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第116話 彼女は姉と全力でアンデッドと対峙する

第116話 彼女は姉と全力でアンデッドと対峙する


 馬での移動より時間が掛かったため、早朝明るくなると同時にルーンを出たものの、ガイア城下に到着したのは昼少し前の事であった。


 既に移動中、役割分担を決めていた彼女たちは、さっそく行動に移る。正面のゲートから侵入するのは『薄赤』メンバーと姉とレヴ侍女。彼女と茶目栗毛、赤目蒼髪と赤目銀髪の『チーム・アリー』に、伯姪、青目蒼髪、赤毛娘と黒目黒髪の『チーム・メイ』に分かれる。


 チーム・アリーが先行し、胸壁の上を確保。チーム・メイが後追い侵入した後、中庭に降りて正面のゲートを開門し、『薄赤』を内部に招きいれる。その間、中庭に現れるアンデッドどもをチーム・アリーが排除するという役割分担だ。


『主郭は、二重になっているし、さらにダンジョンもあるだろ?』

「教会堂もあるし、地下階もね。それに、秘密の抜け道的なものもあるでしょうね。堅牢な城にも、城主を逃がす逃走路は確保されているはずですもの」


 抜け道の確保は『猫』に頼むことになるだろうか。





「では、手筈通りにね。姉さん、自重してちょうだいね」


 くどいようだが、皆の前で再度念を押す彼女。姉はあっさり同意する。


「も、もちろんだよ。ミッション失敗したら困るじゃない?」

「失敗は構わないけれど、姉さんの評判ガタ落ちになるわよ。デシャバリー夫人とでもお呼びしましょうか?」

「デュバリーみたいに言わないでよね。今日の主役はあなたたちだから、ちゃんと引き立て役をするわよ」


 姉は自分の思うように振舞い、後で回りを納得させれば問題ないと考えている節がある。とても有能だが、厄介な相手なのだ。


「そういう事ではないの。連携が大切なの。他のメンバーは何度も一緒に活動しているから問題ないのだけれど、唯一の不安要素は姉さんなのよ。何度も言うけど、パーティーリーダーの命令を必ず守ってね」

「うん、もちろんだよ!」

「あとで買収すれば問題ないとか考えてないでしょうね」

「……ないよ……」


 一瞬躊躇する姉を見て「やはり丸め込む気だったのね」と思うのだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 太陽は中天に達し、影がほぼできない時間帯。前日同様、爽やかな空の下、アンデッド狩りを始めるのだ。


 中庭を見下ろし確認すると、十数匹は確実に存在する。生きていれば矢で倒すことも簡単だが、アンデッドであれば頭と胴を切り離す必要が最低でもある。


 二つのチームが胸壁の上に集まり、アンデッドの討伐の確認を行う。


「数が集まれば油球をまいて火をつけて一旦胸壁の上に退避します。個別のアンデッドは首を落とすか、手足を斬り落としたのち頭部を潰します。心臓は急所ではないし、多少手足を斬り飛ばしても活動を停止しないので確実に斬り飛ばすこと」

「動きを止めるには結界を使う方が良いのよね」

「今日の活動がどの程度継続するかわからないので、魔力の消費は抑えてもらえるかしら。身体強化のみで隠蔽は屋内のみ使用。結界の使用も緊急時のみの展開で」

「「「はい!!」」」


 弓に関しては中庭のそれを当初火矢で討伐することと、不意の増援を警戒するために、胸壁上で周囲を警戒する仕事とする。赤目蒼髪を組ませることにするので、彼女と茶目栗毛だけで行動することになる。


「アンデッドの反応はかなり鈍いというのが前提。但し、何が出てくるかわからないので、新手が出現した場合、一旦後退します。安全第一で」


 皆が頷く。リリアルは冒険はしない主義だからだ。冒険者は冒険をしてはならないというのは至言である。一か八かに賭ける状況というのは、いきなり発生するわけではない。甘い見通し、都合の良い解釈、運任せ、その先にあるのがその状態だ。故に、命大事にで活動しなければならない。





 胸壁から中庭に降りる六人。上からその周辺にいるゴブリンに火矢を撃ち込む赤目銀髪。燃えながらも走り出すわけでも喚くわけでもなく歩き続けるアンデッドのゴブリン。そのまま歩き続け胸壁までたどり着くと、そのまま崩れ落ちる。


 伯姪と青目蒼髪が吊り橋を降ろすための装置を操作する。背後を守る黒目黒髪に赤髪娘。彼女と茶目栗毛ではその手前で、緩慢な動きで近づくアンデッドの首を狙いすまして斬り落とす。


