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第85話 彼女は学院生とゴブリンの村塞を討伐する

第85話 彼女は学院生とゴブリンの村塞を討伐する


 猪のいなくなった廃砦で学院生と合流し、彼女たちはゴブリンの村塞の見える丘の稜線まで移動する。ゴブリンの村塞は、外見上大きな変化は見られないのだが、見張り台には前日まで姿を見せていた歩哨の姿がないのは今朝と変わらない。


『猪の大騒ぎも距離が離れていれば伝わらないか』


 彼女の危惧も行き過ぎであったようだ。既に、普通のゴブリンの群れになり下がった可能性が高い。


「じゃあ、段取り通りでいいのかな」

「そうね。再確認しましょう」


 突入班は彼女、伯姪と赤毛娘の組。これは放火し中のゴブリンと魔狼を狩りだす役目だ。次に、突入班をサポートする狙撃班。見張櫓を占拠し、その上から弓でサポートする。歩人と赤目銀髪が射手、その護衛に赤目蒼髪がつく。


 掃討班は、薄赤パーティの四人。前衛が薄赤戦士と濃黄女僧、遊撃が薄黄剣士、後衛が薄赤野伏。その後方で抜けてくるゴブリンと魔狼を狩るのが黒目黒髪と茶目栗毛ペア、碧目水髪と青目蒼髪のペアとなる。


「ガードする子は上手くミスリルのバックラーを使いなさい。魔力の消費を気にしなくて済むのだから、流しっぱなしで構わないわ。時間の流れがとても長く感じるでしょうけれど、実際は十分程度で終わるわ」

「そんなに簡単に終わる?」

「村塞の中から逃げ出すのはそんなもんでしょう? 建物はすべて焼き払うから、中にいる者が飛び出してくるのを射手は逃さないでね」


 彼女と伯姪が段取りを確認する。歩人が見張櫓のメンバーを指揮するので、狙撃班はとりあえず問題ないだろう。


「俺たちが大物は抑える。小鬼は抜けていくから、後ろで始末を頼むぞ」

「油球を当てて怯ませた後、男子は剣でバンバン首を落としなさい。その時に大事なのは……」

「「「「「ゴブリンの話を聞くな。どうせ大したことは言っていない」」」」」

「その通りね。まあ、聞き取れないと思うけどね、オーバーキルに注意かな」

「魔力を通せば首は簡単に飛ぶ。あとは、刃を傷めないようにな」


 さて、ゴブリンを殲滅する条件は整っただろう。一気に片を付ける事にしましょうとばかりに、彼女たちは前進を開始した。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 最初に侵入したのは、彼女と伯姪。身体強化に隠蔽で柵を足場に難なく見張櫓の下に辿り着く。次いで歩人と赤毛娘、赤目銀髪に赤目蒼髪の順に侵入が完了する。


「油球で火をつけて、小屋から出てきたゴブリンを狙撃。櫓を登るゴブリンがいれば弓で迎撃。最後はあなたが押さえこんでね」


 赤目蒼髪が頷き、赤目銀髪は自信満々に答える。


「大丈夫。サラセンの弓の技に馬上から足元の兵士を射つ技がある。ぉとうさんもできたから、できる」


『被り射ち』という弓を弾く腕を頭の後ろから回し、足元に向けて矢を放つ技法なのだが……


「……どう?……」

「……凄いね……当たるの?」

「ぅん、大丈夫。練習してるから……」


 足元の的を高所から射る練習をしているのかと、皆は疑問に思うが口には出さない。


 見張櫓の上に彼女と歩人、赤目蒼髪と赤目銀髪が昇る。魔狼がウロウロしているが、ゴブリンの姿は見えない。


「始めましょう。火矢を撃ち込んで、出てきたゴブリンを狙撃。できれば、最初に魔狼を仕留めてちょうだい」


 黙って射手二人が頷く。櫓の上から下の二人に始める合図をすると、彼女は目の前の草ぶきの屋根に向けて飛び降りた。





 屋根の上に乗り、周囲の屋根に向け油球+小火球を放っていく。足元では、魔狼の断末魔の叫び声が聞こえる。伯姪と赤毛娘か、見張櫓の射手が狙撃したのだろう。


『さて、どんどん燃やせよ』

「自分たちが火に撒かれたら世話ないじゃない。じっくりと奥から燃やすのよ」


 乾いた草がボワッとばかりに燃え上がり、その下の木材にパチパチと燃え広がっていく。木は燃え出すまでに意外と時間が掛かるのだ。煙と炎、そして魔狼の叫び声に小屋の中のゴブリンたちが動き出す。


