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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『聖都』

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第181話 彼女は隷属種の吸血鬼を追い詰める

第181話 彼女は隷属種の吸血鬼を追い詰める


 礼拝堂の中に突入すると、そこには四組の親子らしい姿と、その背後にメイド服を着た女が立っていた。


『おお、ここまでようこそお客様。当方の歓迎を是非、受けていただけますでしょうか~♡』


 グールが突進してくる全面に、退魔草の油球を霧化して展開すると、その中に突入したグールが苦しみながら襲い掛かってくる。


「はいはいはいっと、はいはいはい!」

「それっ、どうだ!!」

「うわあぁぁぁぁぁ!!」


 姉は軽やかに、歩人は力強く、そして赤毛娘は……ブチ切れている。


 彼女たちが二体づつ頭をかち割り、そのまま前進する中、赤毛娘が女吸血鬼の周りに結界を展開、封じ込める。


『はっ、こんな程度の結界!!』


 瞳孔の開いたその目がギラリと輝き、女吸血鬼が素手で結界を殴りつける。


 ゴン、ゴン、ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン


『なっ、なんでこんなものが。きゅ、吸血鬼の力で難なく!!!!!』

「死ね、ゴキブリィィィ!!!!!!」


 赤毛娘が三発の退魔油球を結界内の吸血鬼に叩きつける。勿論、その油で吸血鬼が死ぬわけではないが……


『Gyaaaaaaa……い、息が……』

「アンデッドが息、苦しいわけあるかあぁぁぁ!!!」


 飛び込んで結界内で油まみれになっている吸血鬼の頭を両手に持ったメイスで滅多打ちし始める。


「死ね、苦しんで死ね、永遠に死ね、永久に死ね、お前が殺した子供たちが生まれ変わってお前に復讐するまで死に続けろおぉぉぉぉ!!!!!」


 吸血鬼は一度心臓が止まって、生まれ変わると言われている。故に、永遠に死に続けると言うことは、それを繰り返すという事になるのだろうか。あまりの赤毛娘の豹変に、全員硬直しているのだが……


「お、おい、殺しきっちゃう前に止めねぇと……でございます、お、お嬢様!!」


 彼女が動く前に、姉が動き出した。


「そこまでだよ!!」


 左掌で『衝撃』を形成し、赤毛娘に軽く当て、反対の右手に持ったフレイルに魔力を集め、吸血鬼の胴を薙ぎ払う……


「……姉さん、やっぱりフレイルなのね。それに……」

「フレイルで胴が千切れ飛んでるってどういうことなんだ……でございます」


 赤毛娘に手加減した分、吸血鬼には魔力込め過ぎたというのが姉の言い訳である。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 気絶した赤毛娘を姉が抱き上げ、黒目黒髪に声を掛けて兎馬車へと向かう。


「この子は私たちで面倒みるから、妹ちゃんたちは捜査を続けてね」

「ありがとう姉さん。お言葉に甘えてそうさせてもらうわ」


 母子グール化を見てやはりショックを受けてしまったかと思い、少々悔やむ気持ちがないではないが、これからある可能性が高い事案でもある。


「さて、この吸血鬼も魔装縄で縛り上げましょう。で、あなた、聖都の商館で騎士の吸血鬼に仕えていたのではないかしら」


 顔面もボコボコにメイスで叩きのめされ顔が変形している女吸血鬼であるが、徐々に回復しつつあるようで、上半身だけでもある程度生命力が維持できているのは……やはりアンデッドの王と言われる吸血鬼であるからなのだろうか。


