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9話 アーシャと盗賊団

翌日、昨日購入した普段着を着てアーシャと荷馬車に乗る。そして対象の盗賊団がよく出没するらしいガーデニア街道を行く。


大手の商会なら制服があったり、武装をする商人も勿論いるが、商人の服装というのは基本普通の服だ。


フィルは昨日購入したばかりの白い長袖に紺の長ズボン。動きやすさだけを重視している。


アーシャは白ワイシャツに緑のロングスカートを着て何故か眼鏡も掛けている。


(随分戦闘しにくそうな格好をしてますね)


フィルはアーシャの格好を見てそう思った。


ちなみに荷馬車は任務の為に国が用意したものだそうだ。


今回の任務の条件は


・襲われる為に武装をしない。

・盗賊団の頭領は賞金首の為、首を持ち帰る。

・盗賊団の規模がでかい為、死体を処理すること。

・盗賊団ならどれでもいい訳ではなく「黒狼(ブラックウルフ)」と名乗る盗賊団であること。



盗賊団の処理は面倒だが、全員の首を持って帰らなくていいのは良かった。殺すことに抵抗はないが、流石に大量の首を荷馬車で運びたくない。


報酬は金貨5枚と賞金首の懸賞金が金貨2枚だ。

賞金首にはS〜Fというランクがあり、

S > A > B > C > D > E > Fという順になっている。

今回の賞金首はCランクだった。


あと盗賊団が持っている物はこっちで好きにしていいとのこと。


(報酬が金貨7枚と盗賊団の財宝ということを考えるとやっぱり暗殺者は稼げる仕事みたいですね........)




アーシャはにこにこしながら馬車の手綱を引いている。


「なにかいい事でもあったんですか?」


そうフィルがアーシャに尋ねると


「いやね、こうしてると『 普通』に旅行してるみたいだなって思ってね」


フィルはなんとなく笑ってしまう。盗賊の命を狩りに行く時に、随分アーシャがリラックスした様子だったからだ。


アーシャはフィルがなんで笑ったか分からなかったが、特に言及はしなかった。フィルが年相応に笑ってる方がより一層『普通』に近づいてる気がしたからである。


「私ね、『普通』の暮らしに憧れがあるのよ。花屋さんとか楽しそうじゃない?」


「........薔薇のトゲとか取るの大変そうじゃないです?」


「えー、プレゼントに花を買うお客さんと話したり、自分好みの花を店に並べたりするのは普通に楽しそうじゃない」


「そういうものですか? あまり楽しいっていう感覚が分からないもので」


「うーんとね、

《凡人は不満を嘆き、賢人は不満に学び

達人は不満を活かす、そして偉人は不満をも楽し

む》

昔の偉い人の言葉よ。ようは何でも楽しめるってことよ」


アーシャはそう言うとニコニコ笑った。


(その解釈の仕方はどうなんだろう? でも考え方1つで色々変わるものですね........)


「ちなみになんで眼鏡を掛けてるんですか? 眼は悪くないですよね?」


「商人って頭使いそうじゃない? 眼鏡をかけたら頭良さそうに見えるでしょ? 人間第一印象が大事なのよ」


「........そうかもしれないですね」


(クロエも印象のことを言っていた。見た目の第一印象は確かに大事ですね)


