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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『フルール分隊』

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第203話 彼女は初めての講義を受ける

第203話 彼女は初めての講義を受ける


 午前中の講義は一つは戦史、一つは商人との取引についての概論である。


 戦史の講義に関しては、昨日朝挨拶をした「担任」とでも言えばいいのだろうか、騎士学校の主任教官が行う事になるようだ。


「最初に、分かりやすい事例を二つ紹介する。一つは、王国が敗北した戦い、一つは勝利した戦いだ」


 古来、王国騎士には『堪え性がない』と揶揄される存在と言える。例えばサラセンに『聖征』した王国出身の騎士を中心とした部隊が、水の補給も出来ない砂漠の中を歩きまわされ、サラセンの君主に殲滅された事がある。


 また、東の帝国に雇われ公爵に任ぜられた王国騎士とその配下の騎士団が、神国の傭兵相手に戦い、わざわざ堤を築いて湿地化させた場所に陣をはる敵に向かい突撃し、脚を取られたところを投槍で一方的に殺戮されたこともある。騎士というのは、万能ではなく正面からぶつかる敵に対してのみ有効な戦力に過ぎないのである。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 騎士・騎兵の攻撃能力を削るために、過去の戦例からいくつかの条件を抽出することができる。反対に、その条件を外せば有利となる。


 百年戦争の冒頭、ランドルの諸都市と連合王国が手を結び王国に対抗するようになる。ランドルを連合王国側から離脱させるため王国が進軍し、連合王国側は援軍を派遣するも一旦王国と講和する。


 残されたランドル諸都市の市民軍と王国軍の戦いが開始される。ランドル領を占領していた王国軍に抵抗する為市民軍が蜂起する。


『コルト』の街を囲んだ市民軍は城壁を越える事が出来ず、動きが停滞しているところを王国軍が背後から攻める体勢から戦闘が開始される。


 この時点で、市民軍が王国軍の騎士に対して打った対策は以下の通りである。


1.後衛を防御する:荷馬車などで背後から騎兵に突撃されないように対策。


2.側面を防御する:川を側面に置き、湿地帯などを利用し正面以外の攻撃を抑止。


3.最前列に近寄りにくくする:市民軍の最前列は勾配の終わりに配置された。


4.高所を取る:包囲した街は周辺から高い位置にあり、王国軍は上り坂の上の歩兵を攻撃することになる。


5.予備軍:戦列が綻びたときに増援を送る為。


6.防衛線:遠距離投射兵器・弓や銃で前線を形成し、敵の投射兵器の攻撃から距離を取らせることで無効化する。


7.秩序:揃いの衣装に統一された幟、掛け声、槍兵と鎚矛兵ハルバーダーの連携・槍で動きを止め、ハルバードで騎士を叩き伏せる。


8.隊列を崩さない。


9.指揮官は下馬する:先頭に立ち、兵の手本となると同時に自ら逃げないことを示す。


10.士気を保つ:最中において戦いの指示を明確にし、大義を思い出させる。


――― そして、徹底的に追撃し止めを刺すことである。


「簡単に言えば、相手より有利な場所と態勢を作り上げ、相手の長所を潰し、味方の長所を最大限に生かす用兵を事前に確立しておくという事になるか」


 敗れた王国軍の騎士は、相手の意図も考えず、自分たちのやりたいように振舞い、挙句の果てに皆殺しにされた……という、勇気と無謀をはき違えた行為の結果であるだろう。


 このコルトの戦いにおいて、王国軍は二千五百の騎士を動員し、僅か四百の騎士と九千の市民兵に惨敗、約千人の騎士が殺されたという。その中には、二人の元帥、四人の伯爵が含まれてた。


「結果からすれば……これでランドルやネデルに対する王国の権益は全て喪失。いまだにそれは続いている。残念なことだがな」


 そう考えると、聖都周辺での帝国の干渉は理由がつくことになる。王国は両者が消耗した隙をついて干渉し権益を取り戻すと考えられても仕方がないだろう。


「今から二百五十年が前の話だが。未だに決着がついてはいないな。帝国が神国兵を動員してネデル領北部に干渉している。連合王国はそれを支援している。豊かな商業都市が密集しているあの地域は、王国だって欲しいしな」


 とは言え、連合王国の羊毛を加工し輸出する都市の集合体であることから、帝国側に降ることは考えにくい。優秀な指導者も存在するという事から、その辺りの情報を王国にも生かす必要があるのだろう。


――― ラニエ公爵のことである。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 この王国騎士の習性は相手が変わり、場所がかわっても相変わらずであった。その大きな理由は、今よりも王家の存在が弱く、力を持つ大貴族を含め、参加する諸侯が自らの戦力を勝手気ままに動かしたからという事もある。


