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第98話 彼女は追いそれらを取り押さえる

第98話 彼女は追いそれらを取り押さえる


 自分の魔力では隠蔽ができない茶目栗毛は、本人不本意ながら伯姪と腕を組んでいる。


「ふふ、デートよデート!!」

「……声を出したら隠蔽の意味無いわよ」

「あいつら酔っ払いだから問題ないんじゃない?」


 差し入れられた酒をたらふく飲み、門番はゲラゲラと笑い過ごしている。


「お願いするわ」

『承知しました』


 大型犬ほどの大きさに『猫』は大きくなると、門に向け走り出した。そして、その爪で門を切り落とす。大きな音がして内側に向け門が倒れる。この村は特に壕などを掘っておらずそのまま侵入できるが、倒れた丸太門を片付けなければ馬車は通過できそうにもない。


 突然切り落とされた丸太に驚き酔いも覚める二人の門番、そして、隠蔽を解き放ち、黒々とした大きさの魔狼のような『猫』の突然に出現に気が付き大声を出しそうになる。すかさず、猫が二人の喉を爪で切り裂き、ごとりとばかりに首が落ちる。


「……相変わらず凄まじいわね。レヴオを咥えて二階からひらりと飛び降りるし」

「魔物に近い半精霊ですもの。大きくすれば『虎』ほどにもなるみたいね」

「……凄まじいですね先生」


 茶目栗毛も同意する。伯姪と茶目栗毛、彼女と『猫』の二手に分かれ、馬車の通る道の両サイドから仕掛ける為に村の中に侵入する。幸い、大騒ぎにはなっておらず、馬車の集団の出す音だと考えたのだろうか村の中は特に変わった様子はない。


 馬車がゴトゴトと音を立て進んでいる。遠目には既に門が開け放たれているように見えるので、先頭の馬車に慌てる様子は見られない。門前に先頭が到達した時点で攻撃開始の合図だ。


『十八人とは随分だな』

「村に配置していた人間も回収するから膨らんでいるのでしょうね。本来は十人くらいのものなのでしょう」


 昨日の晩の商会の騒動から、今日の時点で引き払う決断をし、取引の既に決まっていた攫った人間に関しては急遽受け渡しなり処分なりするつもりなのであろう。故に、人も多い。


『三十六人も良く集めたもんだな』

「王都の住人に『仕事がある』と言ってこの村に呼び寄せているかもしれないわね」

『ありえるな。村ぐるみなら可能だもんな』


 仕事を受けて行ったとしても、その後失踪したかどうかはわかりにくいだろう。ここは、王都に近いとはいえ王都ではなく代官がいる村だ。つまり、王都の民にとっては治外法権になっているのだろう。


「明確な証拠でもなければ、立ち入りもできないもの。考えているわね」

『もう少し世の中になること考えろってんだよな!!』


 さて、馬車の先頭が門前に到達し、にわかに騒がしくなった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 火球が打ちあがるのを見て、黒目黒髪は気配隠蔽を施しつつ、斬り倒された門前に門と同じ大きさの『結界』を発動する。


「なんで、門が倒れてんだよ!!」

「おい、門番の首が斬り落とされてるぞ!!」

「て、敵襲!! 全員武器を構えろ!!!!」


 と叫んでいるリーダーらしき男の首がゴロリと落ちる。


「ま、魔獣だ!!」

「いや、剣、剣で切れれれれれー」


 叫んでいる男どもが次々と斬り倒されていく。御者が構わず門の残骸の上を無理やり乗り越えて馬車を村の外に出そうとすると……見えない壁に馬が立ち往生する。


「なんなんー……」


 藍目藍髪がミスリルの槍で『結界』越しに御者の喉に穂先を埋める。御者が手綱を持ったまま前に倒れる。


「門にも敵がいるぞ!!」


 その時点ですでに馬車の周りにいる盗賊どもの半数は命を失っている。


『皆殺しか?』

「何人か残すわ。例えば、これとかね」


 武器も持たずになにやら書類の入ったような宝箱を抱えた小太りの男の手足を剣の鞘越しに叩きへし折る。四肢全てをだ。


「があぁぁぁぁあああああ!!」

「あなたにはあとで聞きたいことがあるので、大人しくしてちょうだい。煩いようなら煩くできないように首を落とします」


 小太りの男は涙を流しながら何度も壊れたように頷く。そして、一台の馬車の中から、若い女性を抱えた革鎧の男が出てくる。片手には大ぶりのダガーを持ち、抱えた女性の首筋に刃を突き立てている。


