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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ワスティンの森』

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第214話 彼女は公爵令嬢と『ワスティンの森』に向かう

初レビューいただきました。狩谷様、ありがとうございます☆ 


第214話 彼女は公爵令嬢と『ワスティンの森』に向かう


 幸い、『ワスティンの森』は、リリアルから騎士学校を経由して南下した先にある場所である。金曜の夕方学院に戻った二人は、準備を整え、ゴブリン討伐を行う事にする。


 今回サポートを依頼するのは、いつもの討伐メンバーである、赤毛娘・黒目黒髪・赤目銀髪・赤目藍髪・青目藍髪に……


「わ、私もですか?」

「あなたには斥候に出てもらったから。現地の情報を持っている人が欲しいのよ」


 藍目水髪に茶目栗毛である。勿論、彼女と伯姪も同行する。兎馬車は三台で移動となる。





 騎士学校に到着すると、既に門前には二人の冒険者の姿が見て取れた。


「お待たせしました」

「いや、今来たところだ」


 挨拶を交わし、他のメンバーは現地で紹介することにして、彼女と伯姪の車両に二人を乗せ、先頭を移動する。冒険者として、先行する車両は周囲の警戒も仕事のうちだと、敢えてカリナには見張の役を担わせる。


「なるほどな。それに……後備の車両を手本にせよ……ということか」

「よくできました! 流石に子供の頃から良い教育を受けているだけあるわね」

「女とて、分け隔てなく指導者とならねばならぬからな。ギュイエには女王のいた時代もある」


 連合王国の王とギュイエの女王が結婚した結果、連合王国の王がギュイエ出身という時代があった。女王の先夫は王国の国王であり、国王は……フラれたのである。独立心旺盛な女性であり、王と対等に振舞ったという。


 因みに、女王はギュイエを統治し、最愛の息子に跡を継がせた。その息子は『聖征』で有名な「英雄王」その人である。マザコンになるのも仕方ない。


「騎士も冒険者も女性であることを言い訳にはできないから、向いているかもしれないわね」

「確かに。それに、女だから云々と言われぬのが心地よいな。男兄弟のいないアリーには分からぬだろうが、都合の良い時だけ男女を別にする兄弟のなんと鬱陶しいことか!!」


 美貌と知性と強さを兼ね備えた公爵令嬢カトリナにとって、兄弟はまさに自分を否定する好ましからぬ存在なのだろう。


「あなたが継げばいいのではないかしら?」

「ふむ、戦争でもあって上が皆死に絶えればな。とは言え、その時は別の王族から婿を貰って公爵を継がせることになるだろうが。私は公爵の母となってギュイエを豊かにすることにしようか」


 清々しいほどの男前発言をカトリナはするのだ。




 

 兎馬車で下る事二時間余り。日が中天に達する前に森の入口に到着する。馬車から降りたリリアルメンバーと、カリナ、ミラの二人は互いに自己紹介する。


「冒険者になりたてのカリナだ。今日はよろしく頼む」

「ミラと言います。お手伝いよろしくお願いします」


 ミラはお手伝い(・・・・)と明確に意思表示をした。それは、文字通り依頼の念押しである。


「勿論です。ゴブリン百匹狩れるかな!! で行きましょう☆」

「百匹はいないよね? 半分くらいって聞いてるけど」

「そうそう、でも、上位種がいるから。油断しない方がいいよ」

「……問題ない。三人でもお釣りがくるレベル……」


 薄赤等級が七人もいるゴブリン狩りってかなりの贅沢である。先行する赤目銀髪と藍目水髪が別行動。周辺を一通り確認し、巡回中のゴブリンを先に始末し安全を確保する。


 前衛は茶目栗毛と依頼人二人、その後方をバックアップの赤目蒼髪・青目藍髪の槍持ちが続く。後方はそれ以外の四人。


「道具持ちと、討伐用の杭打ちがお仕事のメインよ」

「少数でゴブリン討伐する時のテストケースにしたいんですよね」

「二期生と一期生で六人の分隊を作るつもりなの。その組み合わせで討伐や採取の依頼をするから、六人で巣穴の駆除ができるようにするには、ある程度工夫も必要でしょう」


 五十匹のゴブリンを六人で狩れるようにする。それは、恐らく、グールや他の魔物の討伐にも応用されるのだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 先行する赤目銀髪がクリーニング済みの走破であったので、目的地の巣穴に近づくのは容易であった。


