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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『サボア公国』

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第149話 彼女は前伯とサボア公爵前で腕前を見せる

第149話 彼女は前伯とサボア公爵前で腕前を見せる


 バルディッシュは『フレンチ・グレイブ』と称される片刃の竿状武器と似ているとも言われる。包丁を竿の先に着けたようなグレイブより、細身の斧のような刃を備えたそれはバルディッシュの縁戚のようでもある。が、これはあくまでもバルディッシュなのである。


「さて、どこからでも掛かってくるがよい」

「では、胸をお借りします。返せなくともご容赦ください」


 身体強化、全身の魔装衣に魔力を通し気配隠蔽、低い姿勢から振り上げるようにバルディッシュを斬り上げるが、その刃先を石突で弾かれ、流れた体に前伯のバルディッシュの刃が叩きこまれるが、赤毛娘同様、部分結界で弾き距離を取る。


「まだまだ、未熟だの。とは言え、躱された後の対応は見事」

「流石に、斧の使い方までは習熟できておりませんもの。今日は勉強させて頂きます」

『重心を考えて真ん中を持って石突をつかって足回りを崩せば勝機もあるだろう』


『魔剣』のアドバイスを受け、彼女は持久戦に出る事にした。とは言え、騎士としての実力は足元にも及ばない彼女である。本気で斬り降ろし、振り回しながらも反撃を結界を使い防ぐの繰り返し。魔力の残量は彼女の優位、腕力と技術はジジマッチョに利がある。削りあえば何とかなるのだが、きめ技の『衝撃』はルール上不可である。


『隠蔽使うか』

「いいえ、彼の方にこの距離では無理よ。振り回せば当たるじゃない」


 彼女はバルディッシュの重心がかなり前にある事から、振り回しつつ、動く機を制約することにした。槍ならば穂先が軽いので振り回してしなりを利用して牽制することもできるが、長い斧は斬撃特化の残念仕様なのである。


「ふはっ、斧は不得手か男爵!!」

「いいえ、それほどでも」


 柄のうんと長い剣であると割り切り、左右の斬撃に斬り上げを加える。


「はっ、騎士の装備ではこうは動けんな」


 前後ならともかく、左右に旋回する動きはプレート装備で追うのは難しい。自分を中心に旋回しつつ死角から斬撃を放ち、石突で刺突する彼女の動きはさすがに戦場慣れしている前伯も少々面を喰らっているようだ。


「ちょこまかと!!」

「いいえ、死角死角へとまわりこんでいるだけですわ!!」


 斬撃と刺突を繰り返し、絶え間なく動く彼女に徐々にギリギリの動きとなっていく前伯。年は取りたくないものである。


「ま、まあこの辺りでよかろう」

「……承知しました」


 グルグルと老騎士の周りを回り続け、斬撃と刺突を繰り返した彼女の動きに公爵をはじめ周りは茫然としている。


「相変わらず、無茶苦茶動くわねあなた」

「騎士としての素養がない分、魔力と動きでカバーするしかないもの」

「先生!! あたしも、それいいなって思いました!!」


 赤毛娘は基本脳筋なので、脳筋的なバルディッシュに興味津々……であるが……


「あと、背が20cm伸びたら考えましょう」

「確かに、ちょっと大きすぎるわよ……」

「えーそうかなー」


 黒目黒髪ナイスフォロー!! 身長が130㎝しかないのに、何言ってるのと思わざるを得ない。


 最後に、黒目黒髪の受け、伯姪の攻めで形稽古を見せて、その剣の冴えに瞠目されジジマッチョの自慢の孫娘(正確には大叔父なのだが)とアピールが少々鼻についたが、その美少女二人の剣戟は立ち合いの終わりを大いに盛り上げる結果となった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 さて、昼食は公爵閣下を囲んでリリアルメンバーが会食する場となっている。昨日好評であった白身魚のフライがたくさん振舞われることになった。勿論、タタルソース付きでである。


