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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『鉄腕』

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第241話 彼女は騎士学校で王太子と遭遇する

第241話 彼女は騎士学校で王太子と遭遇する


「む、私は不本意なんだぞ。騎士の見習であって、騎士ではないのだからな」

「それは、アリーも同じだから言いっこなしなんじゃない? 騎士になったのってゴブリン討伐の功績だもんね」


 その日の午後、カトリナと彼女たちは『騎士殿下』の話題で少々盛り上がっていた。王族であり公爵令嬢である彼女の敬称は『殿下』で問題ないのだから、『騎士殿下』もしくは『姫騎士殿下』と称されてもおかしくはない。


「既に絵姿が出回っていると聞いている。父が見合い用に用意した物をベースに騎士の衣装を着たものに変えて……量産されているというのだ」

「ふふ、いいお話ね。『姫騎士殿下』……大ヒット間違いなしね」


 彼女は『妖精騎士』の話題が消えてくれることになりそうで、少々嬉しいのだ。


「いや、何より不本意なのは、これは『妖精騎士』『聖女アリー』の外伝扱いの脚本なのだ」

「……なん……ですって……」


 どうやら、妖精騎士の友人である公爵令嬢が騎士を目指して修行するなかで、妖精騎士の助けを借りて一人前の騎士になるという成長譚なのだという。


「最初、『ですわ。オーホッホ』なんて話しているのだが、段々、騎士らしく言葉遣いや仕草も変わっていくという話でな……」

「まんまじゃない?」

「……そのままなのではないかしら……」


 カトリナ曰く、第二弾が「鉄腕オーガ討伐」という事になるらしい……そのままである。


「王都って平和なんじゃない?」

「ええ、私たちは馬車馬のように働いているのに……それが高貴なる者の務めというところなのかしら。男爵ってそこまで高貴じゃないわよね……」


 次から次へと魔物討伐が転がり込んでくる……いや押し付けられている彼女の立場からすると、芝居を見て喜んでいる人たちが羨ましくもある。


「そんなに魔物討伐したいなら……替わって欲しいね」

「分かっていないのだなアリー。人は安全なところから危険を楽しみたいものなのだよ。怪談話と同じでな、命が掛からない怖い話が好きなのだよ」

『騎士も死なない時代はほいほい戦場に出かけたもんだけどな。今は名も知らぬ兵士に嬲り殺されるからいかねぇけどな』


 他人事だと楽しめるのかもしれない。芝居だから面白いのだ。彼女はちっとも楽しくないのだから間違いない。


「二人とも、今日の夜は時間が作れないか。夕食を共にしようかと思ってな」

「私は特にないけれど、そっちは?」

「……構わないわ。急ぎの仕事は終わらせてきたから」

「そうか。実は……」


 カトリナは「ゲストがいる」と告げてくる。どうやら、騎士学校の生徒の様子を王太子殿下が視察に来るらしく……別棟のゲストルームに王太子が泊まるので、夕食をともにしなければならないらしい……一応親戚だし。


「巻き込む気ね!」

「カミラは従者故に同席はさせられないしな。二人なら、爵位もあり因縁も浅からぬ関係だからな。それに……あの人と二人きりなのは正直……辛い」

「わかるわ……協力しましょう」

「貸しよ貸し!」

「助かるよ。二人とも」


 カトリナはようやく話したい用件が伝えられたようでホッとしていた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 王太子殿下は、少々仕事で予定が遅くなるとのことで先触れがあり、二人はカトリナ達とサロンで談話していた。既に、茶腹も一時どころではなくなっている。


「王太子殿下が到着されました」

「いま出迎える」


 王太子殿下を入口でお出迎えである。別棟と言うよりも、こちらが本来の王家の別邸であり、格式のあるロビーとなっている。王太子殿下のお泊りということで、侍従たちも先着しており、既にいつも以上に整えられているのである。


「リリアルに王妃様がこられる時って、もっと適当よね……」

「公爵令嬢と男爵の違いだと思って欲しいわね。でも、使用人の子達の勉強の為にもう少し力を入れてもいいわね」


 彼女自身は普通の貴族令嬢レベルなので、祖母と王妃様の侍女頭に力を貸してもらおう事になるだろうか。


 王太子はいつもよりかなりお疲れの顔をして現れた。いつもの軽口もなく、顔色も今一の様な気がする。時間も遅くなっているので、とりあえず食事をしようという事になり、四人はそうそうにダイニングへと移動する。





 王太子をメインに、左右に公爵令嬢と彼女が座り、彼女の横に伯姪という並びになる。


「急にお願いして申し訳なかったね」

「いいえ、王太子殿下をお迎えできて大変光栄ですわ」


 ですわ、戻ってまいりました。公爵令嬢なら王太子殿下の前で「そうか」とは流石に言えない。カミラは侍女姿で公爵令嬢の背後に待機中である。


 ボルデュのワインが出され、「美味しいね」と王太子が褒めると、公爵令嬢以下、ギュイエ家ゆかりの者たちが「光栄に存じます」とばかりに深々とお辞儀をする。王太子……やっぱ偉いんだと彼女と伯姪は久しぶりに実感する。仕事を押し付けられるのも仕方ない。