『寝込みを襲った方が早かったんじゃねえの』

「経験にならないでしょう。どの道こいつらは逃げられないのだから、丁度いい練習の的よ」


 彼女はあえてゴブリンの首を取らず、学院生たちに仕留めさせるように動いている。


 小屋から出てくるゴブリンは、弓の射撃に気が付き見張櫓に向かうもの、剣を持ち右往左往する者、魔狼に飛び乗り逃げ出そうとするもの、鎧を着たゴブリンナイトと思しき上位種の周りに集まる者と別れている。


「ナイトは弓で倒すのは無理でしょうね」


 ゴシック様式であろうか、鎖帷子とプレートの組み合わせは機動性を確保しながら、急所をしっかり守っており、弓で射抜けるとは思えない。


 見たところ、ナイトが六体、魔狼があと四頭、残りの二十ほどが普通のゴブリンであろうか。上位種が減っているのは、群れの争いで殺されたとみていいだろう。


 気配を隠蔽しながら、上位種の動向を確認する。熱湯や油球を当てつつ、三々五々、別れたグループが出口を目指すように仕向ける。


『待テ。出口ニハ敵ガ待伏セテイル!!』

『GuuOooo』


 熱湯を喰らったゴブリンが錯乱したように走り出し、村塞の外に逃げ出して行く。煙に巻かれながらも隊列を整え、一団となって村塞の外に向かうゴブリンの集団。ナイト二体がペアのようであり、その前を数匹の小鬼が進んでいく。小鬼は棒切れや粗末な槍や短剣程度の装備で、満足に服も着ていないようだ。


『小鬼までに十分な装備が与えられていないな』

「実験的な集団なのかもしれないわね」


 ジェネラル・ナイトの練度と比較して、あまりに小鬼のレベルが並のゴブリンのままであるのは、上位種のみ教育を施し、既存のゴブリンを指揮させる実験なのかもしれないと彼女は思った。


 村塞内では出口に向かうゴブリンの小集団に対して見張櫓から弓による攻撃を受け、小鬼が傷つき倒れているが、ナイトは無傷のまま外に向かう。

 

 奥では伯姪と赤毛娘が別の小集団と交戦中だ。小鬼をモーニングスターで叩きのめし、頭をグシャリと潰す赤毛娘。


「うーん、やるわね。負けられないわ!!」


 とばかりに、ナイト二体に対して一人で斬りつける伯姪。小柄な女性の曲剣使いの斬撃に、ゴブリンナイトは鎧で防げると防御も回避も無視して上段から剣を振り下ろすのだが……


「残念、魔力付与でした!!」


 胸を鎧ごと斬り下げる伯姪。騎士のプレートは鋼鉄とはいえ精々1.5-2mmの厚さしかない。彼女の能力であれば、その程度の厚みの鋼鉄は容易に切り裂くことができるのだ。


「ふふ、あんたの喰った騎士は魔法剣と対峙したことなかったんでしょうね。知識を経験で補えるほど、知能は無いようね」


 胸から血をほとばしらせて倒れるゴブリンナイト。もう一体がその陰から伯姪に斬りかかるのだが、左手で持っていたダガーで剣を弾き、右手の魔力付与の剣で首当ての部分を切り裂く。


「首当ては1mmもないのよね。だからほら……」


 剣が通ったあと、ナイトの首がごとりと落ちる。


 背後では、トリガーハッピー化した赤毛娘が倒れたゴブリンにモーニングスターを叩き付けている。周りには四匹の小鬼の頭の潰れた死体が落ちている。


「ほら、終わったわよ!!」


 剣の護拳でゴツンと赤毛娘の兜を叩く伯姪。我に返り、肩で息を繰り返す赤毛娘。そのモーニングスターにはゴブリンの……まあほら、洗った方がいいんじゃないかな。


「血だらけで、いろいろこびりついてるじゃない。熱湯球で洗っちゃいなさい、その鉄球の部分」

「ははは、はい!!」


 魔力の抽出も上手くいかなくなっているようで、伯姪はやれやれとばかりに少ない魔力を駆使して熱湯球を作り、赤毛娘の武器を熱湯消毒してあげた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「あっぶねー」

「……任せて……」


 見張櫓には、二頭の魔狼が屋根越しに飛びかかろうとしている。それなりに炎が立っている小屋の屋根なのだが、魔狼的には問題なく足場にできているようで、助走して見張櫓に飛びかかってくるのだ。


