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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『デビュタント』

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第185話 彼女は王都で次の準備を始める

第185話 彼女は王都で次の準備を始める


 騎士団本部で、傭兵吸血鬼に散々痛めつけるだけ痛めつけ、彼女の存在を刷り込み続けたのち、尋問は騎士団に委ねる事にした。


「何かあれば即お呼びください。何か話しても、話さなくても気に入らなければ、三十分で参りますので。この外道には、聞きたいことが沢山あるでしょうから、いつでもお手伝いします。呼ばれたくなければ、さっさと洗いざらい吐きなさい」


『!!!!!』


 魔装手袋に魔力を通し、左右の拳で顔面を殴りつけ、犬歯が折れて口の中に刺さったようで何よりである。


「……魔力で強化した拳で、魔銀製のグローブでぶん殴るとか……街の破落戸並に怖いな……」

「ええ、目線を合わせて対話していますから。破落戸には破落戸の作法が必要ですもの。これでも人の心は多少理解していますの。ですので、私の手を煩わせたくなかったら、協力する方が利口でしょう。痛い目に遭って死ぬか、楽に死ぬかの二択ですから」


「使い捨ての傭兵隊長の吸血鬼を回収しにわざわざ王都の騎士団本部の地下まで上位の吸血鬼が助けに来るわけないのだから、素直が一番よ」と彼女は最後に告げて取調室兼地下牢を出るのであった。


『……相変わらず容赦ねぇな』

「当たり前じゃない、台所の隅にゴキブリが出ているのだもの。加減は不要だわ」


 いつも以上に殺伐とした討伐。平和に暮らしていた村人たちがグールにされ、それも、大した意味もない嫌がらせの代わりにだ。許せるわけがない。何か、いい方法がないか……彼女は考えていた。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 イライラとした聖都での討伐を終え、彼女は一息つくと騎士学校入学とデビュタント……という二つの課題に向け取り組みを始めるのである。


 並行して、卵の採取場の拡大、退魔草の学院での栽培、対吸血鬼戦の装備の拡充を進めなければならない。


「ということで、ドレスが仕上がってるわよ」


 伯姪曰く、デビュタント用のドレスが仕上がっているので都合が良い日にこちらに持ち込んで最終の補整をかけたいということなのだそうだ。


「サイズ的には問題ないでしょうけれど」

「胴衣……魔装のコルセット付けてって感じだものね」


 ドレスの下にも当然『魔剣』は装備するし、魔装胴衣的コルセットも付けることになる。ストッキングも魔装糸製の特殊なものを用意する。


「何もなければいいのだけれど、吸血鬼、帝国の伯爵夫人は相当頭にきているでしょうから、私たちのメンツを潰す為に余計なことをする可能性があるわよね」

「それは考え過ぎでしょう。いいえ、王宮内では問題なかったとしてもその帰りに襲われる可能性も皆無ではないわね。リリアルは郊外だし。時間帯は夜だもの。営業中よねあいつら」


 デビュタントの夜会はそれほど遅くはないが、それでも終了時間は真夜中前である。吸血鬼もそれ以外の魔物も一番の活動時間と言える。


「リリアル学院も吸血鬼対策が必要かな」

「あの守備隊長がいるからそこまでではないでしょう。従属種一体程度なら何とかなるでしょうし。それより、魔導騎士には話は伝わっているのか心配ね」


 聖都近郊にも『魔導騎士』の駐屯地が存在する。役割は聖都の防衛と国境を接する国からの侵攻阻止。とは言え、その役割は正規の軍に対する抑止力に過ぎず、破壊工作活動の阻止などには全く対応できる戦力ではない。


「魔装騎士が吸血鬼サイドに利用されるって事はないのかな?」


 伯姪の疑問は尤もと思われるが、魔装騎士は魔力保持者のみで構成された存在であり、魅了に対する耐性も高い。また、拠点も出入りが厳しく制限された場所であり、聖都近郊の駐屯地でありながら、聖都への立ち入りは禁じられている。


「王都から比較的近いという事もあるのだけれど、聖都での行動パターンを分析されて工作員と知らずに接触されるリスクを嫌っているみたいね。幸い、定期的に王都で非番を過ごすローテーションが確立しているのよ。貴族の子弟で構成されている部隊ならではね」