「皆、凄まじいまでの強さであった。まかさこれほどの差があるとはな」


 公爵閣下の率直な高評価に、えへへと笑う赤毛娘たち。勿論、茶目栗毛はすまし顔だが気持ち笑顔である。


「修業は大変なのではないか」

「そうでもないです。楽しいです!!」

「はい。薬を作って育ててもらった孤児院に慰問に行くこともありますし、とても充実しております」


 あはは、うふふと笑う少女二人を目にして、いささかロリコンではないかと思わないでもないが、公爵が笑顔になっている。まあ、子供の笑顔は微笑ましいものだ。


「皆、リリアルでどのくらい生活しているのかな」

「二年程になります。他にも、薬師の生徒は半年ほど学んで、教会に付属する施療院と孤児院で仕事をしております」

「ほお、薬師もそだてているのか」

「はい。それに、農村の立て直しなども手掛けているので、ある意味、なんでも手がけているかのしれません」


 使用人教育に商人としての教育……様々な人材を育てることを目指して学院は孤児を募っている。


「それにしても……みな食事の作法が素晴らしいな。我臣下にも見習わせたいものだな」


 法国から始まった宮廷料理の流れは公爵家にも当然波及しているのだが、会食する機会の少ない下級貴族の子弟出身の近侍には作法ができないものも少なくない。リリアル生はその辺り、女性は侍女として仕える事も考慮しているため、テーブルマナーは厳しく教育されている。赤毛娘でもだ。


「この者たちは王妃様と会食する機会もございますので、作法は厳しく学ばせております」

「前子爵である祖母が先々代の王妃様付き侍女でありましたので、講師として招き、厳しく指導しております」

「……厳しい……お婆様……」

「そのおかげで、美味しい料理のご相伴に預かれるのだから、文句はないでしょ?」

「その通りです。リリアル以上に使用人教育に熱心な機関は存在しないでしょう。それも、我ら孤児を相手に教育されているのですから」


 茶目栗毛はここぞとばかりにリリアル絶賛。公爵はその洗練された物腰、剣の腕も含めとても感心しているようで、注目されているようなのだ。男色でないことを祈る。


「王都は孤児でさえ才能豊かと……いうのであろうか。羨ましい限りだ」


 公爵の言に彼女はそうではないと思う、言葉を発する前に伯姪が言葉を返す。


「恐れながら公爵閣下、この子たちを見つけ出すために、男爵は王都の孤児二千人と面談しました。その中で探し出された子は……十一人です」

「なっ……それはまことか男爵」

「……はい。魔力のある者の中で、向上心のある子供たちを選びましたので数はその程度となります。使用人や薬師に関しては読み書き計算の一通り出来る孤児院の院長が推薦するものの中から選抜しているので、そこまで大変ではございませんが、王妃様からお預かりしている学院ですので、生半可な者を受け入れるわけにはまいりません」


 彼女の中で、子爵家の「王都を守る」という役割の中に、リリアルのあるべき存在というものも矛盾なく組み込まれている。それまでの都市計画というハード面を子爵家が、その周囲に対するソフト面の役割をリリアル男爵家と学院が担うという意味でである。商家に嫁ぐか学院で人を育てるかの違いでしかなく、本人の中では「少し役割が変わったかしら。でも受け入れ可能な範囲ね」程度のものでしかない。意外と図太いのだ。


「仮に、この城館の使用人の中に、才能のある者がいたならば、リリアルに留学させていただいても構いません。王都の民で孤児ではありませんので、実費はご負担いただきたいのですが」

「……勝手に約束しても問題ないのかの?」


 前伯の言葉に彼女は問題ないと伝える。学院長としての権限で多少の融通は可能なのである。


「では食後にでも、家の者を見ていただく事としよう。選び方は……」

「勿論、秘密ですわ」


 公爵は謎解きは後でと言うわけかと納得し、先ずは近侍の者から部屋へと呼び出すこととした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 既に魔力のあると分かっているものを除いて選抜を行っているので、ここまで公爵に直接目通りのできる者の中に、新たに魔力を有する者は見当たらなかった。


「では、使用人の中でも身分の低い者にも面談してみましょう。貴族やその使用人の家系であれば、魔力の有無は子供の頃に確認するものですわ。数は少ないですが身分の低い者、平民の中にも魔力を有する者がいるのですが、調べる機会がありませんのでまず見つけることはできません」


 公爵は、砂山から砂金を見つけるようなものだと言うのだが、彼女は『魔剣』の声が聞き取れるかどうかで確認するので、簡単に見つかるのである。だがしかし、謎解きは午後の紅茶の後で行うことにするつもりだ。





 家に仕える者には細かな役割が定められている。公爵の代理人を務める家宰はトレノにいるのでこの城館には執事長以下、執事と従僕と言った男性の使用人が多数存在する。厩番や庭師もいるが専門職であるのでその者は除外する事にした。


 公爵に呼ばれ数人ずつのグループでサロンに入る。因みに、この時点でリリアルの学生三人は宿に返されている。お昼をごちになり、お土産の焼き菓子を貰って意気揚々と帰って行った。主に赤毛娘が。


