月無の帰り道
「いやぁビビったなー。まさか太陽があんなこと言い出すとはな」
衝撃のスピーチを聞いて帰路についた月無は、朝野たち新二年生とともに帰っていた。渦中の人とでも言うべきか、鮫島は一人でさっさと帰ってしまった。色々と話したいことがあったが、彼にも思うところがあるのだろうと自分に言い聞かせた。
一緒にバスを降りたのは朝野、貴野、藤田、そして今日出番のなかった酒井だった。朝野が鮫島の話題に触れ出すまでは皆それぞれ話したいことを話していたが、その話題が出た瞬間に皆ピタリと会話をやめた。そしてその話について各々が深く考えていたようで、口を切ったのは藤田だった。その藤田に続いて酒井、貴野が意見を出す。
「日本一が太陽の夢なのは知ってたから今更驚かないでしょ」
「とはいえよ。まさかあの太陽が三年たちの前でああいうとはってことよ。びっくりよ」
「太陽・・・超気を使ってた・・・三年・・・」
どうやら全員が同じような感想を持っていたらしく、そして鮫島のことをよく知っていた。その事に月無は驚き、思わず彼らと鮫島の関係を聞き出すことにした。
「みんな、サメとはそんなに親しいのかい?」
「おうともよ!中学からの仲!」
「そう言えば、月無くんに話したこと無かったっけ」
「そういやそうよ。いい機会だし、太陽の過去でも話してやろうよ。どうせアイツは自分から言わないよ」
「・・・・・・名案」
酒井の言う過去について話すことに他の三人も賛成する。そして中学からの仲だという四人は代わる代わる月無の知らない鮫島の過去を話してくれた。
「たしか月無は小五で浅利町を離れたんだよな?」
「うん。父の仕事の都合で静岡に行ってたんだ」
「小学生の時、サメと同じチームだったって言ってたよね。ってことは東京の名門アサリFCの入団テストに合格したんだ。すごいね」
東京の浅利町で幼少期を過ごしてきた彼らにとって、アサリFCはあこがれのチームだった。古くからあるチームで伝統があり、多くの名門中学への特待生を出してきた。チームに加入するには厳しい入団テストを乗り越えなければならないことでも有名で、東京でアサリFCは唯一と言っていい全国区のジュニアチームだ。鮫島はそのチームに小学一年生から在籍していた。月無は小学三年生の時に途中加入した。
「はは、ありがとう」
「というと、中学のことは全く知らないわけだな。アイツは俺たちと同じ浅利中学校に進学してたんだぜ」
「浅利中学校はまあいわゆる弱小よ。太陽は有名人だったから当時は驚いたよ」
「……場違い」
「え?そんなに有名だったっけ。小五の頃はそこまでじゃなかったような」
月無の知る小学五年生時代までの鮫島は全国に名をとどろかすほどの選手ではなかった。最高学年より一つ下の五年生からレギュラーをつかんだとはいえそこまでの実力はなく、逆に実力不足でチームの役に立てなかったことが二人の約束につながったのだ。だからこそ中学が同じだったという朝野たちが有名だったという訳がわからなかった。
「太陽はね、最高学年になった六年生の時にアサリFCでキャプテンを務めて、不動のボランチとして全日本準優勝に導いたんだよ。あの時のアサリFC強かったな~」
「ええっ!?マジ?」
相棒が日本一に肉薄していたことを知り月無は今日一番の驚いた声を上げた。月無は自分の去った後ということに少し複雑な気持ちも芽生えたが、それ以上になぜ教えてくれなかったのかと思った。
(…あ、でも、転校していきなりケンカしたんだった。そりゃ言わないか)
だが、よくよく考えれば月無は転校してすぐに鮫島と約束について喧嘩をし、一応天門高校との練習試合へ向けての偵察で和解はしたものの、それからは猛練習の毎日だったため、ゆっくり話はしていない。
「藤田は試合したことあるんだな。俺と貴野はサッカー中学だからよく知らねえんだよ。そのへん」
「すごかったよ。太陽は正にピッチの上の指揮官だった。パス精度、冷静さと頭脳、そして広い視野。小学生とは思えなかったな。それとエースの玉木創楽がすごかった」
「誰だい?その人」
月無がそう聞くと、藤田は不思議そうな顔をした。だが、彼は優しい人間なので快く説明してくれた。
「玉木はね、月無くんが転校した後に有名になった選手だね。とにかく凄まじい決定力と神業みたいなトラップができる選手だ。たとえるならベルカンプ、もしくは佐藤寿人選手かな」
「それは凄そうだね」
「玉木は太陽と一緒に浅利中学へ進学したんだぜ!俺たちの代は最高だったなー。また集まりたいわ」
「浅利中に太陽と玉木が来たことでサッカー部は激変したのよ。元々は不良の溜まり場みたいなよくある弱小だったんだけど、玉木が先輩をぶちのめして、太陽がサッカーを教えたんだ」
「そんなことしてたんだ」
玉木という存在にも驚きだったが、それよりも鮫島が行ってきた行為に月無はかなり驚いていた。引っ込み思案だった小学生時代とは打って変わって、鮫島は中学から今の性格を形成していったのだろう。月無が浅利に来てからのあの度胸の強さは月無の知らない鮫島だった。
「それで二人を中心に全国を目指してたんだ。一年の時は全国一回戦敗退、二年では二回戦敗退、三年ではベスト8まで行った」
「ええ!?凄過ぎない!?」
「まあな!尊敬してもいいんだぜ?」
「照が誇ることじゃないでしょ。ほとんど太陽と創楽のおかげなんだよ」
「あら」
朝野がガクッとコケるような動作を見せる。ウケを狙っての朝野の行動を気にすることなく藤田は話を続けた。
「太陽が日本一を目指さなくなったのは中学三年間が原因なんだ。いや、負けた相手と言うべきかな」
「負けた相手?」
「白帝大学付属中学校、俺たちの世代で最高の選手、白鷹スウェンのいた中学だ!」
キメ顔で選手の名前を言おうとした藤田に被さるように朝野がセリフを奪った。その事に関して藤田はかなり不満そうだったが、月無はその選手の名前は知っていたようでそんなに驚きはしなかった。
「白帝か。今の日本一の高校だね。中学も最強だったのか」
「というより、僕らの世代の白帝の選手達が最強なのさ。白鷹を中心にアンダー世代の代表に選ばれてるやつが何人もいる」
「おっそろしー。ホント白帝とはもう試合したくねえよ」
いつも元気でポジティブな朝野でさえ、白帝に関しては前向きなことを言えないらしい。それほどに白帝というネームバリューは凄まじいということだ。
「おっと、もうここまで来たのか。僕こっちに曲がるんだけど、皆は?」
「俺らはまだこのまま真っ直ぐだな」
「話の続きはまた今度だね」
「・・・・・・グッバイ」
「気をつけて帰るんだよ!」
話しながら歩いてきたが、気づくと月無の家のある方面への分かれ道まで来ていた。朝野たちはこのまままっすぐ進むようだったので、彼らに別れを告げて月無は一人自宅へと向かった。
(結局最後まで聞けなかった。でも、サメが日本一を目指すことに消極的だったのは、中学の時に一度敗れていたからだったんだな)
四年越しの相棒の知らなかった過去を知り、月無はより彼とともに日本一を目指す覚悟が強まった。鮫島が苦しんだ過去を変えてやろうとそう思ったからだ。
「よし!明後日から頑張るぞ!」
改めて決意を口に出し、月無は自宅への帰路を急ぐのだった。




