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第104話 彼女はルーンに到着する

第104話 彼女はルーンに到着する


 ルーンは元々ロマン人の国ロマンデ公国の公都であったのが王国に帰属する時点で特権商業都市として自治を行うようになっていた。その後、枯黒病の流行、百年戦争での係争地としての被害などで王家の保護下に入った経緯がある。


 王都が王家の繁栄と軌を一にして発展して来たのに対し、ルーンは王都の発展の影響を受けつつ、独立した都市から王都の外郭都市へと変貌しつつあるように思われるのである。


 元々のロマン人の国であったこと、商業都市であり帝国・連合王国の商人との交流から、この町も原神子教徒が多いことは言うまでもない。





 翌日の午後にルーンに到着した一行は二手に分かれる。姉と使用人、『薄赤』メンバーは商業ギルドと市庁舎への挨拶に。ここで届け出ておかなければ、夜会などに招待をされることもないのでとても重要な手続きだ。


 伯姪をパーティーリーダーとするリリアルメンバーは冒険者ギルドへと向かう。表向きは王都の冒険者ギルドからの紹介で遠征に来たという触れ込みで、実際はルーンの冒険者ギルドの内偵でもある。


 ギルド本部及び、いつもの支部のギルマス曰く、未帰還の冒険者パーティーをさりげなく誘導している依頼もしくは、その依頼を斡旋するギルド内部の協力者が存在するのではというのである。


 ルーンの冒険者ギルドは王都のいくつかあるそれよりも立派な建物で、半ば石造りのものであった。王都のギルドは立地的にも下町であまり良い場所ではないのだが、こちらは商業ギルドに近い場所で街並みも洗練されている。


「建物は圧勝ね」

「ふふ、でもなにか起こっている場所なのよね」


 中に入ると、夕方にはまだ余裕がある時間であるという事で、冒険者はほとんどいない。一斉にこちらに視線が集まる。年若い冒険者ばかりの集団を見て、嘲るような感情がむけられているように感じる。


「こんにちは。冒険者の登録ですか?」

「いいえ。私はメイ。薄赤等級の冒険者で、『イーリス』というパーティーのリーダーを務めているわ。この子たちもみな黄色等級の冒険者なの。それで、王都で聞いた話なんだけど、このギルドで美味しい依頼がたくさんあるってことで、遠征してきたんだけど……」


 受付嬢の顔色が明るくなる。どうやら、冒険者がこの時間いないだけでなく、中堅冒険者がルーンからかなり減っていて依頼が消化できずにギルドとしても困っているのだという。


「助かりますぅー」

「早速、おいしそうな依頼を紹介してもらえるかしら。人数そこそこいるから、二手に分かれてもいいわよ」

「!!ほんとですか!!」


 ざわっとギルドカウンター内の空気が変わる。どうやら、素材採取系などは問題ないようなのだが、調査や討伐関係で困ってるのだという。


「えーと、討伐系でゴブリンとか狼とか大丈夫ですか?」

「集落ごと焼き払うとか得意よ。危険度の高い奴から、バンバンこなすから、よろしくね!」

「はいぃぃぃ!!!」


 数人の職員がバタバタと出入りし始める。溜まっている討伐がそこそこあるようだ。


「あの、クラーケンとか……大丈夫ですか?」

「大きなタコのような活動をするイカのことでしょ? 討伐だけならね。素材採取は大きすぎるので無理だけど」

「いえ、その、漁村で困っているみたいなので、討伐さえしていただければ、素材採取は自分たちでするそうです。も、勿論、買取扱いになるのでそれなりに良い金額の報酬になります!!」


 何人かのメンバーがニヤッとする。おまえら、水馬使う気だろ!!依頼に関しては明日改めて受けるものを決めることとし、依頼書の写しをもらい、一旦宿に引き上げる事になる。今回、姉とその護衛はニース商会関連でそれなりの高級な宿に宿泊するが、冒険者である彼女たちリリアル組は冒険者向けの宿に泊まることになる。


 隊を分けるとすると、彼女と青目蒼髪、赤目銀髪に赤目蒼髪の魔力中堅クラスの四人、伯姪と茶目栗毛に黒目黒髪に赤毛娘四人で編成することになるだろう。


「クラーケンはこちらで引き受けるわね」

「水馬使ってってことだとそうなるわね。弓は必要だろうし槍が使える二人は向いているしね」

「そちらは……『魔熊』ね。問題ないかしら」

「多分ね。ほら、あの子なら一人で三面結界張れるし、その後は魔力少なくても一方的に魔力通して仕留めるだけだから」


 黒目黒髪は一人で隠蔽+三面結界の展開までできるようになった。もうあと一つ二つ同時に発動できると彼女並に近づくのだが……十分だろう。


「クラーケンかー あたしも倒してみたい!」

「うん、食べてみたいって聞こえるな」

「あながち……否定できない……」

「食いしん坊だからな☆」

「えー、心の声をみんなの代わりに伝えただけじゃん!」


 クラーケンとは言っても、ガレオン船ほどの大きさではないようなので、なんとか討伐できるのではないかと彼女は思うのである。クラーケンは本来、連合王国よりかなり北の海にいるという。どちらかというと海国の海域にいるとされており、王国の沖に現れるものは本拠地を追い出されたものが餌を求めて南下してきたのだろうという。その大きさも小さめなのだという。


