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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『デビュタント』

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第188話 彼女はデビュタントの前に王妃様に呼ばれる

第188話 彼女はデビュタントの前に王妃様に呼ばれる


「聖リリアル……ですか」


 王妃様に呼ばれ参内すると、彼女は王妃から提案があると言われたのであるが、『聖リリアル学院』とは何の事なのか一瞬彼女には理解できなかった。


「ふふ、聖都での一件を小耳に挟んだのよ。今回もだいぶ活躍したのよね」


 どうやら、防疫司祭が話したことを騎士隊長が団長閣下に報告、それが国王陛下から王妃様に伝わりこの展開につながったらしい。


「私が『聖女』にあなたを認定するわけにはいかないけれど、ほら、悪いドラゴンを退治したり、今回は吸血鬼やその下僕のアンデッドも討伐しているのよね。なら、所属する組織名に『聖』をつけて呼ぶことくらい問題ないかしらって……王都の大司教様にお伺いしたのよ」


 大司教猊下まで話が行っているということなのでしょうか王妃様。


「その結果、『聖』リリアル学院に名称を改めよと……」

「そうそう。あなたが、いいえ、あなたたちの行い自体がそういう認識に既になりつつあるからおかしくは無いわ」


 孤児院への係わりも、魔力持ちの子供探しの一環であり、結果として優秀な子供を取り込むことに成功しているのだが、孤児たちの目標として読み書き計算に真面目に取り組む結果にもつながり、リリアル以外への仕事口も広がりつつあるという事が一つ。


 薬師や錬金術師の作る薬やポーションの試作品が施療院で使われるようになったことで、ケガや病気で訪れる貧窮した者たちが救われていることもその事に加わる。


「リリアル自体は地味に知られているだけであったのだけど、ドラゴン退治の一件で名前がね……」


 彼女の耳にも『妖精騎士とリリアルの使徒たち』という非常に危険な響きのあるお芝居や物語の題名が聞こえてくるようになっていた。今までは街道から少し奥まった騎士団の駐屯地奥にある元離宮ということもあり、立ち寄る行商人や旅人も少なかったのだが、門前に現れる王都の住民の姿が増え、ニース商会の支店の売り上げが上がっているという話を姉にも聞いている。


――― なんか名物ないかなとか……代官の村を思い出すので却下。


「ニース商会では、フィナンシェにドラゴンの焼き印を押したリリアル学院門前限定商品を毎日扱うみたいですわ。こちらがその品ですの」


 王女様がお茶請けに出しているフィナンシェを示し、彼女に説明する。どうやら、ダブルサプライズを姉が用意したらしい。腹立たしいことこの上ない。


「そうなのよねー」

「次は、トマトとキャロットを混ぜて『吸血鬼』風も作るそうですわ!!」

「あら、健康に良さそうなお菓子ねー さすがニース商会ねー」


 討伐に加わり、更に蒸留酒の話を取りまとめるだけではなく、新企画の菓子まで考案するとは……我姉ながら逞しいものだと感心する……わけがない!





 吸血鬼の話は王妃様も王女様も気になっているようで、彼女の口からは「憶測の部分もありますが」と、しばらくは吸血鬼騒動は沈静化するだろうと伝える。


「帝国にも困ったものね。御子神様の教えは一つではないではありませんか」

「そうですわ。聖典の中にも真逆のことが説かれているように思われる箇所もあるのですわ。それでも、最後は神様の愛をどう理解するかということですのに。自分たちの都合の為に、王国の民を吸血鬼に変えて……それも親に子を……悪魔の所業ですわ」


 王妃様はともかく、王女様には刺激が強すぎる内容であった。


「帝国は様々な利害関係が絡んで、王国以上に一枚岩ではありませんから、吸血鬼を利用する、利用される者もいるのでしょう。今回は、ネデル領の増税を試みる皇帝家とその総督が王国を牽制するために仕掛けたことなのでしょうが、帝国内の司教君主領の商人が吸血鬼となっていた傭兵に物資を運んでいた証拠が入手できましたので、今頃、釘を刺されている事でしょう。教皇猊下に認められた帝国皇帝のお膝元で吸血鬼に協力するものがいるのはいかがなものかと」


