表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『デビュタント』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

221/1000

第189話 彼女はデビュタントの前に王太子殿下にも呼ばれる

第189話 彼女はデビュタントの前に王太子殿下にも呼ばれる


 「母上、彼女をお借りします。少々打ち合わせが」という事で、王妃様の前を辞し、一旦ドレスから着替え、王太子の執務室へと案内される。


「すまないね、母の相手だけでも大変だろうに。とは言え、今回の吸血鬼騒動の後始末の件も伝えたくてね」


 帝国の謀略の一つであると考えられる『吸血鬼』による聖都周辺の集落の襲撃と占拠、王国民の虐殺とグール化の件に関して、王都並びに聖都の大司教経由で教皇庁への報告が為されている。


 教皇庁は直轄の神父団を派遣し、さらなる調査を行う事にしたという。神の摂理に反する『吸血鬼』を放った勢力に対しての調査である。


「『聖リリアル』の件は、利用させてもらう事にしたから、その見返りかな」


 今回、傭兵吸血鬼のいた廃砦に残されていた納品証明等の書類から帝国内から物資が運び込まれていたことが証明されている。また、三体の吸血鬼を生きたまま……意識のある状態で捕獲したことを説明し、さらに教皇庁から審問官を王都に派遣していただき、教皇庁自ら吸血鬼の存在についての

調査を行う事になっているという。


「聖都大司教と王都大司教から直接の書簡も届いているし、お二人とも実際の吸血鬼も目にして対話もしているからね」

「……勇気ある行動ですね」

「まあ、流石に魔力……あの方たちの場合は『聖なる気』になるのかな。それを持っている方達からするとさほどの事ではないみたいだね」


 教皇庁内の政治家と言われる枢機卿と異なり、大司教猊下は直接信徒や信徒と接する司祭たちと接することで、信仰心の一部を受け取ることになる故、それが『聖なる気』に還元されているのだという。


「そういう意味では、王家に対する忠誠心も『聖なる気』に影響するんだよ。それに、君も纏い始めているね。『妖精騎士』『護国の聖女』リリアル男爵として、君たちに救われている者たちが崇めているからね」

「……つまり……」

「王都の孤児・施療院で治療を受けたもの、魔物退治や人攫いから救ってもらった者やポーションで命拾いした冒険者。色々だね」


 聖なる気……気になる気である。


「『聖』リリアルと命することで、君たちの学院は更に聖なる気を集めることが出来るようになると思う。それは、今後の討伐の際、良い影響を受けることになるだろうね。アンデッドに関しては魔力以上のダメージが与えられるだろうし、魔力を有さない者にもその効果は付与されると思う」


 魔力を有さない使用人や薬師達にとっては良い意味があるだろう。少なくとも、リリアルの紋章入りの魔銀鍍金のナイフぐらいは装備させたいところだ。鍍金でも大丈夫なのかは不明だが。


 後日、老土夫に確認すると「お前が魔力を注いで生成した鍍金なら効果がある」

と言われ、数日工房に詰めることになったのは別のお話。





 帝国に関しても教皇と国王陛下から皇帝とその影響下にある諸領邦に吸血鬼に協力するものがあれば、神敵として聖征を発し討伐すると宣言されることになっているという。


 また、教皇庁に対しては……


「隣接する司教君主領の内部に、吸血鬼に協力していた『異端』の商人が存在するので、資料を送るからそちらで調べてとお願いしてある。出来ないなら、こちらから調査員を派遣するともね」

「……」

「ああ、勿論リリアルじゃないよ。聖都の聖職者と騎士団員を送るよ。流石に未成年を含めた少年少女を送り込んで調査するつもりは無いからね。実際、トカゲのしっぽ切となったとしても、吸血鬼に協力することが割に合わないと思わせられればそれで十分だ」


 王太子曰く、吸血鬼に協力しているのは恐らく困窮している貴族や傭兵たちなのだろうと言う。


「帝国内では内戦が続いているし、外征する余裕はないんだと思うよ。まあ、皇帝自身は神国の戦力でネデル領を抑え込みたいみたいだけれど、君主ならともかく商人は難しいよね。そこで、王国と揉め事を起こして上手く力を反らそうとしている奴らが吸血鬼に利用されているというわけだね」

