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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ガイア城』

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第120話 彼女と姉は市長とお茶会で対峙する

誤字脱字訂正していただき、ありがとうございます

第120話 彼女と姉は市長とお茶会で対峙する


 一斉立ち入り調査が入り、先ずは冒険者ギルドのマスターから取り調べが始まり、その行動を裏付ける各種の書類の整理から始まったのであるが、追加の人員、細かい書類は王都の騎士団本部での分析を行うという判断から、冒険者ギルド以外の書類は全て王都送りとなっている。


「それでも、随分たくさんの書類ね」

「登録冒険者の特定からね。それは、あの子たちに手分けして行ってもらいましょうか」


 登録日別に並べている者から、既に死亡が確定している者を外し、現在、ルーンで受けている依頼の書類と照らし合わせ、最終的に未達の依頼との紐づけを時系列で行うのである。


「時期的には二年くらい前からかしらね」

「人攫い騒動があった前後からでしょうね。足らない分をルーン近郊農村や冒険者で調達したんでしょうから」


 余りに多数の未達依頼があり、そのまま冒険者が失踪していることが他の支部と比較して突出しているなら、受付担当の職員中心に取り調べを行う根拠となる。冒険者を使い潰し王国に害をなすギルドなど、許しておけるわけがない。





 結果として、この一年程で数十件の依頼未達成が発生しており、その場合、「冒険者と連絡が取れなくなった」とか「冒険者の失踪」としか結末が記録されていない。


 未達の依頼に関しては、冒険者ギルドで依頼内容を再調査したうえで適切なランク付けを行い、前回の失敗した冒険者の情報を受諾した冒険者に教えて注意を促すのが当然なのだが……


「何も変わらず、最初の依頼と同じ内容でそのまま受けさせているわね」

「何それ、隠さないにもほどがあるわね。ギルドの運用ルールに反しているじゃない。こんなに未達の依頼があって、放置しているとかあり得ないわよ」

「ええ、明らかに共犯ですと主張しているようなものね」


 つまり、ルーンの冒険者ギルドは人攫いの組織の一部であったという事になるのだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「おお、アリー、メイ、冒険者ギルドの書類の件助かったわ。これで、捜査が前に進む」

「何よりです。ギルド職員も隠蔽に関わっていますので、上手に誘導して

情報を聞き出していただけると思います」

「牢屋には一人ずつ入れて、会話させないようにして個別に情報を聞き出すさ。なに、牢屋なんか入ったことのない裕福な家の出が多いから、すぐに音を上げてピーチクパーチク謳い始めるだろうよ」


 騎士隊長は「宮中伯様が来られる前に話が進んでよかったー」と呟く。彼女と伯姪は……ちょ、待てよと思わざるを得ない。


「どちらの宮中伯様でしょうか」

「そりゃ、リリアルの前任院長であるアルマン様だよ。諜報関係はあの方の専任だから、しばらくここで捜査の陣頭指揮を執るんじゃないかな」


 姉が大人しくなることは良い事だが、それ以上に二人がこき使われることが目に見えているので、がっくりとしてしまう。


「いや、今回はそうでもないと思うぞ。ここまで冒険者である一男爵が関わって問題を浮き彫りにしたのだから、細かな裏取りは俺たちの仕事だろ。そこは、変わらないと思うぞ。まあ、頼まれごとは多少あるだろうけどな」


 隊長は「アキラメロン」とばかりに笑顔で手を振り去って行った。


「でさ、お姉ちゃん、アルマン様が来る前に、市長とお茶会しておきたいんだけど」

「……何故この時期にそんなお誘いがあるのかしら」

「えー それは、いいところ持っていかれる前に、リリアルで引導渡した方がお姉ちゃん的にすっきりするからだよ。市長も腹を探りたいんじゃないの。情報が皆無だからさ」


 姉は、自分たちを誘導して最終的にルーンでニース商会が勝手なことができる特権的地位を確立したいのだろう。相変わらず、状況を利用するのが上手い姉である。ニース商会の強化はリリアルにとってメリットがあるので、お互いに協力するのは悪くないと思うのだ。





 ルーンには「救国の聖女」を処刑した歴史的な場所であるとともに、古くから司教座がある場所でもある。御神子教の司教は御神子教皇に人事権があり、当然、ルーンの司教も連合王国よりではなく、王国に近しい存在ではある。


