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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『フルール分隊』

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第208話 彼女は公爵令嬢の依頼を受ける

第208話 彼女は公爵令嬢の依頼を受ける


 ギルマスの依頼書を伯姪と共に確認し、昼食後の休憩時間に話し合うことにした。指名依頼なので、この程度なら受けざるを得ない。


「強制ですもの……」

「まあ、気持ちはわかるわ」


 恐らく、先日の手合わせで上手く対応できなかった部分を『冒険者としての経験』と捉えたのであろう。騎士としての素養も訓練も充分に備えている公爵令嬢が勝てなかった理由は、実戦での応用の経験不足だと解釈したのだ。


「戦場に立つわけにいかないから、冒険者で補うという事でしょうね」

「用意・始め! でどんだけ強くても、不意打ちや環境の変化で戦場の条件は常に変化するのだから、実戦経験の有無は強さに直結するわ。お爺様たちが強いのは越境する偽装兵討伐の効果ですもの」


 ニース辺境伯騎士団は非正規戦闘にも強い。魔物だけでなく偽装山賊や海賊の討伐を継続してこなしているからだと言える。平和の続く南都やギュイエ公領で貴族出身の騎士が今一つなのはその差だと思われる。


「頭を下げて頼みたくないから、指名依頼したんでしょ?」

「契約だから、ある程度踏み込んだ事も聞けるからという事もあるわね。正直、冒険者の初心者講習に一人頭金貨五枚は法外ですもの。出来るだけ、色々教えてもらいたいという事なのでしょうね」


 金貨五枚とは、並の王都の庶民が一家で一年暮らせる程の金額である。ポーションだと二本分くらいだが。


「受けないと、面倒なことになるわよね」

「多分、ウザ絡みされて、毎日のようにお茶に誘われるわよ」

「それは勘弁してもらいたいわね。いいわ、あなたも協力してもらえるかしら」

「良いけど、冒険者としてなら、リリアルの子にも手伝ってもらう感じだよね」


 侍女の経験者や従僕経験者の学院生を同行させるのも良い経験だろう。恐らく、カミラは問題ないだろう。騎士としての訓練しか受けていないカトリナ嬢が問題なだけであろうし、こちらの能力を査定する機会と捉えている可能性もある。


「カミラのポテンシャルが見られると良いけどね」

「お互い手の内は見せないでしょう? それでも、ある程度はお互い探れると騎士学校でももう少し穏便に過ごせるようになるでしょうね」


 カトリナは単純に興味があるだけなのだろうが、カミラは公爵家から何らかの指示が出ているのかもしれない。それこそ「リリアルを探れ」といったようなである。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 午後の時間、チラチラと様子を伺うカトリナの視線を感じつつ、騎乗の訓練を午後は受ける事になっていた。二つの講義を続けて、そのまま午後は騎馬による四人の『班』による警邏の活動の訓練であった。とにかく、馬に乗りっぱなしである。


 幸い、馬の世話は騎士団では見習が、近衛では馬丁の仕事であるので、訓練の後は特に何かする必要は無かったのは幸いであった。


「長い時間、魔装衣無しで馬に乗るのは初めてなのだけれど……」

「アンダーアーマーが欲しかったわね!」


 要は、尻が痛いのだ。




 夕食後、部屋で寛いでいると予想通り、カトリナからのお茶の誘いを受ける。侍女に従い、再び別棟に移動すると挨拶もそこそこに「依頼は受けるのだろうな」と切り出される。


「指名依頼なので受けさせていただきます。が、初心者講習ですので、週末の土曜日一日だけで何回かに分けて行いますが、それでよろしいでしょうか」

「も、もちろんだとも! うん、良かった。では土曜日はさっそく、登録から始まる感じだな」

「それと、ギルド指定の武具屋で装備を整えるまででしょうか」

「ん? 装備は公爵家御用達の武具屋に依頼するつもりなのだが……」

「カトリナ、公爵令嬢に相応しい装備なんて身に着けたら、一発で身バレするじゃない? 誘拐とかされかねないじゃない。普通の新人冒険者としての市販の装備を身に着けるべきだと思うわよ」

「……カトリナ様……」

「そそ、それはそうだな。うん、一般の冒険者としての活動。それこそ、我望み。それでお願いするとしよう」


 やはりポンコツっぽいぞカトリナ☆ 勉強できる馬鹿なのかもしれない。もしくは、物凄く世間知らずであるというところか。お飾りの近衛騎士ではなく、実務に耐える近衛騎士を目指すというのであれば、冒険者として活動して経験を積むというのは悪い選択肢ではない。


 近衛騎士団に戻れば、冒険者活動などできるとは思えない。僅か半年、さらには週末一日だけで薄黄色まで昇格するのには無理がある気もする。余程の強力な魔物の討伐でも重ねなければ無理だろう。


