第231話 彼女はコンカーラ城に向かう
第231話 彼女はコンカーラ城に向かう
話し合いの中で、男性二名が『魔銀製』の装備を持っていないことが判明。その武器は騎士団が武器を貸与することになった。魔銀製の片手剣とショートスピアである。
「重たいプレートは必要ありませんが、軽装の鎧にバックラー程度は装備しないと、直接触れると困るので用意してください」
バックラーは冒険者ギルドの備品から、不足する部分鎧、少なくとも前腕甲は各自が装備することになる。
「六人で、教官は見届け役ですよね」
「ああ、戻らないものが全員では困るからな。俺は外で監視業務をさせてもらう。魔力もないから役にも立たないしな」
装備の確認を行ったのち、城の見取り図を確認する。モット&ベイリーに近い建築様式であろうか、主塔である立方体の城塞に円形の塔が付き、その丘の周りをぐるりと胸壁が取巻いている。建築年代がガイア城より古い為縄張り自体はガイア城と異なるが、石材による堅牢な構えは改修された故なのだろう。なにしろロマンデ公家発祥の地であるそうだからそれなりにこだわったものになっている。
「この主塔の横が崩れていて、ここから中に入ることができる。斜面に複数の冒険者らしき足跡が上まで続いているので……依頼を受けたものが入っていると考えられる」
彼女の心の中では「そのルートは取らないようにしよう」と唱える。
「アンデッドとはいえ、ダンジョン内に入れば日差しは入らないでしょうから、昼夜関係ないと考えて問題ないでしょう」
「だからって夜には行かないわよ! 一応言っておくけどね」
カトゥから30㎞は離れており、半日は余裕でかかるだろう。前日移動で、野営した後に朝から中に入るべきだろう。と考えると、明日午前中に装備を整え、昼過ぎに出発し夕方に到着、翌朝から城内の探索を行うことにするのが良いだろう。
「資材は兎馬車に積める分は積んで行きましょう」
「そのまま王都に帰りたいわよねー」
と伯姪が呟く。彼女も同じような感覚だが、ルーンで姉が待ち構えていると推察される。故に、そうもいかない。
「アリー、アンデッドで間違いないのか?」
ヴァイが話に割って入る。武装した魔物らしき存在が例えば……ゴブリンジェネラルやハイ・オークの可能性もゼロではない。
「魔物も食事をします。アンデッドでなければ出没範囲はもっと広くなり、既に被害も出ているでしょう。それに、足跡その他で『薄赤』レベルの魔術師のいる冒険者パーティーなら不覚は取りません。実体のあるアンデッドでも例えばグール程度なら誰も帰ってこないレベルの損害は出にくいでしょう」
「それに、その程度ならたいして問題にならないから。あんたたちが死なないように準備していって『グールでした』なら良かったねってだけじゃない?」
彼女が説明し、伯姪が……挑発する。挑発じゃありませんわ、おほほほ。
「城内の狭い場所での戦闘になると思うので、得物の長さには注意してください」
バスタードソードなどで振り回す戦いが困難なケースもあるだろう。その辺り、カトリナ達は要注意だ。
「なに、前衛が男2人、真ん中に私とカミラ、後方に二人が並べば問題あるまい。支援しやすい長柄持ちが中央にいる方がいい」
カトリナが提案しカミラが頷く。異論は特にないようである。
騎士団で野営の準備は済ませてあるという事で、個人的に必要である物を明日の午前中に買い足し、昼食を済ませてから現地へと出発することになるようだ。
『まあ……ワイトはエルダー・リッチよりはましだ』
エルダーなリッチには知り合いがそれなりにいる。エルダーリッチは死体の持ち主と魂が一致した状態であり、ヴァンパイア同様、究極のアンデッドの存在だと言える。
「ワイトは何が違うのかしら」
『レイスって死霊がいる。レイスの場合は人の魂の記憶が抜けて感情だけになった状態のモノが集まった同じ感情の集合体で、大体が生者を恨んでいるな。妬んでいるともいう。ワイトはそれに似ているが、元は単体の死霊だ。つまり、強い感情を残して死んだ人間が悪霊となった者を死体に宿す。生前の力が残っている可能性があるから厄介だな。あと、肉体自体はグール並になっていると思っていい』
何一つ良い点がないと彼女は思う。リリアルなら魔力でゴリ押しできるだろうが、今回はそうもいかないし、手の内を全て晒すわけにもいかないのが厄介ではある。
