新戦力ヲ獲得セヨ!!
3月も末、梅の花が咲き始め、桜にもつぼみが出来てきた。花が咲き、そして枯れて葉になっていく様はまさに春が出会いと別れの季節と言うにふさわしい。
浅利高校でも新しい季節がやって来ようとしていた。長かった春休みもようやく終わりが近づき、一週間後には新しい学年としての新学期が始まる。そして、何より彼らに変化を与えるのは新入生が入学してくることだろう。
我らが浅利高校サッカー部も新しい変化に向けて日々努力を重ねていた。冬に見つけた日本一への挑戦という目標を達成するための肉付けのため、今日も選手達は練習に励んでいた。今、彼らはグラウンドをひたすらにダッシュしていた。いわゆるシャトルランである。彼らはもう一時間近くシャトルランを行っていた。
「だーっ!きつい!」
このひたすらのシャトルランに音を上げたのは朝野だ。いつも元気な彼でさえ息絶えだえの状態であり、他の選手たちも皆息をするので精一杯といった感じだった。ラジオテープで再生する笛で指示させていたため、自分も参加していた鮫島もさすがにキツかったのか息を荒らげていた。
「はぁ、はぁ・・・一旦休憩しましょう」
鮫島の言葉を待ってましたと言わんばかりに皆散り散りになった。その場にヘタレこむものもいれば、給水に行くものもいた。鮫島はその場で息を整えてから給水のためゲータレードをグラウンド脇へと取りに行った。
「あ、サメ。僕も行くよ」
「ツキ、余裕そうだな」
鮫島に追従したのは彼の相棒の月無だ。月無は他の選手たちとは違ってかなり余裕を残していた。浅利高校の中で唯一の一流選手と言える彼はやはり基礎体力がまるで違った。
「まあ天門や静岡でもこれ以上にきつい練習ばかりだったからね」
「そうか。やっぱり指導者が欲しいな。どうしても俺はみんなと同じ立場で考えちまうから、最後の最後で甘くなっちまう」
「今はまだそれでもいいのかもね。皆、特に3年生は圧倒的に基礎が足りてないから徐々に積んでいく方がいいと思う」
「確かにそれもそうだな・・・。とにかく実戦に慣れて行きたい。弱小だった弊害だ。練習試合がしたい」
「さすがに僕らだけで練習試合を組むのは難しいよ・・・。高島先生はそういうの出来なさそうだし、うーん」
そんな話題で二人が考え込みながらグラウンド脇で給水していると、校舎からグラウンドへと近づく見慣れた人影がいた。今話題に上がった高島だ。今日はジャージ姿の彼女。それにはわけがあり、運動不足解消のため前半の練習で選手たちと一緒に走っていたが、すぐにギブアップして事務作業に戻って行ったという過程があった。もう体力も戻ったらしく、いつもの通り少し鈍臭そうな歩き方でこっちに近寄ってきた。
「ねえねえ、平くんいる?ちょっとみんなを集めて欲しいんだけど」
高島がそう言ったので、鮫島はすぐに「分かりました。呼んできます」と返事をしてまだグラウンドでへばっている平を呼びに行った。残された月無はここに集まるならここで給水の続けようとした。そんな月無に高島がにこにこと笑顔で話しかけてきた。
「月無くん。どう?サッカー部には慣れた?」
「んえっ。もうずいぶん慣れましたよ!みんな良い奴ばっかりですぐ受け入れてくれましたし」
「よかった〜。月無くんが天門高校から転入してきたって聞いて、私なりにサッカー部に入部させていいものか悩んだのよ?さすがにサッカーは分からないけど、冬に負けちゃった対戦校くらいは覚えているもの」
高島は月無の言葉を聞いて胸を撫で下ろす。それを聞き、月無はサッカーをほとんど知らない顧問の先生にここまで心配をかけていたのかと申し訳ない気持ちでいっぱいになり、思わず頭を下げて感謝を口にした。