「大人しくしねえと……ぎゃぁぁぁぁ!!!!!」


 背後から、気配を消した伯姪に腕を肩から斬り落とされ、女性を手放す男。そして血を噴出しながら転げまわっている。


「とどめ刺しとく?」

「こいつも生かしておきましょうか。火球で傷口を焼いて止血するわ。三日も生きていれば上等だもの」


 彼女は手早く小火球と剣を加熱して傷口を焼き、大雑把に血を止める。


『おい、その女も仲間だぞ』

「……気を付けて、そいつも賊よ!!」


『魔剣』がいち早く気が付き、伯姪が距離を取る。懐から投げたナイフが伯姪の胴に命中するが、魔力を通した魔装鎧に弾かれ、返す刀で女の首を伯姪が刎ね飛ばす。


「しょうがないわよね」

「ええ、しょうがないわ。やはり、生かすのは難しいわね」


 残りの数名は既に猫に脛斬りされて無力化されているか、茶目栗毛に仕留められているのである。





 最初の数分で馬車の一団にいた賊を討伐し、数名の生き残りを捕縛する。そして、村に入った全ての賊を討伐できたかどうかカウントを始める。


「一応、馬車の中含め、賊は全て無力化しました先生」

「門の子たちに声を掛けてくるわ。『結界』解除でいいわよね」


 伯姪が門の前まで行き、声を掛けている間に、茶目栗毛には指示を出す。


「この後、掃討戦を開始するわね。先ずは、死体の数を数えましょうか」


 生き残りが五人、死体が門番を除き十三……合計は十八となる。


「これで完了でしょうか」

「いえ、村の封鎖を継続し、村を出ようとする者は処分すると伝えるようにします」

「……処分ですか」

「賊の一味と判断し、騎士団の到着まで現場保存です。申し訳ないけれども、樽の中の人たちもそのままね」


 樽から出して面倒を見るだけの用意ができないので仕方がない。思った以上に樽詰めの人が多かったからである。


 しばらくすると、王都側の門と反対側まで声を掛けに行った伯姪が赤目銀髪娘を連れて戻ってきた。


「人が出ようとしたなら、家に戻るように言うように指示してきた。あの子は結界も張れるし、ミスリルの槍も装備しているから。取り合えず村内の調査、人数いるでしょ?」


 三人と1匹では無理がある。故に、茶目栗毛と赤目蒼髪娘、青目蒼髪と伯姪、そして彼女と赤目銀髪で行動することにする。


「あなたはいつでも弓が射れるようにしておいてもらえるかしら。とりあえず、教会の鐘楼を押さえましょう」

「……わかった……」


 村内を見渡せる鐘楼に弓手を配置する。先に『猫』に教会の様子を探らせると、特に司祭などはおらず、村のものだけのこじんまりとしたもののようだ。


 その間に、伯姪と茶目栗毛は攫われた人が集められていた場所を特定していた。そして、その場所は……村長の屋敷であった。馬車の真新しい跡が屋敷の前に多数あったことと、深夜にもかかわらず人の出入りがあることからそうとらえたのである。


 そのあいだ、茶目栗毛は赤目蒼髪に『隠蔽』を発動してもらいながら、村内をくまなく調査したのであるが、村長の屋敷以外におかしな場所は見当たらなかったようである。猫も、村内の警戒に残し、彼女と伯姪、そして青目蒼髪は村長の屋敷に入ることにした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 村長の屋敷の中に声を掛けると、年配の使用人らしき女性が出てきた。


「……どちら様……」

「騎士団の依頼でこの村に囚われていた人攫いの被害者の救出、並びに賊の討伐を依頼された者です。討伐自体はおよそ完了したので、村長にご報告をと思い、夜分にも関わらず伺いました。村長はいらっしゃいますか」


 女性は「少々お待ちください」といって引き下がろうとしたので、伯姪が声をかける。


「二人とも、騎士爵だから、きちんと対応しなさい。彼女は『妖精騎士』のアリー、私は『姫騎士』のメイ。騎士団の依頼、冒険者ギルドから受けているから、門前払いとかしたら、不敬罪でその場で処罰するから!! 弁えなさい」