「……早計だったかもしれないわね」

「薄黄まで半年って、リリアルに協力してもらわないとリサーチが間に合わないと思うわよ」


 つまり、依頼を受ける前に事前にリリアルの魔術師に偵察をしてもらい、討伐だけをカトリナ主従が受ける形でないと難しいという事になる。更に、白等級は討伐依頼が受けられない。故に、常時依頼の魔物討伐と素材採取だけで昇格しなければならない。


「ムズイわ」

「……一流の冒険者である二人なら、朝飯前の依頼であろう」

「ええ、学院生なら問題ないのだけれど、騎士学校と並行してだと、上手に熟さなければ、無理だと思うわ。時間的な問題ね」


 それにしても、よく公爵と侍女が冒険者になることを許可したものだと思うのだが。


「公爵閣下の許可は取っております」

「……閣下……」

「公妃様が王家の御血筋なの」


 王族の血が流れていれば「殿下」とお呼びするのが正しいのだが、入り婿である為『閣下』とよばれるのが王国での表現なのだ。


 なんでも、冒険者の視点を持つことも重要であると公爵を説得し、カミラに関しても「主の意思を尊重する」という事で、問題なく冒険者としての訓練を王都で名の知れた冒険者に依頼する事にしたというのである。


「貴族の女性で高位の冒険者というのはアリー以外いないのでな。申し訳ないが指名させてもらったのだ!!」

「……お手数ではございますが、同窓の誼でお願いいたします……」


 という事で、八割はカトリナの『夢想』話で終わっていったのだが、最後に、二人に対して彼女は確認をする。


「リリアルが学院生を冒険者にする場合、最低限『気配隠蔽』『身体強化』『魔力纏い』が発動でき、そのうち二つは同時に維持できることが条件となっています。お二人とも習得済みでしょうか」

「……はい……」

「け、気配隠蔽は必要なのか!!」


 敵を知して敵に知られずが戦いの基本であることを考えると、『隠蔽』の習得が大前提なのである。


「『気配隠蔽』をしておかないと、魔物に対し常時警戒しなければなりませんし、有利な状況から先制する事も出来ません。故に、冒険者で魔力を用いることができる者なら最優先が『気配隠蔽』だと思います」

「な、なるほど。騎士とは違うのだな騎士とは……」


 騎士は戦場で自分を誇示し名を高める事も重要な要件となるが、冒険者は生き残って依頼を達成しなければ意味がない。名乗りは不要なのだ。


「カミラ、カトリナに気配隠蔽の指導をお願いするわ」

「承知しました」

「教える時間が勿体ないから、早速今晩から始めた方が良いわよ!」

「その通りだ。カミラ、頼んだぞ!!」


 ということで、これから暫くは夜のお茶会は開かれずに済みそうだと彼女は考えている。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 さて、金曜日の最終講義が終わると、彼女と伯姪はリリアルに戻る為、迎えの馬車待ちをすることになる。


「さて、明日はギルドで登録でしょ?」

「それは、私と学院生で済ませるわ。あなたは、学院の方をお願いしたいのだけれど、良いかしら」

「そうね。二人で冒険者ギルドと武具屋に行くのもなんだしね。カトリナたちは王都の屋敷に戻るのかな」

「ええ、現地集合して日曜日は家族と過ごす為に残るそうよ」


 公爵家も娘が騎士学校にずっといるという状況を可とはしないだろう。社交もあるだろうし、公爵家の仕事もそれなりにあると思われる。


「お迎えに伺いました先生」


 歩人ではなく二輪馬車の御者は茶目栗毛であった。昨日の駄目だしが効いたのか「代わってくれ」と言われたらしい。


「さて、ではお願いしようかしら」

「お腹減ってるから急ぎましょう!」


 二輪馬車は騎士学校から見える範囲では通常の速度で走っていたが、視界から消えるや否や急速に加速する。


 明日の同行者は侍従のトレーニングも受けている茶目栗毛を指名することにしている。既に、簡単に明日の予定に関しては告げているのだ。


「同じ従者でも、セバスはねぇ」

「不敬罪で処刑されかねないもの。あなたも明日、どのような活動を彼がしていたかよく見極めてちょうだい」

「最優先かもね。まあ、今までも討伐で学院を空けている事はあったけれど、魔術師見習の子達も同行だったから、今みたいなのは初めてだしね。あいつの事だから、生徒に仕事振って自分はお使いだけでプラプラしてそうじゃない?」