 政治的に詳しい事は王女殿下はあずかり知らぬことであろうが、王妃様は外交・社交の場で耳にし、意図的に話をしていることもあるのだろう、意味深げに微笑んでいる。


「あなたも、もう少ししたら国同士の駆け引きについても具体的に学ばねばね。公妃となれば、そういった事案も関わることになるのだから」

「は、はい! お母さま!!」


 王女様的には外交より、目の前のフィナンシェが気になるのだと彼女は理解していた。





 フィナンシェをいただきながら、魔装馬車と蒸留酒の件についての話題となる。


「なんでも、王都近郊でもニース商会が蒸留酒を作る工房を開くのだそうね」

「ガラス工房は王家の庇護下で運営を進めておりますのでしょうか。ガラスであれば、酒精が消えることなく保存ができます。ワインのままであるより蒸留したものの方が少量の瓶で沢山保存できますから。姉曰く、シードルや他の果実酒でも作ろうかと申しておりました」

「ふふ、お菓子の中に入れると、香りも味も良くなりそうね」

「!!!とても素晴らしい計画ですのね。でもなぜ錬金術の工房が?」

「ポーションを蒸留することでより効果の高いものを作成することも可能になるのではという視点で導入しております。また、酒精が濃い物は消毒にも使えますので、その為でもあるのです」


 彼女の中ではそのウエイトが高い。嗜好品の為に投資をしてもらい、実際は、学院での薬師・錬金術師の能力向上にも利用したいのだ。


「こちらが、ニース商会からの献上品でございます。シャンパーのワインの中で王家に献上するものと同じ質の物で作りました『ブランワイン』でございます」

「一度火であぶり蒸留したから『ブラン』ね。とても楽しみだわー」


 香水を作る為にも蒸留器は必要であることを考えると、貴族の生活に錬金術はそれなりに浸透しているともいえる。


「そうそう、息子ちゃんからあなたにデビュタントの時に身に着けて貰いたい装飾品を贈ることになっているでしょう?」


 ええ、いつの間にやら勝手に決まっておりました……とは言えないので笑顔で同意する。


 王妃様曰く、デビュタントの装飾品は王太子から贈る物を身に着けてほしいということなのだ。


「あの子も将来のパートナーであるあなたに気を使っているのよー。女の子に贈り物をするなんて、心境の変化かしらね~」


 将来の『副元帥』という立場は間違いなく『パートナー』と言えるでしょう。ええ、言い方的には語弊がありそうですが、誤りではないかもしれません。


 既に手配は終わっているので、子爵邸にドレスと同じタイミングで届けるとのことである。


「ドレスは私の選んだイメージで、宝飾品は王太子が選んだもの……期せずして親子の初めての共同作業だわ~」


 そういうのはもう少し幼少期に身内でお願いしたいものだと彼女は思ったのである。


「素敵ですわー」

「今ここでちょっと試着してもらえるかしらー」


 何それ聞いてないんですけれどとはいえず、侍女に促され、彼女は着替えの為に別室に案内される。そこでは……何故か入浴の準備がされており……全身くまなく洗われることになる。


「覚悟なさい。王妃様は本気ですわよ」


 侍女頭がクールに頭上から話しかける。相変わらず王妃様の無茶ぶりに耐えているようなのである。彼女の場合、さらに王太子や騎士団の無茶ぶりにも耐えているのだ、接触頻度からすると侍女頭には敵わない。


 風呂から出ると、全身に香油を塗り込まれ、更にメイクと髪もアレンジされ、何だか髪も顔も真珠の粉のようなものを付けられキラキラしている。そういえば、癖毛もたまに魔銀の粉でキラキラしているのを思い出したりする。