「ご心配ありがとうございます!先生にそこまで心配かけていたなんて、気づきませんでした」
「それはいいのよー。サッカーを知らない私に出来ることなんて皆への心配くらいなんだから。あ、平くん来たわね」
謙遜する高島の元へ鮫島が平を引き連れてやってきた。平は未だにへろへろの状態だったが、高島の前に来るとピシッと立ち直り挨拶をしてから要件を聞いた。見事な変わり身である。
「高島先生、どうしました?」
「・・・大丈夫?」
「何がです?」
高島の心配にもとぼけた顔をして平は全員を集合させた。全員が集まると、高島は一つの話をし始めた。
「えっとね、さっき他の先生に教えてもらったんだけど、もうすぐ新学期で新入生が入学してくるじゃない?」
「うわ!そうか、もう春休み終わんじゃん!早かったなー」
「うるさいぞ、朝野。黙って聞け」
「すいません!」
朝野が茶々を入れようとしたが、すぐに平にたしなめられる。その様子をにこやかな表情で見ながら高島は話を続けた。
「それでね、新入生歓迎会って言うのを毎年するでしょ。その時に、部活紹介もするんだけど」
「部活紹介をどうするかってことっすか」
「そう!そうなのよ〜。さすが鮫島くん。成績トップなだけあるわね」
そこで全員の視線が鮫島に集まる。全員驚きの顔を浮かべており、ただ一心に鮫島を見つめていた。
「・・・なんすか」
「お、お前いつ勉強なんかしてんだぁ!?」
「サメ!勉強をほんとに教えてくれ!」
「優秀くらいなら納得できたけど、トップは全く納得いかないよ!?」
「・・・・・・変態」
騒がしい二年生たちが鮫島に向かってまくし立てたが、鮫島は全く表情を変えずに平に話を降った。
「平さん、どうします?」
「お、おう。そうだな・・・。とりあえず半端なやつはいらないだろ」
「・・・そう、だな。日本一を目指すなら・・・それを前提で戦える奴が必要だ・・・」
「燃えて熱くなれる奴だな!!喧嘩で決めるか!?」
「アホかお前!喧嘩より競走で決めようぜ?速いやつはやる気のあるやつだ!」
「どっちも・・・なしだ」
キャプテンの言う通り、半端なやつないらない。それがチームの総意であることに疑いの余地はなかったが、それをどう見極めるかについては島田の喧嘩や、風切の競争のように様々な意見が飛んだ。もちろん二人の意見は即刻否定されたが。
様々な意見が飛び交い、収拾がつかなくなりそうなところで高島が皆の注目を集めて、今最も彼らに必要な提案をしてくれた。
「ねえ、皆!とにかくね、来週の歓迎会までに考えて出来るようになればいいからね。今は練習の時間でしょ?練習の続きしてねー。私は一度校舎に戻ります!じゃあ頑張って!」
「あ、了解です。ありがとうございます、先生」
高島の提案こそまさに今のサッカー部に必要なものだ。今の戦力だけでは人数も少ないし、戦力も不安が残る。浅利高校は弱小とはいえ新一年生にサッカーが出来て日本一を目指す覚悟のあるものを集めなければならない。これはかなり難易度の高いミッションとなるだろう。新入生歓迎会の部活紹介を成功させることは絶対条件と言えるだろう。
この重要性をわかっていた鮫島はとにかく練習を再開し、部活を早めに終わって話し合うことを決めて皆に声をかけた。
「じゃあ今日は早めに練習を切り上げて部活紹介のプロモーションをどうするか話し合うことにしましょう。それでいいっすよね、平さん」
「あぁ、異論はない」
「よっしゃ!今のうちからどんなのするか考えとこー!」
「練習してからでよくない?」
鮫島の考えに反対意見はなく、選手たちは今一度練習を再開したのだった。




