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1話 フィルとクロエ

フィルは生まれつき他の人には見えないものが見える特殊な子だった。その為、変な事を言う子だと、親から気味悪がられた挙句に捨てられる。


何故自分だけに光の玉が見えるのかは分からなかったが、綺麗な光の玉を見かけると無性に食べたくなる。逆に黒い玉は食欲がそそらず、食べると気分が悪くなった。


捨てられてからも、たまに綺麗な光の玉を見つけては食べて暮らした。綺麗な光の玉を食べるとお腹が少し膨れて、自分に力が漲るのを感じたのだ。


フィルはそうやって生き長らえてたのだが、ある時孤児院の院長に拾われる。しかしそれも長くは続かない。


光の玉を食べて生きてきた結果なのだが、フィルは並の人と比べると異常に魔力が多くなっていた。


その為、フィルはイオニア国の特務機関に目をつけられる。


孤児院への寄附と引替えに、孤児院の院長はフィルを引き渡すのだった。




連れられて真っ先にしたことは、魔術の適正属性を調べる事だった。魔力を込めると適正の属性の色に光るオーブがあり、フィルは水色に光った。


「お前は水属性だな、水属性はその名の通り魔力を水に変換することが出来る。飲み水は買う必要がないし、相手を窒息死させることも出来るぞ」


と教官は物騒なことを言う。


「基本的に適正属性以外の魔術は使えないから、自分の属性を誇りに思い精進しろよ」


フィルの他にも訓練を受ける子供達は40人程居た。

年齢は様々だが10歳から15歳くらいの子が多かった。


魔術師は基本的には火、水、雷、風、土のいずれかの適正属性を持っていて、


この5属性の魔術は原初魔術と言うらしい。


「この5属性以外には光と闇と無属性があるが........使い手が極めて少ない。とりあえず魔力が尽きるまで属性魔術を(まと)に放ってみろ」


城の地下の訓練所にて人型の(まと)に向かい、各々火やら土やら原初魔術を放つ。


的には教官達が魔力を込めており、子供達の魔術くらいでは壊れることは無かった。


魔力が少ない者は5発も打つと魔力が切れるようで、魔力の込め具合にもよるが、平均すると10発くらいで魔力切れになる。


そんな中フィルは明らかに他の者よりも威力が高い原初魔術を放ち、教官の魔力の防御を撃ち抜き(まと)を破壊する。


それに加えて、その威力の水魔術を20発以上放っても魔力が枯渇する事はなかった。



「お前凄いな、本来なら魔力が切れてから走り込みだったのだがもういいぞ」



その後は教官の言う通りに走り込みだった。

途中で休んだり歩いたりすると、教官から加減されてはいるが魔術が放たれる。


いつまで終わるのか分からない走り込みは精神的にも肉体的にも辛いものである。休憩を入れつつだが、その日は最初だからという理由で10時間以上走らされるのだった。



寝る時は纏めて牢屋に閉じ込められ石の床で寝る。

泣いてる子供がいっぱいいた。フィルはどこでも寝れた為、固い床で寝るのも平気である。寧ろ屋根がある室内で寝れる為、風などが無いことを喜んだ。


訓練生の食事は1日3回ちゃんと出る。栄養剤と固いパンと水。それに筋肉を付けるためにチーズや肉も1日に1回は配給される。


訓練でお腹が空く為、フィルには充分に美味しく感じた。固いパンというのも、何度も噛まないと飲み込めない為、満腹感を出すには丁度良かったのだ。


フィルは配給された水だけでは足らなかった為、水を魔力により生み出して飲む。魔力を込めた分だけ水が美味くなった。


水に熱エネルギーを与えるイメージをして生み出すと水が熱くなる。加減をして人肌くらいのお湯を作り出し、それで身体を洗い清潔を保った。


濡れた身体の水分は自分が魔力から作り出した水の為、消えろと念じたら消えた。その為、身体を拭く必要はなかった。




「ねぇ、君。訓練をした後なのにまだ魔力があるの?」


それを見ていた1人の女の子が話しかけてくる。

女の子は白い肌に銀色の髪をしていて綺麗な子だった。


(歳は10歳くらいかな?)