 最初に、依頼人による巣穴の見張りの討伐から始まる。ゴブリン二体に狼が一体存在する。事前の打ち合わせ通り、気配隠蔽から接近し、ゴブリンの顔に水球を押し付け声を出せない状態で先に狼を殺し、後にゴブリンを殺す。


「見事な魔術の行使ね」

「経験以外は完璧☆ って感じです!!」


 赤毛娘が「あれ、今度やろう!」とその気になる。依頼主がゴブリンと狼の素材を魔法袋に回収している間、リリアル生は巣穴の前に逆茂木と木杭を展開していく。素材取りを終えた二人が確認を始める。


「油を撒いて草を燃やして火をつけ、煙を発生させる」

「風の魔術で煙を洞窟の中に送り込み、出てきたゴブリンを私たち二人で出来る限り討伐する」

「抜けたゴブリンは、そちらで討伐する。目標は上位種以外の半分と、上位種をこちらが討伐すること」

「その通りです。では、始めましょうか」


 持ち込んだ乾燥した薪に、周辺の半乾きの草を被せていく。そして、燃えるように油を撒いていく。既に柵は完成しており、後は飛び出してきたゴブリンを討ち取るだけである。


 パチパチと草木が燃え始め、目に沁みるような白い煙が立ち込める。カリナが魔術で洞窟の入口の空気を操り、中へと送り込んでいく。


 煙が他から立ち上れば、見過ごしていた脱出口の可能性もあるので、赤目銀髪・茶目栗毛・伯姪が森の周辺を確認して回るが、特に煙の漏れ出ている場所はなさそうだ。


『Geeeee!!』

『Gyegey!』


 洞窟の中から怒りに感じる鳴き声を発しながら、ゴブリンどもが飛び出してくる。


「ミラは左を、右の二匹は私がいただく!」

「はい!」


 二匹のゴブリンを一刀の切り返しで倒すカリナ、地面から肩の高さほどの鎚矛で頭を叩き割るミラ……ミラ怖い……


「やっぱ、ミラは殺し慣れてるわね」

「訓練された以上の動きね」


 一瞬の殺気でゴブリンの動きを止め、間髪入れずに頭にペグを叩き込む。頭蓋が半ばまで叩き割られ瞬殺である。しばらく蠢いていたカリナの二体とは異なり、即死であったろう。


「二匹瞬殺は難しいかな」

「普通の武器であれなら素晴らしいでしょう。そんなに簡単に生き物は死なないから」

「魔銀製に慣れると、感覚狂うわね」


 魔力を纏わせ叩き切るのが当然の装備からすると、急所を狙わねば一撃必殺とはならない並の武器は力不足に見えてしまう。





 次々に飛び出してくるゴブリンの中には、素早く二人の脇をすり抜ける個体が出始める。それを、槍持ち二人が突き伏せていく。


「よっ!」

「そりゃ!!」


 魔力を纏わせず身体強化だけでも、次々に仕留められていくのは長柄の武器の強力さと躊躇しないだけの経験の賜物だ。そして……


「うぉりゃぁぁぁ!!」


 専用メイスでフルスイングの赤毛娘に、形だけ魔銀製の盾を構える黒目黒髪娘。結界も魔力纏いも今日は禁じ手なので、余り出番はない。それは、彼女も同じである。あまり、魔力を行使する姿を部外者に見せたくないという理由もある。


「先生、何だか手持無沙汰です」

「フレイルでも使ってみる?」

「いえ、ゴブリンがそこまで強力ではないので。盾でこっそり魔力纏いか『衝撃』使って倒します」


 ゴブリンも魔力纏い無しのフレイルなら黒目黒髪では一撃では倒せない。しがみつかれたり圧し掛かられたりしたら、トラウマ物である。





 既に、半数近いゴブリンが討伐されただろうか。中では叫び声や唸り声が聞こえている。まだ相当数、中にいるだろうか。


「どうする?」

「一旦後退して、燃やす材料を追加しましょう」

「あー 硫黄とか混ぜちゃうんだ」

「ええ。埒が明かないから」


 普通の煙だけでは我慢できている上位種も、流石に、有毒な硫黄の燃焼により発生する亜硫酸ガスの中、呼吸することは難しい。のどや鼻の粘膜が爛れ目も痛みで開けていられなくなるだろう。