「……原神子教徒が吸血鬼と……ありえますね」

 

 教皇庁や既存の司祭たちの権力を否定するために『聖典』のみを信ずるとする彼らの原理からすると、反御神子とされる悪魔とその眷属である吸血鬼やアンデッドを利用することも『聖典において否定されていない』という理由で可能となるのだろう。便利な理屈だ。


「随分と自分の事さえよければ他人はどうでもいいという発想なのですね」

「そうだな。御神子教も古の帝国では最初あまりにも過激とされ弾圧されているからな。普遍的な『神の愛』を説いて寛容な教えとなり、様々な地域の神を天使や聖人として取り込んで今の形を作ってきている。

 原神子の考えからするとそれは『聖典に記載されていない』異端なのだろうな。神の心を聖典の行間から読み取れない者の考え方だ」


 恣意的な解釈の余地をなくすことが、かえって別の過激な発想を生み出しているという事なのだろうか。少数の側は常に多数に押さえつけられているような気持ちになる故に、より過激となる。異端とされる宗派が最終的に悪魔崇拝じみてくるのは人の心理の極端さを示しているのかもしれない。


「リリアルも異端扱いされないように中庸を心掛けねばでしょうか」

「……王も王家もだな。話を聞かないと思われれば、王など必要もない。神の代理人である教皇から指名された俗世の取りまとめ役が国王なのだからな。戦争が強ければ、国を富ませれば良いというものでもない。心のよりどころになれる存在であることを示す必要もあるのだと私は思う」


 なるほど、その心のよりどころとされることが、信仰心を生み聖なる気を生み出し、その力が悪しきものから王国を護ることにつながるという事なのだとすれば、王家もその民もお互いを必要とする関係であるのだと言える。


 神だけでは神は存在できない。信ずる者がいてこその神……ということだとも言えるのか。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 王太子からは笑顔で「デビュタントのエスコトート楽しみだ」と言われ、見た目も中身も母子似ているなと彼女は思いつつ、彼の公爵令嬢について王太子の所見を問う事にした。


「ああ、近衛騎士見習のね。悪くはないんだ、貴族令嬢としては高いレベルでバランスが取れている。見た目、血筋、知見に所作、あの家の娘でなくブルグントかレンヌ公の息女であれば文句なく婚約者だろうね」


 やはり、舅が連合王国かぶれでは困るという事なのだろうか。


「王国はね、内政重視なんだよ。祖父の時代は法国や帝国領に攻め込んだこともある。百年戦争の時代の戦力が余剰だったからね。いまは魔装騎士も国境線に配置が完了して、守る分には過不足ない戦力を有している。あとは、緊急派遣用の戦力である近衛と、騎士団が引率する徴兵された兵士がいれば、国土の平和は十分守れる。彼らはそれを良しとしない。戦場で手柄を立てて財産を得るという発想から抜け出せない」


 ギュイエ公が舅となれば、王国内で原神子派の活動は勢いを増すであろうし、ようやく収まりかけた連合王国の破壊活動も再度活発化する可能性が高い。故に、彼女を嫁にすることはあり得ないという事なのである。


「でも、本人はそうは考えていないようでね。事あるごとに『王太子妃に相応しいのは自分だ』と主張しているし、周りは親の存在があるから否定も出来ない。なんとなく既成事実のように触れ回っていて正直困っているんだ」

「だからといって、私を出汁にして頂くのは困りますわね」

「うーん、他の子だと命にかかわりかねないから……というのもある」


 彼女以外の令嬢が候補として耳に入れば、様々な手段で妨害するという。とは言え、殺害のような事ではなく、より現実的な縁組を自分の影響下にある貴族から根回しをし婚姻を進めてしまうという事なのだ。


 その結果、カトリナ嬢以外の国内の高位貴族の令嬢で王太子妃に相応しい者がいなくなってしまった。


「他国の姫ということも考えられるけれど、連合王国の女王は……だし、他の国だと神国の姫は原理主義者だし帝国は四分五裂の国内情勢に巻き込まれ兼ねないから難しい。法国は大商人か傭兵上がりの貴族の娘ばかりで正直王妃に相応しくない。ね、困ったものだよね」