その時フィルは7歳だった為、3歳歳上のその子は大分大人びて見えた。


「うん、まだまだあるよ」


「良かったら、私にも飲む水と身体を清める水をお願い出来ないかしら?」


「........それをすると僕はなにか特をするの?」


フィルはめんどくさかったからそう聞く。


「言葉遣いや常識を教えられるわ、私捨てられる前は貴族の子だったから言葉遣いには自信があるのよ」


「........分かった、いいよ」


「そう。良かったわ。私はクロエ。これからよろしくね」


それがクロエとの初めての出会いだった。 その日から寝る前にクロエから敬語と常識を叩き込まれるようになる。




しばらくすると訓練の種類が増えた。木刀を使用した模擬戦や、武器の手入れ、魔力の操作、痛みに耐える訓練に加え、人体の仕組みや魔術について、敵国の術について授業も受けさせられた。


特に錬金術師の国トロイアと魔術師の国イオニアは敵対関係にある為、念入りに錬金術や化学についても教わる。


まず魔術と錬金術の違いは


「魔術」は自身の魔力を自身の属性のものに変換して放つ。


「錬金術」は自身の魔力を使い、体外の物質や気体に干渉する。


両方使えたら良いのだがそうはいかない。


魔術師の魔力は青色、錬金術師の魔力は緑色となっており、魔術師は魔術のみ、錬金術師もまた錬金術のみの適正しかないそうだ。



魔術至上主義のイオニア、錬金術至上主義のトロイアは長年戦争をしている。


その為、戦力を常に必要としているイオニア国の特務機関は、子供達を戦闘のプロフェッショナルになるべく育てるのだった。



クロエは風属性の適正の魔術師だった。頭が良く運動神経は良かったが、集められた子供達の中では魔力は特別多くないようだ。


クロエは属性魔術を9発打つと魔力切れになる。


「........なんで君ははそんなに魔力が多いのかしら?」


寝る前にクロエに聞かれた。


「綺麗なものを食べて生きてきたからかな」


フィルは光の玉を食べてるからとは言えずに、結局よく分からないことを言ってしまう。


「綺麗なもの?」


「そう、綺麗なもの」


「それは美味しいの?」


「とっても美味しいよ」


「ふーん、そうなんだ」


クロエはフィルの言ってることがよく分からなくても聞いてくれる優しい子だった。


フィルはクロエの事をなんとなく一緒にいると落ち着く子だと思っていた........