「さて、男爵。始めてもらおうか」

「承知しました」


いつもの如く『魔剣』が声を掛ける。


『俺の声が聞こえたなら、右手を上げな』

「……」


 どうやら男性の使用人の中には魔力を持つが認知されていない者はいないようである。すべての男性使用人が終わり、代わって侍女頭以下女性の使用人で公爵の身の回りの世話をする者たちがサロンに入る。


「女性は魔力があっても家で調べないことが多いので、こちらが有望なのです」

「当家に仕える貴族の子女も含まれているから、期待してもいいかもしれん」


 彼女は再び『魔剣』に声を掛けさせる。


『俺の声が聞こえたなら、右手を上げな』

「……」


 しばらく沈黙が続き、彼女は「ありがとうございます。確認は終わりました」と伝える。さて、公爵に直接お目見えできる身分の家の者の中に、魔力を持つ者はいなかった。残るところは、下働きの女中が残るばかりである。


「公爵閣下、お目見えでない女中のいるところに案内をして頂けますでしょうか」

「……では、女中頭に案内させるとしよう」


 彼女と伯姪は、彼女の母より祖母に近い年齢の女中頭に連れられ、先ずは敷地の中にある洗濯部屋に連れていかれた。洗濯女中は女中の中で最も下位の存在であり、主に見習の者が行う仕事とされている。


「こちらでございます」


 そこには三人の少女が並んでいる。身に着けている衣類も古びており、恐らくは何人もが袖を通してきた服であろうことは容易に想像ができる。


「これから簡単な質問をしますので目を閉じてください。質問が聞こえたなら、その指示の内容に従ってもらえますか?」


 三人は黙って頷き、並んで目を閉じた。


『俺の声が聞こえたなら、右手を上げな』

「……」


 右端の少女がすっと手を挙げた。女中頭は驚き目を見開く。


「はい、結構です。では右端のあなたは後ほど公爵様から指示があると思います。また後でお会いしましょう」

「は、はい!」


 公爵から自分に何か話があるという事で、大いに驚く灰目黒髪の少女。少々癖毛ではあるが、可愛らしい顔立ちである。


「では、次へと参りましょう」


 背後では『何があったの?』『声が聞こえたからその通りにしただけ』といった声が聞こえる。


 次に案内されたのは台所である。ここにも洗濯女中と同様、洗い場女中と言われる見習女中が存在する。皿洗い、野菜などの下洗いを行う仕事である。そこには二人の少女がいる。


「これから簡単な質問をしますので目を閉じてください。質問が聞えたなら、その指示の内容に従ってもらえますか?」


 二人は黙って頷き、並んで目を閉じた。


『俺の声が聞こえたなら、前に一歩出な』


 最初に左側の少女が前に一歩出ると、右側の少女も遅れて一歩でた。


『次な。そのまま目をつぶってニッコリ笑いな』


 左側の子だけが笑顔になる。


「はい、結構です。では左のあなたは後ほど公爵様から指示があると思います。また後でお会いしましょう」

「……はいです」

「あ、あの、何で彼女は選ばれたのでしょうか」


 女中頭と笑顔にならなかった少女が同じように聞いてきたので、簡単に答えることにする。


「魔力の有無を確認するために私の持つ魔道具に話しかけさせました。聞こえている方は魔力を持っている為であり、その指示の内容が聞こえているのです。どうでしたか?」

『ウインクしてみな。聞えてるんだろ?』


 茶目灰髪の内気そうな少女は笑顔でウインクをした。聞えなかった二人は唖然としているので、彼女は『ウインクするように指示したのです』と分かるように説明したのである。





 二人の魔力保有者を最も身分の低い見習女中から見つけ出した彼女は、公爵の元に戻り、二人をリリアルに招き教育することを提案した。


「二人を呼んでもらえるか」

「……貧民の子でございますが」

「構わぬ。我らとて、蛮族の子孫ではないか」


 執事は一礼すると部屋を出ていった。彼女は二人が読み書き計算ができるようになってから正式に教育が始められるという事を説明する。その間は、使用人見習いとして学院で教育を受けながら、来春から始まる第二期の魔術師見習として育成することになるだろと。


「ふむ、ではその線でお願いしよう。資金的には金貨百枚ほどで良いか」


 魔術師育成のためにポンと金貨百枚を出そうとする公爵の金銭感覚は正しいのか正しくないのか彼女の口からは何とも言えないのである。


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