 あははと目が笑わない笑顔で言われても困るのである。


「ほんとは、君のお姉さんを公爵家の養女にでもして王妃に迎えるという案もあったんだけど、遠回しに断られた挙句さっさと婚約されてしまったしね。その辺りの当てつけもあるんだよ、王家としてはね」

「……姉に王妃は務まりませんわ」

「うーん、彼女は役になり切れる人だから。案外、良妻賢母な王妃になることもあり得たと思うよ。でも、今の生き生きしている姿を見ると、本人にとっては良かったのだと思うよ」


 姉……王太子妃候補だったのかと今更ながらに知る。社交界で子爵令嬢にもかかわらず主導権を握れるほどの存在なら、王妃も問題ないだろうと思われてもおかしくはない。


「騎士学校の件もね、期待させてもらっている面がある。彼女は王妃に相応しくないということを王家から伝えるわけにもいかないからね。副元帥には遠く及ばないと理解させるには、毎日顔を合わせて力の差を知らしめる良い機会になると思うから……同じタイミングで入校させたという判断もあるんだ」


 やはりそうでしたかと納得する。これも彼女の騎士としての仕事になるということなのだろう。国内における潜在的な敵対勢力の協力者を芽の時点で摘んでしまおうということなのだ。王家の親族が敵対者となれば、王国内も乱れる事になる。王家との繋がりを王太子妃以外の選択肢で修復する……難易度高すぎではありませんか王太子殿下。


「大丈夫だよ。君自身が君らしくあれば、カトリナ嬢は理解できてしまうと思うよ。自分自身に何が欠けているかという事をね。それが伝われば、彼女自身は問題が無くなると思う。あの領地自体の問題はそのままだろうけれど、神輿が無ければ表立っては敵対しないからね」


 王太子曰く、その間に連合王国との関係性を希薄化し、王国内の経済圏に組み込むという事のようだ。


 王領とブルグント、王太子領とニースがきちんと繋がり安定した経済の動脈となれば、そこに加わりたくなるのが当然だろう。優先順位は王太子領の改革と、王権の強化。そこにはレンヌ大公家も加わるので、連合王国との繋がりを前提として活動してきた王国内の反王家派は分断孤立させられていくことになる。


「その為にも、君たち子爵家には大いに力を貸してもらいたいね」

「母はすっかり南都に行く気ですから、大丈夫だと思いますわ」

「それなら安心だね。子爵家から伯爵家が二つ生まれるというのも前代未聞かもしれないし、その程度では子爵家の貢献には報いることができないかも知れないが……これからもよろしく頼むと言わせてもらえるかな」

「王家と共にあるのが我が子爵家のあるべき姿でございます」

「そう言ってもらえると助かるよ。君が私と共にあるのもあるべき姿だね」


 彼女は『副元帥でございますので』と答える事にした。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 王国の南西部を所領とするギュイエ公爵。現在の国王陛下の祖父の弟殿下が公爵となり所領を有することとなった王家の分家筋となる。


 百年戦争前においては連合王国の国王が当時の領主であったポワト家の姫を娶り共同統治者となりその子が王位を継いだため、王国の中に連合王国の領地が三百年ほど存在したことになる。ロマンデ領も同様であったことから、当時の王国がいかに連合王国に浸食されていたか理解できるだろう。


 元々はロマン人の族長の中で戦争に強い者をロマンデに貴族として任じ、王都の護りとしたことに始まるのだが、その子孫が海を渡り先住民を支配した結果、海峡を挟んで連合王国領が成立したことも歴史的にはそう古い事ではない。『魔剣』が魔術師から魂だけの存在に成ったかなり後の事であるし、さらにポワト家を連合王国の国王が継いだのはその少しあとの事である。


 百年戦争ではポワト家の時代の領都近くで連合王国軍と王国軍の激しい戦があり、王国軍は大敗している。戦争最終局面まで、王国はこの地域を取り戻す事ができなかった。





 この地方は連合王国とのつながりも歴史的に深く、その影響で原神子教徒の貴族・商人がとても多い。御神子教徒の王家とはそりが合わないことに加え、第二の王家と僭称しているきらいがあり、連合王国やネデル領の帝国商人とのつながりを強くし、潜在的に反王家の動きを助長していると言える。


