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浅利高校新入生歓迎会にて、サッカー部の部活紹介

 高島に部活紹介のことを聞き放課後に話し合って、あれからもう一週間が経った。つい数日前まではまだ中学生だった若人たちが、まだ卸したての新製品のにおいがする制服を身に着けて、四月らしく桜が舞う浅利高校へと入学した。そして、その新入生たちは今日始業式を終えて、午後から先輩たちによる新入生歓迎会に心躍らせていた。


 高間涼馬(たかまりょうま)もそのうちの一人だった。ただ、他の新入生と違う点はすでに彼が入る部活を決めていたことだ。今日の新入生歓迎会では自分の入る浅利高校の部活がどんな雰囲気なのかを見極める場として考えていた。というのも、浅利高校では新入生の入学式の際に在校生が部活動勧誘をするのを禁じているからだ。昔何かトラブルがあったらしいが、そのせいで今は新入生歓迎会での部活動紹介だけが彼らに高校の部活動が何たるかを知ることのできる場となっている。


(先輩はまだやってんのかな…。サッカーやめてねえよな)


 高間が入ることを決めている部活とはサッカー部だったようだ。どうやら浅利高校サッカー部に自分の慕う先輩がいるらしく、そしてその先輩とは音信不通だったようだ。それでも先輩が進学したという高校に自分も入学するあたり、高間は本当にその先輩を慕っているようだ。今も先輩がサッカーをまだしているかしていないかについて考え込んでいた。


 彼を含む新入生は新入生歓迎会の行われる体育館に集まっていた。まだ始まるには早い時間だったので、用意された長い椅子につかずにふらふらしている者や、同じ中学の仲間で集まっている者など皆それぞれの行動をしていた。もちろん考え込む高間は椅子に座っていた。そうすると、不意に右肩のあたりをとんとんと叩かれた。高間は一瞬ビクッとして後ろを振り返った。すると、そこには高間に見覚えのあるまだあどけない顔の少年がいた。


「ねえ、きみってアサリFCの高間君だよね?」


 相手も高間に見覚えがあったようだ。そのあどけない顔の少年はニコニコとした薄っぺらい笑みを浮かべていた。向こうは自分の名前も覚えていたようだが、高間は彼の名前がうろ覚えだったため、一応確認をするために名前を聞いた。


「あ?…お前は、東京蹴球倶楽部の守屋?」


「正解。よく覚えてたね、君他人に興味なさそうなのに!」


「お前は有名人だからな。さすがに覚えてたわ。…てかなんでこんな弱小にいんだよ」


 高間に声をかけたあどけない少年は守屋英次(もりやひでつぐ)。高間の言うように彼らの世代でこの少年の名前を聞いたことのない選手はいない。彼は東京蹴球倶楽部という全国常連のジュニアチームで入団してから三年間一度もレギュラーを譲らなかった守護神だ。上背はないが、抜群の反射神経で何度もチームを救った。ジュニア世代の日本代表にも選ばれている。正に超有望株。この説明を踏まえれば高間の驚きも理解できるだろう。


「まあ家が近かったからかな。あとは行きたかった高校からスカウトが来なかったんだよね。そこ以外興味ないし、クラブチームでサッカー続けようかなって思ったんだよ。君こそ、アサリのエースストライカーがなんでこんな弱小に?」


「あ?誰よりも尊敬している先輩がいるからだよ」


 高間涼馬もこの浅利高校に進学するような選手ではない。これまで何度も出てきた鮫島・月無の出身チームであるアサリFCは彼らが中学校に入り主戦力を失ったことで弱小へと早変わりするかと思われた。しかし、そこに登場したのがこの高間だ。高間は小学六年生から中学を卒業するまでエースストライカーとしてチームに君臨し続けた。恵まれた体躯に鍛えぬいたフィジカルで相手DFを跳ね飛ばすさまは『重戦車』として恐れられた。高間はもちろん守屋との対戦経歴もあり、他人への興味が希薄な高間にとって、珍しくすんなり顔を覚えられた人物であった。