 市長の茶会には、今回の事件に対して中立であると思われる司教猊下をお招きしてもらうことにしたのはそういう理由だ。ルーンを牛耳るのはロマン人系の原神子教徒たちであるが、民のほとんどは御神子教徒であるから、司教の影響力は大きいと言える。


「こんな事になるとは思いもよりませんでした」

「それは大変でございますわね市長様」

「とても残念ですね」


 とても残念な頭だと彼女は言いたいのである。市長は国王陛下・宮中伯に覚えめでたい若き男爵にとりなしてもらいたいというのである。それは無理な相談だと言えよう。


「司教様は今回の一件、いかがお考えでございますでしょうか」


 中立に振舞わねばならない司教に、どうかと思われる質問なのだが、司教はとても容易に答えてくれた。


「ルーンは歴史のある街であり、様々な利害が存在すると言えましょう。その中で、御神子の教えは大きな支えとなっています。多くの民は今の街の状態を不安に思っているでしょう。速やかに、今回の件をつまびらかにしていただき、健全な状態に戻していただければと思います」


 誰の責任かは追及せず、あるべき論だけで話を終わらせた。それが司教の立場にとっては当然だろう。「健全な状態」というものが何を示すかは人により解釈が異なるはずだが。


「確かにその通りでしょう。姉さんもそう思わないかしら」

「当然だよね。だって、この街おかしいじゃない。王国の中なのに、王国を害するような人間がたくさん住んでるし、やらかしても見て見ぬふりしているやつばっかりだからさ。健全にしないとね。なんなら、「救国の聖女」様の後を追わせてあげてもいいんじゃない?」

「それは陛下が決断されることですもの。それでも、今回の街ぐるみでの犯罪行為は明白だから、厳しい罰が下るでしょうね」


 市長はニヤニヤと笑いながら、受け流す様子だ。彼は、自分たちが連合王国や王国内部の反王家の勢力に与していることが分かったとしても、何も手出しができないとでも考えているのだろう。


 王国の中を豊かにし、その中で人々が幸せに安寧に暮らせるようにするため、商人として貴族として何が為しえるかを考えなければならないのだ。


……これだからロマン人どもは……と彼女は内心思うのである。美しい花や大きな果実が実るにはしっかりした根を生やさねばらならないし、その根から吸い上げた栄養を葉や花にいきわたらせねばならない。


 ロマン人のやっていることというのは、その花や実だけを奪い、根を駄目にし、その根を張る豊かな土を痛めつけるような事ばかりなのだ。だから、いつも誰かから奪う事ばかり考えている。ゴブリンと変わらないのだ。


「都市が豊かになるには、その周辺の農村も豊かにならねばならないのですが、ご理解できませんか?」

「はぁ、あの貧民どもに何ができるというのだ。くだらん」


 確かに、今のところ貧しいのは余剰生産がないからなのだ。自分たちが食べる分と税を払うとゼロに限りなく近くなる。それでは、都市で生産するものを手に入れることができない。換金作物も王国内では限られている。


「例えば、養蜂事業でしょうか」

「……蜂蜜取る仕事か?」

「蜜だけではなく、蜜蝋はとても利用価値が高い商材です。それに、いま行っている事業と利害が対立しませんね。養蜂を農村に依頼し、その蜜と蝋を買い取り、さらにその加工までを行ってもらう。お金がないなら、お金を稼げるようにするのも商人の仕事でしょう?」


 金が無いなら金を稼がせてやって、ものを売りつけて回収する。その蜜や蝋も加工して買い上げて他の場所に売る。そんなことを繰り返すことで、王国の中に富が溜まっていくのだ。その一部を自分が手にすればいい。


「例えば、今の量の二倍の実を実らせる小麦を見つける……とかですね」

「そんな魔法みたいなことが『できるに決まってんだろ。牛や豚で子供を沢山生む、肉をたくさんつける、乳をたくさん出す子供を残していくのと同じだ』……」


 思わず声がでたのは『魔剣』である。魔力を持つ者にだけ聞こえるのだが、貴族はたいてい魔力持ちなので問題ない。


「実を多く付ける種だけを残して交配させていくことで、たくさんの実をつける種類を生み出すことができます。今の麦も野生種から比べればとても多くの実をつけるようになっているのですから、不可能ではないことです」