『……』

「黙っていてもいいけれど、死なない程度に拷問するわよ。目玉に針刺したり、舌を切り落としたり」

「先生、それではお話しできなくなるかもですよね?」

「流石に再生するんじゃない?」

「でも、さっきは『結界』殴って壊そうとしていたけど全くできていなかったわ。四天王の中でも最弱の隷属種だからではないかしら」


 始祖・支配種・従属種と比べ、隷属種は半分グールのような存在であると考えらえる。弱点はそのまま、能力は限定的な廉価版吸血鬼とでも言えばいいだろうか。


「主から見捨てられたって事でいいのかな?」

「多分、捨て駒にされたのでしょうね。私たちの戦力構成で考えて、この十倍はいないと話にならないもの」

『……え……そんなわけないじゃない』


 女吸血鬼の反応が慌ただしくなる。捨てられたことに気が付いていなかったということなのだろう。


「私たちが騎士団より魔物討伐に関しては優秀なのよ。女子供ばかりではあるのだけれどね」

「そうそう。私のいないところで、ドラゴン狩りとかしているしね」

「グールは初めてですけど、ゴブリンやコボルド、アンデッドもそれなりに討伐していますから。この程度ちょちょいのちょいです☆」


 赤毛娘がいない分、何故か藍目水髪のテンションが上がってきた。でも、実際、あなたはそれほど討伐に参加していないよね。と周りは皆思っていたりする。


『だからって……』

「グール相手にどの程度対応できるか。吸血鬼も含めてという事でしょうね。前回、女冒険者の吸血鬼が率いていたグールは通商破壊作戦用の部隊で、今回は討伐部隊を攻撃するための戦力だったのでしょう。なので、あえて側近の手駒を投入したというところね」

「結果はこの程度。グールの傭兵ならわからないわね」

「兜や鎧を装備した場合、村人みたいには簡単にダメージが入らないかも知れないわね。まあ、その場合、装備を少し見直しましょう」

「ああ、バルディッシュ使いたいわねー」

「魔力の無駄よ。あなたの本来のスタイルで問題ないわよ」

「確かに。護拳越しに頭砕いてやるわよ!!」

「「「おー!!!」」」


 女吸血鬼がガックリと落ち込んでいるのを置き去りにして、彼女たちは次の廃砦の討伐に関心が移っているのである。


『で、でも、あの親子のグールは、グッと来たでしょ?』


 話を混ぜ返す女吸血鬼。顔も整い始めていたのだが……


「煩い!」 ゴイン

「黙れくそブス」 バキッ

「息が臭いから口を閉じて!」ゴウン


 赤目銀髪、青目蒼髪、赤目蒼髪がそれぞれ殴りつけ、顔が再び歪む。


「ええ、あなたもこれでいつまでも滅することがかなわず、稽古台になること確定ね。先輩の話を良く聞いて、大人しく剣や槍で切り刻まれると良いわね。たまに、猪の血や鶏の血を掛けてあげるから死なずに済むわよ」


 レヴオは失敗した効果の低いポーションを掛けているが、吸血鬼なら動物の屠殺した際の血などで十分だろう。なんなら、血抜きする動物の下においておけばいい気もする。


『ふ、ふざけたことを!!』

「ふざけてなんてないわ。親子の神聖な関係を冒涜したのだから、あなたの存在も冒涜し続けられるに決まっているじゃない。応報というものよ」

「それに、リリアルの学院生の稽古台として何度でもぶん殴られても自動修復する木人代わりで便利よね~♡」

「弓の練習もいい。目とか狙うのが楽しみ」

「ああ、魔装銃の的にもいいですよね。結界展開して魔装銃全ブッパとかなら、返り血きにしないでいいかもです☆」

「……お前、やけに積極的だな。あれか、乗り越えちゃったか」

「はい!!」


 藍目水髪覚醒☆ マックスハイテンションである。赤毛娘がちょっと心折れちゃっている分、自分が頑張らねばという事なのだろうか。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 彼女と茶目栗毛を除き、他のメンバーは一足先に兎馬車で聖都に帰還することになった。


「じゃあ、偵察お願いね」

「ええ、明日はもう一日討伐になるから、早めに休んでちょうだいね」

「お姉ちゃんは吸血鬼さんとお話合いしようと思うんだけど」

「……騎士団に任せなさい。それと、ワインのボトルの調査を早急にね」

「勿論だよ。まあ、お使い頼むだけだから、私は特に何もないんだけどね!」


 じゃね~ とばかりに手を振る姉。彼女は冒険者の衣装に着替え、茶目栗毛と共に、デンヌの森の入口にほど近い傭兵団の潜伏する砦跡へと移動する。





 デンヌの森自体は王国領ではなく、帝国の司教領にあたる。デンヌの森は川沿いの開けた場所以外は入り組んだ小道と森の中の小さな教会を中心とする砦に似た村々から成り立っている。ロマン人の襲撃からこの地域を守り抜いた司教の元に様々な小領主が寄進をしたことで、司教領が大きくなり現在の規模となっている。


 小領主は司教の代官として実質領主のように振舞っている。故に、この地域は『司教君主領』と呼ばれている。


「先生」

「何かしら?」


 茶目栗毛曰く、デンヌの森の中にある小さな『街』の一つが暗殺者養成の為の一つとして育った場所であるとの事なのだ。


「どこかは、分かりませんが、行って目で見ればわかると思います」

「……そう。機会があれば……探しましょう」

「……はい……」


 デンヌの森はゴブリンやコボルドといった魔物や狼もそれなりに潜んでおり、街道を外れるとかなり危険であると考えられている。帝国が様々な聖俗君主の集合体であり、このデンヌの森を領域とする司教領が世俗の君主よりもそれほど主従関係を求めないのであるとすれば、その代官である貴族どもが自分たちで好きに動いている可能性は高いだろう。