 赤目蒼髪がミスリルのバックラーを中心に結界を発動させ、飛びかかる魔狼の前面に壁を形成。当たった魔狼が地面に落ちるが、流石に無傷だ。


「それ、それ、それ」


 器用に足元に向け『被り射ち』を決めた赤目銀髪が次々と足元の魔狼の背中に矢を突き立てていく。


「俺も負けられねえな」


 見張櫓の横木に跨り、覗き込むように魔狼に矢を突き立てる歩人。かなりのダメージを与えたが止めを刺すには至らない。


「ああ、出て行っちゃう!!」


 赤目蒼髪が言う通り、二つのゴブリンの集団に生き残りの魔狼が村塞の外に向かい逃げ出していく。とはいえ、矢でかなりのダメージを与えている魔狼と小鬼も多く、ナイト以外は満身創痍に見える。


「まあ、俺たちは援護と監視の仕事だから。あと、燃え移りそうなら、水球で火を消さねえとな」

「……わかった……」

「は、はい。継続して監視します!!」


 赤目蒼髪はまだ直接ゴブリンを討伐していないので、残念な気持ちになっていたのだが……赤毛娘が狂ったようにゴブリンを叩きのめす様子を見て……


「今日はいいか……私……」


 と思う事にしたのだった。





 殿を務める青目蒼髪と碧目水髪は同じ魔力中班の仲間なのだが、大体は赤目蒼髪が仕切るので、二人はあまりお互いで会話をする事は無い。とはいえ、小動物のような碧目水髪と青目蒼髪は仲は悪くなかった。


「壁で抑えて俺が止めを刺す。頼むな」

「は、はい!! 任せてください!!」


 大猪と対峙したことを考えると、彼女も彼もゴブリンにあまり危険だと思う感情を抱いていなかった。学院生ペアは冒険者の左右後方に距離を取って展開しているので、反対側のペアの様子はよくわからないが……


「あいつ、滅茶滅茶冷静だよな……」


 茶目栗毛、武器の操法も冒険者中堅レベル、その他の技術も先生並みに身に着けている。孤児院に入る前に色々身に着ける機会があったというが、年の近い同性が活躍するのは少々妬ましい気もある。


「が、頑張りましょう! 安全第一ですよ!!」


 緊張した中にも空気を和らげようと気を遣う碧目水髪の声に我に返る。先ずは、この子と自分が無事に生き残る事だけを考えなければならない。そう思い返し前を見ると、中から橋を渡りゴブリンと傷ついた魔狼が一団となり

出てくるのが見えた。


「来るぞ!」

「ははははい!」


 遥か手前から結界を展開する。そこに傷ついた魔狼がぶち当たるが、所詮、大猪と比べれば小物界の大物に過ぎない。


「はぁぁぁ!!」


 魔力付与の剣を壁越しに魔狼の目に突き立てる。いきなり動きを阻まれ困惑する魔狼にその剣先を躱す余裕はなかった。すかさず、崩れ落ちた魔狼の首を斬り落とす。


「やったぞ!」

「なんだか……私たちやれそうです」

「ああ、そうだな。次も頼むぞ!」

「はいです!」


 こうして、二人は数匹のゴブリンと最後はゴブリンナイト1体を共同で討伐することに成功する。





「いいのか、子供たちにゴブリンが向かっても」

「あいつらは護衛対象じゃないですからね。危険そうなのはこっちで引き受けてますから問題ないですよ」

「アリーはスパルタなのよね。私には無理だわ」

「あいつらと年変わらないからなー。その辺は、情状酌量の余地があるんじゃねえのか?」


 ゴブリンナイト二体と魔狼二体を討伐し、小物は後備の学院ペアに任せている薄赤パーティは、橋の手前で中から出てくる魔物を警戒している。とはいえ、事前に話を聞いていた数に既に達しているようで、燃え上がる建物があることから、このまま村塞の手前で警戒を続けている。


「お疲れさまでした」

「お疲れさん!!」

「おおお、おっお疲れ様です☆」


 彼女と伯姪、最後はちょっとテンションのおかしい赤毛娘である。


「おお、中はもう魔物はいないのか?」

「ええ。監視は物見櫓のメンバーに任せて火炎が酷いんで出てきました。ある程度燃えた後、消火してという感じでしょうか」


 彼女は討伐の完了を伝えるように、伯姪と赤毛娘に依頼すると、後備の学院生に向けて歩いて行った。



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