 幸い、小麦を育てるのに適しているのは王国が随一であり、帝国や連合王国は小麦を育てるのにあまり向いていない土壌なのだ。単純に言えば土地が痩せている。三圃制でなければ生産量が維持できないようだが、王国の大半は二圃制で問題ない。連作障害だけ注意すれば地力の回復は深刻ではない。


「小麦の作付け面積当たりの収穫量が増えるとどうなりますか?」

「小麦の価格が下がる」

「それは、貿易がない場合ですね。小麦を隣国に輸出すると、相対的に小麦の価格が下がることで、近隣諸国の小麦の生産農家が困窮しますね。すると、近隣諸国の貴族や王家は戦争どころではなくなります。つまり、王国が平和になり、王国の農村も豊かになることで商売がはかどり富が蓄積されるわけです。なぜ、僅かな手間を惜しんで投資をしないのですか?」


 近隣の農村で、僅かでも費用を負担してやれば、この程度の事を行う事は難しくない。自分たちが夜会をする費用の一回分でもお釣りがくるだろう。


「民を豊かにしなければ、自分たちがより豊かになる当たり前のことが不可能なのですよ。簡単に国を捨てて略奪旅行ができる時代ではないのですから。価値観が五百年前から変わっていないのではありませんか」


 周りのロマンデ系の商業貴族どもが下を向いたり気まずそうな顔をする。連合王国とつるんで王国内で悪さをしていることはばれているとようやく気が付いたのだろう。





 彼女の話が少し難しいよねとばかりに、姉が横から割って入る。


「ほら、ルーンは古い街だし、城壁の中も限られてるじゃない? 今回、ルーンにニース商会の支店を開こうと思ったんだけどまともな場所がなくって困ったんだよ」

「それは仕方ありませんでしょう。今までの繋がりを無視して、新しい商会を入れるわけにもいきますまい」


 都市貴族の一人がそう告げる。職人のギルドや自由商業都市の同盟などというものは、利益を確保する為の排他的な存在であるのは間違いない。都市に戸籍を持ち住むという事だけで、特権的身分でもあるのだ。貧民は勝手に住み着いているので戸籍もない為それは当てはまらないのだが。


「そうなのよね。だから、今回ニース商会は騎士団と王都の冒険者ギルドとタイアップして、橋の向こうに新市街を建設することにしましたー!」

「……なん……」


 王都からくる街道は川の西側に川と並行して整備されており、ルーンに入る為には橋で通行料を支払い、更に市街に入る為に税を納める必要がある。勿論、ギルドに所属している商人やルーンの住民は不要だ。


「だから、橋の通行料も税金もかからない場所に街を作っちゃって、新しく来る人はそこで商売したりするんだよ。いいでしょ?」

「そ、そんなことを認めるわけが……『あるな。話に割って入って済まないが、それが王の御意思だ』……リュソン宮中伯……」


 王の代理人である宮中伯が王都からお越しである。呼ばれてはいないが、この街で彼の行動を咎められる者はいない。


「行き過ぎた特権というのは身を滅ぼしかねない……そう、王はお考えだ。あなたたちの特権は今まで通り認めよう。但し、その近くに、その特権が及ばぬ自由な街を建設する。王国と王国の民の為の街になるだろう。であるな、リリアル男爵」

「……そのようになるかと思われます。それと……」


 彼女は「まずは、王国の騎士団の駐屯地を建築する為の費用をルーン市民で負担するところからでしょうか」……貴族の皆様の王国への忠誠心が試される良い機会ですわねと会話をまとめたのだ。宮中伯が続ける。


「ルーンの城塞内には騎士団の維持の為の税金を負担させることになる。その上で、川向こうの新興地区は税を半減する特別エリアにする。城塞内に本店を構える商会はその対象外とする。これは、王国内での新規の商業圏を形成する為の政策である」


 新規事業を起こす他の地域からの商会が進出する場合には、新興地区で優遇するという事だ。


「それと、ルーン周辺の村落に関しては、表面上王家に対する納税が為されていたのだが、実体としてはここ数年で急速に荒廃が進んで、住民が逃散してしまっている実態が明らかだ。つまり、ルーンの貴族に民を導く能力が不足している証拠でもある」


 代官とは徴税役人ではなく、王家と民の間に入り王の代理として民の生活の面倒を見る存在である。その為の爵位であり、その為の税なのだ。しかし、単なる金を奪う特権程度にしか認識していないルーンの貴族どもにはそれが理解できていなかったようだ。つまり、貴族であることが仇なのだろう。