クロエの言っていた事に加え、服屋や防具屋で最初は嫌な顔をされた事を思い出しつつそう考えるのだった。


「でも戦闘の時に慣れてないと邪魔そうです。眼鏡だけではなくロングスカートもですが」


「そうかもね、でも眼鏡を掛け慣れてない人が眼鏡を掛けた直後は集中力や記憶力が上がるらしいわよ。戦闘になってからなら邪魔だったら捨てるなりすればいいし。

ロングスカートはスカートの中にナイフとか隠せるし、そのナイフを取り出しやすいの。デメリットばかりではないのよ」


そう言いアーシャはスカートをピラッとめくりナイフをフィルに見せる。下着は見えそうで見えない。


「........なるほどです」


アーシャは自分の数倍考えて服装を選んでいたようだった。


「似合ってますよ」


「へ?」


「眼鏡とロングスカート、アーシャに似合ってます」


何となくアーシャを褒めるフィル。


「ありがと」


そう言うとアーシャはふふふって笑った。


「こうやって私服で馬車に乗って旅行みたいなことして、普通っぽい会話ができて楽しいわ」


「アーシャは暗殺者よりも普通に暮らす方がいいんじゃないです?」


普通っぽい事が出来てニコニコしているアーシャを見て、暗殺者より普通の暮らしの方が相応しい人物に思えたフィルはそう口にする。


........が。


「私は暗殺も楽しんでるのよ?」


アーシャはにこにこしながらそう言うのだった。


「........前言撤回します。」


(アーシャは『普通』じゃないから『普通』に憧れてるんですね)


そんなことを思うフィルだった。




そうして街道を進んでいくと、街道付近の林から視線を感じる。


しばらく走っていると盗賊団と思われる男達が20人程一斉に飛びだして来た。


「そこの馬車止ま........」


盗賊の男が最後まで言う前にフィルは魔装を展開し手刀で首を折る。

魔装は使用者の魔力により力が変わる。

魔力量が圧倒的に多いフィルは魔装だけで並の者なら蹂躙できてしまうのだ。


「な!?」とか「は!?」とか盗賊が喚いているうちに追加で5人仕留める。

アーシャも魔装を展開し、さらに風の力を利用して凄い速度で5人仕留めていた。


「逃げろ! こいつら化け物だ!」


1人の盗賊が叫ぶ。しかし盗賊の男達が退避行動をし出す頃には半数を切っていた。


「逃がす訳ないでしょ、『風壁』」


アーシャが風で壁を作り盗賊を逃がさない。盗賊が逃げられないで立ち往生してるうちにアーシャとフィルは3人ずつ仕留め、残りの人数が3人になった。10秒切るあいだに17人を2人で仕留められたのは上々の結果だっただろう。


拘束する水(ウォータープリズン)


そしてフィルが水魔術を使って残りの3人を拘束する。本来なら顔も水で閉じ込めて窒息死させる魔術なのだが、今回は尋問をする為に顔を出している。


「あなた達に聞きたいことがあります、答えなければ1人殺します。まずあなた達は黒狼(ブラックウルフ)ですか?」


フィルが軽く殺気を込めて質問する。


「ひっ! そ、そうだ! 俺達に手を出してタダで済むと思うなよ!」


当たりを引き、アーシャとフィルがニヤリと笑う。


「次の質問です。アジトは何処ですか?」


「........仲間は売らねえ!」


「そうですか」


そう言うとフィルは水を操作し、口を割らなかった男の顔を水で覆う。しばらく水中でもがいてる男を眺める時間が続いた。1分程で男は動かなくなる。


「もう一度同じ質問をあなた方に聞きます、アジトの場所は何処ですか?」


「........教えたら俺達2人の安全を保証してくれ」


「いいわよ」


アーシャがにこにこしながら即答する。フィルだけなら少し考えるところだった。


アーシャは男の脈を押さえ、脈の正常値を把握すると、


「嘘を着けば分かるわ、勿論嘘を着けば殺す、わかったら素直に教えてね。........アジトの場所は何処かしら?」


「........この林の先に川がある。その上流を行くと洞窟がある。そこがアジトだ」


それを聞いた瞬間アーシャはナイフで男2人の首を切って殺す。


「嘘は言ってなかったわ、じゃあさっさと死体の処理をしちゃいましょ」


と、相変わらずにこにこしながらフィルに言うのであった。


アーシャはナイフを2本、フィルはオーソドックスなロングソードを1本、盗賊達から回収する。

これからはアジトに直接殴り込むため武装をしても問題ないからだ。


盗賊達は貨幣は持っていなかった。恐らくアジトにあるのであろう。

アーシャが風魔術で死体を吹き飛ばし1箇所に纏める。

アーシャが持ってきたマッチで盗賊達の服に引火させ、火を大きくしていった。


盗賊達の魂は黒かった。

黒い玉がいっぱい浮かんでいる。

綺麗なものは一つもなかった.......