「了解しました、はよく使われるけど敬語ではないわ。分かりました、もしくはかしこまりましたが目上の人には正しい敬語よ」


クロエの敬語や常識の授業は分かり易かった。


例えば「ごめんなさい」、「すみません」、「申し訳ございません」これは全部同じ謝罪を表す言葉だ。

しかしこれらは使う時の用途が違う。


「ごめんなさい」はその場で済ます謝罪。

「すみません」はそのままでは終わらせない謝罪。

「申し訳ございません」はただ謝ることしか出来ない時の謝罪である。


クロエはただ敬語を教えると言っても、しっかり言葉の意味まで教えた上でどういう時に使うか例をもって教えるのだった。


「言葉遣いで人の印象って変わるんですって。フィルが乱暴で下品で無教養な人って思われないように私が教育してみせるわ」


「........クロエは僕のお母さんかなにかかな?」


「せめてお姉さんにしてよ」


「........かしこまりました、クロエ姉さん」


「うん、苦しゅうないわ」


そういうとクロエは少し恥ずかしそうに笑った。





訓練で死ぬ子がいた。

肉体的な訓練に耐えきれず死んだ者、教官に逆らい殺された者もいた。

その時初めてフィルは光の玉がどこから生まれるかを知る。子供が死んだ瞬間に光の玉が胸から出てきた為だ。


死んだ子供達の魂は白い玉が多い。

黒でもなく、特別綺麗でもない。

まだ何も描かれてないキャンパスのような白色だった。




そして、ここでの生活をしだして3年が経つ。

フィルとクロエは大分仲良くなっていた。


「ねぇ、フィル、あなたはもし自由に外に行けるようになったら何をしたい?」


ある時クロエはそんなことをフィルに聞く。


「うーん、特に思いつかないや........クロエは何かしたいことがあるの?」


「私はね、いつか自由に世界を旅したいの! 色んなものを見て、触って、感じたい。世界は広いだろうから私の想像も出来ないようなものがあったりするかもしれないわ!」


「旅........面倒くさそ........」


「フィルは面倒くさがりよね。言っとくけどその時はフィルも強制参加だからね」


「なんでさ」


「私フィルの水なしでは生きて行けなくなってしまったもの、責任とって下さいな」


クロエは冗談っぽく言うが本心でもあった。フィルの濃厚な魔力で生み出された水は本当に美味いのである。


「はいはい、明日も訓練だしそろそろ寝ようよ」


フィルはそんないつかの話をされても想像出来なかった為、とりあえず先延ばしにする。


「そうね、寝ましょうか........」


そしてクロエも寝ようとする。寝ようとするが


「ねぇ、フィル、忘れないでね。一緒に旅しようね」


最後にそう言って眠るのだった。




多くの子供達が死んだ訓練があった........魔力操作の訓練である。教官が放つ体内への直接魔術を、魔力を身体に巡らす事によって相殺するという訓練だった。


上級の魔術師ならば、敵の体内へ直接魔力の関与をすることが出来る。それに対抗するには即座に敵の魔力を相殺する魔力を身体に循環させなければならない。


つまりこの程度が出来なければとてもではないが戦闘のプロにはなれないのである。教官は火属性の魔力を子供達の体内に放つ。


それに魔力で対抗出来ない者は燃えていった........。



そして、その燃えていく者の中にはクロエもいた........。



クロエは魔力を身体に巡らすことは出来ていたが魔力量が元々多くはない。必死に魔力を巡らして抵抗したが、押し切られてしまったのだった。


クロエは絶叫をあげている。クロエだけじゃない、他の燃えている子供達もだ。


フィルは動けなかった。教官の魔力を相殺することは容易かったが、クロエが燃えている事実を頭が理解しようとしなかった。




「人の爪や髪は、イオウを含む硬タンパク質だ。

その為燃えると普通のタンパク質と違い酷く臭い」



教官が子供達........クロエ達を焼きつつそんなことを説明する。



フィルは感情の起伏があまり無い。その時も悲しいとか怒りが沸いた訳では無い。


しかし、フィルは教官を不快に感じた。


フィルは教官の体内に直接水属性の魔力を叩き込む。本来なら上級魔術師である教官程の実力ならば、魔力を循環させるだけで防げる。


しかし、フィルの魔力量は並ではなく異常だ。

その為、教官ですら相殺しきれなかった。


声にならない悲鳴を教官はあげる。

肺に水が溜まっていき、呼吸がまともに出来ない状態で恐怖と苦しみを味わいつつ教官は死んだ。


教官が死んだ瞬間を見ていた他の教官が、フィルに近づいて来る。


フィルは、(こいつも殺すか?)と考えたが........



「素晴らしい!その調子で頑張れよ!」



........その教官は怒るどころかフィルを褒めるのだった。敵対行動を起こしてくると考えていたフィルは少し驚く。


ここの教官達は強い者を育てる事しか考えていない。その為、仕事仲間の人間が死んでも何も感じないのだった。




それからフィルは焼け焦げたクロエの元へ行く。クロエからは綺麗な光の玉が出ていた。それが人の魂だと、クロエの魂だと薄々分かっていたが美味しそうなものは美味しそうだった。


「........いただきます」


クロエから教わったテーブルマナーの言葉を使い、

フィルはクロエの魂を口にするのだった。


「さよなら、クロエ........」



綺麗な光の玉は美味しかった。

すごく美味しかったのに涙を流しながらフィルはそう言うのだった........


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