 全然信用されていない中身おじさんの歩人であった。





 夕食をリリアルメンバーと久しぶりに共にする。メニューは何時ものスープにパンと肉のソテーにサラダといった簡単なものである。


「騎士学校のボリューム飯はやっぱりないわねー」

「半分でちょうどいいくらいなのだけれど……」

「何それ、食べてみたいあたし☆」


 赤毛娘、よく食べる子は興味津々である。二期生の男子も加わり、使用人の中にも男性が増えつつあるので、メニューを少し変える必要があるのかもしれないと思いつつ、騎士学校のレシピを手に入れようかと考えた。


「それを考えると、別棟生活は当然かもしれないわ」

「食堂であれは無理かもしれないわね」


 カトリナ姫が食堂に並ぶとか……無理でしょう。因みにランチは軽食を持ち込ませて食堂の専用席で使用人たちが給仕をします。


「騎士学校とか、行ってみたいよね~♡」

「騎士爵の子達は年齢が達すれば行くことになるわよ」


 赤毛娘は大喜びであるし、青目蒼髪もマッチョな兄貴と知り合えるということでテンションが上がる。黒目黒髪は……赤毛娘に振り回されることが確定なのでげんなりしている。


「女性は少ないし、貴族扱いなので二人一部屋でお風呂もトイレもついているからプライバシー的には問題ないと思うわ」

「そうそう。応接セットも備わってるから、結構夜は充実してるんじゃない?」

「……部屋でお茶会ができる……お洒落……」

「なら、行ってもいいかもね?」


 赤目銀髪と赤目蒼髪は四人部屋から二人部屋になるので歓迎の模様である。将来的には、騎士爵持ちは別棟にテラスハウジングのような建築物を敷地の外に建てる事も考えて良いかもしれない。


「ルーンの新市街を参考にして、将来的には学生以外もリリアルに住める場所を設けたいわね」

「騎士様は高給取りだから、御家賃ガッポリ頂いて高級メゾネットにでも住んで貰いましょうかね」


 戸建風の集合住宅で、石造もしくは煉瓦造であれば、防護施設としても活用できるかもしれない。将来的には家族で住むことも考えると、小さな庭などもあると良いかもしれない。


「夢は広がるわね!!」

「私たちのではないけれどね……」


 王都の再開発で構築される予定の『ロワイヤル広場』は広場を囲むようにテラスハウジングが立ち並ぶ事になっており、新しい名所となる予定だ。


「でも、その広場、何に使うの。王室の広場って名前じゃない」

「噂だと、王太子殿下の御成婚のお披露目の為の広場らしいです」


 使用人見習の一人がそう告げる。彼女のいた孤児院は再開発でその広場を設ける為に移転となったという事だ。


「墓地の跡地利用に、新しい広場を作って新築のモダンな住宅を建てると。益々、王都は住みやすくなるから悪い事ではないわね」

「ええ。万が一の時の兵士溜まりや、火災の時の避難場所にもなるわね」

「……まあ、そうなんだけどね……」


 都市計画一家の子女としては、どうしても実務的に考えてしまうのである。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 さて、翌日、茶目栗毛と彼女は兎馬車に乗り、久しぶりの普通の冒険者衣装で冒険者ギルドを目指す事になる。少し早めに移動をし、馬車を預けたり、事前にギルドの中に変化がないかどうか確認をする予定である。


 受付に彼女が一緒に立つと目立ってしまうので、受付の付添は茶目栗毛に頼むことにしている。


「公爵令嬢と子爵令嬢。登録名はどうされますか」

「そうね、打ち合わせしていないのだったけれど、登録前に簡単に話しておきましょうか」


 本名そのものであると、公爵令嬢と周りに気が付かれないとも限らない。いや、あのオーラは必ず気が付かれるだろう。何らかの偽装も必要な気がする。冒険者は悪役令嬢風か、男装麗人風かどちらで押すのだろう。前者であれば、早々に否定しておこうと彼女は決意していた。




 冒険者ギルドの食堂兼酒場に座り待ち合わせの時間まで暇をつぶす。依頼内容にも特に大きな変化はなく、素材採取をして、狼とゴブリンを狩れば薄黄まで半年程度で何とかなりそうである。出来れば、オークかオーガでも倒しておくとなお良いのだが。王都近郊ではなく、ロマンデかレンヌに近い場所まで移動しないと王都近郊では難しいかもしれない。


 冒険者ギルドの入口付近が騒がしくなる。どうやら、四頭立ての豪華な箱馬車から、二人の令嬢が降り立ったという事である。


「失敗したわね」

「……公爵令嬢ですから……」


 入口のドアの両サイドを数人の従者が堅めた状態で、中央を男装の麗人とメイド服の侍女が一直線にこちらに向かい歩いてくる。


「おはようアリー! 今日は良い冒険者日和だな!!」


 いや、注目に注目を重ねないでもらいたいと思いつつ、今だ気配隠蔽が身に付かないカトリナであると認識するのであった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ポンコツ令嬢が良いです。 アリーは大変ですがw
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