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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『地下墳墓』

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第245話 彼女は遠征にリリアル生を巻込む

第245話 彼女は遠征にリリアル生を巻込む


 リリアルのアンデッド対策の実戦テストの場に今回の遠征を利用しようと彼女は考えていた。


 いくつか新装備を試す要望も受けていたからである。


 一つは魔装戦車……これは、農民反乱でハンドカノンと呼ばれる旧式の火縄銃を用いて騎士と戦う際、移動する要塞として馬車を改造した『戦車』が使用されていた記録にヒントを得たものである。


 実際、帝国東方で使用されたそれは、木の板で馬車の側面を囲い、狭間を設けてその間からハンドカノンを撃つ移動する胸壁として利用された。馬車の荷台の高さが馬上の高所を取る優位性を相殺し、むしろ、目の高さにある移動する防壁から鉛の弾丸を至近距離から放たれ、騎士が多数討ち取られたのである。


 反乱に加わった農民の中には弾圧された異端の信徒たちが多く、自分たちの村を破壊され家族を殺された少年少女も多数含まれていた。非力な少女が屈強な騎士を倒す事は、二重の意味で問題であった。騎士は少女を討取っても騎士の名誉は得られず、また、討取られれば非常に恥であったから、討伐軍の士気は大いに低下した。


 その『戦車』の構造を『魔装馬車』に一部組み込む事にしたのである。側板に魔銀鍍金した鉄板を80cm程貼り付ける。鉄板自身はそれほど厚いものではなく、その分板の厚みを薄いものとして重量を変えないようにしている。


 狭間を設け、魔力を流し込むことで鉄以上の防御力をある程度の時間維持することができる。更に、幌の部分を魔装布か魔銀の鎖で覆う事ができるなら、さらに防御力は改善されることになるのだが……鎖の場合重量がかなりのものとなるし、魔装布は生産が間に合わないで今回はここまでにするようだ。


 老土夫曰く、自分の魔力で結界を展開するよりは数十倍長く展開できるはずだという。魔力を流して魔銀の強度を上げる方が、何もない空間に魔力だけで結界を展開するよりも簡単で省エネなのは言うまでもない。


「馬車は……四輪の大き目の荷馬車なのよね」

「おお、普通なら四頭か六頭でもおかしくない『キャラバンサイズ』の馬車だ。こいつなら、二頭でもお釣りがくる。馬車の幅を生かすには並列にしてやる方がいいし、兎馬と違って馬は数が多くても問題がない。最悪、一頭でも動かせるとはいえ、二頭いた方が融通も利くだろう」


 大きな荷馬車を一頭で牽くのは目立つだろうから、二頭にして誤魔化すという意味合いもある。


 馬車のサイズは長さ6m幅は1.5mほどであり、8t程度の重さを載せることも可能だという。中に棚を加え、多段ベッドを設ければ数人で野営もできるし、傷病者も移送できるだろう。軍用に転用するには魔術師が不足するだろうが、後送用であればよい装備であるかもしれない。


「取り合えず数日運用してもらって様子を見たい」

「では、アンゲラ城で待ち合わせという事でお願いします」

「騎士団から命令書を発行してもらう方が良いわよね。装備のテスト中と言う事で、立ち寄る許可を与えるって感じでね」


 それは必要だろう。彼女がいれば「リリアル男爵」の名前でその場で許可も降りるだろうが、リリアルの子達だけでは……いくら騎士爵とは言え相手が信用しない。少年少女の集団にしか見えないからだ。





 次に、魔装銃を何丁かと魔装弾を使用したいということである。魔装銃は二つの魔石の反応を火薬の燃焼反応と置き換え弾丸を発射する魔導具であることは知っているが、『魔装弾』とは一体何を意味するのだろう。


「簡単に言えば魔銀を使わない対アンデッド用の弾丸だ」


 弾丸の鉛の中に小さな魔水晶を封入しているのだという。その魔水晶に彼女が魔力を込めて、彼女の魔力をアンデッドに叩きつけるアイテムなのだという。


「……何故私の魔力なのでしょうか?」

「ああ、この前、魔水晶に魔力を込めてもらったじゃろ……」


 老土夫曰く、学院の様々な魔力持ちに魔水晶に魔力を込めてもらい、吸血鬼を対象にダメージ実験を行ったのだという。


「アリーの魔水晶だけ、飛びぬけてダメージが入る。勿論、他の者でも魔力のない水晶と比べれば格段なのじゃが、お前の魔力は別格の効果じゃった!!」

『あー 聖女様だからだなー』


『魔剣』の呟きに内心面白くない気もするのだが、聖女だ妖精だと言われて魔力の質が変わってより効果が高まるのなら有難く受け止める。


「で、これだけ魔力を込めてもらいたいんじゃ」

「……騎士学校に取りに来てもらえるかしら。時間がかかりそうだから、今すぐは無理でしょう」

「任せる!」


 数百発の弾丸が小さな樽に収まっている。本来は火薬を保管する樽のようだが、中身は鉛の弾丸だらけである。





 せっかくなので、魔装弾の効果を吸血鬼で試してみようと考えたのだが、老土夫曰く「死ぬからやめとけ」と言われてしまった。残念である。


「魔装銃の拳銃を作ってみたので、これを持って行って試してみてくれ」


 ダガーサイズのピストルにホルダー。ダガー同様、かなり近づかねば弾丸が当たらないという。距離は数m程度だと言うが、投槍代わりだと考えれば悪くないだろう。先手が取れるのだ。