そして、あらかた燃え尽き、骨だけになったのを確認してからアジトへ向かう。


アジトは吐かせた場所にたしかにあり、アジトには見張りが5人いる。

アーシャが「私に任せて」と小声で言うと


『空気操作』を発動させる。


空気操作は風の応用魔術だ。見張り付近の空気を操り真空状態にすると、見張りは突然呼吸が出来なくなる。


真空状態では音が振動をしない為、声を出そうとしても声が出ない。そして、突然呼吸が出来なくなった人間は、そう長くは息が続かない。

その為パタパタと5人の見張りがあっという間に倒れていく。


「行きましょ」


アーシャは普段通りという様子でにこにこしている。


(これがアーシャの奥の手ですか........敵に回したら厄介すぎる魔術ですね.......)


そうフィルは思うのだった。


アジトの中に入れば出口はこっちが塞いでる為、逃がすことはない。その為正面突破する。


片っ端から見かけたものを殺していきアーシャとフィルは進む、洞窟は一本道だった。広いところにでると賞金首の男と盗賊団の幹部らしき奴等がいた。


「なんだ? お前達は? 見張りはどうしやがった!?」


そう賞金首の男が言うがこちらが答える義務はない。賞金首の男が何かをする前に一瞬でフィルは背後に周り首を落としにかかる。


流石にCランクの賞金首ということだけあり、辛うじて反応し、フィルの剣を防ごうとする。

しかし、フィルはすぐに通常の斬撃から水刃に切り替え、頭領の男の首を受けようとした剣ごと切断した。


それからはただの作業である。魔術を放ってくる者もいるが、ただの属性魔術を適当に放ってもアーシャやフィルには当たらない。

数の力で当たりそうになっても簡単に防がれてしまう。魔装を使える者もいたが、練度が低すぎてお話にならなかった。


頭領を失い有象無象と貸した盗賊達を計30人程殺した空間は血の匂いが充満し酷く臭い。


ここにいる盗賊達も魂は黒いものばかりだった。


(自分の魂は何色かな........?

やっぱりいっぱい殺した分黒なのかな?)


フィルはそんなことを考えながら黒く浮かぶ魂を眺めるのだった........。




広場の奥の方には財宝と食料と酒があった。財宝は銀貨や銅貨がほとんどだが中には金貨もあり、合わせて金貨14枚程になる。

盗賊が持っていたものも物色して行くと、毒魔術が付与された高価そうなダガーを見つける。それはアーシャに譲った。

ナイフやダガーといった類の扱いが上手いアーシャはそういった武器をコレクションしているらしい。ダガーを渡すと「ありがとう」と言って喜んだ。



「ポイズンダガーのお礼よ、これは鍵開けの魔道具。さっき盗賊が持ってたの。これがあれば鍵穴形式の鍵を大体開けられるわ。魔術で封じられた鍵は無理だけど」


「ありがとうございます」


フィルは鍵開けの魔道具をレザーポーチに入れた。

魔力を込めて鍵穴に指すと、鍵穴の形に変わる鍵らしい。


(これあれば今後部屋の鍵は持ち歩く必要はないですね)


それ以外の戦利品は思ってたより多くない。恐らく盗賊にも何かツテがあり、商人から奪った商品は何処かに卸していたのだろう。明らかに物品が少なかった。


特に他にはめぼしい物はなかった為、死体を集め、今度は酒に引火させ盗賊団を燃やす。人の焼ける匂いが臭かった為、干し肉やハム、ウィンナー、ドライフルーツなどの保存が効く食料と貨幣を荷馬車にさっさと運びこむ。


その後しっかりと燃えた死体の確認をすると、任務完了を伝える為に王都レライアへと戻るのだった。


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