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『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える  作者: ペルスネージュ
『ガイア城』

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第114話 彼女は騎士隊長と共同作業をする

第114話 彼女は騎士隊長と共同作業をする


 姉の冒険は『ゴブリン退治』で満足したようだ。昼食を皆で川の見える丘の上で食べたのち、午後早く解散となった。姉は侍女たちを連れて、「橋の手前の街で食べ歩き!!」と去って行った。


 薄赤メンバーも半日オフということで、冒険者ギルドの様子を見に行った後、買い物でもして宿に戻るという。剣士だけは「ちょ、ちょっとな」と言って去っていったようだが。なにしに来ているんだお前。


「宿の仲居と仲良くなって食事に誘うつもりなんだってさ」


 伯姪曰く、ルーンには濃黄の冒険者でも希少価値らしく、その辺りを聞きつけた仲居のお姉さんにアプローチしてOKをもらったようだという。いや、自慢げに言われたというのが正解なのだろう。剣士は見た目は悪くないし、冒険者としての能力も前衛限定ではあるが悪くない。


「うちの男の子たちとトントンかやや負けだけどね」

「言わないであげてちょうだい。ストイックさが違うのだから伸びも違うのは仕方ないでしょう」


 茶目栗毛は勿論、青目蒼髪も癖毛もストイックである。十代半ばの性欲の塊である時期に、女の子に囲まれてはしゃがないのは孤児ゆえか、学院生としての使命感からなのかはわからない。


「剣士……セバスに似ているわよね」

「確かに。あいつ、いい年したオッサンなのに見た目でだましてお姉さま方に可愛がられようとして気持ち悪いのよね」

「申し訳ないことね。今度、お婆様と二人で厳しく再教育するわ」


 うわー と声にならない声を上げる伯姪である。彼女はともかく……お婆様はまずい。





「いらっしゃい」

「武器を見せて貰いに来ました」

「どうぞ、お好きにご覧下さい」


 ルーンの市内にある武具屋に二人は顔を出していた。冒険者や衛兵の個人装備は自弁だ。槍や鎧、お仕着せの短剣などは支給されるが、帯剣する装備など指揮官クラスは自分のお金で装備を買う。騎士に近い存在だからだし、騎士同様給与も良いのはそのためでもある。


「あなた方は冒険者?」

「一応。とはいっても、護衛を頼まれる程度ですが」

「その若さで護衛ができる等級まであがるとは。お二人とも優秀なのですね」


 お互いに情報を小出しにしながら会話を進めていく。街道で盗賊が増えて短剣やちょっとした胸当てなどの装備を行商人が購入する数が増えていること、衛士の隊長格の者が良い武具を競って買いあさっていること、冒険者がここ一年程の間に少なくなってしまい、顔見知りの冒険者たちが行方不明であることなど聞き出すことができた。


「ルーンの景気はどうなんでしょうか。活気はあるみたいですけど」

「連合王国やレンヌへの物流が先細りなので、王都や王国内の取引を増やそうとしている商人が多いようですが、中々ですね。保守的というか、上の人たちが……ねぇ」


 言葉を濁しているものの、旧態依然としているルーンの上層商人たちに思うところがあるのだろうか。


「近隣の村も人がいなくなったり、廃村になったりで中継貿易っていうんですか、右から左に商品を流して中抜きするような商売のスタイルになっていることもあって、あの方たちにとっては気にならないのかもしれませんけど、私ら小口の商いをする者にとっては、不安で仕方ありませんよ」


 彼女は話を聞きながら、姉用の胸当て(試着は伯姪に依頼……)とミスリルの短剣を購入する。護拳のしっかりした打ち合いにも対応できるものをだ。


「なるほど、魔力をお持ちなのですね。それが強さの秘密ですか」

「幸い、恵まれておりますのよ。それで……」


 少し多めに支払いをすると、彼女は聞きたいことがあると伝え、店主は頷くのを見て言葉を続ける。


「この街の衛士隊長は……傭兵ですか?」

「御存知なのですか。ええ、この街出身ではあるようですが、貴族でも騎士でもなく傭兵です。それに……あまり良い噂の人物ではありませんし、本来はルーン周辺の村の治安維持も仕事のはずなのですが、今の隊長に変わってからは省みる事がないのですよ」


 ルーンの周辺の村々の荒れ具合は、恐らく衛士隊長の人事権を持っている者たちの差し金なのだろうし、その意を酌んだ行動なのだろう。


「前任の隊長は立派な方でしたが、残念なことです……」


 前任の隊長さんは三年ほど前に闇討ちにあい亡くなっているのだそうで、その捜査の為に採用された新任隊長は犯人を見つけることができなかったのだという。


『おいおい、怪しさ満点じゃねえか』


『魔剣』のつぶやきに彼女は内心頷いた。





 二人で連れだって市街を歩くと、様々な視線を感じる。冒険者姿の少女が二人して歩いていること、片方の少女は『薄赤』のプレートを見えるように掲げて歩いている。それに気が付いた人たちが思わず二度見する。