「でもさ、王都で食べたクラーケンってあんま美味しくないよね」

「あれ名前だけの偽物でしょ? 大きなイカをそう呼んでマーケティングしているのよ。クラーケンは筋肉質だからかなりしっかりした歯ごたえなの」

「……騙されてた?」

「クラーケン『風』って大概書いてあるわよ、あの手の屋台」


 なにそれ! とかズルーいとか声が聞こえてくるが、それが商売である。嘘はついていない、勝手に客が勘違いしているだけだというのが彼らの主張だろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 宿に戻り、討伐依頼を確認する。彼女の『チーム・アリー』は最初にルーンから港町アベルを経由して漁港のあるベルモントまでの隊商の護衛。山賊が出るというのだが、ギルド曰く連合王国の工作員なのだろうという。


「何で、そんなことするんだよ。戦争中じゃないんだろ」

「馬鹿ね。この地域の領主は王家なの。そして、賊を討伐できていないのは領主の責任。王都から離れて騎士団の巡回もほとんどないでしょ? そうすると、住民の不満や商人の不満はどこに向くのかわかるでしょう」


 封建領主というのは、税を取る代わりに領民を守るという前提がある。王都周辺の治安は改善されつつあるが、半自治の商業都市ルーンや、新しくできた港町を守る戦力が不十分なのだ。


「本来、冒険者が補う治安の活動を、護衛任務がこなせる中堅クラスがいなくなって、治安が悪化している……というところでしょう」

「それが、連合王国に通じてる奴らの仕業というわけね」

「ルーンの冒険者ギルドがどの程度関わっているか……そこが問題でしょう」


 ベルモントでクラーケン狩りをし、帰りは往きと別ルートで内陸側を通ってルーンに戻る為の護衛だ。


 その間、『チーム・メイ』は、魔熊をはじめ、魔狼、狼の群れ、ゴブリンの集落討伐、山賊狩りを行う……予定だ。ゴブリンと山賊は調査の段階で止めておいてもらおう。


「ゴブリンは数を削って巣を確認。山賊は気付かれない程度に拠点確認して、一気に八人で殲滅しましょうか」

「「「「おー!」」」」


 クラーケン狩りが順調かどうかが問題となるだろう。恐らく、二週間程度で一通り片付くと考えられる。





 宿の一階の酒場で夕食を食べ、彼女と伯姪以外は部屋に戻る。二人は、彼女の姉が来るのを待っているのである。


「おまたせー」

「いえ、いま来たところよ」

「……ねえ、ずっといるわよねここに」

「そうね。でも、そう返さないと、姉さんがうっとおしいのよ」

「えー、ほら、なんかいい感じになるじゃない☆」


 姉妹でどういい感じになるのかさっぱりわからない。ここで話すのも問題あるので、姉を伴い二人の部屋に移動する。護衛で来てもらった剣士と女僧はそのまま酒場で時間を潰してもらうことにする。


 部屋に入ると、今日の自分の行動を姉が説明し始めた。


「……という感じね。まあ、王室御用達の商会だから失礼なことはしないけど、慇懃無礼に対応されたわ」

「ふふ、でも、手段はあるんでしょ?」

「それはね。伊達に法国にも支店のあるニース商会じゃないからね!」


 ルーンは余りにも連合王国に近いので、連合王国の女王陛下の趣味には詳しくても、法国とその影響を濃く受ける王都の社交界のトレンドには疎いのだ。とはいえ、王国の貴族として王都での社交には関心がないわけではない。


「まあほら、商会も店と館が一体化しているようなものにするからね。この都市だと、かなりの高位貴族でも庭園付きの屋敷なんて持ってないから。ルーンの中にタウンハウス、郊外に別邸という感じで社交用の屋敷を持っている人が何人か。あとは、社交用の施設を借りて夜会を催す感じだね」