「え、だれだれ?あとで教えてよ。多分、僕ら同じクラスだし」


「げっ、最悪だな。まあいいぜ。俺の尊敬する最高の先輩、鮫島先輩がどんなにかっこいいか教えてやるよ。まずは、もう見た目からかっこいいんだよ。サッカーしているときは前髪を上げててさー」


「うんうん。…ぷっ、ふぐ」


 どうやら高間の尊敬している先輩とは鮫島のことだったらしい。鮫島のことを話す高間の顔は好きなおもちゃを必死で説明している小さな子供に近かった。同じ地区のライバルだった男の意外な一面に守屋が笑いをこらえていると、後ろから女子生徒が近づいてきた。一方的にしゃべっていた高間はその女子生徒にすぐに気づいたが、笑いをこらえて下を向く守屋は気づくことなく無抵抗でその女子に頭をはたかれた。


「んぷ…ふはっ、いてっ!え!?何!?って亜美かよ」


「亜美かよ、じゃないわよ!なんで私を置いていって楽しそうにしてるわけ!?叩くわよ!?」


「痛い!もう叩いてるじゃん!」


「…誰だ、こいつ」


「ああ、紹介するよ。この子は僕の幼馴染の黒川亜美(くろかわあみ)。んでこっちは僕のライバル、高間涼馬くん」


「あ、初めまして。黒川亜美です。同じクラスだよね?よろしくね」


「ああ、高間だ。よろしく」


 いきなり現れたショートカットのきつそうな性格の女の子に自己紹介させられ困惑の表情の高間だったが、その時丁度高間に助け舟が出た。新入生の学年主任の先生が皆を席に着けさせ始めたのだ。それに応じてバラバラに散らばっていた新入生たちが席に着きはじめる。もう新入生歓迎会が始まるのだろう。守屋と亜美もそれぞれ自分の席へと戻っていった。


(…ようやく静かになったな。さて、鮫島さんは本当にサッカー部にいるのだろうか。それだけが心配だぜ)


 一人残された高間がそう考えているうちに新入生歓迎会は浅利高校のダンス部のパフォーマンスで始まった。高間はそれをぼんやり眺めながら部活紹介を待ち続けるのだった。




 * * *




「…以上!野球部でした!」


 壇上では野球のユニフォーム姿で坊主頭の少年たちがバッドの素振りをしながらプロモーションを終え、新入生の拍手を受けてその場から退場するところだ。次にスタンバイしているバスケ部が壇上へと上がっていき、サッカー部はそのあとに並んでいた。


「うはー!もう次じゃねえか!緊張するぅ!」


「照、お前は何もしないから安心するよ。俺も何もしないから安心よ」


「そうそう。僕らは()()()()()で待ってればいいだけなんだから」


 酒井と藤田がのん気なことを言っているが、彼らの言うように緊張しているのは朝野だけだった。他のメンバーはいつもとあまり変わらない様子で、一つ違う点があるとすれば皆公式戦用のユニフォームを着ているという点くらいだ。浅利高校の公式戦のユニフォームは上は襟付きのポロシャツで、柄は襟の部分が赤色で黒色のラインが入っている。シャツは白一色で右胸に『浅利』と縦に漢字で高校名が入っている。文字の色は黒だ。パンツは黒一色で右太もものところに選手の番号がプリントされていた。


 閑話休題。とにかくあまり緊張していない様子のサッカー部の面々。だが、その中でも平と鮫島は様子が違っていた。二人は緊張しているわけではなく、何か追い詰められたような様子だった。平はひたすらに何か文字の書かれたメモ用紙をぶつぶつ言いながら眺めており、鮫島は何かを確認するかのように足を振っていた。