「は、はいっ!! 直ちに!!」


 血相を変え、奥の間に小走りに入る女の背中を見送りつつ、彼女は伯姪にある依頼をするのであった。





 しばらくすると、慌てて着替えたような中年の男が先ほどの使用人を伴い、現れた。使用人から村長である旨伝えられ、二人は挨拶をする。


「こ、これはこれは、妖精騎士様に姫騎士様。いかがされましたでしょうか」

「少々、込み入った話がございますので、中でお話しさせていただいてもよろしいでしょうか」


 村長は応接室があると言い、先に立って案内する。応接室に通されると、王都の子爵邸のそれよりも随分と豪華なソファーに、高価そうな花瓶やタペストリーが飾られている。子爵家の代官の村の村長の家とは相当に異なる。


 村長が席を勧め、二人は座る。お茶の用意をと使用人に声を掛ける村長を遮り、話を進めさせてもらう。


「本日、騎士団から依頼のあった王都での傷害事件と、その要因と考えられる王国民の略取・誘拐事件の犯人討伐の為、この村を訪問しています」

「は、はあ。そのような恐ろしい事件が……この村で」

「いえ。この村は、略取・誘拐された被害者をプールしておく場所として共犯の関係にあると考えられていますので、いうなればこの村の住人が恐ろしい存在……でしょうね」


 村長の顔色が一気に悪化する。そして、凄まじい勢いで反論し始めるのだが、彼女と伯姪はいたって冷静に聞き流している。


「なるほど、あなた方も被害者であると……言いたいのですね」

「はい。私たちも恐ろしい事とは思っておりましたが、剣を向けられ命の危険を感じ、やむをえずしたがっていたのでございます」


 村長は、如何にも沈痛な顔を作り、申し訳なさそうに話を続ける。が、しかし、そんな事はどうでもいい。


「今日、確認できている被害者の数は三十六人です。賊が十八人、その共犯者と思われる門番が少なくとも二人おりますね」

「門番が協力していたとは……その、なんとも申し訳ございません……」

「ええ、彼らは人攫いの馬車の御者から飲食を提供されて、酔って門番をしておりました。なあなあの関係だったのでしょう。ですので、こちらで処分してあります」

「そうそう、頭と胴体が離れ離れになっちゃってるのよ実は」


 村長が激しく動揺し始める。二人とも、村が率先して人身売買の盗賊にねぐらを与えていたことに気が付いているのだ。もしかすると、代官も一枚噛んでいるのかもしれない。


「村長はこの責任をどう考えておられますか」

「大変申し訳ないことをしたと思っております」

「そうね。縛り首か打ち首か……」

「いいえ。この場合、王国に対する裏切り行為ですもの、車裂きか火炙りではないかしら。簡単には死なせないでしょうね。主犯・責任のある村長は当然、重い刑罰になるわね」

「へぇ、私まだそれ見たことないのよね」


 村長の顔は土気色に変化し、瘧にかかったかのように体を震わせている。


「明日の朝、騎士団が被害者の救援と賊の捕縛にきますので、それまで村の出入り口を封鎖します。それぞれ監視している者がいるので、逃げられません。無理に逃げた場合、その場で処刑しますので注意してください」

「そ、そそ、そんな……なんとか……」

「なりません。この部屋を見ると、あなた方がどれだけしっかりと盗賊と協力し、何の罪もない王国の民を奴隷として敵国に売り払い対価を得ていたかがわかります」

「それに、村ぐるみじゃなきゃ、こんなことできるわけないから。まあ、全員捕縛して王都で取り調べだよ。当り前じゃない」


 村長は声にならない声を上げ、顔を歪ませる。


「逃げようとしても無駄ですし、逃がしません。なにより、あなた方を生かしておく必要性を感じません」

「場所を提供していただけで、大した情報を持っているわけないから、今死ぬか、あとあと公開処刑されるかどうかの違いなんだけどね。まあ、抵抗してもしなくても死ぬのは変わらないから。あきらめなさい」


 彼女は、即死する毒を塗った弓の名手や、虎ほどもある魔獣の使い魔を放してある事も付け加える。


「王都の商人の知り合いか何かにそそのかされて安易に場所を貸したのでしょうけれど、それに見合うだけのものが手に入ったとは思えないわね」

「お金があっても死んだら意味ないし、そもそも、この村の住人全員処罰対象だからね。地図から消えた村になるわね」


 聞いていた使用人の女が膝から崩れ落ちるように座り込む。そして、声をあげて泣き始めた。


「子供たちは私たちの知っている孤児院で面倒みるから、安心して大人たちは処刑なり、奴隷なりなると良いわね」

「子供に罪はないけど、村自体はこのままでは済まないものね。それは、上の考える事だから、私たちには関係ないわ」


 という事で、一先ず村長の家に暇を告げ、二人は村内の警戒に戻るのであった。







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