 騎士学校での様子など軽く触れながら、行きつく先はワイト討伐の件に繋がる。ギュイエの身元確かな使用人ばかりという事で、この場で話をすることにしたのだろう。


「伝わっていると思うけれど、ブルグントの修道院から消えた遺骸がそれだったんだよね。予想通りだったかな」


 修道騎士団の衣装をまとった聖騎士となれば、王国内で安置されている存在は限られている。短い時間にそこまで話は至ったのだろう。


「ワイトと戦った感じ、どうだった? ほら、報告書だと実感がわかないから、直接対峙した人に聞きたくってね。今、ワイト対策でてんてこ舞いだから、ある程度目星を付けたいんだよ」


 王太子のやつれている理由の一つはワイトの対応であろうし、王領のロマンデの治安監視機能の強化も考えなければならない事も重なる。南都周辺の王太子領が自己の優先だろうが、王立騎士団の設立と騎士団の強化は表裏の関係でもある。王国の元帥として多忙極まりないのだろう。


「基本的には、死にたてホヤホヤの高位聖騎士のレヴナントだと思って頂ければいいかと思います」

「……死にたての……強力なと言い換えればいいか」


 レヴナントは死んだ直後は生前の記憶が明確な動く死体なので、生前の能力が高ければ高いほど強力な魔物となる。聖騎士の能力を持ったアンデッドというのは厄介でしかない。


「悪霊として人を害する殺意のようなものがとても激しく感じましたわね」


 カトリナが付け加える。悪意をもった高位の聖騎士が生前の能力を生かして不死の状態で向かってくる……それは、冒険者のパーティーが二つ壊滅するのも当然だろう。


「よろしいでしょうか?」

「もちろんだよ、ニースの姫」

「むほん、調査に向かった冒険者が十人ワイトになってましたわ。勿論、こちらは魔銀製の装備を持った魔騎士六人で準備して突入したので幸い無傷で済みましたけれど、今後は、魔力持ちで魔銀製の装備を持つ者を探索には必ず同行させるようにすべきです」


 伯姪の話に「その通りだね。纏めるのではなく、混ぜるべきだね」と王太子は答える。つまり、近衛騎士の様な魔力持ちだけ固めると、エリート意識を持ってしまい、独断専行したり、周りの意見を聞かないものが多くなるということに対する反省なのだと思われる。


「ニース商会が懇意にしている冒険者、ほら、フィリアをレンヌに連れて行く時護衛になってくれた人たちがいるじゃないか……」


 王太子曰く、ベテランの魔力を持たない指導者と若手の経験はないが魔力を使えるメンバーで組ませていくという運用を考えているのだという。若手の魔力持ちなら、まだ先輩騎士の言う事を素直に聞けるからだという。剣士も少しだけ魔力を使えるようになったので、場合によっては攻撃手として前に出るのが最近の戦い方なのだという。


「あの人も成長したんだね」

「いざという時はアムさんもいるのだから、魔力持ちの攻撃手二人というのは、冒険者としては希少価値のパーティーですもの。戦士もベテランで、野伏のリーダーがいるバランスの良い組み合わせよね」

「その方達と是非一度、依頼を組ませてもらいたいものだな」

「ルーンのギルドに今は常駐しているから、機会があればお願いしてみるといいと思うわよ」


 ロマンデはゴブリンの宝庫でもあるので、ぜひ野営でもして狩をしてもらいたいものである。ゴブリンは皆殺しだ!! 


「ああ、そういえば、ロマンデの海岸沿いに怪しい漁村があったらしいね」

「……聞いていませんわ」

「教官が報告して、ルーンの支部から討伐隊が出たのではないかしら。大人の男と老婆しかいない漁村とか……怪しいじゃない?」


 王太子曰く、元々別の場所から拉致された漁師たちで、家族を人質にされ秘密裏に物資や人を沖合の船から運び込んだり、運び出したりしていたというのである。


「処罰されたのでしょうか」

「一応、何人かは拘束しているよ。なくせば同じことの繰り返しになりかねないから、ダブルスパイをしてもらおうかと思ってね」


 処刑するのは簡単だが、拉致した恐らく連合王国か原神子教徒の商人からすれば、また別の人間を送り込むだけなので意味がない。情報を提供させた方がより効果的に対応できるだろう。


「とは言え、上陸していた偽装兵は君たちが討伐してしまったみたいだね」

「教官たちが情報を引き出したのですね」

「ああ。騎士の端くれだったようだね指揮官は。身代金を用意するからと言ってたみたいだけれど、『戦場ではなく盗賊として捕まってるからそれは無理』

って言ったら泣き喚いたみたいだよ~」


 あっはっはといつもの調子で悪い笑顔がやっと出た感じだ。性格悪くてなんぼの王子様であるので、この調子で性格悪く頑張ってもらいたいものだ。


「魔銀製の武器も、ある程度整備しないといけないんだけれどね……職人がいないんだよねー」


 老土夫が引退する時に対応できるものがいなくなるとは聞いていたが、騎士団が囲い込んでいるからではなかったかと彼女は思い返す。


「冒険者相手にはいないのでしょうが、王家が囲い込んでいる職人がいると武具屋には聞いていますが」

「うん、でも数がね……足らないんだよ全然……」


 リリアルも老土夫の引退前に慌てて買いだめした記憶がある。騎士の剣ではリリアルの求めたスクラマサクスや魔銀の槍・ダガーよりもずっと魔銀を沢山使うであろうから、素材を集める問題もある。そういう意味では、鍍金が使えるリリアルは恵まれていると言える。