 首を斬り落とされると、血も体液も噴出さず、そのまま胴体は何歩か歩くと糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。


「どうやって動いているのかしらね」

『予想だが、心臓の横に魔核を埋め込んでいると思うぞ』


『魔剣』が魔術師であった頃、アンデッドの討伐で回収した素材を見たことがあるのだという。心臓が血液を循環させるように、魔力を循環させ体を操作する器官を「魔核」というのだと。


 強力な魔物は魔核を持ち身体強化などに活用するゆえに魔物だと言える。HVな存在なのだろうか。心臓と魔核のハイブリッド。


『ゴブリン自体は魔石を持っているから、そこに死んでも魔力が貯め込まれている。魔核を埋め込めば、それを使って体を動かすことは可能なんじゃねえかな』

「わざわざゴブリンを殺し、魔核を埋め込んでアンデッドにした。何のため?」

『気が付いてるだろ? 死なない兵士を作る為の実験台だろうさ。生きた兵士にも同じ処置をすれば、アンデッドにして魔力で動き続ける不死の兵士の育成ができると考えた奴がいるんだろうさ』


 連合王国が王国内で人攫いをする理由の一つは、その為なのかもしれない。それに協力している存在がルーンに存在するという事なのだろう。目と鼻の先で大胆に活動していて気が付かぬわけがないだろう。





 吊り橋を降ろすまでの間に、十数体の燃えたゴブリンの死体が中庭に転がる事になった。


「ありゃりゃ、もうおしまい?」


 場違いな声を上げる姉に内心やれやれと思いつつ、次の指示を出す。


「出入口の確保を『薄赤』の皆さんにお願いします。中庭に現れたアンデッドの討伐もお願いします」

「任せてくれ。アリーたちはどうするんだ」

「中庭にある教会堂、そして奥のダンジョンまで入って掃討です」


 剣士が「マジか」と言っているが、マジなのだ。これで終わるような実験規模とはとても思えない。


「それと姉さん」

「何かな?」

「ゴブリンのアンデッドは、首を斬り落として頭を叩き潰してちょうだい」

「OK,じゃあさ」


 教会堂から出てくる数匹のゴブリンに向かい姉が走り出す。動きの鈍いアンデッドの間をすり抜けつつ左手に持ったミスリルのダガーで首を斬り落とし、右手のフレイルで落ちた頭を叩き潰す。


「ねぇ、こんな感じでいいかなー☆」

「ええ。できれば背後を取られないように二人一組で行動してちょうだい。その為に侍女を伴っているのでしょう」

「うん、次はそうするねー。冒険者は単独行動しちゃダメなんだねー」


 冒険者だけじゃなく、貴族の夫人もダメだろと彼女は内心思うのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 木造の施設であれば、建物ごと焼き尽くすのも吝かではないのであるが、全部が石造りのガイア城に関しては、ここに虱潰しにアンデッドを討伐するしかない。


 とはいえ、低位のアンデッドであるゴブリンのレヴナントであれば、それほどの脅威でもなくゴブリンの巣を焼き払う感覚で問題がないだろう。今のところだ。


 彼女と茶目栗毛、伯姪と青目蒼髪、そして赤毛娘と黒目黒髪が揃って教会堂の中に……入る。手には大型のトーチ。棍棒代わりにもなる松明だ。


『おお、いるな結構、二十、いや三十はいるか』

「バディーごとに半円形に展開、正面のゴブリンに対応を」

「「「はい!!」」」


 開かれたドアに向かい、ゴブリンのアンデッドがぞろぞろと近づいてくる。彼女と茶目栗毛は中央でサクスを振るい首を刎ね、胴体を奥に向けて蹴り飛ばす。赤毛娘が首を刎ね飛ばし、黒目黒髪がトーチで思い切り胴体を突き飛ばす。


 伯姪は首を刎ね飛ばし、返す刀で……いやバックラーで殴り倒し蹴り飛ばす。青目蒼髪もいなしながら首を斬り飛ばしている。青目蒼髪は随分と落ち着いて対応できるようになってきたように思える。