「有難くいただくわ。出来れば、御試し用の普通の弾丸もいくつか貰えるとありがたいのだけれど」

「おお、すまぬな気が付かんで。あまり多くはないが、これを渡しておこう」


 銃は個体差が多少あるので、弾丸が必ずしも共用できるかどうかわからない場合が多いのだと言うが、リリアル製の銃に関しては同一口径のものだけを用意するという。弾丸は一種類しかない。


「では、通常の弾丸で試射してみましょう」


 弓用の標的を用いて、発射のテストを行う。


 最初は5m。彼女からすれば剣の間合いと大差がない。鉛の弾丸を込め、拳銃を握り的を狙う。魔力を通し、引き金を引く。


 パン!!


 何かが撥ねたような軽い音がし、チュンと的に鉛弾が吸い込まれた音がする。


「軽いし、音もそれほどではないわね」

「火薬の爆発音とはかなり違うな。煙も出ないし、雨でも関係なく発動するからそういう意味では悪くない」

「なるほど」


 彼女は更に10m、15mと距離を離していく。10mまでは何とか的に収まっていたものの、15mでは半分以上外れてしまうことがわかった。


「騎銃サイズではどの程度の精度なの?」

「弓と同程度だ。50mまでは確実、100mでは半分以下というところじゃな」

「それ以上は難しい?」

「ああ。丸い弾を飛ばすだけだから、弓よりも失速も早く風の影響も受ける。正直、距離が遠ければまだ弓の方がましなのは火薬を使っている場合も同じじゃな」


 銃の良さは弓のように特別な訓練を長い時間する必要がないということである。つまり、弓兵は補充が難しく銃兵は補充が簡単で歩兵並というところが好まれる理由なのである。そして、アウトレンジ出来る攻撃手段は兵士を勇敢にする。剣より弓、弓より銃が容易に兵士を好戦的にするのだ。


 リリアルに関しては、アンデッド対策に銃を使用するのは好ましい。数多くのアンデッドが発生した場合、魔力を持たない者も戦力となれるのは悪くないからだ。銃に魔力を込める専任者が必要だが……癖毛に任せようと彼女は思った。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 『魔装戦車』と『魔装銃』を遠征と並行してリリアル生が別働として来てくれるのであれば、何かしら大規模な事件が発生しても何とか対応できるだろう。彼女と伯姪だけでは正直不安でしょうがない。


 リリアル生もアンデッドはグールとレヴナントの経験があるものの、基本的には「首を飛ばす」という対応に終始している。悪霊のようなものの経験はない。


「それで、今回はアミュレットを作っているわけね」

「孤児院の子達にも渡す予定のものだから、先にリリアル生に身分証明書代わりに渡そうと思っているだけよ」


 リリアル生用のアミュレットは、リリアルの紋章のメダルに魔水晶を加えた物で、魔水晶には彼女の魔力を封じている。首から魔銀鍍金の鎖で下げられるようにしている。


「これなら、鎖を持って魔力を通して振り回せば暗器のように使えるかもね」

「そういう事もあるかも知れないわね、これからは」


 悪霊が死体に乗り移り人を襲う『ワイト』の出現が偶然でないことは十分推測できることだ。ゴブリンのレヴナントのようにある日突然集団で現れておかしくないだろうと彼女は考えている。


 そこで、彼女は『伯爵』の講義を思い出していた。


 『伯爵』は騎士学校で帝国に関する座学を受け持っているので、顔を見る事が定期的にある。とは言え、彼女がそう親しく話す機会もなく、目礼を躱す程度の関係なのである。


――― そもそも、話が迂遠で長いのが『伯爵』なのである。


 ポーションの定期宅配に『伯爵』邸を訪れた彼女に、世間話の一つとして出てきた話だ。


「作業が止まりかけている」

『そう。というより、天気の良い明るい時間になるまで、作業現場に入れないから結果として遅れはじめている……かな』


 王都の共同墓地を郊外に移転、そこに孤児院の成人間近の希望者を集め、職業訓練をしながら集団生活する場所を設置する計画が進んでいる。最初に行うのは墓地からの遺骨の撤去。数mまで掘り下げて骨を探して回収し、甕に納めて荷馬車で搬出し、郊外の共同墓地の納骨堂に納める事になる。