 とは言え、表立って敵対することは現在なく、国王-王太子の治世が問題なく続き、レンヌ大公家に王女殿下が輿入れすることになれば、王国北部が安定し、南部に対しても抑制的に影響力を行使できるようになるだろうと思われる。


 王都に在住の公女カトリナは近衛騎士を務める事になっており、現在、騎士見習として王宮に奉職中である。





 また、ギュイエ公領は港湾都市ボルデュを中心にワインの貿易で連合王国との非関税貿易圏を形成し発展してきた長い時代の富の蓄積が存在する。更に、現在においては神国植民地から外海を利用した貿易圏の拠点として利用されており、砂糖をはじめとする商材が運び込まれている。


 経済圏として神国や連合王国・ネデル領との結びつきが強く、王都の経済圏とは別の体系の中に存在する地域と言えよう。代を重ねるにつれ、王家の分家筋とは言うものの、地域の利害の代弁者として王国北部とは対立することも増えるのは致し方ないとは思われる。


 近年、内海と外海を王国領内の河川を通じてバイパスする運河の計画がこの地域で進められており、王国北部の資本がそこに入る事で、王国の西部の経済圏も王国南北の経済圏にウエイトが移ることが期待されているのだが少し先の話なのである。


 近衛連隊にはギュイエ公領出身者が少なくない。特に、ボルデュを流れるガロ川より南、神国との国境に挟まれた『ガロネ』と呼ばれる地域においては、余剰人口を兵士として王都に派遣し、一つの集団を形成している。


 言葉も訛りが強く、性格的にも思い込みが激しく頑固で人づきあいが得意でない故に、兵士として団結力と王都での孤立感を高めていると言われている。退役した兵士は王都に残ることなく、地元に戻り貯めた金で農地を買い小規模な地主になるのが彼らの成功譚なのだという。


 ギュイエ公は経済的な自立と子飼いの兵士を王都に配することで、王家に対して無言の圧力をかけているともいえる。王太子殿下の『王立騎士団』は近衛連隊のギュイエ公による私物化に対抗する為の一つの方法論なのかもしれない。


 とは言え、過去、帝国や連合王国、法国での戦争に際し彼らは十分な能力を発揮していたので、その忠誠心を完全に否定することはできないのが悩ましいところなのだと思われる。


『なんだか、どんどん巻き込まれていくなお前』

「……不本意なのだけれど、諦めることにするわ。それより、カトリナ様とどう相対するかが問題ね」


 王妃様の言うところの彼女に付いているもう一人の見習女性騎士はヴィヴァン子爵令嬢カミラという名であるという。


『ヴィヴァン子爵家は神国との国境に近い場所にある要塞を守護する家だな。武人として有名な当主を何人も輩出している』

「つまり、実質彼女の腹心にして剣というわけね」

『ああそうだな。お前のツレ以上の遣い手かもしれねぇな。騎士としても、剣・槍・盾・銃に習熟していると思った方がいい。サラセン相手に内戦やっていた神国にも派兵していたはずだから。神国は歩兵が強いんだよ』


 植民地にそうそう馬を運び込むことはできない故に、剣と盾を装備したハーフプレート装備の騎士も多い。また、銃を装備した戦にも慣れている事を考えると、銃弾対策も必要かもしない。


「騎士学校で銃の撃ちあいって『決闘ならあり得るな』……なるほど。ならば、こちらも練習しなければならないかもしれないわね」


 魔装銃ではなく、火薬式の銃の扱いも学ぶべきことに加わるのである。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 1話からノンストップで読み進めています。 ずっと主人公はもがき続けているのにもしかして結婚相手も"諦めて"流されていくのでしょうか……と不安になり途中ですがコメントしてしまいました。 滅私奉…
[気になる点] 最初の方では王子の婚約者の公爵令嬢とはっきり書かれているが、いつの間に婚約者がいなくなったのかわからない [一言] 起伏は少ないがテンポがそれなりに良いので読み進めやすいです
[良い点] 公爵令嬢が自分の為に外堀を埋めていったら、彼女の外堀が埋まっていってたという事かw で、騎士学校行って最後の外堀を彼女自身で埋めに行って来いとw もう完全に詰んでて草生えますねwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