 諸侯には戦争に参加する義務はあるものの、従う義務はないと思われていたという理由もある。所詮は、陣取りゲーム程度の感覚であったのだろう。


「んー なんだか王国の失敗談集って感じね」

「……否定できないのだけれど、百年戦争で貴族の家が断絶していった理由が良く理解できたわ」


 行動原理は変わらず、戦場のルールが変わった。死なずに済む陣取りゲームが市民が貴族を殺す戦いになったとすれば、貴族が殲滅されるのは当然だろう。相手は命懸け、こっちは遊び感覚。未だにその意識を残している奴らはいないでもない。他人の命に関しては特に……そのように感じる。


「貴族にとって領民は財産の一部だから大事にするものですわ」


 どこかの公爵令嬢の感覚も貴族としては間違ってはいない。平民からすると事実であったとしても面白くないことだが。





 さて、王国の貴族・騎士の失敗談はまだまだ続く。『アジャンの戦い』である。


「連合王国が北部の王国の侵攻を抑え込んだ際、騎士を下馬させ重装歩兵として自軍の正面に据え、両翼に長弓兵を配置して接近する敵兵を攻撃する戦い方を確立させた。その後、奴らはロマンデに上陸してきた」


 百年戦争の前半において、ランドルで敗戦をした後、連合王国は国内を安定させた後、ロマンデに一万の兵を上陸させた。うち、騎士が千、長弓兵が五千。外海沿いを荒らしながら北上し、王都を窺うように進んでいく。


 対する王国は騎士・従騎士だけで一万、さらに、弓兵・弓銃兵・歩兵を加え三倍の戦力を用意し、進路を塞ぐように戦力を展開した。


 過去の失敗から、騎馬による突撃を当初行わず、弓兵・弓銃兵を左右に配置し三段の下馬した騎士による突撃と、その後、騎兵による突撃を組み合わせ、前衛の長弓兵を排除しその橋頭堡から騎兵を突入させようと考えた。


――― だが、甘かった。大いに甘かったのである。


 結論から言えば、事前に用意してあった弓兵が持つ地面に突き刺した方陣代わりの木杭を盾に、抗戦した。


「先ず、戦場を設定された場所が、二つの森の狭間にある900m程の幅を持つ野原。尚且つ、嵐で泥濘化した地面が下馬した重装騎兵の前進を大いに阻害することになった」


 つまり、1.2.3.の条件を満たした戦場で展開したことになる。


「さらに、連合王国は王が直卒したのに対して、王国軍は戦場経験もない高位貴族が指揮権を持っていた。当然、前線には出ない」


 9.10.を相手は満たし、王国は満たしていない。


「木杭と長弓で前線を維持している敵に対して、王国軍は、三段の陣が仇になる。攻め寄せたはいいが、疲れ果てたり上位の序列の貴族が捕虜になって戦場で身動きが取れなかったり、逃げる者と、二段目三段目の部隊が混ざってしまう大混乱に陥った」


 6.7.8.も与えてしまっている。つまり、状況が変わっても条件は何も変わっていなかったという事だ。


「どうすれば良かったのかは、次の成功体験を確認してから話し合うことにしよう」


 流石に、連合王国軍を打ち負かさなければ、この国はとっくに連合王国の一部となっているはずなのだから。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 さて、王国が勝利した戦場という事が前提なので、講義室の空気はいくらか明るくなる。


「さて、最後にギュイエを奪還した戦いは大砲の影響が相当あるので、これはその前の『ルミニの戦い』を確認することにする」


 ロマンデを王国に奪還されつつあった連合王国は、再び兵を上陸させる。リッシュ大元帥の指導のもと、王国では傭兵隊を排除し、教区ごとに徴兵した兵士を中心とする軍を編成するようになる。六人を一組とし、千五百組の軍を編成するようになる。


 勝利の条件である 6.7.8.の中核をなす部隊であり、大元帥の存在が9.10.を満たすことになる。自分たちの住む村や街を荒らした連合王国兵に対し、徴兵された王国人は容赦するとはとても思えない。


 戦場はロマンデからレンヌ公領に移動。当時のレンヌ公は大元帥の甥の子であり、二人は共同して侵入してきた連合王国軍に反撃を行う。


 連合王国軍は前回同様、七千の兵が外海沿いを北上し、王国軍がその途上を阻止するように大元帥の甥に三千の兵を預け前進させた。レンヌ公領での戦力動員が不十分として大元帥は連合王国軍を無理に追わなかったことも影響している。


 この時連合王国軍は野戦築城を行い、大元帥の甥の部隊を撥ねつけたものの、大元帥本体の接近を警戒し、三方に戦力を配置させることになってしまう。つまり、1.2.3.4.の条件を満たすことは出来なかった。