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さて、翌日の昼過ぎにカトゥの街を出て七人は『コンカーラ』に向かう。荷物を兎馬車に載せた分、騎馬の足が軽いので思いのほか早く野営地に到着することができた。
彼女と伯姪は明るいうちに城の外周を確認することにし、他のメンバーはそれぞれ野営の準備を進めることにした。城は威容を誇っており、外観だけは往時のままであるように思える。
「百年戦争の時にあの円塔は追加されたらしいわよ」
ダンジョンと呼ばれる立方体の主塔に正門を護る角度でそれを上回る高さの石造りの円塔が備わっている。高さは20m以上はあるだろう。
「その横の門の跡が崩壊しているのが残念ね」
「あそこから侵入しているわね。足跡がそれなりに残っているのも」
かなり薄くなった足跡と、それなりに残る複数の足跡。どれも魔物のものではなく、人間、それもしっかりとしたブーツの物である。少なくとも農民や商人の履物ではない。
斜面にもしっかりと足跡が残っており、少なくとも視界に入る範囲には生きた人間も死体も存在しない。魔力走査を用いたのだが、ダンジョン内は不明であり、ベイリー部分にあたる外壁内の兵溜りにも魔物は存在しない。
「侵入してみないと石の中は判らないわね」
「それはそうか……良いわ、楽しみは明日に回しましょう!」
敷地の中の安全を確認し、野営地周辺の魔物の気配もチェックした上で帰還する。
軽い夕食の後、教官に見張りを依頼し、明日の探索についての事前のうち合わせを行う事にする。
城は街道を見下ろす丘を削り恐らく最初はその中の岩山の上にベイリーを、丘の周囲に柵を巡らせモットとしたものであったろう。ロマン人様式の城塞スタイルである。古帝国の駐屯地をベースにしたものとは大きく異なる。
本来のベイリー入口は主塔のある北端ではなく、東の端に設けられている。ただし、現在は城塞の手前の胸壁が崩落しており、そこから斜面を登って侵入することができる。今回はそこから先行者も侵入しているため、こちらも追う事にする。
「主塔の内部はこの見取り図が参考になると思うわ」
羊皮紙に記録された百年戦争時の写し図である。主塔の大きさは縦横40mほどの長さがあり、入口は南側に設けられている。
【コンカーラ城主塔レイアウト図】
「二階建てくらいか」
「礼拝堂は吹き抜け、大広間と副居室は二階建て、大円塔は三階建てね」
階段は大広間の北側に二箇所、西の副居室と大円塔に一箇所づつ存在する。
「今は廃墟だろ? あの時代の城塞だから、壁は外側がメインだし、柱もさほど多くないはずだ。出入り口での不意打ちを気を付ければ何とかなるか」
「そうだな。前衛は盾を構えて中の気配を確認して素早く侵入か」
「その場合、気配隠蔽はできるのかしら?」
「む……練習中だな。恐らく、高位のアンデッドでは気が付かれる」
「俺たちもだな。ゴブリン程度なら誤魔化せそうだが、強いのは無理だと思う」
彼女と伯姪にカミラは問題ないだろうが、その他の三人は無理だという
ことだ。死体に霊が乗り移った高位のゾンビもしくはレヴナントな故に、見つかる前提で考えなければならない。
前衛二人と伯姪は片手剣にバックラー。盾で攻撃を防ぐというよりは、直接手を触れずに距離を取ったり突き飛ばす為の装備である。
「どんな剣か見せてもらってもいいか?」
「そうね。見せてもらおうじゃない」
カトリナと伯姪が騎士団が貸与した魔銀製の剣を見たいと言い出す。ヴァイたちは置いてあった剣を差し出す。それは、かなり古いタイプの剣であり、時代的には『聖征』の始まる前、ロマン人が王国を襲っていた時代の彼らが使っていた片手剣に似ている。
柄が片手で握りやすく、その後部に大きな柄頭が備わっている。太い樋が中央に入った長さ80cm程の片手剣だろうか。全体にルーン文字が刻まれており、鉄よりも明るい灰色をしている魔銀製のものだろう。
「……家に飾ってあるな……この手のクラシックな剣は」
「魔力を通してみた?」
「お、おう。大丈夫だ。うっすらと魔力が滲みだして光るんだぜ」
二人は剣を握ると魔力を通し、赤みがかった魔力が剣に纏わるのが確認できる。彼女のスクラマサクスと同時代の剣と言えるだろうか。
「で、メイはいつものファルシオンだろ? アリーは何使うんだ」
「魔銀のスクラマサクスがあるのだけれど、可能であればバルディッシュを使うわ」
「おお、あの魔銀鍍金のか。確かに、剣より間合いが取れる方が良いかも知れないな」
前衛二人と伯姪は削る役割で、その他の三人が倒す形になるだろうか。片手半剣も鎚矛も同じ役割だ。