 さほど広くない教会堂に居るアンデッドを次々と倒すと、床は死体だらけとなった。


「後でまとめて焼却しましょう」


 大して血も流れないので、中庭に引きずり出してまとめて油をかけて燃やせばよいだろう。中庭に戻ると、野伏と姉が話しかけてきた。


「簡単だったみたいだね」

「後片づけが大変よ。中庭に他の魔物出ましたでしょうか」

「いいや、いたって平穏だ。主郭の中に何がいるのか気になってしょうがない。が、俺たちの能力では中を確認するのも難しい」


 彼女たちが中庭で話し込んでいると、『猫』が戻ってきて彼女に中の様子を簡単に告げる。


『主、中には別のレヴナントがいます。強いて言えば……不死の魔法剣士です』

「……なんですって」


 魔法剣士。アンデッド化した魔法剣士ということか、それとも……


『魔術師の能力を封入した魔石を魔核として、戦士のアンデッドに納めた人工的な魔剣士だろう。いなくなった中堅冒険者のなれの果てじゃねえのか』


『魔剣』のつぶやきに彼女の表情が強張る。手ごわい相手、そして、それを作り出したものがこの中で観察している。捉えることができるだろうか。


「どうした」

「何か気にかかることでもあるのかな?」


 彼女は姉と野伏に「中を確認してくるのでこのまま待機で」と告げる。伯姪に偵察に向かう事を告げ、彼女と伯姪、そして赤目銀髪と赤目蒼髪とで内側のダンジョンを持つ胸壁に移動する。


「……結界の橋便利……」

「魔力量増やせばこんな事もできるんですね」

「二人はまだ魔力量伸ばせるから良いじゃない。私は絶望的だもの」

「剣技と格闘戦では優秀なのだから問題ないわ。適材適所よ」

「でも……この相手にはどうかしらね」


 内郭の中庭には、チェインに胸鎧を装備し、剣とカイトシールドを装備した戦士と思われる者が四体ほどいる。


「あれもアンデッド」

「おそらく。魔法戦士のアンデッドのようね」

「……相当強い?」

「さあ? やってみなければわからないというのが本音ね。先ずは、火矢で応戦してみましょう。その後、二人で降りて囲んでみるわ」


 赤目銀髪が頷くと、火矢を作り、一体の戦士に向け矢を放つ。矢は刺さるものの、燃え上がる前に消えてしまう。相手にはほとんどダメージが無いように思われる。


「……だめ。効果がない」

「どうする?」


 魔力で断ち切れるかどうかの勝負になるだろうし、攻撃は結界で防ぐ方が効果がある。今のメンバーならば……


「私は単独で、あなたは弓で牽制、二人はペアで結界を展開してメイを援護してもらえるかしら。攻撃はメイに任せるわ。危険と判断すれば結界を展開したまましのいでちょうだい」

「いいわ、それで行きましょう」

「「はい」」


 一旦、外郭の中庭に声を掛け、敵を排除することを伝える。橋を降ろしている暇はなさそうだ。その間防げるのであれば、先に倒してしまった方が良い。


 声を掛け、数mの胸壁を三人が飛び降りる。二人組の戦士がそれぞれに向かい前進してくる。


『意思があるっぽいな』

「あなたと同じなのでは?」


『魔剣』同様、魔核の部分に人格を封印すれば、死体となった戦士であってもレヴナント化し時間が経過しても意思が失われない可能性があるだろう。


『あんなものと一緒にすんな』


 結界を展開し、不意の前進を停止させると、魔力を込めたスクラマサクスで胴を薙ぎ払う。一体が鎧ごと寸断され地面に崩れ落ちるが……


『魔法の発動があるぞ!!』


 結界の手前に大きな炎の壁が現れる……のだが、結界に阻まれ炎はこちらにダメージを与えず、残った一体に燃え移っている。


『Ababababawooo!!!』


 言葉にならない咆哮を上げ、鎧兜を装備した目の白濁した戦士が結界の向こうで炎に包まれ暴れ始める。


『自爆だな』

「自爆ね。答えは油球に炎で解決ね」

『魔力があっても火には弱いみたいだな。魔術も大した事は無い。騎士団や衛兵・普通の兵士ならパニックになるかもしれないがな』


 すると、頭上から侍女を引き連れた姉が降ってきた……なんで!!


「ほら、なんかすごい声上がってたから心配になって……来ちゃった♡」

「命令違反ではないかしら」

「ううん、命令される前に来たから問題ないよね☆」


 違反ではないのか……留めていないから。さすが姉の屁理屈力である。そして、右手には銀色に光るメイスが握られている。


「それは何かしら」

「ドワーフの爺ちゃんがくれたんだよ。ミスリルの鍍金を施したメイスだってさ。魔力流し込み放題なんだよこれ。ほら!!」


 向かってくる燃え上がるアンデッドの魔法戦士に向かい、姉がフルスイングでメイスを叩き込むと、砕け散るように鎧と肉体が弾け飛ぶ。


「……」

「うーん、ちょっと力入れ過ぎちゃったかも。てへ♡」


 魔力量に恵まれた姉が、セーブせずにミスリルに魔力を蓄えて放つと、破壊槌のように作用するようなのだ。老土夫がウインクしてサムズアップする顔が頭の中に浮かんだ。




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