表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『フルール分隊』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

246/1000

第212話 彼女はワスティンの森の探索を生徒に委ねる

第212話 彼女はワスティンの森の探索を生徒に委ねる


「わ、私たちだけで、だ、大丈夫でしょうか……」

「No-  問題ない」

「今後の試金石ということですね。承知しました」


 部隊長は茶目栗毛、副隊長は赤目銀髪、部隊長補佐は藍目水髪。全員役職者である。


「今後は、新入生やそれ以外の魔力を持たないメンバーの加入も想定しています。『騎士』は平民でも選抜されているし、魔力は必須ではないから。持っているあなたたちが基幹要員になるのは想定してちょうだい」

「は、はい!!」


 当然と頷く赤目銀髪と対照的な藍目水髪。適正としてはそれほど差がないのであるが、本人の性格を向けさせるのはなかなか難しい。


「それで、どの範囲まで確認すればよろしいでしょうか」

「旧街道沿いのこの古城までの範囲ね」


 それは、ルナルの城址。恐らくは、山賊か魔物の巣となっている可能性が高い。


「気配隠蔽が使えるあなたたちなら、中に侵入するのも問題ないでしょう」

「結界階段でも外から侵入できるから勿論容易」

「わ、私が階段用意して外で隠れてますね!」

「勿論同行」

「……うそ……」

「嘘じゃない、ほんと☆」


 藍目水髪は涙目に、いつも表情の変わらない赤目銀髪は目じりがやや下がり、楽しんでいるようである。


「では、兎馬車で近隣の村の遣いの様な風体で移動して、という感じでしょうか」

「いいえ。森の入口で降りて気配隠蔽と身体強化で移動して、存在を知らせずお願いするわ。討伐は、こちらの依頼主に任せたいの」


 冒険者が何らかの討伐を行ったとして警戒されたり、移動されることを彼女は望んでいない。居場所、数、行動パターンの情報収集を行って欲しいのだ。今までであれば、彼女が何人かの学院生と情報収集を行い、学院に戻りメンバーを選抜して討伐を行ったのだが、彼女が関わらずとも実行できる体制を作りたいという希望もある。


「承知しました。裁量は僕の判断でよろしいでしょうか」

「ええ、勿論、部隊長にお任せするわ」


 院長の補佐役として、また、今までの討伐の経験からして十分に正しい判断と、チームリーダーとしての責務を全うできるだろうと彼女は判断している。その意図を茶目栗毛は十分に理解している。


「では、来週の木曜の報告に間に合うように実行します」

「忙しいとは思うのだけれど、お願いします。二人も、部隊長に協力を」

「わかった」

「は、はい。頑張りましゅ!!」


 同期が「できる」というのだから、自分も出来ると思わねばならないと思ったのか、藍目水髪は思わず……噛んだのだが、それも一つの決意表明だ。


「それと、ゴブリンではなく、山賊に類する存在であるなら、罠を仕掛けている可能性が高いので、その辺り、十分注意してちょうだい」

「「「はい」」」


 ワイヤーによるものか、踏むと発動するものか場所も方法もある程度わかるものであろう。魔道具の類を使った仕掛けを行うとは思われない。


『リリアルだって、魔力を補充する奴が揃ってるから何とか回るが、どうだろうな』

「……もしあるなら、極めて危険……ということでしょうね」


 放棄された古城にそんなものはないと思うのだが、どうだろうか。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 月曜日、テンションの高いカトリナ様に辟易しつつ、彼女は戦史の新しい内容に耳を傾けていた。


 騎士の突撃が絶対的なものと信じていた時代が幕を下ろしてから百年、戦場の主役は古の帝国時代と同じく「歩兵」に変わっていた。先ずは、古の時代の歩兵軍団についての復習から始まることになる。


 彼女と伯姪は、入校前にリリアル学院で予習してきた範囲であるが、一般の騎士にとっては初めて聞く者も多い。貴族の常識が騎士の常識ではない。幼年学校経験者達にとっては眠たい講義となりそうである。


「既に、知っている者もいるだろうから、気楽に聞いて貰おうか。この後、実際に二分隊にそれぞれ実際に隊列を真似て対戦させるから、体で覚える事になるから覚悟しろ」

「「「「……」」」」


 幼年学校で貴族の子弟で騎士となっている者は基本的に習う知識でもある。とは言え、近衛騎士の場合、指揮するのは傭兵であり傭兵の下士官に命令をするだけの簡単なお仕事だ。教練も採用も自分は関係ない。また、魔導騎士の場合も全員が専門職の職場であり、イメージでいえば海軍のような組織である。船を操練するもの、砲の操作を行うもの、コックや医師もいる。故に、魔導騎士以外の兵の教練は必要が無い。


「勘違いしている者もいる可能性があるので伝えておくが、近衛だ魔導だといっても騎士は騎士だ。必要であれば、魔装を失い騎士として指揮する必要もある。近衛とて同様。動員の結果、士官が不足すれば騎士団だけではなく、貴族の騎士団や近衛からも騎士を抽出する。その時になって『わ、私は歩兵の教練などできません!!』なんて青っ白い顔で言われたら……騎士として不名誉だとは思わないか?」