「整備関係や警備の人間はどうなってるのよ」

「省力化されているので、人手はほぼ不要。待機している魔導騎士がその役割を交代で担うから、その少ない人たちも王都で休暇を過ごすみたい」


 王都からそれほど離れていない故の事でもあるが、戦略兵器の管理を雑兵と同じ扱いで管理するわけにはいかないだろう。


「魅了の対策として……目を合わせて話さない癖をつけさせることとかどう?」

「……感じ悪いわよ。魔力持ちの子たちに来客を対応させて、魔力が無いもしくは少ない子たちは初見の来客を対応させないようにしましょう」


 可能性は低いが、危機感を持って対策を施しておく程度で十分だ。





 翻って、アンデッドの追加対策だが……


「あの魔装鍍金のチェーンはとても有効だったわ」

「魔装布のマントを毎回使うのは良くないわね」


 今回、吸血鬼を捕縛するのに魔装縄とマントを活用したのだが、マントでは少々勿体ないのである。


「……縄ではなく、『網』ならどうかしら?」

「良い考えね。罠にも使えるでしょうし、古の帝国では剣闘で網で捕らえた猛獣と人間を戦わせたりしたみたいね。動きを制限するのも魔銀製の縄で作られた網は有効でしょう」


 一つの装備は確定したと言えるだろう。さらに、鎖と分銅の応用として、魔銀製ワイヤーのトラップがあっても良いのではという事もある。


「へぇ、絞殺用の暗器の応用。気配隠蔽で近寄って剣ではなくワイヤーで絞殺する要領で首を切り落とす……ねぇ」

「逃走路上の脛の高さにワイヤーを張っておくというのも手だと思うの。ワイヤーの両端をペグのようなもので結んで通路の漆喰の間や木々の間に突き刺しておくといい罠になるのではないかしら」

「悪くないわ」


 と様々なアンデッド用の装備を考えていると、老土夫が現れた。丁度良いとばかりに、新しい装備の相談を始める。


 リリアルには現在、極秘となっている技術、『魔装鍍金』と呼ばれる技術がそれにあたる。


 鍍金をする場合、水銀と金などの希少金属を溶かし合わせた後、その溶液を鍍金したい金属などに付着させたのち、加熱することで水銀が蒸発して金に鍍金された物が出来上がる。


 なんでも触れたものを金にするといった技術は、恐らくこの技術によるものなのであろう。


 また、失われた技術として電気による『電気鍍金』も存在するが、電気を発生させ鍍金することは今の時代出来ていない。また、溶融鍍金という技術もあるのだが、リリアルで実装したのはその技術である。


 ある日老土夫が癖毛と何気なく「ポーション作るみたいに普通の鋼の武器にミスリルを添加できないか」と考えたのである。ミスリルを高温で溶かし、魔力を注ぎ込んでおく。そこに、一般の剣を入れてミスリルの鍍金をしてみたのだという。


 ミスリルは銀と同じ1000℃程度で融点となるが、鋼は1500℃と温度差がある。溶融鍍金の場合、かなり分厚く鍍金されるため、耐久性や魔力の伝導率も合金より高いくらいなのである。


 初めて見せられた時、彼女はかなり驚くと同時に、魔力持ちにのみ凶器となることに気が付いた。刃ではなく魔力で断ち切ることに特化させた装備になる。




 見切り発車的に始めた装備の更新だが、今のところは有効に使えている。その時は……


「面白いですね。これなら、魔力を通さなければ鈍器、通せば切れ味鋭い装備になるでしょう」

「ポールウエポンでも、ピックやピアスの先端にだけ鍍金するとかいろいろ方法がある。一番大きいのは鏃だ」


 程度の軽い提案に過ぎなかったのだが。


 魔力を貯めておくことができるため、射出直前に鏃の部分に魔力を込めて打ち出すことができるからだ。また、合金の鏃より飛躍的に生産性があがる。鉄の鏃なら何でもよいからだ。


 魔銀製のアンデッドにダメージを与える簡易な飛び道具がないか、彼女は老土夫に持ちかけた。


「投擲用のナイフやダーツにも応用できるのではありませんか?」

「もちろんだ。鍍金すると重量バランスも変わるからその辺は試行錯誤の時間が必要だが、手投げの武器でランス並みの打撃とか、夢が広がるな」


 魔力をどの程度保持できるかによるのだが、魔力量を沢山込めることができれば、手投げナイフでフルプレートの敵を撃破できるかもしれない。また、攻城戦や市街戦でも構築物の破壊に応用できる可能性もある。


 今回は初の実戦運用なので老土夫は同行したがっていたのだが、明らかに同行者の存在が目立ってしまうので断った次第だ。


「魔導糸と魔導鍍金で加工されたフレイル……なんだか凄まじく恐ろしい装備になりそうね」

「一見、農民の武装蜂起、実際は重騎士をも粉砕する恐怖の軍団よ」

「あー 魔装鎧のマントとか手袋だけでもかなりの防御力だもんな。それに魔力を込めたフレイルの一撃か……うん、絶対敵対しないぞ」


 敵側に渡らないように、何らかの施術も必要な気もするのだが、全員帰還が基本のリリアルに不要……とは言えない。


「魔力を通さなければ、普通に燃えるから油撒いて燃やすしかないわね」


 金属製の武器はともかく、衣類は燃える。それに、魔力がなければただの鍍金された武具に過ぎない。





 その中で分銅を用いた鎖を投げつけてダメージを与えられないかどうか、彼女は思案していた。鎖と分銅で投げつけて絡めてダメージを与えてもよし、振り回してボール&チェーンのように叩きつけても良しという感じでだ。