「騎士爵は平民に、男爵は騎士爵に、子爵は男爵に降爵する」

「そ、そんな!!」


 爵位を有する理事・議員が口々に喚きだす。黙れという宮中伯の言葉を受けても、まだ納得いかないようなのだが……


「宮中伯様、発言してもよろしいでしょうか」

「……男爵、許可する」


 彼女は、理解が追い付かないルーンの支配層にはっきりと理解できるように伝えることにした。


「騎士団も、王家もあなたがたが連合王国に内通し、王国の民を害し、敵に利する行動を行っていた証拠を山と積み上げています。ええ、簡単にいえば、三親等までの処刑ができる程度にね」


 彼女の発言に場が鎮まる。最初からそうしていればいいのだ。


「国王陛下は、あなた方の功績を認めて処刑しないのではありません。処刑は何時でもする用意があります」

「……ではなぜ……」

「利益を吐き出させ、このまま死ぬまで一族郎党を酷使する為です。王国を裏切った貴族が簡単に死ねると思わないことですね。あなた方はこの街から出ることはできません。税を払い、この中で今まで集めた富を吐き出しながら、王国が豊かになり自分たちが貧しくなることを実感すると良いでしょう。生きたまま、みじめにこのルーンの城塞という監獄で死んでいるように暮らすのです。そうすれば、あなた方が行った人身売買や敵国に内通したことも多少は許されるでしょう」


 彼女は罰である事を説明し、最後にこう伝える。


「あなた方は終末の秘跡を受けることも、あなた方の子供や子孫が聖別を受けることもありません。死んだらその昔あなた方の祖先が『救国の聖女』様を焼いたように死体を火刑にします。骨は川に捨て墓を持たせることはありません。少なくとも、王国の御神子教会ではあなた方は異端として認定されます」


 貴族の多くから、うめき声や後悔する嘆き声が聞こえるが、知ったことではない。生きているときは勿論、死んでからも罰を受け続ける事になるのが当然なのだ。


 この場にいる貴族と縁を結ぶものはいないだろう。ルーンから出ることができず、御神子の祭祀を受けることもできなくなる。そのうち、跡を継ぐ者もいなくなり、ルーンの街中に住む商人もどんどん減ることになるだろう。


 つまり、この街は死んだも同然なのだ。だが、それでいい。新しい酒は新しい革袋に納めるべきだ。何十年かした後、ルーンの街から今の支配者どもの家系が根絶やしになれば、再開発され新しい主体者による都市の再開発が為されることだろう。それは、彼女の死んだ後くらいの話だろうが。





「相変わらず辛辣ね」

「首を落とされる前に、利用価値があると王家に認めさせる方がいいでしょ。ロマン人を撫で斬りにするわけにいかないし。『民は由らしむべし、知らしむべからず』の精神よ」

「……どういうこと?」


 伯姪は彼女の発言が今一ピンとこないようなのだが……


「自分たちの生活が良くなるってことが分かれば十分なの。その先のことは細かく知らせる事はないの。連合王国と手を切るほうが得だと思わせることができれば十分ではないかしら」


 先ほどの都市貴族どもとの話は、要は考える人間は考えるし、新たに考えた人間が貴族になれば良い話なのである。生まれや血筋で貴族であり続ける時代は終わりつつある。まして、都市の商工業者の長に過ぎない彼らが革新する力を失えば、今のようなろくでもない行為しか行わない

のは明白だ。


「新しいことを始める人たちはルーンの上層部でありつづけるでしょうし、新しく育った人たちがそこに加わる。そして……」

「売国するしか能のない奴は排除されるというわけね。納得だわ」


 やがてルーンの城塞内が衰退すれば、そこは廃墟となるか再開発され新しい成功者がその街で活躍することになるだろう。城壁と連合王国に原神子教徒の繋がりを背景に慢心し、小王国のように振舞う商人上がりの貴族どもに、誰が本当の上位者か知らしめる良い機会になっただろう。




これにて第二幕終了となります。お付き合いいただいた方、ありがとうございました☆

第三幕『兎馬車』は数日後に投稿開始いたします。


ブックマーク・評価をいただいた皆様、ありがとうございます。また、ブックマークやポイント評価で応援をしてくださると大変ありがたいです。m(_ _)m

 

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