「主役のうちの二人は…周りが目に入ってないなこりゃ」


「オイオイ、大丈夫かよ。コラ、もうすぐ出番だぞオイ」


 風切、島田両名が二人に声をかけるが、鮫島は「あ、はい」などと生返事を返すばかりで平に至っては聞こえてすらもいないようだった。それでも時間は過ぎるもので、アピールをしていた野球部が一年生に向けて礼をして壇上から降りて行った。


『野球部のみなさんありがとうございました!では次はサッカー部です!よろしくお願いします!』


 司会を務める放送部の進行で部活紹介は進み、ついにサッカー部の番が来た。「よし、行くぞ!」と言って皆を先導したのは出野だった。平はギリギリまでメモを読み続けるつもりのようで出野の後ろについていった。壇上へと登るのは朝野、藤田、貴野、酒井、森本以外の全員だ。彼らは壇上に登る出なく、何故か体育館に備え付けられたバスケットゴールの下へと向かっていった。朝野に至っては体育館右奥にある倉庫の中へと入っていった。いったい彼らは何をするつもりなのか、見当もつかないといったところだ。


 壇上に登ったメンバーは真ん中に平、その両脇を鮫島・月無が固めて、島田と風切、出野、金本が後ろに並んだ。一見、ただ並んでいるように見えたが、月無の足元にはサッカーボールがあり、鮫島側に並んだ風切はいくつかサッカーボールが入った網を持っていた。平が用意されたマイクを手に取って、サッカー部の部活紹介を始めた。


『みなさんどうも初めまして!サッカー部キャプテン、三年の平です!僕たちサッカー部は三年生四名、二年生八名で活動しています!平日は大体グラウンドで練習、もしくは河川敷で練習しています!いつでも体験入部を募集していますので、興味のある方はぜひ来てください!』


 そこまでは普通の部活紹介だった。もし部活紹介の教科書があればそこにまるっきり同じ文章が書かれていることだろう。そこで新入生の拍手が入って、部活紹介はこれで終わりかと思われた。しかし、壇上のサッカー部のメンバーたちは降りようとはせず、むしろこれからが本番のような雰囲気を醸し出していた。


 そこで不意に月無がリフティングを開始した。右足、左足、右ひざ、肩といった風に様々な場所を使ってのリフティングに新入生の目がそちらに惹かれる。それと同時に平は演説を再開させた。


『我々サッカー部は、一つ大きな目標を持っています。その目標は、ほとんど不可能に近い。きっとみんなが聞いたら笑ってしまうようなものです。それでも、我々サッカー部はこの目標を目指すことを決意し、そのために仲間を失ったりもしたし、猛烈な練習の疲労感は凄まじいものがある。それでも、我々はこの目標を掲げていることを隠しません。我々の目標は『日本一になること』!』


 平がそういうと、流石にその言葉の意味に疑問を生じたのか、新入生たちがざわついた。日本一というのはたとえサッカーを知らないものでも、いやどんな世界に身を置いている者でも難しいことだと理解できる。何せ自分より上に同じ国にいて同じ言語を扱う者はいないのだ。


 新入生のざわつきが収まらぬままで、というより収まる様子はなかったがそれでも平は言葉をつづけた。


『皆さんの気持ちはわかります。俺も少し前まではそっち側だった。でも、高い目標を持ち、そのために練習し、そして何よりすごい仲間を持ったことが自信につながった。君たち新入生もこの気持ちを持てると思います。もし、何か高い目標を持って自分の力を試したい人がいれば、迷わずサッカー部に来てほしい。僕からは以上です』


 平の話が終わり、その話に聞き入っていた新入生が拍手を平に浴びせる。教師たちも平のしっかりとしたスピーチに拍手をしていた。ある程度拍手が終わり、放送部が部活紹介の終わりを告げようとした。だが、それを遮ったのは今スピーチを終えた平自身だった。