「さすが錬金術師ね」

「硫黄を扱うのは基本中の基本……らしいわね。水銀と硫黄が必須アイテムだと言われているわね」


 硫黄を燃えている木の中に加え、更に新しい薪を加える。そして、空気を送り込み、洞窟の中へと再び煙を送り込む流れを強化する。


「やはり、普通の討伐は魔術を使う分、楽してるんだね~」

「け、けっ……結構大変です!」


 思わず藍目水髪は『結界』と言いそうになり、いいまつがえレベルで言い直す。


 洞窟の中に流れ込む煙の臭いは、腐った卵の様な刺激臭を伴っている。既に、中の叫び声は先ほどとは比較にならないほど大きくなっており、出口に向けドンドン声が大きくなってきている。


「出てくるわよ上位種!!」


 伯姪の掛け声に「応!!」とカリナが答える。柵をなぎ倒しつつ、表に飛出してきたのはチャンピオンまでは行かないものの、オークほどもあるファイターと、シャーマンらしき人骨を用いた装身具を身に着けた小鬼ゴブリンであった。


「ギュイエ公爵令嬢カトリナ、改め冒険者カリナ……推して参る!!」

「「「……」」」


 魔物の群れを前に名乗りを上げるカリナ、一斉に彼女に気が付いた魔物が目掛けて走り出す。


 背後から更に次々にゴブリンが飛び出し、目の前の上位種に斬りかかるタイミングを逃し、上位種は逃げ出そうとするものの、赤目銀髪の矢がその太ももに突き立てられる。


 先に動いたミラが、骨装身具の上位種の呪文を完成させる前に、鎚矛のスピアヘッドをその喉元に突き立て、引きずり倒す。そして、後頭部に石突を突き立て首を踏み折る。


「……オーバー・キルね……」

「あれ、怒らせない方がいい人っぽいですね……」


 彼女と黒目黒髪は最後列からその様子を観察する。抜けてくる小鬼どもはリリアルのメンバーで叩き伏せ、特に予想外に頑張っているのはフレイル・藍目水髪である。


 今回は、今までのローブスタイルから一歩踏みこんで革鎧を装備して、より冒険者に近いスタイルに変えている。意識の変化は、二期生の加入が近づいていることだという。


「騎士や従騎士扱いになっていることも影響しているんだろうね」


 この中で唯一騎士爵持ちではない彼女だが、だからと言って劣っている存在だとはだれも思っていない。魔力量の多いメンバーの中で自分だけ別枠扱いなのは気弱な彼女でも少々嫌なのだろうとは思う。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 粗方のゴブリンどもが討伐され、生き残りはファイターだけとなっていた。得物はスパイク付きのメイス。恐らくは旅の僧侶の装備でも奪ったのであろう。錆びずに済んでいるスパイクを見ると、新しいものなのかもしれない。


「さあ、私と貴様で最後の勝負を飾るとしようか!!」


 既に、ゴブリンの血脂でドロドロの剣に、魔力水を精製したカリナが剣にそれを纏わせ洗浄する。「ほーら綺麗」くらいの勢いである。





 ゴブリンファイターは背丈は2mほどもあるだろうか、丸太の様な太い腕に金具で補強されたメイスを持ち、小枝のように振り回している。リーチはゴブリン側に圧倒的に有利である。


「さて、お手並み拝見」

「騎士としてはかなり強いと思うけれど、魔物相手に、どの程度通用するか試金石ね」


 人間同士であれば、互角の装備を身に着けている場合が多い。少なくとも、体のサイズも似たようなものでしかない。が、魔物相手ではそうはいかない。


 カリナを援護できる背後の位置にミラが音もなく移動する。


「ミラ! 手出し無用!!」


 主の掛け声に黙って頷く侍女。だが、彼女は手は出さないものの、別の物を出していた。


 背後で魔力を発しながら、鎚矛ベク・ド・コルバン を構え振り回す事にしたのだ。風切音が背後で聞え、更に、魔力の高まりを死角から感じるゴブリンファイターはじりじりと背後が見える位置に移動しようと、カリナとミラを両方視界に入れようと体を入れ替えるが、二人とも対角に移動し、位置取りを変えさせない。


「手は出さないが、援護はすると」

「良い側仕えじゃない。ミラがいるだけで、カリナの能力が大きく拡張するようね」


 カリナ自身、公爵令嬢として優秀な存在であるが、側仕えを加える事で、更に強力な存在に成っていると言えるだろう。


 さて、この決着をどうつけるのか、彼女は傍観者に徹する事にした。




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