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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『辺境伯』

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第23話 彼女は伯姪の事情を理解する

第23話 彼女は伯姪の事情を理解する


 さて、長らく出番のない『猫』であるが、実はこの城館の様々なところに出入りし、情報収集中なのである。それが今回の、彼の仕事なのだ。使用人の教育レベルは、辺境伯の家がどのようなものか明確にしてくれる。お金だけでは人は動かないからだ。幸い、ここで務めるのは地元の民にとりとても名誉なことであり、おらが王様に恥ずかしい思いをさせるわけにはいかないと、真剣に働く者ばかりであった。


 料理人は素材を生かした的確な調理で、内海の幸の魅力を存分に引き出している。また、海の向こうから飛来する砂が城館内をザラザラとさせることから、掃除も細かなところまで手が入っている。乾燥しているので汚れはこびりつき難いのだが。


 使用人の衣食住もとても良いもので、奴隷の如くというか、虐待まがいの扱いを受けている者は当然皆無である。長く働きたいという気持ちも皆が持っている。辺境伯家は元々の領主であり、民を慈しんできた故に家を保っていられるのであるから、当然のことなのだろう。


『騎士団の宿舎にも顔を出しましたが、みな騎士団長に敬意を払っております。武具も騎士としての練度も見事だと思います』

『実戦経験豊富な分、王都の近衛よりつええだろうな。人を斬るのは覚悟がいるしな。慣れも必要だ』


 海賊・野盗討伐が当たり前のニース領ではそれなりに経験が積まれて行くことは容易に想像できる。


『街も少々歩きましたが、いわゆる貧民層でも王都と比べると表情が緩やかです。恐らく、過ごしやすい気候のせいもあるでしょう』


 王都は冬はとても寒い。その為、暖房が使えない貧民層は常に飢えと寒さに覚悟せねばならない。ここは冬も暖かであろうし、飢えはともかく寒さの心配は少ないだろう。


『とはいえ、気になることもございます』

『……辺境伯家が何か企んでいるのか?』

『家ではない。伯姪がだよ』

「ああ、ちょっと嫌な視線を感じていたのだけれど、何か気に障る事でもあったかしら?」

『自覚がねえのは相変わらずだな』

『主が今回彼女の居場所を奪っているように思われております。彼女はこの城館では姫様扱いでございましたから。関心が移るのが許せないのでございます』


 とは言え、客に城館の主一家が気を配るのは当たり前であり、伯姪もその手伝いをすべきなのではないかと思うのだが、そうではないのだろう。


『お前と違って、あの娘は明確な役割を与えられていない。だから、いまだに幼い頃の在り方を踏襲しているのだろう。だから、大人としての対応が欠けているのだ』


 確かに、自分も姉のようになりたくて、姉になれずに苦悶した時期があった。姉の跡を継ぐ子爵家を支えるためにという、一連の役割である。それでも、役割に必要なことを学ぶ機会を与えられていた分、今となってはありがたく思うのである。


『辺境伯は、彼女を王都の法衣貴族に嫁がせ、子爵家のサポートをさせたいようなのですが、伯姪様にはいまだお伝えではないのです』


 自分の場合、同じ王都に住み、嫁いだとは言え実家はすぐそばにあるのだし、知り合いもそのままであるはずであった。今は……王妃様や王子様のせいで、少々変わってしまっている気がするのであるが。


「一人で……侍女くらいは付けてくださるでしょうけど、知り合いのいない王都での生活は不安でしょうね」

『その話が本当なら、恐らく、令息と一緒に王都に来ることになるだろう。お前と同じ年齢なら、デビュタントも同じ時期だろうから、準備期間もあるし、1年先くらいには来んじゃねえか』

『はい。とは言え、伯姪家はそこまで多くの使用人を抱えておりませんので、お付の侍女一人、それもずっとではなく、王都になれる1年ほどの間だけの約束で連れていくのでしょう』


 王都のことは王都の侍女に頼む方がいい。彼女の家は辺境伯家の縁戚とは言え、母方のつながりだから、家自体は騎士の家だろうか。ならば、使用人はほとんどいないはずだ。自分のことは自分でしているだろう。


「心配だわね」

『八つ当たりがか?』

「なんで八つ当たりされるのか理解できないのだけれど」


 猫曰く、恐らく辺境伯家と子爵家の関係を考えるに、令息は商会の立ち上げや婚約結婚の準備で忙しく、伯姪の相手は父辺境伯の代理人としてなにか契約するときなど以外、関わらないだろうというのだ。