「ウイップかの」

「鞭ですか」

「でも、殺しきれないんじゃない?」

「先端に槍の穂先のようなものを付けるタイプもあるな。ダガー・ウイップとか言うんじゃないか。まあ、土夫は専門外だがな」


 アイデアとしては面白そうだが、あまり実用的ではなさそうだ。一対一ならともかく集団で押し寄せるグール向きではない。吸血鬼となら面白いかもしれない。主に、姉辺りが喜びそうな装備だ。


「ヘッドを普通の魔銀製の分銅のようなものにして、試作をお願いします」

「おう、鞭は既製品か、金属ワイヤーベースで鍍金してもいいか。考える」


 老土夫が返事をすると、伯姪がそういえばと言い、話を変える。


「あの吸血鬼用の斧あるじゃない。斧の柄に石突のような鋭いスパイクを装備できないかしら」


 斧で振り回すと同時に、場合によっては刺突できると良い……と彼女の姉が言っていたのだという。


「確かに、両手持ちの斧だと槍と同じように石突がある物が多いか。普通に杖代わりにすると柄が痛むしな」


 長さとしてはかなり短いものだが、ショートスピア的に狭い所で使えるのも良いかもしれない。それは改良することになりそうである。





 いくつか改善してみたい部分としては、ブーツもある。金属でつま先やかかとを補強し、魔銀鍍金製にすることで蹴りでアンデッドにダメージが与えられないかという事でもある。


「魔力量が少なく、接近戦の多い前衛の人から試してみたいのよね」

「うん、悪くないと思う。今回も魔銀製シールドボスは使えたし。足も使えれば、かなり変わると思うわ」

 

 伯姪に茶目栗毛、赤毛娘も装備すれば上手く使えるだろう。姉が大喜びするのは間違いない。パンプスやスリッパでも魔銀で補強しかねない。


「じゃあ、何人か試してみてから、良ければ標準にするか。とは言え、ブーツ自体は靴職人の仕事じゃから、その後補強金具代わりにという感じかの」


 蹄鉄のように金属で革底を補強することがある。概ねその内容になるのだろう。


「うーん、ナイフ以外の飛び道具ね……」

「やはりあると便利よね」

「まあ、手のひらサイズの金属の球で魔銀鍍金製とかでもいいけど、投げにくいし外れたら意味ないしね」


 網が有効なのは外れにくいからであり、分銅は外れてももう一度叩きつける事ができるから問題ないのだろう。


「色々考えてみましょう」

「考えている間に、何も起こらないことを祈るわね」

「おお、儂も……いや、じっとしておこう。何ごともないのが一番だで」


 獣や魔物と異なり、傷をつけてもある程度なら影響がないアンデッドに対抗するのはリリアルの魔力持ちですら考えなければならない案件である。騎士団や傭兵、徴兵された歩兵には難易度が高い相手になる。


「はあぁ、結局、ここに話が持ち込まれそうなのね」

「ええ、対処できているのがリリアルだけですもの。それに、騎士団に便利に貸し出されて捨て駒にでもされたら取り返しがつかないから、単独で討伐は行うつもりよ」

「……タラスクスだっけ? 酷かったみたいね」

「王都近郊以外はどこも同じだと思うわ。ある程度被害が出るのは仕方がないと割り切らないと無理ね」


 冒険者登録をしている学院生も多くは騎士爵になり、指名依頼も受けずに済みそうで何よりである。王家の命以外の指名は基本お断りすることになりそうだと思われる。





 武具の話が一通り終わり、「そういえば」と老土夫ドワーフが話題を変える。


「蒸留酒の工房もリリアルに作るらしいの」

「……厳密には蒸留器のある設備を設置し、対価としてワインを基にした蒸留酒の作成も手掛ける……というところかしら」

「おお、ワインが酸っぱくなる前に蒸留するのは良い事だわい。儂も、やる気が出るというものじゃ」

「飲まさないわよ。試飲とか」

「なぜじゃ!!!!」


 そんなもの、試飲で飲み干されることが分かり切ってるからだろうと、彼女と伯姪は思うのである。


「ワインがまずくなる前に蒸留して瓶詰で保管する。王都の貴族に受けそうなお酒ね」

「ええ、そして、ワインの産地が少ない帝国内で……流行らせるために恐らくニース商会は帝国内に支店を設けるでしょうね」

「……本拠地に潜入調査かな?」

「どうかしらね。面白い事を考えるのは姉さんの仕事だから。多分、色々考えているでしょうけれど、王国内のようには立ちまわれないわ」


 帝国は独立した都市と領邦の集合体であり、その土地毎の支配者の影響が強い。故に、吸血鬼も紛れ込みやすいと言えるだろうか。姉が無茶しなければいいなと彼女は思うのである。




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[一言] 電気の存在が知られてるならいずれアルミも精錬できるな
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