「小規模なルーンのような街が沢山ある……のでしょうね」


 ルーンの都市を運営する理事たちは、周辺の代官を司る村やギルドを自分たちの利権として好き勝手に利用していた。同じことが起こっているのだろうが、帝国内の事であるので関係はない。とはいえ……


「その一つに吸血鬼が支配している街があると?」

「可能性的にはあり得ます。暗殺者村があるくらいですから、吸血鬼の支配する都市があってもおかしくありません」


 デンヌの森を水源とする川がいくつか王国に流れ込んでおり、国境があるからといって人の交流が無いわけではないのである。むしろ、多いと言えるだろう。


「前哨基地が、帝国側に利用されているということね」

「地政的には恐らくその通りです。正規軍が進出してくることは無くても、聖都を混乱させる工作員を送り込むには適切な地域です。なにより、森があるおかげで、逃げ出すことも容易ですから」


 騎士たちは平地でのぶつかり合いは得意だが、森や山岳地帯のような場所は非常に苦手だ。馬での移動も困難であるし、重い鎧も制約をもたらす。


「傭兵は冒険者同様、軽装で不整地も移動することを厭わない分、この場所で活動することは得意だと言えるでしょう」

「それを送り込んだうえで、用済みとなればグール化して廃物利用というわけかしらね」


 茶目栗毛曰く「暗殺者も傭兵も使い捨てるのが帝国流です」とのことであった。





 その砦は変則の五角形をした胸壁で囲まれ、円塔がそれぞれ配されている石造りの要塞であった。


「しっかりした要塞ね。これは、あの規模の騎士隊では近寄れないわね」

『まじ、なんでこんな立派な要塞放棄してるんだよ。確かに国境に近すぎて縦深が取れないか……』


 火薬が普及する以前であれば高い城壁が攻略部隊を少数で防ぐことができたであろうが、石や鉛の弾丸を数百mも飛ばす大砲の出現で、遠距離から城壁が破壊されるようになると、小さく堅固な城塞はむしろ攻略され易くなってしまった。


「それでも、山賊に扮した傭兵を越境させておくには十分な規模です。山賊退治に大砲は使いませんから」

「ええ。では、私が内部に侵入して状況確認をします。あなたは周辺に他のアンデッドや傭兵が潜んでいないかどうかを確認してもらえるかしら。終わったなら、この場所で待機で」


 茶目栗毛は頷くと、二頭の馬を城塞から程離れた場所に移動させ木に手綱を縛り付け去って行った。


『で、どうするんだよ』

「観光スポット見学よ。先ずは城壁周りを一周し、その後で『結界』の階段で内部に侵入。魔力走査で戦力の把握をするだけの簡単なお仕事よ」

『今日のところは見てるだけ……か』

「状況によるわ」


 彼女は気配の隠蔽を施し、前哨基地としては豪華な石の城塞に近づくのである。





 小高い丘の上に周りをぐるりと木々で囲まれた城塞。それぞれの胸壁は兵士の宿舎を兼ねているようであり、二段に窓が穿たれている。


「さて、この時間では灯りもついていないのは当然、見張らしい見張もいないわね」

『グールちゃんはお眠なんじゃねぇかな』


 城壁に近づき、周囲を確認してから結界の階段を形成する。


『主、私は少々奥まで入り込んで様子を確認してまいります』

「吸血鬼を発見したら、すぐに戻りなさい。上位種なら危険ですもの」

『承知いたしました』


 使い魔の黒猫程度であれば、悪い吸血鬼が捕まえるのも難しくないかもしれない。結界を駆け上り、胸壁の上に立ち中を覗き込むと、既に薄暗くなりつつある砦の中庭に数人の鎧兜を装備した兵士が座り込んでいるのが見て取れる。


『生きてるのか死んでるのか』

「魔力が座っている者全員に見て取れるのだから……全員グールよ」


 座り込んだ兵士たちの目は虚ろであり、また、白目が明らかにおかしい様子が見て取れる。それに、鎧も着崩れたままで手入れもされていない様子から、生きている兵士ではないのだろう。


『でもよ、南都行く途中で見かけた山賊もあんなものだったぞ』


 見た目はかなりくたびれた山賊とは言うものの、能力は人間をやめた存在であるのだから、かなり危険ではあるだろうと彼女は思うのである。




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