『当然、王都に詳しく、王家にも覚え目出度いお前が、彼女の世話をするよう、子爵家に要求されるだろ?』

「……うそ……」


 それはもう、彼女がするしかない。茶会には姉が『婚約者の従妹』として王都ですごすことで紹介をして回るだろう。彼女はエキゾチックな風貌であり、ニース辺境伯の親族ということで、注目も浴びるだろう。


 イメージでいえば、法国はアメリカで、王国が日本。その途中にあるニース辺境伯領はハワイだと思えばいいかもしれない。本土まで行くのは大変だが、一度くらいは遊びに行ってみたい異国情緒のある王国のはてなのだ。


『それに、令息なら宿か小宅を借りて侍従でも連れて過ごすかもしれませんが、彼女はそうはいきません。恐らく、子爵家でお預かりする形で王都では過ごすのではないかと推察します』


 まさかの、同じ屋根の下の他人である。姉は彼女をからかう事はあっても、ライバル視したり張りあったりはしなかった。それは、母の配剤による。あの伯姪は、彼女と張り合う気満々だろう。


『いや、そこまであいつは馬鹿じゃねえ。爺さんの前で話聞いてるだろ。お前は百年に一人の「妖精騎士」様なんだからな』

『今は感情的に、自分の居場所を取られたように感じられているでしょうが、主とはいい御友人になられると思います。性根は優しく強い方ですから』


 明るい策略家であると猫は言う。何か企んでいるのかもしれないし、事が起こってからでもいいかと彼女は思うのであった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 それから、王都に戻るまでの数日間は、猫に聞いた城塞都市内の面白そうな場所を見て回ることにしたのだが……


「私が案内して差し上げますわ、王都の妖精騎士様」

「……ありがとうございます……」


 伯姪から案内をする申し出があり、少々驚いたのである。何、何か企んでいるのかと訝しく思わないでもない。


『まあ、旧街区の細い路地裏とかに放置する気じゃねえの』

『主、お任せください。必ず安全に、城館までご案内いたします』


 猫を抱いて観光するわけにもいかないのだが、猫はさりげなく後をつけるのでご安心をということである。


 城塞都市というのは、最初から塀で囲まれているため、人が増えた場合、縦に伸ばすしかないのである。故に、路地は狭く、建物の高さはとても高い。2階部分くらいまでは石造りだが、その上は木造で建て増ししている。


 家賃が安いのは上の方である。階段を何度も上がらねばならないからだ。


「さて、最初に噴水のある広場に行きましょう」

「ええ、お願いしますわ」


 彼女は連れ立って先を歩いていく。城館から海岸沿いを歩き、やがて比較的大きな通りを右折し、商店が立ち並ぶ通りを歩くと、そこには中央に噴水のある広場があった。


「ここは色々な集会などでも使われるの。祭のメイン会場もここね」


 噴水の周りには、屋台も並んでいる。伯姪の目当てはそれなのかもと彼女は考えた。


「この、ライスケーキが絶品なの。王都では見たことないのではない?」


 それは、いわゆるきな粉餅であった。ライスは法国で栽培されている穀物で、川沿いの湿地で収穫される。そういえば、粒粒モチモチの食べ物が魚介と一緒に炊かれていた料理を思い出した。


「神国の料理で『パリャ』というのがあるわね」

「食べたことがあります。船の上で夕食をいただいたときに、振舞われたものだと思います」

「そうなの。スープに入れると、麦粥よりずっと美味しいし、お腹もいっぱいになるから。それに、丸めてボール状にしたものはパンよりいいわね」


 どうやら、伯姪は王都になさそうなこの辺りの名物を紹介してくれるつもりなのだと彼女は理解した。いい子なのだ実は。


「その、私、あなたに嫉妬してたのよ。お兄様にも一目置かれているのがわかったし」


 彼女はようやっと嫌われている理由が分かった。恋敵認定を勝手にされていたのだ。


「騎士団長様とは手合わせさせていただいただけです。それに、お聞き及びかもしれませんが、私は騎士爵に叙爵された後、国王陛下にお言葉を賜りました。辺境伯様のご令息と姉が成婚するとすれば、その御兄弟とは縁戚となりますので、重ねてということはあり得ません」

「……そうですわね。陛下がお許しになるわけがございませんわね」


 同じ家同士が深く結びつくのはあまり好ましいことではないと、国王は考えるだろう。故に、姉と妹が二人ともニース辺境伯家に縁づくことは有り得ないのだ。


 何か、心のわだかまりが解けたようであり、伯姪は辺境伯一家の持つ底抜けな明るさを示し始めた。姉の計算した明るさよりも、一段も二段も突き抜けた元気の良さ。それは、この地の空のように晴れ渡るものを感じた。