『すいません。ここで終わりにしたいところなんですが、最後に皆さんを楽しませる()()()()()を用意いたしましたので、どうかお楽しみください。二年生の月無大貴、鮫島太陽による最高峰のテクニックです!じゃあよろしく!』


 平がそう言い終えて後ろに下がると、今までずっとリフティングを続けていた月無がそのボールをふわっと浮かせて鮫島にパスを送る。鮫島はそれを足で一度触れて蹴りやすい位置に置くことなく直接蹴り上げた。鮫島が蹴り上げたボールは体育館の天井ギリギリまで高く上がると、バトミントンの羽が如く重力に従って地面に向けて降下していく。そしてボールが描いた弧は壇上に近い右側のバスケットゴールを通り抜けて行った。地面へと追突しバウンドしたボールは、すでにスタンバイしていた貴野が悠々とキャッチした。


 この素晴らしい技能を見せつけられた新入生たちから大きな歓声が上がる。だが、まだショーは終わりではなかった。風切がボールをスローイン風に月無に投げ、月無はリフティングで少しボールを遊ばせてからかかとでボールを押し上げるように鮫島へのパスを出した。鮫島はまたもダイレクトでボールを蹴りあげる。今度は左側のバスケットゴールを射抜き、バウンドしたボールを藤田がキャッチした。そのあとも奥側のバスケットゴールを打ち抜いていく鮫島、そのたびに歓声が沸き、ついに最後のボールになった。


「さて、最後だ。ド派手に頼むぜ!月無!鮫島!」


「いくよ、サメ!」


「よし、来い!ツキ!」


 月無と鮫島が互いに声を掛け合い、風切がボールを月無に渡す。足元に来たボールを月無は右足のつま先で上に上げて、左足で更に頭上に上げる。頭上のボールを頭でポンと浮かせると、鮫島の方に背中を向けて右足、左足とボールをタッチして、自分の頭上を越して反対側にいる鮫島へのパスを出した。この月無のノールックパスを鮫島はもちろんダイレクトで蹴り上げる。今度の鮫島のキックは新入生たちが座る椅子の列を大きく超えていき、体育館の入口の方まで飛んで行った。鮫島のロングパスは体育館の入り口付近で緩やかに落ちていき、朝野が準備していたボールかごへとアーチを描いていく。


「ほい入った!」


 鮫島のロングパスはボールかごを大きく揺らし、体育館内は今日一番の大きな歓声と拍手に包まれる。そして平が『今度こそサッカー部の部活紹介は終わりです!ありがとうございました!』と言ってサッカー部のメンバーたちは壇上から退散していった。一仕事終えたメンバーたちは何か成し遂げた後の達成感に浸りながら体育館を去っていった。


 今日見た部活紹介の中で最も魅力的であったといって過言でないパフォーマンスに、新入生はそれぞれ思うところがあったのか、しばらくざわざわと感想を言い合う声が止まなかった。その中の一人である高間も声には出さなかったが、強烈なインパクトを与えられていた。


(さすが、さすがは鮫島さんだ!俺の予想なんて遥かに超えていく!日本一とか、最高な目標だ!決めたぞ、俺はサッカー部へ行く!あの人の力になるんだ!)


 こうして、サッカー部の部活紹介は成功した。一週間練りに練った甲斐があったというものだろう。そして、この部活紹介によって彼らに新しい仲間が増えることは間違いないだろう。浅利高校サッカー部の新戦力は一体どんなものたちなのだろうか。そして、もう一人、彼らに大きな影響を与える人物がこの部活紹介を見ていたことをまだ彼らは知らない。その人物は体育館二階からその様子をぼーっと眺めていた。


(…あの二人、技術だけは一人前だな。まあ楽しい一年になりそうなのは確か、かな)


 その男、河川敷に現れた謎の男・宮部はもう用は済んだと言わんばかりに体育館を出ていく。彼は一体どういう形でサッカー部に関わっていくのだろうか。未だ謎は多い。

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