 それであれば、屋敷を構えないニース商会夫人でも夜会が開ける。とはいえ、最初はお茶会から始めるのだそうだ。


「店の場所も決まっているから、明日は確認して問題なければ契約。私がここに滞在しているうちに商会を立ち上げるつもりなんだ」

「そう。こちらは冒険者ギルドの内偵の為に依頼を受ける感じなの。今のところまず二週間はそれにかかりきりになるわね」

「OK、問題ないよ。荷物は商会で預かってもいいからね。宿に預けるのもなんでしょ?」

「護衛依頼の四人は宿を引き払うけれども、半分は残るから問題ないわ。でも、ありがとう姉さん」


 伯姪は二人の会話を黙って聞いているのだが、言うほど仲は悪くないじゃないと思ったりしてるのである。


「二人には、商会のお披露目パーティーでホスト側として参加ね。子供たちは使用人のお仕着せ着て給仕をしてもらうから」

「ええ、お婆様仕込みの所作を楽しみにしていいわ」

「うへー、あの子たちよく耐え忍んだね」

「ふふ、孤児院の薄いお湯みたいなお茶ではなく、きちんとした紅茶に菓子までつくのだから、真剣に勉強していたわよあの子たち」

「あちゃー、そういうの上手いんだよね……あの鬼婆はさ!!」


 姉と祖母は合わない。自分の主張が正しいとお互い思っている、どちらかがどちらかの意見を尊重するということがないので、微妙な空気となるのだ。祖母が質したときに、姉は大概言葉の上では非を認めるようなことを言うが、雰囲気で「それがどうした」といった空気を醸し出す。先代当主と次期当主という関係性も姉と妹では立場が異なる。


 姉と祖母は同じ立場だが、彼女はそうではない。姉はどれほど祖母に逆らっても、家での立場は毀損しない。彼女の場合、居場所の問題も発生するのだ。とはいえ、リリアルでの関係は子爵家の祖母と姉の関係に近い気がするし、王家が関わる分、より真剣なものになっている。


 なので、以前ほど姉の祖母に対する反抗しつつも認めている気持ちを、あまり頓着せずに聞くことができるのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 翌朝、二チームに分かれて依頼を受けるにあたり、彼女は学院生に対し、次のように念を押すことにした。今までのように、こちらから仕掛けるのではなく、突発的な遭遇戦に際し、後れを取らないための注意である。


「今回の依頼中、徹底してもらうことがいくつかあります」


 突発的な対人戦闘、本格的に半敵地での継続した作戦行動になる。


「まず初めに、敵対した人間の降伏を認めてはいけません。捕虜はとらないで確実に殺すように」

「「……え……」」


 予想だにしなかった彼女の発言に、学院生全員が戸惑う。だが、大切なことだ。


「賊の中に相当の確率で連合王国の兵士が現役か逃亡兵かわかりませんがいる場所だと思ってください。降伏させる意味がありません」


 なるほどとうなずく。連合王国の兵士が盗賊の振りをして暴れまわっている。つまり……ゴブリンと同じだ。情けを掛ければ仇となって帰ってくる。


「次に敵を仕留めるには、必ず目を狙うこと。槍なり剣なり弓にしてもすべて目標は目を刺すこと、射貫くことです。敵を目の前にしたならば集中しなさい」


 人間が目の前で命乞いをしたりすると、一瞬躊躇する。その一瞬が命とりだ。ならば、その躊躇をなくすために最初から命令してしまえばいい。


「復唱、敵は殺す、目を刺し殺す」

「「「敵は殺す、目を刺し殺す」」」

「もっと大きな声で」

「「「敵は殺す!!目を刺し殺す!!」」」

「そう。相手を殺してから考えなさい。先ず殺すこと。それと、依頼主やその周辺の人間にも敵に通じている者、もしくは敵国人がいる可能性があります。学院に戻るまで、単独行動は禁止します。常に二人組で行動すること」

「「「は、はい!!」」」


 中堅冒険者が多数失踪している地域で、狙われている、身内以外は全員敵なのだと思うくらいの対応で丁度良いのだ。全員、無事依頼を終えて王都に、

学院に帰還するまで油断は禁物なのだ。





 冒険者ギルドに向かい、彼女と伯姪はそれぞれの依頼を受けることにする。


「えーと、二組に分かれて受注……ですか」

「そうなの。八人じゃちょっと戦力的に過剰だし、溜まっている討伐依頼も消化したいでしょ?」

「……確かに、皆さんの等級的には四人でも可能かもです。承知しました。えーと、どういう組み分けになるんでしょうか」


 伯姪が代表して、それぞれのメンバーを説明し、依頼に関しての受注を確認していくのだが、どうやらクラーケン討伐に伯姪が参加しないということがギルド受付的には気にかかるようなのだ。


「クラーケンは難易度が高い青等級の依頼になります。メイさん不在の場合、どなたか赤等級の方がいない場合、受注自体出来ません」

「いるわよ。ねえ、ギルドのプレート出してよ!」


 伯姪が彼女に声を掛ける。受付カウンターに近づき、彼女の『薄青』の冒険者プレートを受付嬢に提示する。


「……え……薄青等級の冒険者……様ですか。えーと……アリーさん?」


 声に出しそうになる受付嬢に伯姪と彼女は指を唇にあてて「内緒に」のポーズをする。受付嬢はハッとして何度も縦に頷く。


「あ、あの、お会いできて光栄です。その……お芝居も何度か見に行ってます!」

「……お芝居はお芝居ですからね。よろしくお願いします」

「そうだよね、あんなもんじゃないよね本物はさ」

「……余計なことを言わないでちょうだい。普通の冒険者なのだから」


 彼女のその言葉に伯姪は「『薄青』等級の冒険者のどこが普通なのよ」と突っ込むのである。




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