 王都の空はどこか薄曇りであり、そんな空の下で、彼女がいまのように快活にいられるかどうか、少々先走りかとは思うが心配になるのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 二人は、噴水の周りの屋台で様々なものを買い食いした。買っては噴水の脇に腰掛け、食べ終わってはまた買う。系統は違うものの、二人の美少女が楽しげに笑い合いながら話している姿は、周りから知らず知らずに注目されているのであった。


 それは、微笑ましいと思う視線とともに、何か不穏な視線も加わるのである。


「あなた、とても話しやすいわ」

「そう言われるのは初めてなのだけれど、良かったわ」


 彼女の中で、嫌味や嘲りの刃のない伯姪との会話は、実の姉と話をするよりもいたって気楽なのである。


「王都ってどんなところ?」


 彼女は子爵家がになってきた王都の開発の歴史から、かなり詳しく都市の成り立ちを理解していた。


「その昔、王都は1万人ほどの街だったの。この領都くらいの規模ね」

「そうなの。今は……どのくらいなの」


 今では50万人ほどの人口が住んでいる。王都を囲む石壁の向こうに住む人口を加えるともう数万人増えるかもしれない。


「……凄いわね」

「そのほかに、王家の離宮や貴族の別邸もあるの、王都の外に」


 大きな屋敷を立て直すにしても新築するにしても限りがある王都の中ではなく、外に屋敷を構えるのは王侯貴族にはある事なのだ。子爵家はない。


「おじい様の館みたいなものね」

「そうね。もっと豪華で広いのだけれどね。茶会で招かれたこともあるので私はすごく驚いたわ。姉さんはもっと詳しいから、王都に来たら一緒に招かれるのではないかしら」


 伯姪の目がキラキラし始める。伯姪は彼女と同い年のはずだが、胸のサイズは姉寄りである。悔しくなんてない、全然ない!!




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 お腹も膨れた二人は、小物を見たり、彼女の興味のある武具屋・冒険者ギルド、薬師ギルドなどを回り、王都との依頼の違いを確認したりするのである。武具は軽く、革製防具や片手剣が多い。


「種類もサイズも多いのね」

「この辺は、主要な街道を外れると野盗が多いのよ。法国からの傭兵崩れが入り込んでくるしね。お兄様もそれでご苦労されているわ」


 先代の時よりは減っているものの、巧妙になってきており、また、この市街にも協力者が入り込んでいるようで、人攫いや押し込み強盗もあるのだそうだ。


「それで、あいつらみたいなのがいるわけね」

『さっきから、追いかけてきている奴らに気が付いたか』

『主、処理しましょうか』


 彼女はせっかくなので、伯姪と一芝居打とうかと思うのである。


「いま、後ろから追いかけてきている男たち、恐らく、あなたが目的でしょうね」

「……気が付いていたのね」


 辺境伯に近しい少女を攫い、人質にして金銭を要求するか、法国にでも連れ去って貴族にでも売りつけるのかは分からない。まあ、彼女も見目麗しい美少女なので、どこのだれかとは知らなくとも、一緒に攫って金にするつもりなのであろうことはわかる。


「人攫いなら、傷をつける事は無いでしょうね」

「攫われて、アジトを突き止め、首謀者を捕まえるという事でいいのかしら」


 周りのお店を見ながら、さも商品を見定めるふりをしつつ、二人は打ち合わせをする。腕に自信がある二人が、共謀するのだから、血を見ずにはいられないだろう。それに、人攫いも山賊も海賊も野盗も生かしておく必要を感じないのは、民を守るものとして当然だろう。


――― 人攫いに海賊・山賊に野盗は守るべき民ではなく、処分すべき害獣。


 ゴブリンやオークとの違いは、肌の色となまじ人間の姿かたちをしているということだけであろう。





 見知った裏路地にわざと二人は入ると、しばらくして前後に男たちが集まってきた。


「よお、嬢ちゃんたち、こんなところで道に迷ってるのはあぶねえよ。おじさんたちが送ってあげよう」

『お前らが一番あぶねえだろどう見ても!』


 彼女は伯姪に目配せをし、大人しくついて行くことにするのである。


「素手で大丈夫?」

「いいえ、武器なら身につけているわ。大丈夫よ」


 今日は魔法袋は猫に持たせてあり、彼は人攫いどもに連れていかれる彼女たちを追いかけるのである。


『主のおせっかい癖にも困ったものだが、彼女らしいのだろうな。今も昔も』


 猫はやれやれとばかりについて行くのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「人攫いなら、傷をつける事は無いでしょうね」 この根拠どこからきているのかな、成り行きで傷つけること、殺してしまうこと、幾らでもあると思うよ。
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