 そして、コルセット代わりの魔装胴衣を締めあげられ、彼女の場合あまり変わらないのだが……ドレスに装飾品を一式身に着けさせられ、王妃様の元へと案内される。


「まぁまぁ、素敵ねー やっぱり黒い目に黒い髪だと白いドレスが映えるわ~私の見立て通りね。息子ちゃんのチョイスも悪くないわね。サファイアが似合っているもの。ロイヤルブルーなイメージはピッタリね」

「羨ましいですわー 金髪に碧眼ではこうはなりませんもの。まるで白雪姫のようですわー」

「えー なんだか私が悪い魔女の継母みたいじゃない~」


 見た目はそうではありませんが、中身は近いと思いますよ。なんて言えません。




「そういえば、今回のあなたのデビュタントなのだけれど、少々面倒なことがあるかも知れないのよねー」


 王太子殿下のエスコートは男爵に陞爵する際に、国王陛下から命ぜられた公的な報奨なのでそれ自体は問題がない。とは言え、やはり、子爵令嬢である『男爵』が王太子のエスコートで最後に入場することになることを良く思わない貴族もいるだろうという事なのだ。


――― だったら止めてください。お願いします。


「あなたご存知かしら? もうデビュタントは済んでいるのだけどね。ギュイエ公爵令嬢のカトリナちゃんが、あなたをライバル視しているみたいなのよー」


 王妃様曰く、カタリナ嬢は王太子殿下とは又従兄妹同士となるという事で、王都に在住し王太子と親しくするように機会があるごとにアプローチを重ねているという事なのだ。


「あなたのデビュタントは当然優先される『公務』扱いになるのだけれど、男爵のエスコートを王太子がするのはおかしい……みたいなことを吹聴しているの。それにね……」


 王妃様曰く、彼女の事をカトリナ公爵令嬢は勝手にライバル認定しているのだという。


「なんでも、『妖精騎士』のお芝居が大好きで、自分こそこうあるべきだ……みたいなことを口にしているのだそうよ」

「……替わりましょうか?」

「そういう事ではなくてね。物語の主人公に感情移入しすぎて、あなたの事を尊敬するのではなく『私の偽物』……みたいに言っているのよ~」


 確実に頭がおかしい、ヤバい案件であると彼女は思いいたる。関わったら負けな人物であることが確定するのだが、それが許されるかどうかは微妙なのである。


「では、夜会ではあまり目立たぬようにしておくので、ご心配なく」

「それはそうはいかないわよ。あなたは『副元帥』なのだし『私の偽物』にするのは王家に対する信頼の問題にもなるわ~。だから、その日は諦めて王太子の横にいてもらうわ~」


 王家の一族であるギュイエ公爵家からすれば、子爵令嬢上がりの男爵風情が王家主催の夜会で王太子の横を独占し、王家の一員のように振舞うのは許しがたい……と思われかねない。とんだとばっちりじゃないのか!!


「陛下のお爺様の弟の家系なのよね。だから、かなり公爵自体はあの地方の空気に染まっているの。あそこは歴史的にも経済的にも連合王国・原神子教徒の関係者が多いの。特に、貴族や富裕な商人はね」


 経済的にも王国内よりも連合王国とのつながりが深い地域である。百年戦争以前においては三百年ほど同君連合であったのだ。ポワト伯という家系が現在のギュイエ領の当主であったのだが、最後の娘が連合王国の国王と婚姻を果たし、その子孫が王位を継いだため、王国の貴族でありながら、連合王国の国王である者がいた……ということだ。