「目立ってるわよあなた」

「まあしょうがないよね。冒険者として活動しているのに私の名前で申請出してるからさ。いるってアピールしないとだし、あなたじゃ隠れちゃいそうだものね」


 一年少々前の王都での人攫い討伐で、ルーンの商人と関係があったと推測される運送業者たちを討伐したのは『妖精騎士』であり、黒目黒髪の少女であるという事は広く知られているのだから仕方がない。


「人攫い派手に始める前に、邪魔者を殺してるって……ほんと、あからさまね」

「そして、王都の業者が捕まってしまったので、手近なルーン近郊の農村の民やギルドの冒険者を攫って対応したって事でしょうね」

「さらに、連合王国の兵士を秘かに導き入れて、廃村に住まわせていたり……」

「売り物にならない老人を使って……アンデッドの実験でもさせているのでしょうね。一体、どこで活動しているのかしらね」


 二人は怪しいと感じている場所がある。ガイア城だ。目撃の噂、そして元々連合王国が築いた石の城、人も近寄らないし川の水運も利用しやすく主要な街道からも外れている。


「調査すべきかしらね」

「できれば。騎士隊長と打ち合わせしたらどうかな。騎士が行くより、素材採取のついでに私たちで足を延ばす方が目立たないじゃない?」

「ふふ、城の壁を登りたいんでしょ? 解っているわよ」

「ばれたか!」


 結界を用いた壁登り……魔力的に伯姪はあまり得意ではないのだが、おそらく誰かに、ハッキリ言って彼女に作らせて自分が駆け上がりたいのだろうと内心思うのだった。


「晩御飯何が良いかな」

「……クラーケン以外ね」

「それは賛成。少し、お茶でもして戻りましょうか。足が疲れたわ」


 学院生の面倒を見る毎日の二人だが、たまには二人でお茶をするのも年頃の少女らしくていいかもしれないと彼女は伯姪を誘った。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 そう思っていたのだが、入ったお店で昼間からお仕着せの鎧を着て酒をせびる衛兵たちと遭遇し、選択に失敗したと反省することになる。


「出ましょうか」

「おお、そこの綺麗なお姉さんたち、一緒に飲みましょうよ。断ったら、逮捕しちゃうよ!!」


 ドカッとばかりに、三人の衛兵が周りの席に座る。普通の若い女性なら泣き出してしまいそうな危険さを感じる。店員も見て見ぬふりなのは当然だろう。


「お仕事お疲れ様です。勤務中なのではないのですか?」

「おお、そうだ。不審な人物にたった今から尋問するからな。それで……」

「息が臭いから顔を近づけないでもらえるかしら」


 黒目黒髪の人形のような顔をした美少女から、思わぬ言葉が聞かれ、三人は一瞬絶句するも、威圧するように周りを取り囲む。


「随分な物言いだな。詰め所まで同行してもらおうか」

「……お断りします。あなた、衛兵・衛士よね。どんな理由で私を同行させるつもりなのかしら。任意なのでしょう?」


 ニヤニヤが止まらない衛兵たちは、彼女の肩に手を回そうとするのだが、そのまま腕をつかまれ逆関節を決められる。


「なっ、い、痛てぇ!!」

「抵抗するなら、逮捕……『衛兵如きが貴族に令状も逮捕状も無しに触れられるとでも思っているのかしら』……な、貴族の令嬢でも……」

「この子令嬢じゃないわよ。私もだけれど。正確には令嬢という身分だけでは無いという意味ね。彼女は男爵家当主、私は騎士爵。で、無礼討ちしてもらいたいのかしら。なんなら、決闘でもする? その子『薄青』の冒険者よ」