「リリアルから取り上げるつもりは無いから安心して。いま、貴族の家に伝来の家宝で死蔵されている剣を供出させることにしているから、それを打ち直して片手剣に仕上げて魔力持ちの騎士には与えるつもりなんだ。貸与だよ勿論ね」


 それだけで金貨数枚の価値がある魔銀製の剣であるから、保管も運用も厳重に管理するつもりであるという。


「幸い、アンデッドが王都や人の集まる場所に大量に出てはいないから、問題ないんだけど、出てきてもおかしくないよね」

「グールやスケルトン、レヴナントは打撃で倒せなくはないので問題ないとは思います。基本的に首を刎ねればいいので……」

「それ、とても難しいですわ」

「慣れよ慣れ☆」


 伯姪の言に頷く彼女を見て、王太子は苦笑い。慣れるほど首を刎ねている冒険者も騎士も多くはない。


「再生能力のある吸血鬼や霊体であるレイスやゴースト、ワイトは死体を死霊が動かしているので霊体扱いでしょうか……この辺りは数が出ないので今のところ問題ないように思われます」

「司祭のもつ神聖の魔力はアンデッドに効果あるかどうか、実際どうなのか確認してみたいな」


 教会の司祭の力も動員する必要がある状況も想定しているのだろう。司祭より、教会所属の聖騎士の神聖魔力による攻撃になるのではないだろうか。


「……数が少ないんだ、あの事件で王国からは修道騎士がいなくなっているからね。司教や大聖堂を守るための聖騎士はいるけれど、実際戦力として戦える教会所属の騎士はいないんだ」


 それはそうだろうと彼女も思う。『修道騎士団』に所属していた者たちのなかで、王国から自主的に他の国に移動した騎士たちがそれなりに存在したという。


 特に、異端扱いせず、修道騎士団をそのまま吸収した神国は、現在でも多くの修道騎士団由来の騎士団が存在するという。


「神国は随分前から御子神教の教えを厳格に守る政治をおこなっているのは知っているだろう?」


 三人は頷く。太古の神権政治のように、政治と宗教が一体化したような体制をここ数代の神国国王は築いている。元々、サラセンに支配されていた半島をいくつかの御子神教徒の王国が数百年かけて戦い続け国土を取り戻した関係から、その宗教的な情熱が非常に高いものとなっているのだ。


 特に、カナンでのサラセンとの戦争が下火になった時代、熱心な修道騎士は神国で活動していたのである。故に、神国には王国の修道士たちより宗派の原理原則にこだわる修道士が集まり、聖王国での戦いと同様、自身の信仰の為に命懸けで戦っていた歴史が積み重なって……現在に至っているのだ。


「聖王国を追われて戻ってきた金満幹部の修道騎士団は異端として処分されたけれど、現場で剣を振るっていた人たちの系譜は神国で今現在も健在なんだよ。そのうち、一つは新大陸や海外の植民地に向かい、一つは、ネデル領の原神子教徒の都市に向かい、帝国内の原神子教徒との戦争にも動員されている。そして、王国にもその矛先が向いている可能性がある」


 王国は原神子教徒を弾圧してこそいないが、御神子教徒が主体の国である。王家も貴族も主な民である農民も御神子教であるが、都市民は原神子教徒が少ないくないし、付き合いのある貴族もシンパが少なくない。だが、神国が敵視するようには思えないとカトリナが言う。


「異教徒にすら寛容でない彼らが、最も近い存在が原理主義的に自分たちに協力しないのは面白くないのだろうね。特に、数代前の国王は法国を巡って直接神国と戦争したこともある。ガロだって緊張状態は続いているから、決して仲良しってわけじゃない。足を引っ張る理由に事欠く事はないんだよね」


 同じ宗派であるはずの神国も、実際は王国に対して暗躍しているというのは少々この場にいる三人の気を重くさせる。ギュイエ領は神国と接する地域であり、跨り住む民族も存在する。ニースは内海に面しており、神国の商人や船も立ち寄らないわけではない。そして……トラブルが増えれば、リリアルの仕事が増える=彼女の仕事も増えるのだ。





 溜息がつきたくなる三人だが、それ以上の重たい話が王太子から聞かされる事になったのである。


「それでね、どうやら、聖ドミニク修道騎士団の団長で異端審問官であった騎士の遺骸が……神国で消えたらしくてね……神国大使から見つかれば知らせて欲しいと王家に打診が来たんだ。何もなければいいけどねー」


 ここにいる誰もが、当然王太子自身も「何もない」はずはないことは理解しているのである。




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