 それが、作業時間が短くなり計画が遅滞し始めている……という。


「理由をご存知ですか?」

『うん、実際見に行ったからね。「スペクター」が発生しているね』


 レイスは「ゴースト」や「ファントム」と異なり、霊魂の集合体であり個人の人格は残っていない。人格が希薄になり、残った思念が纏まったもの。大概が、「無念」であるとか「悲しみ」といった感情が浄化されずに固まっている。


 『スペクター』はそれとは異なり、単体で過去の記憶を残している死霊をイメージすると適切だろう。通常、それほどの強い意思を残す『スペクター』の元となる存在を、王都の共同墓地に埋葬するとは思えないのだが。


『あれは、強力だね。人数が多いし、眠っている者を起しているからね』

「つまり、教会の工事に際する準備不足、手抜きでしょうか」

『型通りにはやっていたと思うけれど、ほら、寄付があるかどうかって人間、大切だからね』

「……」


 個人的な葬儀であれば、若しくは慰霊の為の行事であれば多くの資金が集まるが、移転の為のそれはあまり大々的では無かったという事なのだろう。


『今のままだと、作業している者たちもただでは済まないね』

『お前がやるんだよ』

「……ですよねー……」


 『聖女』と胡散臭い名前で呼ばれるようになって嫌な予感がしていたのだが、王都司教座についても、彼女を上手に利用しようとし始めているのである。


 とは言え、学校と孤児院の移設は是非とも実行したいので、『スペクター』討伐は行わざるを得ないだろう。


『アリー気を付けた方がいい。あれは、王国を強く恨んでいる。そのお陰で、その当時の王家は絶えているからね』

「……それは……どういう意味でしょうか」

『答えを教えてもらっていては成長にならないよ。ヒントは十分だと思うから、後は自分で考えて調べた方がいい。その過程で、これから起こる事が深く理解できるだろうからね』


 何かを知っているが多くは語らない。何かが起こる事と、その原因となった事象を調べなければならないと彼女は理解していた。




 

 彼女の既知の知識として、王家が一度直系が途絶えているということは知っていた。王家には王弟の系統が公爵家などで残されており、万が一の場合のバックアップとなっていると言えば良いだろうか。ギュイエ公爵家なども、その為に定期的に降嫁か婿入りが発生し、王家の親族として存在している。


『まあ、あれだよな』

「ええ。それしか思い当たらないわね。調べはするけれど」


 王家の主導で聖王国陥落後、王国内で粛清処分となった『修道騎士団』の幹部メンバーの誰かがスペクターとして召喚されているのではないかと思うのだ。


『総長と王国支部長は、裁判の判決当日に異端であることを認める言を翻し、二度目の異端という事でそのまま処刑、生きたまま火炙りになって、骨は王都を流れる川に捨てられているから、それは無理だな』


 ワイトは肉体と魂が別でも問題ないが、スペクターに関しては触媒が必要であり、その場合、本人の死体がそれとなるのだという。


「確か、触られると魔力と生命力を奪われるのよね」

『霊体と実体の両方の特性を兼ねているから、壁抜けするのに素手で殴られ、

魔力を通さないとこっちの攻撃はすり抜けたりするな。あと、隠蔽も効かねぇ』


 とても厄介な存在であるし、普通の騎士や戦士は勿論、並の魔術師や聖職者でも討伐は困難だろう。


『まあ、行けばわかる。それと、魂は変質しているから会話できても意思の疎通は出来ないと思え』

「……どういう意味?」


 会話ができるが意思の疎通ができないとは何か。


『あー つまり、話の内容に耳を傾けさせるための一つのフェイントなんだ。攻撃の助攻だから、気を引くのが目的だ』

「意味はないという事ね」

『説得されてこの世から消え去れるほど、恨みは浅くないって事だろな』


 王国には王国の理屈があり、修道騎士団には修道騎士団の理屈があった。気が付くと王国の領域内に、王権が及ばない範囲がどんどん広がっていった。最終的に、修道騎士団の総長ら幹部を強引に処罰し、騎士団を辞めたものは異端を認め改心したとして罪に問わなかったことから、正式に法王庁から修道騎士団の異端が否定された数年後、修道騎士団は抜け殻状態となって

いた。


 それは、積極的に保護し自国の騎士団に取り込んだ神国や帝国のような存在と、王国の尻馬に乗って異端として財産没収を行い、王権を強化した連合王国のような存在があったのだが、聖征の主な原動力は王国周辺の騎士の子弟らであった事から、その後に生まれ、聖征と共に大きくなった『修道騎士団』においても、王国が最大の組織的基盤であったことは言うまでもない。


『まあ、あれがなきゃ、百年戦争だって戦えなかっただろうし、何より、王国ではなく修道騎士団国になってただろうな。所詮、寄生虫は本体より大きくなるわけないのにな』


 国王と対等に振舞うまで巨大化した修道騎士団総長を思うと、先がどうなるか想像できなかったのは、政治家ではなく宗教家であったからだろうと彼女は思うのであった。




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