 大元帥は騎兵を先行させ、攻撃を加えつつ戦力の不足する場所に次々と予備戦力を投入することができた。これは王国軍が5.の条件を満たし、相手は満たせなかったことを意味している。


「結論として、連合王国軍は粉砕され、逃げ延びた兵士たちも付近の農民などに虐殺されているな」


 四千の連合王国兵が死亡、捕虜千四百の中には敵の司令官である伯爵も含まれていた。


「やっとスカッとしたわね」

「でも、同数の敵にようやく勝利した程度でしょう」

「勝ちは勝ちですわ!! おー ほっほっほ」


 カトリナ嬢、役作りお疲れ様です。





「まあ、長々説明したけどな、兵士を良く従わせ乱れない戦列と士気を維持することが勝利の秘訣だな。さらに、上の指揮官に言えることは、相手の能力と意図を理解した上で、側面や後方を取られないように、敵の前進を妨げる障害となる地形や条件を獲得するために工夫する……ってことだ」


 目新しいことなど何もないのだが、いかに安全に楽して勝利するかを考えるならば、この十の条件を忘れてはならないのだと講義室の人間は理解したと言える。


 


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 その後、喧々諤々とは言わないが、最初の授業としては先ず先ずの理解を深め合う事が出来たと思われる。やはり、貴族の子弟に関してはリッシュ大元帥が偉大な軍人であるという認識が高い為か、講義内容では触れられていない大元帥の話も出ていて大いに盛り上がっていた。


「大元帥ってアジャンの戦いで捕虜になって五年も連合王国に囚われていたのだそうね」

「……優秀な人を怒らせてはいけないという教訓ね……」


 さらに、王国と連合王国の和解を探る立場になったそうだが、時の王弟に些細なことから侮辱され、その役割を断り王国に帰国しているのだという。これだからロマン人は……


 虜囚時代から、王国とレンヌ・ブルグント・サボア公国の大同盟を目論見、時の王大后様から「元帥」に押されることになる。どこかで聞いたことのある馴染みの公国ばかりである。


 『元帥』の権能は王国第二の位であり、戦時には一時的に国王の権限を上回る軍事的な指揮権を有す。また全軍の先鋒の司令官、国王の入城の際には抜刀して先導する栄誉ある役職でもある。


 自らが選抜した四千の兵と共に戦場に立つものの、当時の国王(となる王太子)の寵臣達が元帥の能力に対して妬み、その結果、時を得ずして連合王国に敗れる。その際、王の周りの寵臣を処断し、名乗らぬ宰相として王を支える事になる。


 厭戦気分の高まる中、国王を叱咤し、『救国の聖女』が旧都にて合流すると、大元帥はともに王国の為に戦い続けるのであるが、聖女の独断が目立つようになると切り捨てることも厭わなかった為、一部の宗教関係者からは嫌われる存在でもある。





 連合王国の長弓兵に対抗する為に、攻城戦で使用した大砲を野戦に転用するように示唆したことも大元帥の功績とされる。


「何を言ったかではなく、誰が言ったかが大事なのが世の中よね」

「それ以前に、多くの実績を持つ方だから、説得力があったのでしょう」


 その後、百年戦争終結に向け国内に大混乱を引き起こす元凶であった傭兵の略奪対策を推進。三部会の同意の下で勅令が制定、略奪を行っている傭兵部隊は次々に駆逐するか、報酬と引き換えに故郷へ返した。


 一方、貴族の私兵や傭兵隊長の雇用による王国軍を、『常備制』へ転換させる兵制改革を進めた。財源は貴族の勝手な徴税を禁止、貴族に課税した。これは大きな反発を呼び王太子を旗頭に反乱も起こったが、これを鎮圧し、現在の王国安定の基礎を築いた偉大な軍政家でもある。


「……そのお陰で、法国に遠征したり、あっちこっちに戦争吹っ掛ける王様もいたみたいだけれど、今は安定しているのよね」

「王太子殿下の王立騎士団と連隊は、その直系の子孫になるのかしらね」

「この中にも、王立騎士団組になる人もいるのでしょうね」


 つまり、この学校における理想的な騎士の姿は「リッシュ大元帥」ということになるのだが……


「禿げよね」

「ええ、かなり激しい禿げの方よ」


 禿げ関係ないから。優秀な騎士であれば髪の毛なんて飾りですよ。偉い人にはそれが良く理解できてるんです。若い女性には不人気かもしれないが、おじいちゃんでふっさふっさというのも微妙なんだよ。



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― 新着の感想 ―
[一言] まだ研究が十分に済んでないだろうし規模も小さいけど副元帥の戦いは学んでおく価値あるよね まあ、戦闘始まる遥か前段からやる必要あるけど
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