事を聞くとは思えません。四方に防衛戦の際に動員する事になっている兵士を今晩中に配置してください。持ち場で寝起きできる装備も持ち出してもらうように。毛布なども必要であれば教会から貸与をお願いします」

「承知しました。聖騎士達はどのようにお使いになりますか?」


 彼女は、ブルーム分隊と聖騎士は守備隊長の戦術予備として、苦戦した箇所に応援に向かわせるための戦力とすることを提案する。


「数が少ない騎士を当てにして薄く広く配置するよりは、崩れた場所に応援に向かわせる方が良いと思います」

「……キープの防衛ではないのですから、それが妥当でしょうか」


 円塔のような狭い拠点を護る場合、圧倒的防御力を誇る騎士が通路を塞ぐという戦い方が存在するが、スケルトン相手ではいずれ押し負けてしまうのは明らかだ。


「相手は引くことを知りませんから、一度崩れた場合、こちらは押し込まれることになります。押し戻すには、騎士の力が必要でしょう」

「「「なるほど……」」」


 怪我人多数が出れば、攻撃が停滞し後退するのが普通の攻城戦だが、スケルトンにそれは無い。力づくで押し返す戦力はどうしても必要だ。


「では、皆さん、短い時間ですが全力で準備を。ミアン市民の力を帝国に見せつけましょう」

「「「「「応!!」」」」」


 会議は短いながらも、最後は熱を持ったものになった。


『聖女の加護もあるから、何とかなるだろ?』


『魔剣』が無責任に言い放つが、「王都が魔物と蛮族に襲われた時と比べれば、ずっとましよね」と納得するのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ブルーム分隊の集合する騎士の集会所には、初の実戦に意気上がる若い貴族が集まっていた。


「お疲れ様。対応できそう?」

「いま、街道沿いに斥候を放ったわ。今日の夕刻で城門を閉ざして一週間は籠城戦をする事になるわね。二十四時間よ」

「ふむ、アンデッドは眠らぬからな。なに、我が魔力の尽きるまで存分に戦って見せようではないか……ですわ!!」


 カトリナ嬢が声高に気を吐くと、周りの近衛騎士どもが「おお!!」とばかりに賛同する。


「人間、一週間も寝ずに戦えるわけないでしょ!」


 公爵令嬢の空元気にチョップを入れる伯姪。そして、彼女も付け加える。


「スケルトンの軍勢の推定戦力は一万。今夜半もしくは明日の朝には城門に殺到することが予想されます。私たち騎士の仕事は、市民兵が崩れたときに、スケルトンの軍勢を城壁の外までたたき出す仕事。つまり、必ず死地となります」

「「「……ぉ、おう……」」」

「なになに、こんな所でビビってるんじゃないわよ! こんな出世のチャンス二度とないわよ!!」


 貴族の次男三男で騎士になるしかない男子たちは目を見開く。


「ドラゴンほどじゃないけど、王国を揺るがす魔物の大軍団に遭遇して、籠城戦よ。歴史に名の残る戦いになるに決まっているじゃない!!」


 伯姪の言葉に士気が上がるのは良いが……


「命大事によ。一週間は長いわ。一人で少なくとも百程度のスケルトンを倒さなければならないのだから」

「一日、十五体くらいじゃない?」


 ある意味、数を倒したら後退して休息させるくらいの配慮は必要だろう。最初は興奮して疲れを感じないだろうが、やがてしっかりと体の芯を削っていくことになるだろう。

「でも、今日の午前中だけで、二人で二百ぐらい討伐したじゃない?」

「……た、たまたまよ」


 ミアンに向かう途上で、一当たりした際に、確かにニ三百のスケルトンを倒してはいる。それを聞いた公爵令嬢(ポンコツ)の目の色が変わる。


「では、あてくしたちも、一日二百を目標に討伐致しましょうカミラ」

「……できるのであれば……」


 魔力量は多いが、燃費の悪いカトリナは恐らく継戦能力に問題がある。いつぞやも張り切ってばてていた。カミラが気にして許諾しないのもその危惧があるからだろう。


「どの程度の能力か、明日は前に出て戦ってみるしかないわね。千の言葉より、一つの経験のほうが確かだわ」

「然り!! ですわ!!」


 取ってつけたようなお嬢様言葉とは裏腹に、既に目がギラギラしているカトリナである。


「なら、有志でちょっと出ましょうか」

「おお、それは良い考えだ」

「……包囲されてからよりはましかもしれませんね。お供します」


 彼女は、カトリナ主従に聖騎士、ブルームの有志を連れ一旦ミアンの郊外に『大物見』に出る事にした。残る半数のブルームは伯姪の指導のもと、明日以降の準備に取り掛かる事になった。


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