 百年戦争の前半は、ギュイエ領での戦闘がかなり多かったこともあり、その時代の遺恨は今も消えているとは言えない。


「考え方も敵味方も違う子だから親戚とは言え……息子ちゃんはあまり好きじゃないみたいね」


 レンヌ大公は独立した君主であった当時から王国と連合し、今では王国の一部となることを選択したのだが、王家の親族でありながら、ギュイエ公は王家と距離を置かざるを得なくなったのは、自分の権力基盤を形成する者たちの影響が大きいからなのだ。


 娘は周りの友人知人の影響を受け、王家とは対立する存在に成るに至る。それが王妃を望むとは……王家が衰退しかねない毒を飲み込むことになる。


「まあ、本人は勝ち気で元気な子だから、上手く付き合えるに越したことはないのよー」

「では、夜会では専ら立てて受け流す方向で」

「それだけじゃないのよ。彼女今、近衛騎士見習なの。それでね……」


『妖精騎士』に憧れた彼女は、父であるギュイエ公爵にねだり、王都で社交を頑張る代わりに、近衛騎士として活動する許可を得た。王家に連なる者の中で王女殿下と同世代の騎士がいるのは悪い事ではないし、近衛騎士団としては、高位貴族、まして王家の分家である公爵令嬢が入団することに否は

無かった。


「もしかして……」

「ええ、騎士学校は同じタイミングで入校することになるわね。同期なのよ~」


 本人のたっての希望だそうである。幸い、御目付け役の同期の女従騎士が入るので、貴族の女性騎士は今回四人となる。出来る限り関わりたくないのだが、近衛と騎士団で彼女と公爵令嬢を祀り上げて対立しないことを望む。


「王妃様は近衛としてのカトリナ様をご覧になったことはございますか」

「ええ、見習なので二人きりになることはなかったけれど、先輩の女性騎士に付き添って過不足なく仕えてくれていたわね」


 王妃様の前では問題ないようだが、王女殿下的にはあまり好ましくないようなのだ。理由は……


「楽しくありませんの。それに、王都の貴族の皆さんや民を蔑むような物言いが気になるのですわ」


 王都には王都の流儀がある。あの、首の周りの飾りなどは流行っていないし、ドレスの流行も王妃様の好みに合わせたスッキリしたものが多い。


「本当に、連合王国の女王に気触(かぶ)れているのよね~ 王国からすると、庶子の女王で子もいないような女のどこに憧れるのか……ご存知かもしれないけれど彼女は若い頃、そうね、今の王女ほどの年齢から十年ほど修道女も真っ青の監禁生活を送っていたのよね。それで、ちょっとエキセントリックな性格になっているみたい。まあ、カタリナちゃんの性格はそっちの系統なので多分マッチングが良いのよ~」


 『妖精騎士』に自己投影し、王都を蔑み、敵国の女王の精神的シンパでエキセントリックな性格……絶対に関わりたくない存在だが、向こうは関わる気満々だろう。





 彼女がトホホな気持ちを必死に隠し、ドレスに着られないように淑女として頑張っていると、やがて新しい客が現れた。


「こんにちは我が『副元帥』閣下。ドレスがとても似合っている。流石はアリーだね」

「あらー そこは母親のセンスを褒めるべきでは~?」


 王太子殿下です、こんにちは、今日は一段と煌めいていますね。なんでだろかと彼女は考える。


「勿論、母上のおめがねに間違いはないでしょうが、それでも、着る人を選ぶ色合わせですから。うん、その装飾品も似合っているね。サファイアが君には良く似合うね」

「……勿体なきお言葉ですわ王太子殿下。この度は、過分な贈り物とデビュタントのエスコートをお引き受けいただき誠にありがとうございます」


 公務だからねと言われるかと思ったのだが……


「君の隣を他人に譲る気はないよ。たとえ公務と言えどもね」


 と返された。公務だからですよねと彼女は思う事にした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ、人間関係的にも社会的にもどんどん外堀を埋められてる感がなんか好き。 デピュタントの回も楽しみだと思っていたけれど騎士学校の話もとても面白そうな展開になりそうで多大に期待。 [一言] …
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