「面白いわね。王国の綱紀粛正の為に、前任の衛兵隊長殺害の犯人も捕らえられない無能なルーンの衛兵に罰を与えましょうか」


 店の前に人がどんどん集まってくる。そして店内に騎士のような装いの口ひげを生やした男を先頭に数人の衛兵が入ってくる。


「何を騒いでいる。こんな場所で」

「あら、素敵なお店じゃない。この人たちがいなければ。どなたかしら?」

「……お前たちこそ誰だ」

「リリアル男爵よ。あなたは、子爵様?」


 一瞬息を飲むと、怒気を抑えつつ丁寧に謝罪と自分が衛兵隊長である事を名乗った。


「部下が大変失礼いたしました」

「ええ、昼間から酒を揺すって店のお客に絡む部下をお持ちで、大変ですわね。私の謝罪はともかく、この者たちに罰を与える事を要求します」

「それで不問に?」

「納めましょう」

「では、この三人はこの場で衛兵を解雇し、街を追放という事で」

「……いいえ、幸い王都の騎士団が出向いていますから、貴族に対する暴行未遂という事で引き渡しを要求します。当然でしょう」


 そこに、颯爽と現れる騎士隊長の姿が。


「おお、やっと俺の出番かな」

「……何故ここに……」

「ヤバそうだったら止めに入ろうと思って。アリーが叩きのめすのは不味いだろ?」


 彼女が衛兵を叩きのめす前提なのが気に入らないのだが、横で深く何度も頷く伯姪の姿がさらに気に入らない。やるならあなたでしょうと彼女は思う。


「で、そいつら逮捕して王都に連行コースか」

「そうですね。貴族につかみかかったのですから当然でしょうね。少なくとも重労働数年は覚悟してもらわないと」

「……え……」

「ふふ、では皆様お騒がせして申し訳ございませんでした。隊長さん、お手伝いいたしますよ」

「おお、助かる。外に部下もいるから、まあ、何とでもなるからな」


 睨みつける衛兵隊長を無視し、騎士隊長と二人は捕らえた元衛兵を伴い店を出る事にした。





 王都の騎士に三人を委ね、彼女と隊長は打ち合わせをすることにした。先ほどそして、ここ数日の情報から、街ぐるみでの連合王国への内通を疑っていることなどである。


「やっぱり、可愛いは正義だな」

「何言ってるの。まあ、二人とも可愛いけどさ」

「……口が軽くなるし、親切にしたくなると言いたいのでしょう」


 伯姪は「そうなんだ。いつもみんな親切にしてくれるからわからないね」

と姉のような事を言っている。傍から見て子供のころ羨ましかった彼女からすると、最近の自分の身の回りで同じ事が起こっているのがいまだに信じられないのであるが。


「それにしてもアンデッドね。『伯爵』様は関係ないんだよな」

「種類が違うようですね。本当に動く死体というだけで、言葉も話せませんし動きもかなりつたないです。半病人みたいな感じなので」

「そりゃ全然違うな。あの人たちは生身の人間と大差ないもんな」


 騎士団の幹部は『伯爵』の家に招かれたことがある。顔見知りであり『伯爵』の持つ王都での情報収集力に感謝している面もあるのだ。


「本当の意味での死に戻り、そして、何らかの実験の失敗作のような気もします」

「なるほど。例えば、……死を恐れない兵士……とかな」


 『聖征』においてサラセン人を虐殺した御神子教徒、教徒同士でも宗派が違えばかえって憎悪が増すこともある。王国内でも『聖征』が行われ、タカリ派と呼ばれる少数分派が虐殺された歴史もそう古い事ではない。


 敵国であり、御神子教・原神子教で宗派が異なる王国と連合王国においては、躊躇なく人攫い以上の悪意を持って策謀を成すことはおかしくない。


「ルーンが連合王国側に完全に寝返れば、王都はその喉元に刃を突きつけられたも同然だな。それに……」

「レンヌ公国も大公家に姫様が輿入れしたとして、ソレハ伯ら連合王国側に内通している可能性のある派閥と連携を取られ、ロマンデ・レンヌが一気に連合王国側に制圧される可能性もある……でしょうか」

「話が早くて助かる。故に、騎士団の駐屯地とルーンを仕切る都市貴族の内偵を早急に進める必要がある。今日明日という事は無いだろうが、一、二年のうちに手の付けられない状態になるかもしれん」


 騎士隊長は「こいつらから、色々聞きたいこともあるし、あとは……連合王国の偽装兵と村長に面通しさせるかな」と言いつつ、笑顔で去って行った。明日は早速、候補地を午前中に見に行くことに同行、その後、彼女と伯姪と学院生四人はガイア城に潜入する予定だ。


「さて、姉さんの宿に武具屋で購入した装備を持っていかなければならないわね」

「その後、クラーケン以外のメニューで食事よね」

「鶏肉と卵を使った料理が良いわね。それに……」

「明日の昼食と夜食の用意でしょ? 宿で早速注文しておくわよ」


 明日はガイア城という事で、伯姪は大乗り気だ。彼女の出身地であるニースの城塞は内海で最大級なのだが、ガイア城はそれに匹敵すると言われている。なにより、伝説の武人により築城され何度となく攻められた城であることも気になるようだ。


「それでも、陥落しない城はないのでしょう」

「でも、僅か数百名で王国の主力を半年も包囲させたのだから、大したものなのよ。川からちらっと見たときも荘厳な印象を受けたわ」


 百メートルに近い断崖の上に建つ堅固な城塞。当然、内部の様子は全くわからない。そこで何が行われていようとだ。


「用心するに越した事は無いのだけれど、六人で大丈夫かしらね」

「あはは、思ってもないことを。あなたと私だけでも過剰戦力だと思うわ。何か始めるにしてはまだこの街に漂う空気が弛緩したままなのは考えられないもの。戦の前ってのはもっと重苦しくてピリピリしているものでしょう」


 彼女には経験がないが、伯姪は何度となく法国との緊張が高まりすわ開戦かという緊張感を経験したことがあるのだろう。経験のない彼女においても、ルーンの街はそれなりに栄えており、まるで腐り落ちる前の果実のように熟した甘ったるいにおいが立ち込めている。


「少々腐りすぎなのよ、この街は」

「でもね、腐っている本人たちは、自分たちの腐臭に気が付かないの。意外と、自分の体臭ってわからないものだもの」


 伯姪に言われ、彼女はスンスンと鼻を鳴らすのである。



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