「城の敷地とこの周辺に今のところ魔物らしい魔物は確認できていないので、明日は最初からそのまま突入するつもり」
入口からの強襲が基本だが、可能であれば、二階から侵入することもありではないかと彼女は思う。『結界』を展開して伯姪と彼女が二階から、他の四人が一階入口から侵入することもありだろうか。
「……二階からか……」
「では、こういうのはどうだ」
先行して二階に二人が侵入する。その上で、魔物が一階入口から離れたタイミングで四人が入り挟撃する。
「いいかもしれない。今回、未帰還の冒険者は何人だったか……」
「初回が六人、二回目が四人の十人だね」
カトリナの確認に伯姪が答える。彼女は「ではワイトが十一体以上いる」という前提で討伐を開始することにしましょうと言い出す。
「ワイトが十一体ね……多いな」
「お触り厳禁なゾンビが十一体ってだけじゃない? 不意打ちさえ喰らわなければ大丈夫よ」
その不意打ちを喰いそうな場所を確認する。
「一階の入口、各階段、礼拝堂と副居室の入口に大円塔は……連絡通路の出入口か」
「ワイト自体は魔力を持っているので、察知できれば不意打ちは受けずに済むと思うわ」
「できる人、手を挙げて!!」
ジェラルドは「俺無理」とばかりに皆に話を振る。彼女と伯姪と……カミラが可能と出る。
「二階から一階の階段に私たちが降りるので、そちらは大広間で侵入後待機で構わないかしら」
「それで行こうか。六人と四人はそれぞれある程度まとまって行動している可能性が高いでしょうから、二階と一階にそれぞれのパーティーでいるかも知れないね」
ヴァイが話を繋げる。さて、それぞれ大広間に固まっていると好ましい。狭い居室や礼拝堂では剣を振り回す事も出来ないからだ。
明日の侵入は主塔に二階から先行して侵入、最初に大広間を掃討し一階組はそこで待機。二人が二階を捜索して階段の安全を確認した後合流。大広間に人を残した状態で、礼拝堂・副居室・大円塔を捜索するという手順
に決めた。
「二時間程度で終わると思うのだけれど、明日中にカトゥに戻れるように努めましょう」
「「「「おう!!」」」」
とカミラ以外が声を合わせる。カミラは……キャラではないらしい。
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教官に話し合いの報告をし、六人は交代で見張りをすることになる。最初はカトリナ主従、その後は彼女と伯姪、最後は男二人である。男たちは一番きつい中番を引き受けるというのだが、探索では先行する役割であり、思考がはっきりしない中で判断ミスされると命にかかわるので断ることにした。彼女たちにとってはそれほど長く寝なくても一日程度なら問題ないということもある。
夜中過ぎに起こされ、短い時間の睡眠でも彼女の頭はスッキリしていた。それは伯姪も同じようで、遠くに見える大きな石の棺の様な影を見つつ、探索についてああでもないこうでもないと雑談しつつ、緊張をほぐしている。
「ワイトか……正直グールの方が楽だよね」
「それはそうかもしれないわね。人間がゴブリンに変わったようなものですもの。ワイトは不意打ち以外は問題ないとは思うけれど、魔術師でないメンバーが加わる時点で……リスクを感じるのは贅沢なのよね」
それはそうだと伯姪が頷く。子供ばかりとは言え、パーティー全員が大なり小なり魔術師という編成はリリアルくらいのものだ。魔力が使える冒険者として男二人は濃黄レベルは十分であり、カトリナも同様、足らないのは経験だけだと思われる。そして、カミラは……
「私より上手かも知れないわ。少なくとも、魔力量は上だし魔術も得意で武器もある程度マルチに扱えると見た」
「公爵令嬢の警護を一人で任せられる時点で相当の手練れよね……」
薄赤以上、薄青クラスの可能性もある。同世代では初めてみるレベルの魔騎士である。
「ほとんど実力は見せないけどね」
「それもあって、突入を分けたのよ。お互い見せたくない心理が働くと却って危険だと思うから」
彼女の場合……魔力マシマシで『結界』を形成して押しつぶすという事も考えないではない。
『多分、遺品の回収とか必要だから、あんまり燃やしたりするのは良くねぇんじゃねえの?』
「それもそうね。死者に敬意も必要ですもの」
と考える彼女だが、実際のワイトを目の前にしたなら、そんな気持ちが一瞬で消えてしまう事をこの時点では思いもよらないのである。