 騎士団の騎士は一段下に見られがちだが、戦争の勝敗を左右するのは今も昔も歩兵の活躍なのである。そして、その多くは未熟な徴兵なのだ。


「故に、この講義はとても重要だ。知識と経験が組み合わさって初めて実務に耐えうる能力となる。今までのように、言われたことに従えば何とかなる事はないと肝に銘じる事だ」


 ガイダンスが終わり、実務が始まる。恐らくは、討伐の実習でも戦列を組まされる可能性があるだろう。


「……死ぬ前に勝手にやらせてもらえるのでしょうね?」

「そこは、一人前の騎士として自分の責任で判断して良いのでしょうね」

「副元帥権限で、どうとでもなるか……」

「……個人的には謹んで辞退するわ」


 彼女は学生がしたいのである。先生役は散々こなしているのだから勘弁してもらいたい。





 さて、古の帝国以前、様々な歩兵の装備と運用が存在している。勿論、帝国千年の歴史の中において、装備や敵対する存在の変化で戦い方は大いに変化しているのだが。


「『ファランクス』というスタイルだな。これは、鎧兜と全身を隠すほどの大きな盾を装備した歩兵が長い槍で押し合うスタイルだ。盾を持つ左側に人がいない最右翼が敵に露出するのが問題だな。その対応の為に、工夫をするのだが、基本は槍を持っての押し合いだ」


 その場合、戦列が一度ぶつかると、崩れ出した場合のフォローが出来ない。後ろが閊えているから、入れ替わりも出来ない。


「それに対応したのが古の帝国の『レギオン』だ。これは、それまでの密集隊形を10×12の集団に区分けして、そのグループを三段に配置する。戦列が崩れた場合、後方のグループで崩れた部隊と入れ替わる。もしくは穴埋めする。長槍での押し合いではなく、前列は投槍として投擲しての接近戦。剣と盾で白兵を仕掛け、その段列の隙間を後列の槍持ちが突くという組み合わせだな」


 つまり、全員が同じ装備なのだが、前衛がその槍を投げて敵の戦列を乱したのちに剣と盾で吶喊、その背後から槍を持った味方が援護するという、剣と槍のコンビを集団戦で行うという戦い方になる。


「とは言え、歩兵同士では白兵と戦列の柔軟性から有利となった古帝国の軍団は、似たような内海の都市国家相手には勝利を重ねたが、騎兵を主力とする蛮族との戦いはいささか苦手としていた」


 古帝国軍は、集落や砦を囲む戦いや、平原での戦闘では無類の強さを発揮したが、馬の移動力を利用する機動戦には相性が悪かったと言えば良いだろうか。


「やがて、古帝国は東西に分断され、西の帝国は崩壊し我らの王国の元となる王の時代となる。それも、いくつかの領地に分けて相続され、法国や王国、帝国となったのは、まあ、この講義の話には関係ないか。ロマン人やサラセンが馬で移動し村や街を襲うようになった結果、戦士は王により馬に乗ることを義務付けられた。でないと、襲撃に対応できないからな。馬を飼い、敵と戦う為の専業戦士が即ち『騎士』と呼ばれることになる」


 騎士の時代が続き、騎士と騎士が戦い、再び歩兵の時代がやって来る。


「傭兵の中から優秀な手段が現れてきた。『山国傭兵』だな。帝国の支配を拒み、戦力を提供する代わりに自治を手に入れた。その最初は、帝国への反乱と、騎士を主力とする帝国の討伐軍を殲滅したことに始まる」


 山国傭兵の『方陣』は『ファランクス』の再来であると言われるが、異なる点が二つある。鎧と盾を捨て長槍のみで防御陣を築くこと、長槍兵と鎚矛兵とが組み合わさる事で、長槍で騎士を足止めし、鎚矛で騎士を引きずり下ろし叩き殺す役割分担である。


「騎士相手に、これはとても有効だった。それに、仲間意識だな。守りを捨て、機動力と間合いの長さで勝負するスタイル。だが、歩兵相手ではこれが難しくなる。『銃』の普及の影響だな」


 山国傭兵の『方陣』に、『銃兵』を組ませたスタイル。これは、古帝国時代においては投槍がになった役割でもある。銃撃で戦列を乱した後、槍兵と剣を持った兵士が突撃し、戦列を崩すという流れになる。


「『テルシオ』って呼ばれる、連隊規模の歩兵の集団を単位として編成されるな。最前列と最後列に銃兵を配置し、さらに横陣の両端を守るため、四隅に各銃兵1個小隊を配置する。陣の両端を襲撃する敵に対するけん制・逆襲用の戦力だな」


 実習は中央の槍兵同士の模擬戦闘となる。長槍と鎚矛、長槍と剣盾などの組み合わせで二つの分隊同士を対戦させるということになる。


「その為の、武具の扱いを勉強させたのでな。それと、午後の実戦では、鎧着用するように。兜はいらんが、前側の胸当・脛当・腿当・に腕鎧は装着するように」


 という事で、貴族対平民の戦列対決が始まる。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 身体強化が出来ることが前提の魔力持ちの貴族に対し、魔力持ちが半数に満たない平民中心の『フルール隊』のランチはお通夜状態であった。対する、『ブルーム隊』は既に勝ったも同然の盛り上がりである。


「なんとかしたいね」

「何とかで魔力が備われば苦労しない」


 と堂々巡りとなっているのだが、彼女が提案をする。


「最前列の槍持ちを魔力を持っている私たち四人で編成するのはどうかしら」


 魔力持ちは四人。その四人で最前列を維持している間に、後方は鎚矛兵と剣盾兵で斬り込む体制を作る。


「近寄ってしまえば、槍は動かしにくいし身体強化の影響も受けにくいわね」

「ならさ、逆でもいいよな」

「逆ってどういう意味?」


 ジェラルドが発言する。


「ああ、最初から最前列は捨て駒にするんだよ。剣盾の兵士に魔力持ちを集めて、最初に槍を持ってぶつかった味方が動けない間に、前列に二列目の鎚矛ベク・ド・コルバン 兵が加わる。で、剣盾はその間からさらに前列に入り込んで敵味方が密集している状態で、敵の後ろが最前列に絡めない間に一気に敵の最前列を叩く。そのまま剣盾で押し込んで、後ろに就いた鎚矛兵がそれを援護する……ってのはどうかな」

「皆さん、どうかしら」

「なんか、最前列楽できそうね。すぐに戦死判定で寝てればいいんだもの」


 最前列志望の立候補が魔力の無いメンバーで争奪戦になったのは言うまでもない。





 簡素な金属の胴鎧に、革製の腕鎧脛・腿鎧を装備した二つの集団が、演習場に整列する。武器は木製のそれであり、身体強化は兎も角、魔力纏いを行うことはできないようになっている。


 フルール隊は四人ずつ、長槍・鎚矛・剣盾と装備を整えたが、ブルーム側は鎚矛のみで戦列を編成するとしたようである。


「魔力があれば何とかなると考えたのかしらね」

「さあ? 調整が面倒だったのでは?」


 カトリナの発言が尊重されるとしても、貴族同士の関係は一概に上意下達とはいかない。それぞれが家の名誉を背負っているわけであるし、調整をするのが面倒であったのだろう。


「魔力持ちが魔力の無いものに負けるわけがない……って感じがするぞ」


 鎚矛ベク・ド・コルバン を構えた貴族の子弟がこちらを見てニヤニヤと笑っているのが見てとれる。前列四人が構えるパイクは、古代の『サリッサ』と呼ばれる長槍に似ている。ファランクスで戦列を組むための長槍、四人ばかりでどうするのかと言うのだろう。


「では、模擬戦……始め!!」


 4×3の戦列を組み、お互い前進する。フルール隊は上に掲げた長槍を最前列のブルーム隊がいまだ手の届かない場所にいる位置から、頭上に激しく叩きつけた。


「ぐぅぅぅ……」

「がっ!! 怯むな、押せ押せ!!」


 しなる長槍の穂先が鎚矛の遥かに長い間合いで動き回り、容易に前に進めぬと怯んだ隙に、中央を伯姪と彼女が、左右をヴァイとジェラルドの剣盾&冒険者組が素早く最前列へと接近、背中や腿の裏側を木剣で思い切り叩き、痛みで動きが止まる最前列を放置し、二列目にシールドを掲げ突進する。


 その背後を更に、最前列と二列目の鎚矛兵が前進し、パイクの矛先は二列目に到達している。剣盾兵に斬りかかろうにも、戦列は崩れておらず、乱戦でこそ発揮する鎚矛を振り回せば、前衛と重なる剣盾兵を狙う事は出来ない。


 自ずと、振り下ろすか突くしか選択肢はなく、容易に盾で跳ねのけられる。剣盾兵は魔力により身体強化が出来る者を配置しているので、容易に魔力持ちだからと突進を止められるものではない。


 盾で突き飛ばされ、パイクで上から叩きつけられ、さらに前進してきた敵の鎚矛兵に強かに叩かれ、中段のブルーム組も戦線離脱となる。そして、パイクと剣盾兵に前を、回り込んだ鎚矛兵に背後を包囲され、ブルーム隊は既に戦力として機能しなくなっていた。


「模擬戦終了! 勝者・チーム・フルール!!」


 後列に残った四人、二人は令嬢、二人は魔導騎士である。間合いの違いを利用し相手の懐に入り込み、攻撃の方向を制限し上手く立ち回った相手に惜しみない称賛を与える公爵令嬢。


「とても勉強になりましたわアリー!!」


 口調こそ仕様だが、その眼差しは依頼を受けている時に感じる熱のあるものである。その背後の魔導騎士である幼馴染の男爵令息の恨みがましい表情とは対照的であった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